われても末に
5月27日に念願の宝塚歌劇星組大劇場公演「阿修羅城の瞳」2回目を見ることができました。
1回目で原作との擦り合わせもしていましたし、新人公演も見ることができたので2回目の観劇は戸惑うことなく物語に入っていけました。
宝塚版「阿修羅城の瞳」を心から愉しめて最高の観劇体験でした。
5月6日にはじめて見たときは、新感線版ではセリフで語られていた部分が視覚化されていることに戸惑っていたように思います。
私は小説の映像化(舞台化)作品を見て戸惑ってしまうことがよくあります。ビジュアル化されたことで「あったもの」がなくなっていることに対して呆然としてしまうかんじです。
ビジュアル化されることでなくなるものってナニかというと・・行間とか概念とかとても私的なイマジナリーななにか? そんなもの自分が勝手に受け取って勝手に愉しんでいただけやんってかんじですが。勝手にあると思っていたものがない?ない?と探しあぐねているうちに終わってしまった・・みたいな感覚かな。
さいしょから原作小説と映画・舞台は別モノとして見るスキルを持てばよい話なのですが。なるべくそうしようと心がけてはいます。難しいですけど。
しかし「阿修羅城の瞳」はもともと舞台だったものなのでうっかりしていたといいますか。
あれ?あれ?ここで摂取していたものが・・?あれ?となってしまったんだと思います。
いま思うに、宝塚歌劇って視覚化に全力なんだなぁと。
一方で新感線(中島かずきさん&いのうえひでのりさん)は宝塚ほど視覚化に重きを置いていないのだなと思います。
個々のキャラクターの魅力、多面性、身体能力を存分に堪能できる演出。
生身の人間がどこまでやれるか。情報自体の視覚化よりもどれだけ観客をあっと言わせることができるか。そこに重きを置いた演出だったなと思います。
脚本としてはセリフの応酬、ひとつのセリフに詰まった情報量(声や目線、表情、言葉に幾重にも意味をもたせていたり、そこから派生するものが引き出しいっぱいに入っている・・など)を浴びて自分なりに摂取しながら展開していく物語を愉しむスタイルなのだなぁと。とても見ている最中に全部は受け取りきれないのだけど、あとからじんわり来る面白さもある。
私にとっては小説を読むのにちかいものがあったなぁと思います。いま思えばですけど。情景や背景、心情などはすべてセリフから読み取るかんじで。
その新感線らしさを存分に楽んだ「阿修羅城の瞳」だったからこそ、宝塚化された際に戸惑ったのだろうと思います。
想像であったものが徹底的に視覚化、具現化されていることに。
(ごちゃ混ぜを愉しんだ引き出しがきれいに整理されていることにも)
出演者の人数と舞台機構を駆使して過去も現在も瞬時に視覚化され、心情は詠唱となり舞踏のような振り付けとなって目の前で展開されていく。
新感線版を記憶にとどめたままだった私はそこに追いついていけなかったのかなと思います。
二度目の観劇でそれこそが宝塚歌劇の魅力だったことに気づきました。
それが好きで宝塚を見ている自分に無自覚だったことにも。
ここにきて、劇団☆新感線と宝塚歌劇のちがいを知ったかんじです。
宝塚歌劇の「阿修羅城の瞳」もとても面白かったです。
そのうえで新感線版は「業だなぁ」と思っていましたが、宝塚版は「愛だなぁ」と思いました。たいへんベタですが。
隠れ家で悪夢に逃げ惑い絶叫するつばき(暁千星さん)にかける出門(礼真琴さん)の声に含まれる愛情の深さにふるえました。
暁さんのつばきは、5月6日に見たときよりもさらに色っぽくなっていました。
中村座での出門との出会いの場面、渡り巫女たちと合流する場面など赤い麻の葉文様の着物姿、初見では見慣れないせいかほんのちょっと違和感があったのですが、27日はまったく違和感などなくてほんとうに粋で気風の良さが感じられる姐さんの風情で素敵だぁと心ときめきました。しかもほどよく色っぽいくていかにも訳アリ。これは惚れる・・。
さまざまな見地から5月初旬より出門とつばきの愛が深まっている気がしました。
宝塚版を「愛だなぁ」と思った所以です。
邪空(極美慎さん)はスケールが大きくなった印象でした。「俺を見ろ」の圧が凄かったです。
出門のいない鬼御門で副長として5年のあいだ、出門への妄執に取りつかれて生き、ついには魂を鬼に渡し自らが鬼に転生することも少しも厭わないまでになっていた邪空を知ったうえで、幕開きで出門と鬼を狩っている彼を見るとせつなさで胸が痛みました。こんなにも楽しげにいきいきと出門とともに刀を振るっていたのにと。
この執着も愛だなぁと思いました。
桜姫(詩ちづるさん)もパワーアップしていてますます大好きでした。
彼女の前向きすぎる行動もまた愛のなせる業ですよね。
愛の権化のような礼さんの出門とますます美しくなった暁さんのつばき。
東京公演ではどう進化していくのか楽しみです。
ショー「エスペラント!」も楽しかったです。
バレエの場面、極彩色のラテン、黒燕尾とイブニングドレス&オペラグローブの場面がとくに好きなのは初見と変わらずでした。
礼さんの黒燕尾のソロダンスの場面は案外長かったんだなぁと思いました。初見でもっと見たいと思ったので短かった印象だったのですが。
ただここから盛り上がるのかなと思ったところで終わってしまうので、もっと見たいと思うのは同じでした。
お芝居のほうでいろんなものをたくさん摂取したあとだったので、ショーも盛りだくさんだとつらかったかもしれず、よいバランスなのかもと思います。