2025/02/09

ただひとときは与えられ

1月21日22日そして28日に宝塚大劇場にて宙組公演「宝塚110年の恋のうた」「Razzle Dazzle」を見てきました。
21日はイープラスの貸切公演、28日はローソンチケットの貸切公演でした。

幸せな気持ちと言葉にならない思いで溢れる観劇となりました。
「宝塚100年の恋のうた」は芹香斗亜さん演じる藤原定家が桜木みなとさん演じる「八千代(春日野八千代さんの姿をした宝塚歌劇の化身?)」のいざないによって、過去からの宝塚歌劇の日本もの作品の登場人物となって宙組生たちとともに選りすぐりの名曲を歌い継いでいく作品でした。
芹香斗亜さんの狩衣姿や若衆姿やその美しい舞台姿に心に幸福感が溢れ出し、またその心地よい声に酔えば歌詞のひと言ひと言が心に沁みるそんな舞台でした。
名曲というのは物語を離れても折々のひとりひとりの心に寄り添うものなのだなと思いました。
ひたすらにキキちゃん(芹香斗亜さん)と宙組が美しくて愛おしかったです。

ことに「恋の曼荼羅(新源氏物語)」「琴時雨(夢浮橋)」「生きるときめき(星影の人)」はひたひたと心に浸みわたっていきました。
そしてこの作品の主題歌となる「定家葛」。和歌を読み上げる式子内親王役の春乃さくらさんのかくも美しい歌声に聞き惚れ、定家を演じる芹香さんとの切ない恋の重唱に言葉にならない気持ちが溢れて、私のこの気持ちもまた執心だなぁと思いました。

フィナーレの総踊りで桜木みなとさんが夢の間惜しき春なれば・・と歌う「花の舞拍子」も沁みました。桜木さんのたしかな表現力はこういう場面を引き立てるなぁと思いました。
酒井澄夫先生が紡ぐことばの儚くうつくしいこと。ただ聞き惚れるひとときのなんとしあわせなこと。
そして華やかに「花吹雪恋吹雪」で幕がおり、晴れ晴れとした心のそのずっと奥底に、もっと聞いていたかった ― まだまだこれでは足りないと叫ぶ声なき声が存在していました。
この執心のゆくえを季春のそのときまで見とどけていかねばと思っています。

「Razzle Dazzle」は盛りだくさんだった前物の日本ものレヴューのあとにふさわしい軽快な作品でした。
笑いありせつなさもあり、世間知らずで人生を軽んじているような自分本位な青年が自分とは異なる世界の異なる価値観で懸命に生きている人びととの出会いから確固たる自分の夢を見出していくストーリーは田渕先生の作品らしいなぁと思いました。
主人公の軽やかで洗練されたハリウッド一(いち)裕福な孤児レイモンドはその軽妙さも朗らかさも時折見せる寂しい顔も芹香さんの魅力にぴったりでした。
宙組の面々がこぞって芝居の間が良くてとてもよい作品に仕上がっていました。

とくに目を惹いたのはやはり女役に初挑戦の瑠風輝さん。『お騒がせ女優』の異名をとるシャーリーンという長身でゴージャスな映画スターの役でしたが『お騒がせ』と言われるも憎めないチャーミングさもきちんと表現されていて素敵だなぁと思いました。
「ハビロンの落日」の大階段を使ったクライマックスシーン撮影の場面の存在感と女役としての歌声の素晴らしさが秀逸でした。

もうひとり目を瞠ったのはレイモンド(芹香さん)の婚約者アビー役の天彩峰里さん。
レイモンドに対して高飛車だけれど、じつはもっともなことしか言っていないし、レイモンドのことも父親のことも心から考えている愛情深い女性なんだなと、そしてとても有能なんだなと。そういう女性であることがしっかりとつたわる芝居をする天彩さんにさすがだなぁと感心しました。
きっとレイモンドのことをほんとうに愛しているのだと思うし、きっとこれまでもずっとレイモンドが気づかないだけでアビーに助けられていたんじゃないかなと思いました。ほんとにもう、レイモンドったらコノヤロー!ですよね。あんなこと平気で言っちゃって。ドロシーとハッピーエンドはうれしいんだけど。

春乃さくらさん演じるヒロインのドロシーもまた幸せになってほしいなと思わせる素敵なキャラで、きっとレイモンドはさいしょに遇ったときから彼女に好意をいだいていたよねと思います。
桜木さん演じる映画スターのトニーも、鷹翔千空さん風色日向さん亜音有星さんたちが演じる映画のエキストラの面々もそれぞれに映画を愛していてそれに一生懸命に携わっているのがわかって、皆が愛するこの映画の世界がずっと守られますようにと心から思いました。
桜木さんのトニーを中心に映画に携わる人びとが歌う「Over the Rainbow」は感動的でした。

そういえば若翔りつさん演じる鬼軍曹とたとえられる怖い映画監督ハワードの役作りは芹香さんが新人公演で主演をつとめた「愛と青春の旅立ち」のオマージュかしらと思ったりも。(版権問題で見たことがないのですが映画のイメージで)
ひとりひとりのパフォーマンスも申し分なくこの充実したメンバーでこのミュージカルコメディが演じられる贅沢さを堪能しながらこんな舞台をもっともっと見たかったという思いが湧き出づるのをとめられませんでした。

日本物レヴューの後物のお芝居ということでハッピーエンドのあとに付いたフィナーレのショーがこれまた贅沢で素晴らしかったです。
さいしょの桜木みなとさん瑠風輝さんによる歌唱指導は、瑠風さんが本編にひきつづき女役のドレスで登場し歌唱もいつもの男役の声ではなく女役の歌声で。桜木さんとのハモりがそれはそれは心地よくて次回の大劇場公演ではもうこの2人のハモりは聞けなくなるのかと思うと遣る瀬無い思いでした。

大階段の真ん中でステキなドレスをまとった娘役さんたちに囲まれる芹香さんはおしゃれで華やか。KAORIaliveさんの振り付けがほんとうに似合う人だなぁとしみじみ。
男役群舞を率いて歌う「Fooling Good」も洗練されていてとても素敵。
芹香さんが去って桜木さん中心の男役群舞はまたちがった趣き。キレキレのダンスでキメる男役さんたちに思わずふふっとなりました。
そして芹香さん春乃さんのデュエットダンスは「Smoke Gets In Your Eyes 」。長身の2人のスタイルの良さと品の良さが際立って宙組らしい素敵なトップコンビだなぁと思いました。
ジャズが似合う芹香さんの雰囲気が私はとても好きでこんなフィナーレをもっと見ていたいと思いました。が、1月は自分の予定が合わずこの3回しか見られませんでした。(東京公演も1回分しかチケットがない状態です・・涙)
早く映像でこの美しさ儚さそして粋でおしゃれな宙組を繰り返し摂取したいと、いまはひたすらにBlu-rayの発売を待っています。

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2025/02/05

This is me(唯一無二)/礼真琴 日本武道館コンサート

1月19日に日本武道館にて礼真琴コンサート「ANTHEM-アンセム-」を見てきました。

歌もダンスも破格の比類のなきタカラジェンヌ礼真琴さん、そのコンサートならばきっと凄い体験ができるだろうなと、これはぜひ行ってみたいと思うものの、日本武道館ってどうやって行けばいいの?会場はどんな感じ?といつも通う劇場とはちがうアウェイ感がハードルでした。

行きたい気持ちと不安で葛藤していたところ、かつて同じジェンヌさんを応援していた都内在住の知人がつい先ごろ礼真琴さんに激落ちしたと聞いて、とんとん拍子に一緒に行くことになり憂いなく武道館までたどり着けました。(知人は18日の初日も見ていたので中の雰囲気や内部の気温のことなども細かに教えてもらえてほんとうに助かりました! ちなみに彼女は全通でした)

コンサートは想像以上に素晴らしかったです。
不安の1つには、私は礼さんのCDも聞いていないし近年の流行りの歌などまったく知らないのだけど、その状態で楽しめるのかな?というのもあったのですが、まったくの杞憂に終わりました。じっさいコンサート前半で使用された宝塚以外の楽曲は知らない曲ばかりでしたが、礼さんと星組メンバーのグルーヴィーなパフォーマンスですべての楽曲を愉しんでいました。

とりわけ印象に残っているのは、副組長さん(白妙なつさん)の可愛さ。小桜ほのかさんのいつもとはちがうアイドルのような歌唱。ほんとうにタカラジェンヌってなんにだってなれちゃうんだなぁと思いながら。
礼さんと暁千星さんが向かい合い手を握り合って「ぼくたちは同じ星座だと信じてるから」と歌うナンバーはとてもエモーショナルで幸せな気持ちになりました。
トロッコにのってサインボールを投げまくりながら愉しそうに歌う礼さんも印象的でした。力いっぱい投げてもまったく声がブレないのは凄いなぁと思ったり。

日替わりのトークコーナーでは、その日選ばれしメンバー4人が「ANTHEM(応援歌)」に因んで、礼さんに背中を押されたエピソードを礼さんを前に礼さんのものまねをしながら披露するというもので、エピソードを披露するメンバーが礼さん役で、礼さんがそのエピソードを語る本人役になってて、そのやりとりも含めてとても面白かったです。(小桜ほのかさんだけは礼さんのものまねはされなかったのですが、それもまた小桜さんらしくて笑)
エピソード自体はとても真面目で「いい話」な内容なんですが、皆さんエンターテイナーだなぁと笑。
皆さんそれぞれにとても礼さんリスペクトなのがよくわかりましたが、とりわけ鳳真斗愛さんが熱狂的に礼さんフリークなのがじゅうぶんすぎるほどつたわりました笑。

後半の宝塚ナンバーのターンのさいしょは、星組のメンバーたちが1人ひとり、礼さんがかつて演じた役の扮装でその役のナンバーを歌いだし途中から礼さんと向かい合いみつめあってともに歌い、そして礼さんがひとりで歌い聴かせるという構成でとても胸が熱くなりました。下級生1人ひとりの礼さんへのリスペクトをひしひしと感じとれました。これは宝物になる経験だなぁと。
初々しい人もいれば、柳生十兵衛に扮した天飛華音さんなどは思わず「巧っ」と思うのですが、礼さんが歌いだすとやっぱり圧巻レベルで、しみじみと礼さんの凄さを感じる場面でもありました。

10数名の礼さんがかつて演じた役と絡んだ最後には皆で「BIG FISH」のナンバーを歌い上げて、そこからがらりと舞台が暗転。
礼さんが1人で「VIOLETOPIA」の孤独を歌い踊る場面は圧巻でした。暗転からライトが当たってそこには2階建てのセットに礼さんの演じた役に扮した星組メンバーたち。
さいごにすべてが愛おしいと歌う礼さん。
「VIOLETOPIA」という劇場の光と影を幻想的に描いたショーの終盤のソロダンスで使用されたナンバーゆえに、礼さんが演じた役の扮装をした星組メンバーを背景にして礼さんがその歌詞を歌う光景に鳥肌がたちました。
役たちと星組生たちと宝塚への礼さんの思いが重なって見えて・・。

つづく「ヴィランズ・メドレー」ともいえる場面も礼さんの悪い魅力炸裂で見ている私は魂がどこかに抜けて出でてました。
2~3曲で終わるのではなくて、「BIG FISH」の魔女の歌(都 優奈さん)や「ディミトリ」で礼さんと敵対したアヴァク(暁千星さん)のソロも含めて6曲ほどをとことん歌舞と舞台美術を駆使して見せる演出が素晴らしかったです。
はじまりの「バラ色の人生」(オーム・シャンティ・オーム)は咥え煙草で斜に構え酷薄な流し目の礼さんが最高にクールでした。
そして暁さんのレッドにティリアンとして対峙する「宿命」(エル・アルコン-鷹-)ではレッドを気魄で凌駕していくさまが圧巻でした。
「私から憎しいを奪うな」(モンテ・クリスト伯)はもう、うひょう~で。闇落ちした礼さんと礼さんをとりまく邪悪な雰囲気の星組メンバーズ。とりわけ礼さんにすがりつく天飛華音さんはいったい・・?! ほんとうにもうタカラジェンヌって何にでもなれちゃうんだなぁと思いました。
ここまで悪の華を見せながらも嫌悪感を抱かせないのも大優勝だなぁと思いました。
「マダム・ギロチン」(THE SCARLET PIMPERNEL)の振り付けはゾクゾク。とてもショーらしい振り付けで、コンサートならではの場面だなぁと思いました。

そしてそして礼真琴さんのトート。こんな「最後のダンス」を聴ける日がこようとは・・滂沱。
個人的に歌いあげ系のミュージカルナンバーが苦手なもので、こういう抜け感のある「最後のダンス」は大好物でした。
この体験から「死ぬまでに礼さんの『エリザベート』ガラ・コンサートを見たい(聴きたい)!」という夢ができました。(どうかどうかよろしくお願いします!)

つづく「栄光の日々」(THE SCARLET PIMPERNEL)のあとはまた宝塚以外のナンバーでしたが、とても元気をもらえる曲ばかりでした。
その中で「soul」という曲が礼さんが作詞したものだそう。

アンコールの1曲目は「星を継ぐ者」(龍星)。礼さんにとってとてもとても大切な曲を満を持して歌ってくれました。この曲を歌える喜びのような、いまだからこその礼さんの言葉にできない感情をかんじることができた気が勝手にしました。
そして「グレイテスト・ショーマン」の「This Is Me」。ラストにこの曲なのがまたなんとも言えない気持ちで聴きました。(これを礼さんが歌っているんだ・・いろんなことが思われて・・ことにこの数年の・・これは泣く・・)

こんな体験をこれから何回できるだろうと思うくらいの素晴らしい演出や振付や構成。そしてそれにじゅうぶんに応えた礼さんと星組生に心からの拍手を贈って高揚感に酔いながら武道館を後にしました。
さいしょはどうなるかと思った日帰り遠征でしたが、本当に実行してよかったと心から思いました。

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2025/01/27

きれいはきたない

1月13日に博多座にて、祝祭音楽劇「天保十二年のシェイクスピア」を見てきました。

とにかく醜悪。これほどの醜悪さをこれほどまでに情熱的に描こうとする理由はなんだろう。そこになにを見出そうとしているのだろうと思いました。

私も知っているシェイクスピア作品のセリフやシチュエーションがいくつもあって「あーこれは!」と思う楽しみがありました。東京公演を見た方からシェイクスピア作品を知っていると楽しめるとは聞いていましたが、こんなにたくさん織り込まれているとはとびっくりでした。私の知らない作品もたくさん散りばめられているんだろうなと思いました。

浦井健治さん演じる佐渡の三世次はリチャード3世だなぁと思いました。その見た目も。
私のリチャード3世のビジュアルイメージはBBCの「ホロウ・クラウン」のベネディクト・カンバーバッチですが、カンバーバッチも凄いなぁと思っていましたが、舞台上でずっとあの姿勢でどす黒い気を放つ浦井さんも凄いなぁと思いました。

三世次がこの世界を憎んでいるのはその見た目による拒絶や排除を受けつづけた過去があるから、ってことなのかな。登場したときからすでにこの世への憎悪で満ち満ちているかんじだったけれど。
きれいは汚い、汚いはきれいと、この世で価値あるとされるものを見下して嫌悪されるものを持ち上げて冷笑していないと生きていられない人だというのはわかりました。
そのくせ美しいおさちに横恋慕して彼女の夫を殺めたうえに自分の妻にして。おまえの美しさが悪いのだという理屈は自分勝手な男の常套句すぎて呆れました。

大貫勇輔さん演じるきじるしの王次はハムレットでロミオ。
母親のお文がああだからかもしれないけれども女性蔑視がひどすぎる。姿がすこぶる良いぶん罪深くて。お冬に対してあんまりすぎて引きました。
ああこれは、自分の姿がすこぶる良かったらこうやって女に報復してやるのにという作者の怨念が凝り固まった役でもあるのかな。
三世次とおなじで「すべて悪いのは女」なのだな。
それでいて好きな女性と相思相愛になったら浮かれまくってまわりが見えなくなってしまう。(女性を蔑視する人ほどその傾向があるのでとてもリアル)

天保12年という日本のエンタメの危機の時代を舞台にして、シェイクスピアの全作品のなにがしかを登場させた戯曲を描くという難業を成し遂げた凄さに唸り演者のレベルの高さに驚きつつも、なんでもかんでも性的なものにこじつけてそれがカッコイイとされていた昭和(戦後)の価値観と、女性にはなんでも無条件に受容する聖女と寝首を掻く悪女とどうでもいい女(はけ口にはする)しかいないかのような世界観にうんざりしてしまったのが正直なところでした。
いまこの作品を上演したかったのはどうして?と思わずにはいられませんでした。

CAST

佐渡の三世次/浦井健治
きじるしの王次/大貫勇輔
お光、おさち/唯月ふうか
お里/土井ケイト
よだれ牛の紋太、蝮の九郎治、ほか/阿部 裕
小見川の花平、笹川の繁蔵、ほか/玉置孝匡
お文/瀬奈じゅん
鰤の十兵衛、大前田の栄五郎、ほか/中村梅雀
尾瀬の幕兵衛/章 平
佐吉、ほか/猪野広樹
お冬、ほか/綾 凰華
浮舟太夫、ほか/福田えり
清滝の老婆、飯炊きのおこま婆/梅沢昌代
隊長/木場勝己
(1月13日博多座)

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2025/01/11

普通のとなり

1月6日に博多座にて「next to normal」を見てきました。
私にとっての2025年の初観劇です。(ちなみに2024年の観劇おさめは「モーツァルト!」でした)

望海風斗さんが博多座に来るなら見なくちゃと思ってチケットをとってから作品の概要を知りました。(1年に1度は博多で望海さんを見たいですよね)
双極性障害の女性の役だと知って俄然興味が湧いて観劇を楽しみにしていました。そういうミュージカルってあるんだ!?ってかんじで。

冒頭から躁状態のダイアナと振り回される家族の描写。これは家族も疲弊しそう。だけどなんだろうな違和感がぬぐえない。
舞台を見すすめながら、ダイアナが抱えている問題は双極性障害以外にあるのではないかなと思えてきました。なにかとても違和感。

夫のダンはダイアナをいつも通っているらしいクリニックに連れて行くけれど、そこのドクターは薬の説明ばかり。ダイアナ自身を診ているようには見えないし、ダイアナも治りたがっているように見えない。
戯曲的な誇張もあるのかもしれないけれど、このドクターはダイアナには合っていないんじゃないのかな。(っていうかこのドクターが合う患者がいるのかな。とにかく向精神薬がほしいという人なら歓迎だろうけど)

ダンはダイアナを治療に通わせたら良くなると思っているみたいだけど、そうじゃないんじゃないかな。
ダイアナは苦しんでいるようなんだけど治ろうとは思っていないみたいでそれも違和感。躁状態のときだからかのかもしれないけれど。
ダンの説得に、ダンの彼女のために良かれと思う気持ちに抗うすべがないままに医者にかかっているだけみたい。
家族を疲弊させている自覚はあると思うんだけど、治療して自分の感情を自分でコントロールして自身もふくめて家族のひとりひとりが憂いなく前向きに生きていけるようにしたいと思わないのかな。
かかっているドクターがよくないのは不幸だなと思うけれど。自分からドクターを替えるように動いたり、それについてダンと正面から話し合ったりはしないんだな。
筋道が見えない、先の見通しができない、それがダイアナが抱えている困難(障がい)そのものなのかもしれないけれども。それってダイアナだけの問題なのかな。

突然感情を爆発させたり、興奮したら自分の行動を止められなかったり(床にパンを拡げてサンドウィッチを作りまくったり)、その場にふさわしくないきわどい言葉を発したり、と異常行動といえばそうなんだけど、とんでもない浪費とか反社会的行為とか性的奔放でトラブルを起こしまくっているというわけではないみたいで。どういうきっかけでメンタルクリニックを受診したのかなとも思いました。
自分自身をやばいと自覚しているというよりは、抱えきれないもので心がいっぱいいっぱいなんじゃないの?と。
こうなるにいたった精神的負荷がなにかあるんじゃないのかなと。

と思っていたところ、ナタリーが言った兄は自分が生まれる前に亡くなっているという言葉にそういうことか!と思いました。
冒頭で18歳の息子から自分の昼間の行動について尋ねられたダイアナが思いつくままに答えたような内容を息子があっさり受け容れることに違和感があったし・・。
処方された向精神薬をトイレに流してしまうときにも都合よく現れてダイアナを唆していたし。
そうかイマジナリーサンだったのか。
ダイアナはなぜイマジナリーサンを生み出したのか、それが解けないと家族は前にすすめないような気がしました。

ダンは家族とは夫婦とは「かくあるべき」が強い人のように見えました。
「かくあるべき」から外れたことからは目を逸らす。息子ゲイブの死からも、本来のダイアナからも。(「かくあるべき」から外れた気分障害の妻には治療を勧めるのが夫として「かくあるべき」なのかな)
ダイアナは真実はとことん突き止めたい人なのではないかと思いました。原因や責任をはっきりとさせないと前にすすめない人なんじゃないかな。
それをしなかったから、その先にすすめなかったのかも。

ダイアナは若くして予期せぬ妊娠をしたことで人生が大きく変わってしまった。
妊娠出産という自分の体の変化を受け容れること、描いていた進路、歩むはずだった未来から外れて家事育児に専念することを受け容れること、そして扱い方もわからない赤ん坊の存在を受け容れること、を極めて短い数か月のあいだに一気に余儀なくされたのだろうなと思います。
ひとつひとつの変化を完全には受け容れきれないまま必死で育児をして、もはや自分のすべてになっていた生後8ヶ月の息子の死という現実に直面して、彼女にはもうそれを受け容れるキャパシティが残っていなかったのじゃないのかなと思いました。

夜通し泣きつづける我が子にパニックになってしまっていた彼女にダンは「大丈夫、きっと良くなる」と言ってなだめたのだろうと思いました。いま困難を抱える彼女にそう言っているように。
なにもわからず手探りで育児をしながら、幾度か医者にも相談して・・そのたびに心配ないと、乳児は泣くのが仕事だからとか乳児によくあるぐずりだとか言われていたのかなと思います。
(権威ある者の言葉に全責任を委ね自分では判断しないのがダンの癖のように思います)

ダイアナの母親は、少女の頃のダイアナのことを元気な子だったと言っていたそう。
娘のナタリーはダイアナに似ているのだと思いました。
ナタリーのようにダイアナも活発で才気に溢れ寝ることも惜しんでどんどん課題をやっつけてしまうような少女だったのかなと。
だからナタリーのことをダイアナはまっすぐに見ることができなかったのかもしれないなと思います。置き去りにした自分がそこにいるから。
ダイアナには置いてきた自分と向き合うことが必要なのじゃないかな。
置いてきた自分をいまの自分のなかに取り込んで、止まっていた鼓動を動かす作業が必要なのじゃないかなと思います。

抱えきれない目の前の問題に直面したときに「大丈夫、きっと良くなる」と根拠が稀薄でも自分にも家族にも言い聞かせて(難しいことは専門家に丸投げして判断を仰いで)有無を言わさず前にすすもうとするダンとは反対に、ダイアナは立ち止まって現実をしっかり自分で咀嚼して責任や根拠を明確にしたいタイプなのじゃないのかなと思いました。
ダンといるとダイアナは抱えきれないモヤモヤをいっぱい抱えてしまう気がします。ダンの長所ともいえる性質がダイアナと相性が悪そうです。
ここはいったん離れて、自分のことや、ダンについてや、息子や娘のことをいままでとはちがう目線で見て考えてみることがダイアナには必要なんだなと思いました。
だからこれは前向きなラストなんだなと。そう思いました。
普通じゃないけど普通のとなりで普通に生きようともがきながら生きている人びとが暮らしている。そうなんだよなぁと肯いてしまう作品でした。

CAST

ダイアナ/望海風斗
ゲイブ/甲斐翔真
ダン/渡辺大輔
ナタリー/小向なる
ヘンリー/吉高志音
ドクター・マッデン/ドクター・ファイン/中河内雅貴

(2025年1月6日博多座)

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2024/12/27

いのちのある限り求めつづける

11月30日に博多座にてミュージカル「モーツァルト!」を見てきました。
この日はツアーの大千穐楽でした。

感想を書こうとして前回この作品を見たのはいつだっけ?と記録を辿ったら2005年11月の博多座公演(19年前!)でした。
ああそれで、こんな内容だったっけ?と不思議なかんじがしたのだなと合点がいきました。
ヴォルフと父、コンスタンツェ、ナンネール、ほかの人物たち、そのそれぞれとの関係、そして男爵夫人の歌など、一つ一つが記憶していたものとはちがった印象でいまの私の心に映りました。
演出やキャストが変わったこともあるのでしょうが、なによりも自分自身の状況が変わったことが、そう思った一番の理由だったのかなと思います。なにしろ20年近くの歳月を経ているので。

博多座での上演自体が2005年以来19年ぶりの2回目のようですが、その間、帝劇にも大阪にも見に行っていなかったのも自分としては衝撃でした。
地元で公演がなかったこともありますが、中川晃教さんのヴォルフガングで正解を見た気がしていたのも遠征しなかった理由だったと思います。
(2018年と2021年は同時期に公演していた作品=「1789」とか星組ロミジュリとの日程調整も難しかったみたいです・・遠征の民のつらさ・・)

前置きが長くなりましたが、19年の月日を経て2024年版「モーツァルト!」を見た私の感想です。

古川雄大さんのヴォルフガングの解像度の高さに、なるほどそうなのかと肯きながら見ていました。
こんなに精神が幼くて気分の浮き沈みが激しく衝動的で自己管理が甘かったらトラブルばかりに見舞われて生きにくいだろうな。
本人に代わって管理してくれる人が必要なのに、そういう人とは距離を置きたいんだな。言いつけや約束を守る自信がないものね。正しい行いができなかったことを指摘され自己肯定感削がれるのはつらいものね。
「このままの僕を愛してほしい」んだよねと。
そのままが好きだと言ってくれたコンスタンツェにそばにいてほしかったんだなと。
だけど彼女は「彼女に見えるそのままのヴォルフ」が好きで。父レオポルドほどにはヴォルフのことを理解しているわけではなくて。だからすれ違ってしまうのはしょうがないなと思いました。

父レオポルドは息子の特性はよく理解していて、どうすべきかは示せるけれども、息子の気持ちを汲んで寄り添ってやることは得意じゃないみたい。
短絡的な息子に、そのままの彼をその特性ごと愛している父の深い思いを理解させるのは難しいことだなぁと思いながら見ていました。
狡さがなくては生きていけない世間を生きる人びとに簡単に騙され利用され尽くしていく息子の未来が父だからこそ見えてしまう。そうなってほしくはなかったから、自分の目の届く範囲にいてほしかったんだろうな・・と父の気持ちをしみじみと感じてしまったのは、いまの私だからこそだなぁと思いました。
ヴォルフを自由にしてあげればいいのにと思って見ていた19年前とはちがう感想を持ちました。
ただ自由に解き放ってあげればいいわけではない。それはいまだからこそわかります。

19年前は男爵夫人が歌う「星から降る金」に感じ入って感動の涙だったのですが、今回は「とは言っても・・」と思いつつ聞いている自分がいました。何より「王様は息子を愛していた」の歌詞が胸に刺さりました。こんなに奇跡のような、こんなに特性の強い息子をもってしまったら親はどうしたらいいのかな。
それにしても涼風真世さんの男爵夫人はキラキラとしていて、本当に特別な人なんだなぁと思わせられました。でも俗っぽさも見えて、そこが以前見た男爵夫人とはちがっていて惹かれました。

コンスタンツェ役の真彩希帆さんは、「LUPIN~カリオストロ伯爵夫人の秘密~」で演じたクラリスが面白かったのでどんなコンスタンツェになるのだろうと楽しみでした。
『推し』を目の前にして自分の妄想に耽るようなクラリスにいたく共感した記憶があります。
今回のコンスタンツェも1幕ではいまをときめくキラキラのヴォルフに気後れして距離を置いて眺めているような様子、才能ある姉にくらべて自分なんかと思っている風情がオタクっぽくて好きだなぁと思いました。
ヴォルフに「そのままのあなたが好き」と言うのも、タカラジェンヌのお茶会で憧れのスターへの告白タイムをいただいちゃって、気の利いた言葉も浮かばず振り切ったテンションのままとっさに口走ってしまった・・みたいなシチュエーションが思い浮かんで、既視感があるなぁなんて思ってしまいました。(どういう限定シチュエーション。。)

そんなコンスタンツェが2幕では、自分の存在意義がわからなくなって絶唱するところは、いったい彼女になにが?!と思いました。
いやいや。わかる気はしたのです。姉たちにくらべられ、出来が悪いと親に見下されて自己肯定感が低かった娘が、愛するヴォルフのために存在意義を示さなくてはと思えば思うほどなにもできなくて。やらなくてはと思えば思うほど逃げ癖が出てしまうそんなかんじなんだろうなぁと。
そんな不如意な現実もなにもかも忘れて無我の境地になれる、時間を忘れられる行為に没頭してしまう。
踊り続けることで到達する恍惚感は彼女に万能感を感じさせてくれるのだろうなと。
でも醒めると自分が放り投げたままの現実が目の前に。そのくりかえし。
しみついた負の行動パターンを変えられない。新しい行動に出る勇気をもてないのは成功体験が乏しいからだろうなぁとか。
ヴォルフに愛された理由もおそらく正しくは理解していなくて、なにかがきっと掛け違っている。彼にどうしてほしいかも言語化できていなくて。
そんな彼女をだれも助けてくれない。それどころか2人のあいだにあったものまで毟りとっていってしまう。
2幕までにどんなことがあったのかは描かれてはいないけれども、想像できました。

狡猾に見える人も居丈高な人物も、どの登場人物も時代を必死に生きていているのだなぁとそれはしみじみと思いました。生きていくというのは誰にとってもイージーモードではないんだと。
そんな世の中で才能(アマデ)とヴォルフとコンスタンツェはどう共生したらよかったのだろうと考えてしまうけれど。正解があるとしても、その通りに生きられる人など極々僅かなのだろうと思います。
それでも死ぬまでは生きていかなくちゃならないのだなぁ。そんなふうに思う作品でした。

大千穐楽の挨拶では、古川雄大さんが珍しく1人で長い間話つづけていたことが印象的でした。それくらい思いの深い作品なのかなと。
自分よりももっとこの役に相応しい役者がいるのではないかと思う中で主演のヴォルフガングを演じることになった2018年の頃の話や。(恐れながら私もそう思った1人です。それはまったくの見当違いだったと舞台を見て思い知りましたが)
そのときから父親役として成長を見守りつづけてくれた市村正親さんとの関係。さらにミュージカル俳優として駆け出しの頃にルドルフとトートとして対峙した山口祐一郎さんとのことや(なんと祐一郎さんから手を取られて一緒に『闇が広がる』のステップを披露!)。

古川さんの話を聞きながら、はじめてルドルフとしての彼を見て、なんという王子感だろうとドキドキしたことなども思い起こされて、その彼がいまここに主演として立っていることに深い感慨を覚えました。さらに今回同じヴォルフガングをダブルキャストで演じられた若い京本大我さんに先輩としてエールを贈られていることにも。
私が10余年ただただ劇場に通って観劇資金のためにちまちまと仕事をしている間に想像もつかないような努力を重ねて役者としても人としてもこんなに成長したのだなぁと尊敬の念が溢れました。(頼もしく成長されたなぁと思う様子もありながら周囲の人々が思わず見守りたくなるのではという雰囲気も相変わらずで、そういうところが魅力なのかなぁとも)

その後古川さんの紹介をうけて登壇された演出の小池修一郎氏の話はさらに長くて、さすが小池氏だなぁと思いました。
高みをめざして努力をつづけ成長を遂げていく1人の人と長く関わり見守りつづけることの喜びが感じられる話で、かつこの「モーツァルト!」という作品とも照らし合わせながら、どんなことがあろうと人は生きていかなくてはいけないという話に(話の内容は次々と多岐に展開していましたが)そうだよねぇと深く肯かずにいられませんでした。
作品に登場する人物にも、舞台上で演じる人びとにも、それを支える人びとにも、それぞれに生きなければいけない人生がある。きっと私自身にも。
と、そんな思いを心に刻んだ観劇でした。

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2024/12/09

この道が未来へと続いているから

11月20日に東京宝塚劇場にて星組公演「記憶にございません!」「Tiara Azul ーDestinoー」を見てきました。
9月22日の宝塚大劇場の千秋楽以来の観劇でした。
(その後12月1日に地元映画館にて東京宝塚劇場公演千秋楽のライブビューイングを見たのでその感想も混じります)

「記憶にございません」は開幕早々の黒田総理役の礼真琴さんのこれでもかという眼つきの悪い様子にうけました。ムラ(宝塚大劇場)ではここまで悪くなかったのにと思って。
記憶を失くして以降の彼の態度が真逆になるのがとても面白かったです。逆にこんなに誠実で人のよさそうな人がどうしてあんなに悪い人になっていたの??とそちらのストーリーが気になりました笑。

官僚の皆さんもいっそう誇張された芝居になっていてそれぞれのキャラクターを生きているかんじが面白かったです。いかにも星組だなぁと思いました。
演じている人びとが頑張っているだけに、ムラの観劇時から引っ掛かっている脚本上のあれこれが惜しいなぁと思わずにいられませんでした。
海難事故の犠牲者を「海の藻屑」というのはモズクの言い間違い以前に大臣の発言としてデリカシーに欠ける気がして笑えませんでした。

熊本のご当地アイドルが登場する意味も、彼女たちが投票を呼びかける仕事を請けて活動しているところまでは理解するとしても、特定の議員や政党の街頭演説に現れるのは変だなぁと思いました。
生活保護受給についての表現、特定の人物(国)にあてこすっているようなセリフやミソジニー臭いセリフなど一方におもねり訳知りに他方を踏みつけるセリフがどうにも苦手でした。

柳先生との場面も初歩から政治を学びなおしたいという黒田総理の真面目な一面が描写できればそれで良いと思うのだけど、論点ずらしなことをよいことを言っている風情で言い出す柳先生とそれに同調する秘書たちにモヤりました。
「負けて得とれ」は納得しているわけではないという思いが根底にあるわけで、議論を諦めて受容したフリをするのは不誠実だろうと思いました。もちろん交渉事においては必要な局面はあるとは思いますけども。
納得もしていないし相手の言も軽く考えているからまたすぐに蒸し返す。
いつまで経ってもハラスメントを自覚しないのもこんな人だろうと思いました。

書き出すとあれもこれもになってしまいますが観劇中はなるべくスルーを心がけて楽しみました。
やはり筋の運びや場面の配分はさすがだなぁと思います。
レストランでの家族の会話は何回見ても面白かったです。3人ともセリフの間が絶妙。瞬発力があって快感でいつまでも見ていたいラリーでした。

「Tiara Azul ーDestinoー」も何度見てもワクワクしてどの場面も大好きであっという間のショーでした。
銀橋の板付きチョンパの幕開きからもう大好き。いや幕開きの前に銀橋にタカラジェンヌたちが集まってくるところからそわそわとして好き。
2番手の暁千星さんが出て来て継いでトップスターの礼真琴さんが高い装置の上に登場するそのエスカレーション感がわくわくして好き。
極美慎さんオーナーのブティックの場面がぜんぶ好き。詩ちづるさんのドレス姿が可愛くて好き。ミュージカルみたいなダンスシーンが好き。

山車がどんどん迫ってくるようなカルナバルの場面の一連がぜんぶ好き。客席降りで踊るタカラジェンヌにわくわく。
心を寄せ合う礼さんと舞空瞳さんのシーンから、それを見た暁さんが夜の店でヤケ酒をあおってタンゴの場面になる流れが大好き。店内の人間模様に視線を奪われるかんじも好きでした。
礼さんと舞空さんの裸足のダンスに心がふるえました。舞空さんの表情がせつなくて礼さんの表情がやさしくて。
サリダデルソルの小桜ほのかさんの歌に涙腺をやられて、希望に満ちた星組生の表情、躍動感あるダンスに涙して、退団する4名をしっかりと目に焼き付けることができる場面が大好きでした。

礼さんを中心に娘役さんたちと踊る場面は、礼さんの歌もダンスもグルーヴ感最高でした。もっと尺がほしいくらい。娘役さんたちもかっこよかったです。ドレスの色と照明も印象的な場面でした。
男役群舞は皆キザが過ぎて思わず笑っちゃいました毎回。お芝居の松爺だったとは思えない金髪のイケメンの天希ほまれさんととても気持ちよさそうに踊っている蒼舞咲歩さんに目を奪われていた記憶があります。

デュエットダンスの前に大階段を1人で降りてくる舞空瞳さんは豪華な生地とレースでふくらんだドレスを纏っているにもかかわらずまったく重さを感じさせない足取り・・というか水面をすーっと進む白鳥のようでこのうえなくアメイジングでした。
銀橋で礼さんによってティアラを戴く姿を客席の皆で見守る演出はなんど見ても素敵で、星のティアラを冠したプリンセスとして私たちの記憶に刻まれたのだなぁと思いました。

千秋楽は映画館でライブビューイングを見たのですが、サヨナラショーはやはり構成が素晴らしいなぁと思いました。
トップ娘役の単独サヨナラショーで、相手役のトップスターがここまで絡む構成はなかなかないのではないかと思いました。ファンが見たいのはこういうロマンティックな世界観だと思います。
「めぐり会いは再び~」の『ミッドナイトガールフレンド』からの「ディミトリ」の『運命に結ばれて』の流れは涙を誘われました。
ラストナンバーになる『The Next Generation!』(めぐり会いは再び~)はライブビューイングの画面では星組生とハイタッチしていく舞空さんが映し出されていたけれど、大劇場で見た舞空さんと星組生をあたたかいまなざしで見つめていた礼さんを思い出して、いまこの時も舞空さんと星組生たちを見守っている礼さんが舞台袖にいるのだなと思いながら感極まっていました。
サヨナラショーそして大階段での退団の挨拶、カーテンコールでの言葉、礼さんと並んで緞帳前でしあわせそうに言葉を紡ぐ舞空さんの姿・・さいごのさいごまで心にあたたかいものが満ち満ちた千秋楽でした。

それから・・場面が前後してしまいますが、ショーで極美慎さんが銀橋で未来への決意を歌うナンバーが、いつもは極美さんのこれからの道に思いを馳せながら聴いていたのですが、なぜか千秋楽だけは作演出の竹田先生の心情のように聞こえました。孤独の闇を払い大劇場デビュー作を世に送り出して決意もあらたに自分の道を歩んでいく若い演出家のこれからに心からのエールを送りたく思いました。
タカラジェンヌのみならず演出家の先生にまで親心?になっていくのも、宝塚ファンの通るさだめなのかなと思いつつ・・笑。

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2024/11/30

すべての世代はその絶頂期において道を譲り若者を招き入れて良き日を分かち合わねばならない

11月11日に福岡サンパレスにてミュージカル「ニュージーズ」を見てきました。
この日は公演の大千穐楽で、ヒロインの星風まどかさんのお誕生日でした。

そもそもの観劇の動機は、星風まどかちゃんが地元に来る?!ならば見に行かねば!ということで、作品についてはほとんど知らないままでした。
幕が上がり、まず思ったのはみんな若い!ということ。よく動くなぁ、よく跳ぶなぁ!とまぁびっくり。
大勢で踊っている中にシスター姿の晴華みどりさんを見つけて嬉しかったです。相変わらず素敵だなぁと思いました。
劇場の女主人役に霧矢大夢さんも登場しておお~!っと思いました。懐深い役で謎の説得力がありました笑。

主演のジャック役の岩﨑大昇さん、声が良く出るなぁ。大きいなぁと思いました。
大千穐楽ということでカーテンコールのあとに登壇した演出の小池修一郎氏によると、この公演中にもさらに大きく育ったとのこと。役者としても体格の面でもってことかな。(肩幅50cmを超えたとか!)
磨けば光るポテンシャルと真ん中に立てる風格が備わっていて彼が出演する舞台をこれから私はきっといくつも見るようになるんだろうなぁと思いました。

そしてヒロインのキャサリン役の星風まどかさん、臆することなく舞台に立つ勇ましさも健在でうれしく思いました。
彼女がヒロインを演じた「アナスタシア」が大好きでしたし、宝塚在団中は本格的なミュージカルで歌い踊るまどかちゃんをもっと見たいと思っていたので、退団して間もなくこのように活躍している姿を見ることができてうれしいなぁと思いました。これからもっともっと舞台でのびのびと輝く姿を見られることを期待します。

加藤清史郎さん(ディヴィ役)も相変わらず巧いなぁと。これからどんな役者に成長していくのか楽しみだなぁと思いました。
クラッチ―役の横山賀三さんは初めて見る方でしたが、役柄も相まってかなり惹かれました。今後の出演作も見てみたいなぁと思います。

ニュージーズ(新聞少年たち)の存在はこの作品ではじめて知ったくらいに無知でしたが、ニューヨークも19世紀末の闇を抱えていたのだなぁと作品を見ながら思いました。工業化や人口流入による住宅不足や生活困窮者の増加、労働環境の問題。頼る者もなく自分の力で生きていくしかない子どもたちがたくさんいた時代なんだなぁ。

ニュージーズを窮地に追い込む敵として描かれるピューリッツァー(石川禅さん)ってピューリッツァー賞のピューリッツァーだよね? 勝手に高潔な人物のイメージを抱いていたけれど、なかなかのやり手実業家だったんだなぁとか。
同様にセオドア・ルーズベルト(増澤ノゾムさん)ってあの‟テディ”のルーズベルトだよね?と。大統領時代にはパナマ運河の件でピューリッツァーとやりあっていたよね? この作品ではまだ州知事なのでそれはこののちの話になるのかなぁとか。
歴史上の人物が物語の中で描かれる姿に興味を惹かれました。

セオドア・ルーズベルトがワシントンやジェファーソン、リンカーンと並んでアメリカ人に人気の理由がいまいちピンときていなかったのだけど、この作品に描かれる役どころで、なんとなくその理由がわかったような気がしました。
警察の汚職と戦ったり生活困窮者の問題に取り組んだ人として人々の記憶に残っているんだなぁ。

セオドア・ルーズベルトには格言が多いというか、民衆受けする格好の良いことを言う人だという印象があるので、劇中のセリフも「彼らしいなぁ」と思いました。
曰く「すべての世代はその絶頂期において道を譲り若者を招き入れて良き日を分かち合わねばならない
自分の理想の人物になるために努力を惜しまず生きた人らしいなと思います。そういうところが尊敬されるのかなと思います。
同時にやっぱりそういう生き方ができる環境に生まれた人だよねとも思います。
ディズニー作品ゆえなのか、いくつかの綺麗事すぎる部分に「ふふん」と思ってしまう自分がいました。

作品の上ではピューリッツァーが悪者でセオドア・ルーズベルトが正義の人だけれど、ピューリッツァーがセオドア・ルーズベルトのやり方を批判するところはやっぱりジャーナリストらしくてなるほどと思いました。

大千穐楽の挨拶でピューリッツァー役の石川禅さんが、セオドア・ルーズベルトのこの言葉(すべての世代はその絶頂期において道を譲り若者を招き入れて良き日を分かち合わねばならない)を引用して、岩崎さんをはじめとする若い出演者の皆さんの未来に期待しご自分たち先達のなすべき道をお話をされ、霧矢さんや増澤さんたちがそれに肯いている様子が印象深かったです。

そして自身を含め舞台上にいる若い共演者たちにご期待くださいとこれから精進していくことを舞台で宣言する岩﨑さんの言葉に、時代は変わっていっているのだなぁとしみじみと思いました。
これからを担う若い舞台人の活躍に私も期待したいと清々しくも感慨深い思いに浸り、本邦のミュージカルの未来に明るい兆しを感じながら劇場を後にしました。

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2024/11/15

運命ってやつにもう一度挑戦しようじゃないか

11月4日に鹿児島市の宝山ホールにて宙組全国ツアー公演「大海賊」と「Heat on Beat!」をマチソワしてきました。ツアーの大千秋楽でした。

素晴らしいパフォーマンス、それを余すところなく楽しもうとする客席の意気込み、圧巻の熱量が充満する空間を体験しました。
楽しくて幸せで忘れられない観劇になりました。

このところ宙組生に疎くなっていたのですが、お芝居ショーともに多くの出演者にセリフや見せ場のある作品で、それぞれの出演者がイキイキと演じている姿を見ることができて解像度が高まり、宙組を見る楽しみがまた増量しました。

ヒロインの義姉マリア役の湖々さくらさんの「与えられたものを受け取って」真摯に生きる年長の婦人としての威厳と慈愛をうかがわせる落ち着きのあるセリフ回しと歌。タカラヅカニュースのナビゲーターとしての姿には馴染みがあったものの、こんなお芝居をしてこんなふうに歌う人だったのだとのは初めて知ったように思います。

初見で主人公の母上の悪者に抵抗する際の身のこなしのキレにおっ?と思っていたらやはり水音志保さんで、それ以降ずっと美しい母上から目が離せずその美しい死に顔に見惚れている間に照明が落ちてはっと我に返る、というのを初見の福岡公演から繰り返していました。
ショーでもたくさん活躍されていて、なかでも「Fly me to the moon」を歌う芹香さんを天彩峰里さんと挟んでのおしゃれでキュートなダンスや「ジェラシー」での瑠風輝さんとのタンゴのペアは目が釘付けでした。

スキンヘッドにびっくりした輝ゆうさんの鉄砲玉は愛嬌たっぷりキャラでいつも仲間と面白いやりとりをして楽しませてくれました。
ちょっと斜に構えたネコザメ役の嵐之真さんは、サンタ・カタリーナ炎上の場面では前回の大劇場公演(ルグランエスカリエ)に引き続きソロで歌を聴かせてこれからも宙組の歌い手として注目したいなと思いました。
聞き耳役の真白悠希さんもルグランエスカリエに引き続きお芝居ショー共にやはり舞台センスで目を引きました。見ていてとても快感でした。

フレデリック役の泉堂成さんは、福岡サンパレスの感想にも書きましたが、歌唱力のある瑠風輝さん鷹翔千空さんとともにしっかりとハモっていてすごいなぁと思いました。これからの成長がますます楽しみです。
海賊たちをまとめる拝み屋役の鳳城のあんさん、最初は鳳城さんとは思わず上級生かなぁと思っていたほど荒くれ者の海賊たちをまとめる年長者の落ち着きと声の張りがあって、あとで鳳城さんと知ってびっくりしました。
まだ106期だとか。宙組に欠かせない存在に成長しそうでたのしみです。
ウミネコ役の渚ゆりさんも少年役が溌溂としてとても可愛くて愛でたい存在でした。どういう経緯で海賊に加わったのかも気になるし、海賊たちにも可愛がられているんだろうなと想像をめぐらせました。

コロナ禍では出演人数に制限が設けられていたり、昨年の出来事以降は公演ができない状況が続いたりでなかなか舞台に立つ機会を持てなかった彼女たちが、活き活きと役として舞台上で生きている姿を見られて嬉しく思いました。
見たかったものをやっと見ることができた。ブランクなど感じさせない素晴らしいパフォーマンスを。そのために重ねただろう努力や意志を尊く愛おしく思いました。

顔覚えがわるいので、一度にはたくさん覚えられないのですが、これからもっと下級生を覚えていきたいなと思えた公演でした。

同時期に公演されていたバウホール公演のほうは見ることができなかったのですが、この全国ツアー公演のメンバーにバウのメンバーも合わさった宙組の次回大劇場公演を心から楽しみにしています。
いまの宙組、これからの宙組が輝くことを願っています。

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2024/11/04

You are all I long for

10月29日と30日に福岡サンパレスホールにて、宙組全国ツアー公演「大海賊」「Heat on Beat!」を見てきました。

お芝居ショーともに満足度の高い観劇になりました。
20数年前に宝塚を見はじめて以来、宝塚歌劇とは音楽性は求めずにそれ以外を楽しむものだとずっと思っていました。(それで充分幸福感を得ていました)
ですが近年その認識を覆される経験を幾度かして、今回の観劇で決定的にもう以前の宝塚とはちがうのだと理解しました。

歌い上げる楽曲で魅了するタカラジェンヌはこれまでも数多いましたが、ジャズやロックに関しては期待してはいけないんだなと思いつづけて幾星霜。それが礼真琴さんの星組にガツンと衝撃をうけ、いままた芹香斗亜さんの宙組に全方向から袋叩きにあった気分です。とても心地よい袋叩きでした。

瑠風輝さんと鷹翔千空さんのツインヴォーカル的なロックのハモりに脳からお汁がでるような快感を得、芹香さんの「Fly me to the moon」に泣きそうになりました。
トップスターから4番手までがそれぞれに自分の個性で歌える宙組のこの陣容をずっと私は待ちわびていたんだなぁと。
礼さん星組の壮大な力技に対して芹香さん宙組の抜け感。どちらも好き。そう思える幸せに泣けちゃう感覚。
これも過去からの数多のタカラジェンヌたちの積み重ねの上にあるんだと思うと感無量でした。
「大海賊」も「Heat  on Beat!」も私にそれを感じさせる演目でした。

私が宝塚にハマったのはちょうど紫吹淳さんが退団を発表されていた頃で、スカイステージでは数か月にわたり紫吹さん出演の舞台が放送されていました。
その流れで繰り返し見ていたのが紫吹さん主演の「大海賊」と「ジャズマニア」(「Heat  on Beat!」とおなじ三木章雄先生作演出)で、本公演、新人公演、全国ツアー公演版とそれぞれを飽きることなく見つづけていました。(当時は映像も粗くてTVのアスペクト比もいまより狭く、見えないものをいっしょうけんめい見ようとしていたなぁと思いだします笑)

時は流れて10年以上録画も見返していなかったのですが、瑠風さんのエドガーに初演の湖月わたるさんの表情が、鷹翔さんのロックウェルに大和悠河さんの声や表情が思い起こされるという不思議な感覚を得て我ながら驚きました。
「Heat  on Beat!」のどの場面だったか、芹香さんが手を叩いた瞬間に「あっこれ瀬奈さんだ!」と思ったのも不思議な感覚でした。
過去のタカラジェンヌから脈々とつづいているものがあるのだなぁとしみじみと思いました。

瑠風さんエドガーとその部下、鷹翔さんのロックウェルと泉堂成さんのフレデリックのトリオで「焼き尽くせ」と歌うナンバーは、あれ?この曲ってこんなにハモる曲だったっけ??もしかしてナンバー変わった???と自分の記憶を疑ったりもしました。
初見の終演後に、初演も再演も記憶されているファン友さんに訊ねたところ、ナンバーは同じとのこと。
2回め以降の観劇では、瑠風さん鷹翔さん泉堂さんのハモりにゾクゾクしながら「進化していく宝塚」に感慨を覚えました。

初演の大空祐飛さんのフレデリックは誇り高い青年貴族の雰囲気で、女王陛下の命によりエドガーの下で(おそらく家格はエドガーよりも上)渋々海賊行為を行っているプライドの高さがうかがえて、そのストイックな軍服姿も相まってなんともいえない魔力がありました。
野卑な大和ロックウェルに揶揄されてクールな面(おもて)が僅かに嫌悪に歪むのが私の中の悪い悦びを刺激して大いに性癖に刺さったことを、泉堂さんの可愛いフレデリックを見て鮮明に思い出しました。
泉堂さんのフレデリックは鷹翔ロックウェルに感情を手玉にとられて内心で地団駄を踏んでいるのを隠せずにいるところが可愛いなと思いました。鷹翔ロックウェルもついつい彼をかまわずにいられない感じなのかなと想像しました。
初演とは学年が逆転しているのと演者の個性も相まって、関係性がちがって見えたのが面白かったです。

「過去、そして現在」を感じ、いまと未来の宝塚を愉しみに思う気持ちと、かつての宝塚への愛とを味わうことができて、そんなところにも満たされたのかなぁと思います。
長年の宝塚ファンの方々はこういう楽しみも味わっていらっしゃるのかなと思ったり。

「Heat on Beat!」はどのシーンもクオリティの高い最高のショーで、いまの宙組でこのショーが見られて本当に良かったなぁ心から思いました。
同時に、でもこれで全員じゃないんだなぁと、しかもこれがいまの芹香さん率いる宙組最後の洋物ショーなんだなぁと思うと残念な気持ちにもなりました。
(田渕先生、どうか素敵なフィナーレをよろしくよろしくお願いします)

千秋楽の鹿児島公演を見に行くことができるので、このお芝居とショーを悔いのないように堪能して来ようと思います。

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2024/09/30

思いもしなかった

9月22日に宝塚大劇場にて星組公演「記憶にございません!」「Tiara Azul ーDestinoー」の千秋楽を見ることができました。
この公演で退団するトップ娘役舞空瞳さんのサヨナラショーも上演されました。

2階席から見えたもの

2週間ほど前に観劇したときよりお芝居のリアクションがだいぶかわったなという印象でした。ショーの濃度もマシマシ。
そして客席からの拍手や手拍子も熱い。さすが千秋楽!でした。

今回は2階席だったので前回の観劇では見えなかったところが見えたのが面白かったです。
「記憶にございません!」では、礼真琴さん演じる黒田総理と小桜ほのかさん演じる山西議員、舞空瞳さん演じる聡子と暁千星さん演じる井坂の2カップルが1番セリの上下で「連立合併」を歌う場面は、1階前方席からだとセリの上の舞空さんと暁さんが見づらかったのですが、2階からだととてもよく見えて、舞空さんこんなに暁さんに迫っとったんか!と可笑しくてついつい見入ってしまいました。聡子さんの舞空さん、ずいぶんと振り切ったお芝居だなぁとは思っていたのですが、ここまでとは。

この期に及んで水乃ゆり様に

「Tiara Azul」の暁さんがヤケ酒タンゴを踊る場面では、舞台奥に水乃ゆりさんが見えたので、これも1階席からは気づかなかったことなので目で追っていたら、ほかの娘役さんを誘ってテーブルでカッコよい仕草で話し込んでいる?!
こういう酒場の場面の娘役は男性(役)に媚びたりしな垂れかかったりするのが定番かと思っていたらなんと新鮮。ゆり様素敵です。
と思っていたら、やさぐれた暁さんがほかの男役さんと踊っていた詩ちづるさんを無理やりパートナーにして踊る一連の場面で、詩さんが暁さんを振り払って上手のテーブルに向かうと、そこにはテーブルに片手をつき一方の手を腰に当てたカッコイイ水乃ゆり様がいて、その御手が詩さんのお顔をつつんでナチュラルにキス?! 詩さんも合意というか2人アイコンタクトしてた?!(角度的にはっきりとはわかりませんでしたが、そんな雰囲気)もう目が釘付けでした。
ゆり様どういうキャラ設定なの。最後の最後にゆり様怖い・・汗。(千秋楽からのゆり様呼び)
水乃ゆりさんは私の星組観劇の愉しみの1つですが、もうさらにゆり様堕ちです。千秋楽にして・・どうしたらよいの涙。かっこよー。

「サリダ・デル・ソル(いつかまた)」の場面で退団者4人のピックアップの前に、舞空さんがフォーメーションの外側を走って舞台奥に行くとそこには水乃さんがいて、2人で両手を取り合って跳ねていたのも2階からよく見えて、それにもぐっときました。
これから星組の皆に見つめられて、客席の皆に見守られて退団していく者として踊る場面の直前で手を取り合って、そこにはどんな気持ちが交わされているんだろう。大好きな娘役さん2人がここからいなくなってしまうんだという思うさみしさも感じてたいへんエモい気持ちになりました。

礼さんの愛

サヨナラショーはどこをとっても感動だったのですが、「Midnight Girl Friend」(めぐり会いは再びnext generation)からの「運命に結ばれて」(ディミトリ)は涙腺が決壊しました。
そしてそこからの「The Next Generation」(めぐり会いは再び~)で、銀橋から舞台下手で礼さんに背中を押されて星組生全員と笑顔でハイタッチしていく舞空さんを、舞台下手に佇み見守っている礼さんの立ち姿がとてもあたたかくて愛情にあふれていて、その礼さんの姿にも涙してしまいました。
サヨナラショーの主役は舞空さんだから、彼女が絶対的に主役でいられるよう見守る姿が気遣いにあふれて礼さんらしいなぁと思いました。(愛月ひかるさんのサヨナラショーでもそうだったなぁと思いだしたりして・・)

お芝居もショーもとても多幸感が残る公演でしたが、さらにサヨナラショーも愛にあふれていて、幸福感で満たされた千秋楽でした。
宝塚を見たぞというキラキラとした夢見心地をこんなにも味わえたことに、星組生や演出家の先生、スタッフの皆さまにありがとうございますと思いました。

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2024/09/22

夢を語ることは勇気が必要

9月4日と5日に宝塚大劇場にて星組公演「記憶にございません!」「Tiara Azul ーDestinoー」を見てきました。
「Tiara Azul」は演出家竹田悠一郎先生の大劇場デビュー作品です。
そしてトップ娘役の舞空瞳さんがこの公演で退団されます。

「Tiara Azul ーDestinoー」はこれぞ宝塚!なラテンショーでした。
クラシカルでありつつ、いまの宝塚歌劇の照明や舞台機構、いまの星組生をよく知っている人が作った作品だなぁということも感じました。
宝塚への愛と宝塚ファンがうれしいあれこれが散りばめられて見ていてとてもワクワクしました。
いまは次回観劇が待ち遠しい気持ちでいっぱいです。

礼真琴さんの開演アナウンスの後、暗い銀橋にずんずんと迫り来る気配が。こ、これはあれの予感——!と思った瞬間、照明が点灯して一瞬にしてそこにはずらりと居並ぶタカラジェンヌが! なんという壮観。
(わ・目の前に極美さんが・・舞空瞳さんの笑顔がこんな近くに・・)
銀橋に人の気配を感じて、これはあれ(チョンパ)だと予測はできたのですが、実際に目の前に居並ぶタカラジェンヌを見ると驚きと歓喜で脳内が大洪水になりました。

かっこいい男役さんたちと舞空さんに 歓喜していたら、2番手の暁千星さんがステージ中央に娘役さんたちと登場でひゃぁあとなり、さらに高いセットの上には豪華絢爛なトップスター礼真琴さんが登場で高揚感がどんどんエスカレーション。オープニングからガツンと心を掴まれました。

お揃いの「Tiara Azul」とロゴの入ったTシャツで娘役さんたちと男役さんたちがそれぞれペアになって踊る場面は可愛いかったです。
いろんな雰囲気のペアのなかで舞空さんと暁さんのペアは・・あれ?笑。
程度はまちまちですがそれぞれ恋人らしくなっていくカップルのなか、誰よりも自信満々な暁さんは誰よりも長く手足を伸ばして舞空さんにアプローチ。彼女の心はもう自分のものとキラッキラに瞳を輝かせて愛嬌抜群。(小一時間前まで銀縁眼鏡でクールに構えていた人とおなじ人です笑 そしてまた憂いを纏ったやさぐれタンゴを踊る人です・・)
そんな暁さんの強い押しに釈然としない表情七変化の舞空さんがとても可愛いかったなぁ。ノリきれていない風なのに暁さんとめちゃ踊っていたのも逆にすごいなと思いました。
(それぞれに通しの役名があるのですが逆に書いていて混乱してしまうので芸名で書いています)

最悪の出会いから礼真琴さんと舞空さんが飛び込んだ色鮮やかな洋装店の場面も大好きでした。娘役さんたちがとても可愛い! カラフルな衣装を纏ったディスプレイのマネキンに扮した娘役さんもそれにちょっかいをかけている店員の小桜ほのかさん詩ちづるさんも。(こんなヴィヴィッドカラーの組み合わせを着こなせる人たちって・・)
ショップオーナーかマネジャーかのこれまたネオンカラーにネオンカラーを重ねたようなド派手な極美慎さんも見ものでした。(これでサマになっちゃうのって・・)
礼さん舞空さんにチョイスされたジャケットとドレスがさらに・・呆然でした。(・・これで街にいく設定よね・・?) どんな派手な衣装を着ても素敵なタカラジェンヌという存在の尊さに手を合わせたくなりました。

いよいよ始まったカルナバルは舞台全体が煌めき、動く舞台セットとパフォーマーのパッショナブルなダンスが次々に繰り出すさまは、順々に巡ってくるカルナバルの山車を見物しているようで興奮を覚えました。見どころが満載すぎて目と心で追うのが大変。
小桜ほのかさんと瑠璃花夏さんに挟まれて両手に花の碧海さりおさんが羨ましい!(しかもマチソワで最後に手を取る相手が違ったような・・・?)
男役さんたちに囲まれて水乃ゆりさんが踊る『スーパーゆり様タイム』はさながら極楽浄土の迦陵頻伽のような有難さでした。
カルナバルといえば!の娘役さんたちのコスチューム(タカラヅカナイズしているのでノープロブレム)踊りまくるトップコンビに暁さん、これぞラテンショーの中詰の盛り上がり!(客席降りもありました! 一斉にじゃなくてこれもチームごと?みたいな)
そして盛り上がりのままにロケットに突入。
中詰までがあっという間で、まだまだ先があるのにこんなに盛り上がって大丈夫かな?と心配してしまうほどでした。

こんなに盛り上がってどうなってしまうの?と思っていたら、あら?
場面はトップコンビのロマンティックな雰囲気に。カルナバルの日に出会って、カルナバルで盛り上がって、そこからこんなに可愛らしくなるのが新鮮。
若い清い爽やか。
でもそれを見て心穏やかではない暁さん。今日フラれたばかりなのに、自分をふった相手は今日出会ったばかりの人とフォーリンラブなんだもん。
やさぐれてやけ酒を呷る姿が色っぽい。
他人のパートナーにちょっかいを出したり、他人が飲んでいる酒瓶を横取りしたり。とっても態度が悪いのに、極美さんたちは怒ったりしなくてしょうがないなーって感じで。
そうそう男の人たちってフラれて荒む同性には優しいよねとやけにリアルを感じて微笑ましかったです。これはときめくブラザーフッド。
暁さん極美さんのまわりで小芝居する人たちも面白くて目が離せない。そしてやっぱり踊る暁さんはソリッドでかっこいい。
良い場面だなぁと思いました。さっきまであんなにド派手なお祭りだったのにこの落差がいいなぁ。

そんな暁さんの心も知らず礼さんと舞空さんは2人だけの世界。
このペアで踊るダンスが素晴らしくて隅々までうっとりしました。それまでとは打って変わって飾りのないシンプルな衣装と裸足。広い舞台の上を2人だけの息遣いで埋めていくような・・本当に魂が踊っているようでした。
「Ray」のカミソリデュエットダンスで度肝を抜かれて、凄いトップコンビが誕生したなぁと感動したことなども思い出されて、なんだか泣きそうになりました。

そこから小桜さんの歌からはじまり星組の仲間に囲まれた暁さんがセンターで歌い踊る場面でとうとう涙腺が決壊。なぜ涙が出るのかもわからないのだけど。不意に清らかなものに触れてしまったそんな感じでしょうか。
礼さん舞空さんも加わって、この公演で退団する4人がセンターで踊りそれを星組生が見守るように踊り・・。よくある場面かもしれませんが、けれどそこには普遍的に心を揺さぶるものが流れていました。それを探し当て新たに息を吹きかけるのも宝塚らしさなのではないかと思います。
歌詞、曲、ダンス、そしてパフォーマーのフィジカルと心と、すべてが相まってなんとも言えない空間ができていました。

皆の心が一つになり清々しく去った後、1人で銀橋で歌うのは極美さん。明日への固い決意を心に秘めた頼もしさが胸に響きました。
そして鮮やかなピンクのドレスを身に纏った娘役さんと礼さんのダンス場面。ここが大好きでした! ネオンカラーの照明が降り注ぐ中でお洒落で大人っぽい雰囲気で。すごく礼さんらしくて素敵な場面だなぁと思いました。

大階段の男役群舞のかっこいいことと言ったら。あの階段中央での手振りに心を掴まれ、礼さん中心ならではの抜け感に心がひょう〜〜と舞い上がり、続く暁さん中心のソリッドなダンスに見ているこちらの体温も上がりました。

『ことなこ』(礼さん舞空さん)最後のデュエットダンスはもう、これこそ「エモい」と言う言葉がピッタリの、こんな『ことなこ』を見てみたかったデュエットダンスでした。
いままでにないゆったりとした振り付けで優美に踊る2人。体のすべてを自在に使える2人だからこそのドリーミーなデュエットダンス。
そして銀橋で輝くティアラを舞空さんの頭に載せる礼さん、おとぎ話を絵画にしたような2人のシーンは見る人を夢見心地にする素敵な演出だなぁと思いました。

いったんカルナバルの最高潮で盛り上がった後で、等身大の青春(タカラジェンヌの等身大なので普通とは全然違いますが)を見せる流れが好きだったなぁと思います。その等身大の青春がキラキラしていてなんだか涙腺を刺激される感じがとてもエモーショナルで。
価値観の押し付けがない、奇を衒うのじゃなくて普遍的な素敵や感動を真面目に丁寧に積み上げてつくられた作品だったなぁと思います。それがいまの星組にぴったりで心に沁みるショーでした。
若さと清らかさと青春に乾杯。

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2024/09/11

夢を追いかけるよりも速く

9月4日と5日に宝塚大劇場にて星組公演「記憶にございません!」「Tiara Azul ーDestinoー」を見てきました。
この公演は星組トップ娘役舞空瞳さんの退団公演です。

「記憶にございません!」は三谷幸喜氏原作のコメディ映画を宝塚で舞台化した作品で、シチュエーションやキャラクターを楽しめる作品でした。
脚本演出には思うところもあるのですがそこを論うのは控えます。(私は石田作品でしばしば見られる1つの方面に擦り寄りおもねる一方でほかを蔑ろにする表現が苦手です)
ん?と思う要素に引っ張られずいい塩梅に演じていた礼真琴さんはじめ星組生の力に天晴れと思いました。

なかでも「これ、ほかの人が演じたらいたたまれなかったかも」と思ったのが山西あかね役の小桜ほのかさんです。
際どさと品の良さのギリギリ。チャーミングさも失わない。
嘘っぽいのに白々しくない、小桜さんならではのリアリティが光っていました。

鶴丸官房長官役の輝月ゆうまさんも凄いなと思いました。一癖も二癖もありそうな大物に見えながら政治哲学がない人物をいいかんじに演じていて、みんながこの人の何にひれ伏すのかが見えてくるのが面白かったです。
小野田治役のひろ香祐さんの怪演も凄かったです。石田先生、本当に演者に助けられているなと思いました。

ダークスーツに銀縁眼鏡の首相秘書官井坂役の暁千星さんは反則でした。鬼に金棒、男役に銀縁眼鏡。佇むだけで魂を抜かれそうでした。
フリーライター古郡役の極美慎さんは胡散臭さが立ち振る舞いから滲み出ていて、なるほど~と思わせる人物でした。
暁さん極美さんともに下級生時代から成長を期待していたお2人が作品の中でしっかりと役目を担っている姿は感慨ひとしおでした。

私が星組を見る動機の1つであった水乃ゆりさんが、ニュースキャスター近藤ボニータ役で卒業することも言葉にならない思いでした。
その優美なダンスや美しいドレス姿にうっとりさせられてきた水乃ゆりさんですが、これまであまり前面に出て滔々とセリフをしゃべる印象ではなかったので、脳裏に過去のいろんな役が浮かんできて涙ぐみそうになりました。さいごまでやりきって卒業してくださいと心から思います。
キャストが発表されたときに石田作品にありがちなセクシーコスプレ系の役だったらどうしようと内心心配していたのが杞憂に終わってよかったです。

主演の黒田啓介役の礼真琴さんは、コメディって運動神経だっけ?と思うくらい役が似合って笑わせてもらいました。運動神経と舞台センスに感服しました。
どの場面も間が素晴らしかったですが、なかでもレストランの場面が最高でした。息子役の稀惺かずとさんもなんともいえないタイミングが巧くて大好きな場面でした。

黒田首相夫人役の舞空瞳さん。夫との仲は冷え切っていて息子は反抗期、そのうえ夫の部下と不倫中⁈・・という星組のプリンセスの最後の役がこれ??ってかんじなのだけど、どんな役でもヒロインにしてしまう舞空さんは流石でした。(この顔芸はたしかにこれまでのキャリアのなせる技・・と思いました笑)
セーラー服で登場した時はさすがにギョッとしたのですが、それ以上にアレな方が登場したのですっかり飛んでしまいました。
井坂役の暁さんとのタンゴの場面(ICH KUSSE IHRE HAND , MADAME)はコミカルな振付ながら流石でやっぱり見入ってしまいました。
宝塚最後の公演で耐え忍ぶストレスフルな役ではなくて思いのままを口にして、問題はあれど愛されるべき人に求愛されて幸せそうなとびきりの笑顔で終われるのはよかったよねと思いました。

個人的にニュアンスが大好きだった鰐淵影虎お兄様役の碧海さりおさんとか、90年代にこういう議員秘書やニュースキャスターの女性いたよねと思う秘書官番場さん役の詩ちづるさん(案外将来都知事とかになっていたりして)など1人1人が個性的で、出演者が一丸となって作り上げた作品だなと思いました。

(ショーの感想は次で書きたいと思います)

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2024/09/01

儚さを抱きしめて

8月22日に東京宝塚劇場にて、宙組特別公演「 Le Grand Escalier」を見てきました。三井住友カード貸切公演でした。

航空性中耳炎から観劇

1公演だけの観劇なので飛行機で日帰りしたのですが、お盆前に罹患した新型コロナ感染症からの副鼻腔炎が治りきっていなかったせいか、機内で航空性中耳炎を起こしてしまい難聴状態での観劇となってしまいました。(新型コロナ感染症侮るなかれです💦)

症状としては世間の音がすべて遠く聞こえる感じだったので観劇に影響があるのではと心配だったのですが、劇場の音響の中で増幅された音は特に問題なく聞こえてほっとしました。(終演後に会った友人の声は記憶していた声と違って聞こえてあれ??となりました💦)

というわけなので私自身の聞こえのせいもあるかもしれませんが、前回(7/31と8/1)の観劇時よりも皆さん声がお疲れかも?と思いました。
瑠風さんが歌うのを聴くのは大劇場公演以来でしたが、「まことの愛」はとても慎重に歌われている印象でした。

芹香さんや春乃さんの歌も前回の観劇時よりも残響少なめに聞こえたのですが、やはりこれは私の聞こえの問題だったのでしょうか。それとも音響が変わったのか、はたまた座席位置のせいなのか。
考えても答えは出ないのですが、アコースティックぽいというか声の強弱など生っぽくてこれまでとちょっと違う響き方に聞こえて貴重なものが聴けた気がしました。

瑠風さんの復帰

今回の楽しみの一つは前回見られなかった瑠風さんを見ることでしたが、大劇場公演ぶりに見る瑠風さんが想像を超えて弾けていたのに驚きました。
「幸福を売る人」も「アイ・ラブ・レビュー」も大劇場とは全然ノリが違ってとても前のめりな印象、「マンハッタン不夜城」も軽快になってていいもの見たなぁと楽しかったです。
私の中で瑠風さんは真面目なイメージが強かったのですが今回で変わりました。これからもいろんな瑠風さんを見たいです。

春乃さくらさんに惹かれて

大劇場の舞台機構を使っての80分の特別公演ということもあって盛りだくさん、見どころ満載のショーでしたが、娘役さんたちの活躍がたくさん目に止まって見れば見るほど心躍りました。

トップ娘役が活躍する場面もいつにも増して多かった印象的ですが、春乃さくらさんの期待を裏切らないパフォーマンスとなにより舞台に幸せそうに立っているそのことにとても救われましたし幸せな気持ちになりました。
「HiGH&LOW」のKIDAで大好きになった娘役さんでしたが、この公演でさらにさらに大好きになりました。
どの場面の春乃さんにも惹かれましたが、公演を見るたびに好きになっていったのは「アイカランバ」です。
今回もセンターの扉からの登場で待ってました!と思いました。あの衣装の領布のようなものをひらひらさせるその動かし方が好きでリズムに乗る体の動かし方が好きで歌声、歌い方が好きで銀橋を渡るときの芹香さんとのコンタクトが好きで・・もう存在のすべてが好きでした。理屈を超えて。
なぜかこの場面の春乃さんを見ていると毎回遠野あすかさんを思い出したりもして。姿が似ているというのではないんですけど。

視線泥棒の鷹翔千空さん

ジャングルの蛇はもちろん、ずっと私の視線泥棒だった鷹翔千空さんの活躍も忘れることができません。瑠風さんの休演中はカーニバルの場面を出ずっぱりで盛り上げていたことも。
瑠風さんが復帰しての「アイ・ラブ・レビュー」は鷹翔さんのスウィング調の歌をまた聞くことができて、これこれこれを待っていたのよと思いました。
このクオリティの高いショーを支え、時に引っ張っていたのは間違いないと思います。

桜木みなとさんのクオリティ

桜木さんを芯にした場面のクオリティの高さも瞠目ものでした。終始レベルの高いパフォーマンスを見せていた桜木さんの存在があってこそのこのショーの満足度だと思います。
桜木さんセンターの作品(芝居もショーも)をこれからももっと見たいと切に切に思いました。

芹香斗亜さんと宙組

まだ芹香さんが新公を卒業するかしないかの頃のCSの対談番組で「怒るという感情がわからない」的なことを話していたことがいまでもずっと心に残っています。
個人の内面のことですのでその理由は分かりません。
ただ人前で演技をすることを生業にしている人にとってそれは大丈夫なの?と思い、それ以来なんだか気になるジェンヌさんでした。(私が見たのは初回放送から数年後かもしれません)
宙組に異動になった芹香さんは感情溢れる芝居をする人で、観客を楽しませることを自分も楽しんでいて、宙組の下級生を育てたいとも話すその姿に頼もしさも感じていました。
10代で入団して以来関わった様々な人の影響をうけて成長しいまの姿があるのだろうなと思いましたし、それをまた下級生に返すことで貢献していこうとしているのだろうなと、そんなふうに思いお披露目公演を楽しみにしていました。
今回の特別公演では、舞台の真ん中で力の限り歌い上げる姿、桜木さんとの絶妙なコンビネーション、それらをようやく見ることができたことに宝塚大劇場では言葉にならない感慨が溢れました。
そして東京公演ではそれを繰り返し見ることができる喜びを感じました。

あの頂へ

おなじ場所からおなじものを見ていたとしても人によって見えるものは違うのだと思います。
私が見て感じたものは私のもの。
90周年から100周年にかけて、100周年から110周年にかけて、1ファンとしても公演スケジュールがどんどんタイトになっていくのは感じていましたし、求められる技能がより高くなっていくのも感じていました。
それがどれほど劇団員やスタッフにストレスをかけていたか。
いま思えばそれは当たり前ではなかったのだと分かりますが、当時はタカラジェンヌってなんてすごい人たちなのだろうと称賛の気持ちで仰ぎ見ていたように思います。
それを知っているからこそ心の中が波立ちますが、その中でがんばってきた1人1人に心からの拍手を送ることでしか私は自分の言葉にし得ない気持ちを表すことができないと思いました。
いまここ(舞台)にいる人たちにも私がファンになって見てきたここにいない人たちにも送るつもりで精一杯の拍手をしてきました。
ここから高みを目指して頂を見つめる人たちへ。

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2024/08/19

どんなときも

7月31日と8月1日に東京宝塚劇場にて宙組特別公演「Le Grand Escalier -ル・グラン・エスカリエ-」を見てきました。

大劇場公演から1ヶ月

31日マチネと1日は念願の2階席で、大劇場公演を見て気になっていたところ(BLUE ILLUSIONなどなど)気づかなかったこと、を見られて感激しました。
31日のソワレはイープラスの貸切公演。生まれてはじめてのスマチケにドキドキしながら入場しました。

大劇場公演から1か月ほどの時間をおいての観劇だったのでだいぶ冷静に見られた気がします。やはり大劇場公演のときは情緒がおかしなことになっていたようです。
冷静に見てもクオリティの高い見応えある公演であることにはまちがいありませんでした。
そしてあらためて観劇して、いのちに関するナンバーがたくさん歌われていたのだなぁと思いました。だからこそ心にくるものがたくさんあったのだろうと思いました。
帰宅後身内のシリアスな問題に対応したり、まさかの新型コロナ感染症を発症したりでしんどいことが続いたのですが、そんなときに口ずさめる歌があることで私自身メンタルが救われました。

瑠風輝さんの休演

この数日前から瑠風輝さんが体調不良で休演と公式サイトで発表されており、私が観劇した両日も休演のままでした。
その瑠風さんが抜けた大きな穴を宙組の面々が総力を挙げて埋めていて、図らずも宙組のもつ強みを示す結果になったなと思いました。
「まことの愛」を堂々と歌い上げていた風色日向さん。
「パリはシャンパン」の洒脱なパリィ!の真白悠希さん。
山吹ひばりさん美星帆那さんと銀橋を渡りながら歌っていた雪輝れんやさん。
中詰めを含むカーニバルの1章まるごと、もともとの出番に加えて瑠風さんの出番もぶっとおしで歌い踊りまくっていた鷹翔千空さん。
「マンハッタン不夜城」でダンディだった瑠風さんとは打って変わって身のこなしのチャラいダウンタウンボーイが陽気で面白かった亜音有星さん。
鷹翔さんと風色さんのちょっと可愛くなった「アイ・ラブ・レビュー」。
などとくに印象に残っています。

代役のために本来の出番とは違うところに出演する慌ただしさや緊張感のようなものはもちろん感じましたが、大劇場公演と比べて舞台上のみなさんの表情が和らいでいるようにも感じられました。
大劇場では時折顔を覗かせていた悲壮感も薄らいで、シーンの情感そのものを感じられた気がします。
私自身もいろんなものを昇華することができた観劇体験になったと思います。

あらためて宙組への想い

近年の週刊誌によるいくつかのタカラジェンヌのネガティブ報道から有料記事であっても購読したい熱心なファンがいる界隈として認知され、よりセンセーショナルな内容をもとめて噂の発信源を探られて、裏どりのない憶測や一方的な視点で誹謗中傷する記事が書かれファン心理が煽られた日々。その報道禍に何人ものタカラジェンヌや関係者が傷つけられてきたと思います。
反論する術を持たないが故に一方的に発信する側の言い分のみが真実のように語られる。
その渦中にあってひたすら芸に精進してきた彼女たちを目の当たりにして私は愛し続けること以外のことはできないと痛感しました。
変わりゆく時代の流れの中で沈むことなく宝塚歌劇が存続できたのは経営手腕に長けた創始者の存在も大きいけれど、なにより愛好家たちファンダムの支えがあったからこそだと思います。
そのファンの理想や夢の具現として存在してきたタカラジェンヌ。いつの間にか時代との齟齬が生じていたのに看過していたのは私たちファンも同じ。見るべきものから目を逸らして利己的な望みを叶えてくれる存在であることをもとめてきたファンにも担うべき責任があったと思います。そのことを忘れないようにしたいと舞台にいのち輝かせる彼女たちを見ながら心に刻みました。

2日間の観劇を終えて帰宅した翌日、瑠風さん復帰のアナウンスがありました。
あと1公演のみですが観劇する機会がありますので、大劇場公演以来の瑠風さんと復帰した彼女を迎えた宙組をしっかりと堪能し目に焼き付けたいと思います。

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2024/07/29

どいつもこいつも

7月24日に博多座にて劇団☆新感線の「バサラオ」を見てきました。

脚本家が怖い 

久々に脚本家って怖いと思いました。
緻密につくりあげられた世界観、その中で自在に戯れる感覚を味わいました。
イメージを具現化する演出、役者の力量にも感服でした。
終演してもしばしこの世界に浸っていたい、そんな作品に出会いました。
とはいえ短期間でリピートするには気力体力がそうとう必要なボリューム(内容)だったので映像でリピートしたいなぁと思います。(出ますよね??)

裏切り寝返り。敵と思えば味方に味方と思えば敵に、戦途中でも入れ替わり、こんどはどっち??? 登場人物たち皆がおのれの義を貫くゆえなんだけども。
どいつもこいつもロックだなぁ。
あ、いまのいいな、と思った次にはとんでもなく外道なふるまいにうげぇ、のドライブ感。

ヒュウガ/生田斗真さん

冒頭で生田斗真さん演じるヒュウガが歌っていた「眩しさと傷みは似ている」が観劇中ずっとあたまに残っていて、それって憧れのロックスターを見ていた時の感覚とおなじだなぁと。
憧れたロックスターのイメージが物語を背負ったらこんな感じになるのかなぁと思いました。
それにしてもあれだけ美しいの顔がいいのと連呼され、そのことが理由となり動機となる役を納得させて物語を成立させる生田斗真さんの凄さときたら・・。美しいと自ら言い他人に言われて刹那も揺らがない気力がもう、尋常ではないと思いました。(これが背負っているひとの迫力なんだ・・)

カイリ/中村倫也さん

カイリを演じる中村倫也さんの芝居の巧さはこれまた凄いなぁと思いました。
とんでもなく複雑で面倒で難しい役を齟齬なくあのラストに持っていった力量に驚きでした。
誰よりもいちばんいろんな人物と絡んでいて、その時々に見せる顔に違和がなくて、次々に変わる状況とも矛盾がない。おかしいじゃんとか納得できないとかにすこしもならなかったこと。それが不思議。凄すぎ。
エグい人物しか出てこない作品でしたが、いちばんマトモそうな顔をしていちばんエグかったのがカイリだったんではないかと。
あれとかあれとかあれとか・・・。その人物がどう行動するか、結果どうなるかも読んで布石を敷いていたってことですよね。ひぇ~怖い。
それは村にいるときからはじまっていて、再会は必然ってこと? 《犬》として諸国を渡り歩いていたのだからヒュウガの動向も知らないわけがないですよね。ひぇ~怖い怖い。
(ヒュウガがエリザベートならカイリはトートで、ヒュウガがトート閣下ならカイリはルキーニ、みたいな・・。《グランデ・アモーレ》ですよね)

サキド/りょうさん、アキノ/西野七瀬さん、クスマ/村木よし子さん

3人の女性リーダーたち、女大名サキド(りょうさん)、朝廷の戦女アキノ(西野七瀬さん)、朝廷側の落武者集団の女傑クスマ(村木よし子さん)は三者三様の性格と矜持で自分の意思で戦う姿がよかったです。
女性だからと黙らせられたりしない世界観。男性たちのなかで女性性を一身に引き受ける『紅一点キャラ』じゃなくて本当によいなぁと思いました。

派手好みの女大名サキドはハンサムで凄味があって最高でした。美と粋を追求する意気地《サキド好み》がゆえにヒュウガを意識せずにいられないんだろうなぁ。
アキノはトンデモアブナイ戦女(いくさめ)。自分のこだわりを追い求め一般的な価値には無頓着(ゆえに孤立してるけどそれも無頓着)。権力者にはこのうえなく手駒にしやすいタイプ。サキド様がおのれの美意識から常ならぬ道を選択するのに対してナチュラルボーンの逸脱者。彼女をほうっておけないカコ様(中谷さとみさん)の気持ちわかる~と思いました。
クスマはいちばん義理人情に篤い人間的な「いいひと」。だからこそ葛藤するし良心に縛られる。そこがほかの登場人物たちとは一線を画しているんだなぁと。ほんと傍若無人に好き勝手やる人たちに囲まれて分が悪すぎるけどその選択もクスマらしいなぁと思いました。(ゴノミカドの皇子とともに倒幕のために戦う天皇の忠臣クスマってクスノキサシゲですよね? え、まってもしかしてサキドってキドウヨ? ではキタタカ時?? ・・といまになって気づく・・)

ゴノミカド/古田新太さん

古田新太さんのゴノミカドは後醍醐天皇がモデルなのはまちがいないと思うのだけど、古田さんのゴノミカドでこれまで私のなかで曖昧模糊としていた後醍醐天皇の解像度が上がったような気がします。
凡人にも親しみやすい物言いやふるまい(ヤカラ文化の人びとに響きそうな)とはうらはらの知略。ポピュリズムを利用する専制君主みたいなアンビバレンスを平然と内在させて、苦労人らしいあたまの切れがあるかと思えば頑迷なところもあり、もはや何ものにも共感不能なかんじ。愚帝と見せてじつは尋常ではない切れ者?かと思いきややっぱり・・?(器が大きいのかそうではいのか、そこも自由自在なのか)
この人物と渡り合うキャラクターを作り上げようとしたらそりゃあトンデモないひとたちになるわ・・と思いました。
主人公のヒュウガやカイリもかれに対抗できるトンデモなスケールがないと納得できないですもん。
一昨年「薔薇とサムライ2」を見たとき、古田さんは後進に禅譲されるのかなぁなんて思ったのですが、いやいやいや。誰にも替わることができない取り扱い注意な不敵のゴノミカド古田さんを見られて大満足でした。

キタタカ/粟根まことさん、タダノミヤ/インディ高橋さん

執権キタタカの粟根まことさんは冒頭で世界観、登場人物たちの関係性を見せてここからはじまる物語への導入を助けてくれてやっぱり凄い役者さんだなぁと思いました。彼が悪の敵役なのかと思っていたら、あ——れ——? 彼よりもよっぽど酷いひとたちがいっぱい出てくる?? 物語の水準点みたいな役?
インディ高橋さん演じるゴノミカドの皇子タダノミヤは笑っていいのか悲しんでいいのか戸惑ってしまう不思議な存在。きっとその時の自分の心次第で変わる、そんな気がしました。

ひとときの夢を見ました

酷い登場人物ばかりで嫌な気持ちになりそうなのに不思議とそうはなりませんでした。
たぶん何ものにも媚びていないキャラばかりだったからかなぁ。キタタカの家来たちも自分の意思で追従しへつらってはいてもいやらしく媚びてはいない。
それから春をひさぐ者も登場しないのも大きいなぁ。
性愛が絡まないとこんなに女性は自由。女性に媚びさせない、女性だからと見下さず憐れまず対峙する男性たちのカッコ良さを感じました。
おそらくこの作品が好きだったいちばんの理由はこういうところだったんだと思います。現実では味わえない心地よさをしばしの時間味わえたからかなぁと。
叶うならこの物語の登場人物たちのように思うがままに生きてみたい。
そんな夢のひとときを見たような気がします。

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2024/07/14

召しませ花を

宝塚大劇場にて、6月25日と30日千秋楽の宙組特別公演「Le Grand Escalier -ル・グラン・エスカリエ-」を見てきました。

命の輝きに心ふるえました。
どの曲もどの曲も口ずさめるものばかり。
次々に繰り出されるナンバーごとに、かつてのタカラジェンヌを通して見た夢がオーバーラップして、懐かしさとともにいま舞台に立っているタカラジェンヌたちも長い長い宝塚歌劇の歴史を背負ってここにいるのだなぁとしみじみと思うそんな時間を過ごしました。
この世界観を作り上げてくださったサイトー先生にありがとうございますと心から思いました。

モン・パリ~Le Grand Escalier~パリ・メドレー~花詩集

「Le Grand Escalier(大階段)」というショータイトルの通り、幕開きから大階段を使った息もつかせぬ勢いで繰り出されるパリ・メドレーは「パリ祭@大劇場」ともいうべき圧巻の華やかさでした。
明るい照明に映えるトリコロールカラーの青白赤の衣装を纏った宙組タカラジェンヌたちの輝きに感動しました。
歌い継ぐ1人1人が表舞台に立っていなかった間も鍛錬を怠らなかったことをうかがわせる出来栄えで素晴らしかったです。
名曲が活きる演出も心が浮き立ちました。
この作品唯一のオリジナル曲であるテーマソングの「Le Grand Escalier」も吉田優子先生らしい如何にもな宝塚レヴューの主題歌でほどよいノスタルジアと安心感に浸って耳と心を委ねることができました。

エスカイヤ・ガールス

圧巻のパリ・メドレーにつづいて湖々さくらさん愛未サラさん美星帆那さんの娘役トリオで銀橋を歌い踊る「エスカイヤ・ガールス」は、そのキラキラに思わず涙でした。80分のショーだからできたのかなと思いますが、いままでこういう若手娘役さんの場面ってなかったなぁと。でもずっとこんな場面が見たかったんだと、頑張っている娘役さんたちが輝く場面があるのはいいなぁと思いました。

まことの愛(ダルレークの恋)

瑠風輝さんが上手からせり上がり銀橋を渡りながらの「まことの愛」(ダルレークの恋)は、辺りを払うような歌声にドラマティックな物語の情景が浮かび引き込まれました。
本舞台で踊っていた娘役さんたちの中から1人サッシュ(勲章)を付けたロイヤルな「ダルレークの恋」のヒロインと思しき天彩峰里さんが瑠風さんに駆け寄り銀橋でいだきあう演出もドラマティックで惚れ惚れしました。
瑠風さんも天彩さんも一瞬で世界観をつくり出せて素晴らしいなぁと思いました。

夜霧のモンマルトル

桜木みなとさんが中心で歌う「夜霧のモンマルトル」では、このナンバーといえば!のトップハット&ケインの紳士がズラリ。いい眺めでした。
下級生が多いせいか動きが若いなという印象をうけましたが、舞台に立ってこそ得るものがきっとあると思うので、大劇場公演の11日間を経て東京公演では臈闌けた紳士に変身しているといいなと楽しみです。
その中でなんとなく身のこなしが好きだなと思う人がいて目で追っていたのですが、列の移動の時に追い切れず誰だったのか確かめられませんでした。
(たぶんその後列から外れて歌っていた人だと思うので真白悠希さんかなと思うのですが、千秋楽は席が下手すぎてわからず・・)
東京公演ではあれが誰だったのかも確かめつつ、ほかの人たちももっと見たいと思います。

夢人~BLUE ILLUSION~ENDLESS DREAM

Jungleの場面はザ・サイトーワールド!! どこを見たらいいのか誰もかれもが魅力的であたまが噴火しそうでした。

まず美しく妖しい鳥さんと思しき4人の娘役さんたち。
これは「BLUE・MOON・BLUE」でいうところの"うさぎちゃん”たちですよね? サイトー作品につきもののアイドル的娘役さんたち。
登場とともに目を惹く水音志保さん、山吹ひばりさんの美しさ、そして今回おぼえた渚ゆりさん、結沙かのんさん。
彼女たちをずっと見ていたいのですが、蛇に扮した鷹翔千空さんが怪しすぎて妖しすぎて・・娘役さんたちに横抱きにリフトされたときのポーズはどういうこと?? あの体勢でブレることなく手は妖しく動いていて・・これなにごと?? 娘役さんたちも見たいのにどうしても鷹翔さんを目で追わずにいられない・・どちらも見たいのにと葛藤しました。
銀橋で美しい娘役さんたちを従えた鷹翔さんの蛇が旅人の芹香斗亜さんに絡む場面は脳内からなにかが溢れ出しました。
「夢人」ってピュアファンタジーのイメージだったのですが、こんなに妖艶な世界で歌われて・・あたまが混乱し追いつきませんでした。

そして「夢人」からの「BLUE ILLUSION」の前奏でさらにあたまがBarrrrrn。
「BLUE・MOON・BLUE」は宝塚歌劇にはまったばかりの頃に映像で見て衝撃をうけた大好きな作品で、そのナンバーを生で体験できる興奮と、「夢人」のあとにこの曲がおなじシーンでつづく驚きで、自分を落ち着かせるのが大変でした。
独特の世界観の舞台セットに照明に、舞台上の妖獣のみなさん、妖花のみなさん、鳥さん、蛇さん・・に情報処理が追いつきません。(3回見たのですが未だ全容がわからず・・) (大きな火の鳥?不死鳥?ガルーダ?が上がっていきましたよね??)
妖鳥の春乃さくらさんの妖しいまなざしにズキュン。
苦邪組七姉妹の悪い春乃さくらさんが大好きだったのでこの春乃さんに射抜かれました。(いつもニコニコしているイメージなので振り幅にやられるのかな)
春乃さんにあたる赤い照明、蛇の鷹翔さんにあたる緑の照明、どうなっているの???
このシーンはスカイステージの舞台裏番組でぜひ映像を見ながら解説してほしいです。
妖獣の男役さんたちのロングヘア―も新鮮に感じました。
「BLUE ILLUSION」を歌う妖獣の嵐之真さんもこんなにちゃんと意識して見たことがなかったので新鮮でした。宙組も歌える方がたくさんいるんだなぁなどといまさらなことに関心しました。
とはいうものの、誰か1人だけをまじまじと見ている余裕もなく、妖しい蛇の鷹翔さんに、芹香さんを誘う春乃さんに、美しい鳥たちに、妖しい歌声を響かせる花たちに、激しく飛び回る妖獣たちにと次々に目移りして目が回っていました。(これぞイリュージョン?)(東京公演では2階席から見れたらいいなぁ)

「BLUE ILLUSION」からの旅人芹香さんが歌う「ENDLESS DREAM」は、こんなに贅沢なことがあっていいのかと。20年前の自分におしえてあげたい気持ち。これをいまの宙組で見ているんだ・・と「いま」とこの場面に思い焦がれていた「過去」が自分のなかで幾度も行き来して憧れ立つ心地でした。

フィエスタ アイ・アイ・アイ

と・・しみじみと浸っている間もなく、亜音有星さん大路りせさん泉堂成さんがキラキラのラテンの衣装で陽気に歌い踊って銀橋を通っていきました。
ここからは底抜けに明るいラテンのシーンに。(展開が早いのもこの公演の特徴かな)

カルナバル・デ・リオ!!~ソル・エ・マル~シナーマン

「カルナバル・デ・リオ!!」(RIO DE VRAVO!!)で風色日向さんと山吹ひばりさんが、「ソル・エ・マル」(ノバ・ボサ・ノバ)で天彩峰里さん松風輝さん秋奈るいさんが銀橋を渡った後は、舞台センターから芹香さんが登場して「シナーマン」を熱唱。
楽曲1曲で長い尺をたっぷりもたせて観客の視線を一身に浴びる、「PAGAD/Sky Fantasy!」を見ることが叶わなかった私は、これぞトップスターな芹香さんの姿に感無量。芹香さんが歌い切った後は「ノバ・ボサ・ノバ」らしく全員で飛び跳ねて盛り上がって終わるのだろうと身構え?ていたら、曲調が変わって「黒きバラ」(花詩集)に。
ええ~~~なぜに~~?と思いながらも真名瀬みらさんの歌声に惹き込まれ・・これはこういうショーなんだなと。(ようやくわかってきました)

幸福を売る人~パッショネイト!~CONGA!!~Aye Carammba~サザンクロス・レビュー

「幸福を売る人」(華麗なる千拍子)を瑠風さんが軽やかに歌い銀橋を渡ると次は春乃さくらさんの「パッショネイト!」(パッショネイト宝塚!)でした。
春乃さんの全力「パッショネーイ!!!」には思わず頬が緩んでしまい、2回め3回めの観劇では来るぞ来るぞとこのシーンを待ちわびていました。あっという間の場面なんですけど笑。
そこからの桜木さんセンターの「CONGA!!」が最高。そこに芹香さん春乃さんが加わっての宙組ほぼ全員による「Aye Carammba」はまさに「祭り」のフィナーレのような熱い盛り上がりで、その熱い旋風に客席の私も巻き込まれたかのような陶酔の中詰めでした。
見ている私の息も上がりきって息切れしそうなところで「サザンクロス・レビュー」鷹翔さんと若手男役さんたちが中心だったと思います。
もちろんアップテンポでノリの良いラテンナンバーなのはまちがいないのだけど、あれ?この曲ってこんなにせつなかったっけ?と思いました。「サザンクロス・レビュー」では哀愁のナンバーといえば言わずと知れた「星の海」で「サザンクロス・レビュー」はノリノリのラテンナンバーという認識だったのですが。あれ?なんでこんなに沁みるんだろうと。明るいラテンナンバーなのに「CONGA!!」や「Aye Carammba」とはちがうどこか刹那的な・・「祭り」はいつか終わることを知る者の哀切とでも言ったらいいのか。これが草野ワールドなのかなぁ?
ラテンナンバーと言ってもこれだけ立て続けに聴くとそれぞれにちがうなぁ。派手派手でノリノリなだけじゃないんだなぁとこれまで思いもしないことを感じました。

ラ・ヴィオレテラ

あんなに上がっていた息はいつの間にか落ち着き、耳には春乃さんが歌う「ラ・ヴィオレテラ」(ラ・ベルたからづか)。
『召しませ花をすみれ花』—— 『よろこびの花いつか咲きましょうあなたの胸に』
もう言葉にならないもので胸がいっぱいでした。なにかが溶けていくよう。表現するってこういうこと?春乃さんと娘役さんたちの声に癒されました。
(ラテンの場面にいなかった娘役さんたち、ここに出ていたのね——とプログラムを見て気づきました)

エル・アモール

つづくのは哀愁をまとった風色日向さんの「エル・アモール」(哀しみのコルドバ)。
そういえば初見のときはこの「エル・アモール」の場面まで風色さんに気づいていなかったんですよね。なんかときどき知らない番手スターさんがいるなぁと(そんなわけない)。「エル・アモール」で風色さんじゃんって。
あまりに堂々とスター然としている人がいて知っている風色さんの印象と結びつけることができなかったといいますか・・私が知っている風色さんじゃない風色さんがいました。
この数か月間で最も成長を遂げた人かもしれません。

グラナダ~コルドバの光と影

「グラナダ」の前奏はやった!と思いました。若翔りつさんの歌もとてもよかったです。
踊るピカドールたちの背後にある紗幕からマタドール姿の桜木さんが登場したときはひゃほーーー!!と思いました。
ムレータと剣を操る桜木さん最高にかっこよかったです。
1人で歌う「コルドバの光と影」(哀しみのコルドバ)も惹き込まれて見て聴いていました。
闘牛自体はその残酷さに嫌悪感があるので複雑ではあったのですが、あまり残酷には描かれていなかったかなと思います。トロ(牡牛)役の鳳城のあんさんがビスチェ風の女性的な衣装だったのであれ?牝牛じゃないよね?とそれに気を取られたのもあるのかな。桜木さんのフォームの美しさに釘付けだったからかな。
(スペイン的場面はカッコ良くて大好きなんですが、必ず闘牛がセットになるので極力残酷にならない演出を希望です)

WELCOME TO MANHATTAN~ゴールデン・デイズ

「WELCOME TO MANHATTAN」(マンハッタン不夜城)もわぁこのナンバーが聴けるのかぁと気分が跳ねあがりました。
「BLUE・MOON・BLUE」もですが大和悠河さんが大好きだったので生で見ていない下級生時代の作品のナンバーを聴けるのは感無量でした。とくに「マンハッタン不夜城」は解像度が低い時代のスカイステージでしか見たことがなかったのでひとしおです。
芹香さんがとってもラフでカジュアルな服装で登場したのに驚きました。ダウンタウンボーイの設定なんですね。
春乃さんの赤ずきんちゃんみたいな魔法使いがキュートで、舞台上で大勢でわちゃわちゃとても楽しい場面でした。
そこからの「ゴールデン・デイズ」は感動でした。こんなに一言一言歌詞を噛み締めて聴いたことはなかったかも。

ザ・レビュー

「ゴールデン・デイズ」の盛り上がりに区切りがつくと下手から亜音有星さん大路りせさん山吹ひばりさんが登場。イントロは「ザ・レビュー」です。
この曲を聴くと「Amour de 99!!」が思い出され当時の宙組の情景が思い浮かびました。あの頃、そして今、綿々とつづく宝塚歌劇がここにあるのだなぁと朗らかに歌いながら銀橋を渡る3人の未来を思って心の中でエールを送っていました。

アイ・ラブ・レビュー~TAKARAZUKA FOREVER

続いて瑠風さんと鷹翔さんによる「アイ・ラブ・レビュー」(ザ・レビュー)。瑠風さんがクラシカルに歌い鷹翔さんが跳ねるようなリズムで歌う。同じ曲でも味が違って面白いなぁと思いました。表現力のある2人だからこそだなぁと。
銀橋から瑠風さん鷹翔さんの紹介ポーズを受けてはじまるラインダンスは「TAKARAZUKA FOREVER」(ザ・レビューⅡ)。いつになく1人1人の顔がよく見えるラインダンスだなぁと思ったのですが、私がいつもより見ていたのかなぁ。命がキラキラ輝くこの素晴らしい光景をいつまでも見ていられますようにと願いながら見ていて目が離せなかったのかもと思います。

愛の旅立ち~セ・マニフィーク~未来へ~世界に求む

「愛の旅立ち」(ザ・レビューⅢ)は目も耳も心もすべてを芹香さんに集中。ひとつひとつの言葉を表情を心の奥深くに染み込ませました。
しみじみとした場面から一転しての桜木みなとさんセンターの男役群舞「セ・マニフィーク」は圧巻でした。
この安定感。桜木さんもセンターで大人数を率いるに相応しい男役さんだなぁと思いました(宙組は実力者大渋滞だなぁ)。千秋楽の前髪とってもカッコ良くて釘付けでした。全員白の替わり燕尾服も目に眩しかったです。
つづく春乃さくらさんセンターの娘役場面も素敵でした。心にそよぐ涼風のよう。「夢を売る妖精」(夢を売る妖精たち)の春乃さんの澄んだ歌声が心のなにかを溶かすようで涙がでました。
春乃さんと歴代の宙組のトップ娘役たちの頼もしさがオーバーラップしてさらに涙腺が緩みました。
そこからの「未来へ」(エクスカリバー)のイントロで私の情緒はえらいことに。芹香さんを囲む宙組生の顔、顔、、、いまここにあるものすべてが。
そして「世界に求む」(王家に捧ぐ歌)のデュエットダンスでもう胸がいっぱいでした。
このときのカゲソロ、プログラムを確認したのですが志凪咲杜さん?108期??まったくのノーマークでした。オーディションで勝ち取ったのかなぁ。これから注目したいと思います。これからも宙組の下級生に活躍の場が与えられますように。

シトラスの風~宝塚メドレー

パレードのはじまりは、愛未サラさんエトワールの「シトラスの風」の主題歌から、階段降りは宝塚の名曲メドレーでした。
宙組の皆さんに精いっぱいの拍手を送りました。
千秋楽では組長の松風さん芹香さんの挨拶に拍手が鳴りやまず、芹香さんが長い長いおじきをされていたのが印象的でした。
花道ちかくの席だったのですが、カーテンコールのたびに居並ぶ下級生の笑顔にしあわせをもらえました。
どうぞこの宙組の皆さんが一歩ずつ前に進んでいけますようにと心から願いました。

観劇を終えて

観劇直後は胸がいっぱいで、この胸に溢れるものが何なのか、自分でもよくわからず文章にもできませんでした。
時間をおいてようやくここまで書くことができました。
いまいちばん思うのは、彼らは素晴らしい表現者である。ということです。

彼女たちに対していろんな人がそれぞれの立場からいろんなことを言われていますが、私には舞台から見えるものしかわかりません。
私はこの公演のパレードから見える宙組生の人員の少なさに心が痛みました。
この人数で大劇場公演を成功させるため1人1人に課せられた役目はどれだけ重いだろうと。
この1~2年はとくに上級生には単純に通常の倍とかそんな負荷がかかっていたのではないかと。常に余裕のない中で自分の役目を果たしながら人に指示をする指示されることがなにをもたらすものか想像すると胸が痛いです。
それを物理的に是正できなかった劇団の責任はもちろん感じますが、やらなくてはならないことは何がなんでもやらなくてはいけないと、物理的に無理なことでも心厳しく臨むべきだと教えてきた先達たちにも、同時にそれを是として過剰に求めたファンにも責任はあると思えてなりません。
また、自分が好ましくないと思うタカラジェンヌに対して憶測に憶測を重ねて不特定多数の人の目に触れる場所で誹謗しそれに同調するような向きがあるのをいまにおよんでも感じます。そんなファンのあり方がどれだけ彼女たちを追い詰めているかと思うとたまらなくなります。
彼女たちが無用に追い詰められストレスフルな状況下におかれることがないように。
これまでのトークやインタビューなどから窺い知れる彼女たちの芸の精進のために自分を律する強さが、どうか健やかな環境の下で発せられますように。どうかどうか健やかな心で精進できる環境でありますようにと心から願います。

この公演を観劇して、命はこんなにも眩しく輝くものなのだと感じました。
命がこんなにも輝くものだからこそ、それを手放すしかなかった人のことを忘れてはいけないのだと心から思います。

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2024/06/16

倒せドラゴン

6月5日と6日に東急シアターオーブにて宝塚歌劇星組公演「BIG FISH」を見てきました。

東京のみの上演だったので観劇は難しいかなと思っていたのですが、おなじ原作の映画が好きだったのと、それを礼真琴さん主演で上演するのならやはり見てみたいと、思い切って上京することにしました。

礼真琴さんと星組メンバーのパフォーマンスに圧倒される

いやはや礼さんが凄いのは知っていましたが、ここまで凄いとは! 何を歌っても踊っても見ていて聴いていて心地よかったです。
いつもわくわくする未知の世界に連れて行ってくれる礼さん、その礼さんが演じるエドワード・ブルームの語る物語にどんどん引き込まれました。
彼の語りにわくわくするかウソっぽく感じて鼻白むかで見ているほうの気持ちはぜんぜん違うんじゃないかなと思います。

礼さん以外の出演者も歌も芝居も達者な人揃いで終始感嘆しながら見ることができました。
パフォーマンスに関してストレスなく見ることができたぶん物語そのものに没入することができたのですが、それゆえに心がざわつく箇所がいくつかありました。

映画よりもかなり保守的な脚本

原作となる小説は読んだことがないのですが、おなじ原作の映画に比べるとかなり保守的になっている印象を受けました。それは現代パートの女性の描かれ方と父の息子の関係性に濃く表れていたと思います。(映画よりもミュージカルのほうが10年も後に制作されているのに・・です)

小桜ほのかさん演じるサンドラが私はしんどかったです。
エドワードの自分語りに登場する若き日のサンドラ(詩ちづるさん)以上に夢物語のようなサンドラで。

映画を見ていて、カールが実際は5mではなくて2mの大男だったように、サンドラもエドワードが語る夢のような南部の美少女が、いまは現代を生きるリアルな妻であり母であることで私はホッとするところがあったのです。
小桜さんのサンドラは「カールが実際に5m、いやそれ以上の大男だった」くらいの夢夢しさでした。

1人の女性として現実を生きて、夫エドワードの言動に困ったり息子ウィルとのあいだで板挟みになりながらもエドワードを愛していることに揺るぎのない彼女の強さと人生の深みが滲むリアリティのあるサンドラとして「屋根はいらない」という比喩を聴きたかった。
小桜さんは実力のある娘役さんで、可愛らしい少女から「RRR」の悪辣な総督夫人までも見事に演じることができる方なので、きっと演出の意図通りに演じているのだと思います。
澄んだ美しい歌声で「私の中の2人」「屋根はいらない」を熱唱するサンドラはいまだに夢の中に閉ざされているように感じられて心がざわざわしました。(現実的な生活力は放棄して愛という依存で束縛する人だなぁと。『彼女には自分がいなければ』と思えるパートナーはそれがいいのだろうけど息子は・・)

星咲希さん演じるウィル(極美慎さん)の妻ジョセフィーンも見ていてだんだんしんどさを感じました。
世界を飛び回るTVジャーナリストの彼女がこんなマタニティドレスを選ぶのかな?とか、知的で相手をリスペクトし公正な感覚で夫やその家族に細やかな気遣いで接している彼女に対して誰もギブしていなくて、このままアラバマのこの家族の価値観に合わせていって大丈夫なのかなと。

身重なのに夫ウィルに対してひたすらギバーでいることもしんどかったです。妻というよりは母親のようでした。
ウィルには知的で彼の心を紐解く母親と夢々しいまま年を重ねた守ってやらなければならない母親の2人の母親がいるみたいでした。
自分のことで頭がいっぱいなウィルがジョセフィーンの優しさや有効なアドバイスを当たり前のように受け取ってその割に素っ気ないのも・・。もっと彼女のことをリスペクトしたらいいのにと思いました。

ジョセフィーンにしてもサンドラにしても現代パートの女性としてのリアリティに欠けるのは演じている彼女たちが宝塚の娘役ゆえというのもあるのかもしれません。
彼女たち宝塚の娘役が旧態依然の女性観を体現することから解放されないと、私は宝塚を見ること自体がしんどくなるだろうなと思いました。

父と息子

さらに物語全体に流れる「父と息子」の関係をことさらに特別視する雰囲気もしんどかったです。

「オフィスに閉じこもって仕事/俺にはとても無理さ/じっとしているのは死んでいるのと同じ」「芝刈りや料理や洗濯は向いてない俺じゃない」と、セールスの仕事で数週間家に帰らないエドワードが幼いウィルに向かって、自分が留守のあいだはお前が大黒柱として家と母親を守れと言うのもしんどかったです。自分はやりたいように生きて家に残す息子には呪いを掛けるんだと。
おそらく朝鮮戦争に召集されているのでエドワードは1930年代の生まれかなと思います。ジェンダー意識が強いのはこの世代の人なら普通かもしれませんが、2024年のいま舞台であえてこのセリフを使う必要があるのかな?と疑問でした。
なによりウィルが拗らせているのはこの父親のせいでしょう。

そんなウィルが、妻の妊婦健診につきあい超音波検査でお腹の子が「息子」であると知ったときの流れも胸がざわざわしました。
息子ってそんなに特別なんだ。
「父親と息子」の関係の構築はウィルにとって雲をつかむようなでも焦がれてやまない命題なんだろうなぁ。
満たされなかった子どもの自分を息子を介して満たしていこうとしているみたいだなと思いました。

ウィルの気持ちはとてもわかる気がしました。
エドワードは1対1ならとても面白くて素敵な父親だったけれど、成長して客観的な視点を持つと疑問も湧くし、世間を気にする視点を持つようになれば父親のことを恥ずかしく感じることもわかります。
でも根本は父親のことを好きだからこそ、そう思う自分が父親に対して申し訳なくなるジレンマもあるでしょう。つらいなと。

ウィルは賢い子どもだったし、優秀なまま大人になりいまは報道関係の職に就き世界中を回りニューヨークに住んでいる。
妻のジョセフィーンもおなじ業界の人で、結婚式の招待客も彼が交友関係をもった大学や業界の人びとなんだろうと思います。知的でリベラル寄りの。
そんな彼らに父親がどう思われるか・・? アラバマの片田舎でセールスマンをしながら家族を養ってきた父。いつもの荒唐無稽な自慢話さえしなければ彼には誇れる父親のはずです。
だからどうか自分の晴れ舞台である結婚式の場では黙っていてと願い、約束を取り付けたのに反故にされてしまった。
彼にとってはいちばんデリケートな話題を衆人の前で自分主体の話としてしまう父親に心底うんざりしてしまったよねと思いました。どうでもいい人ではない、本当は尊敬したい相手だからこそとても複雑なんだよねと。

映画だと老いて自分のホラ話の粗をさらに見え見えのホラ話で取り繕うみっともなく哀れにすら見える父親が、実は本当にビッグな人だったんだと認めることができた、そういう息子の心の救済の話だったんだ思うんですが、礼さんのエドワードは老いてもちっともみっともなくも哀れでもなく、むしろ素敵なので見る側が補正してしまって、少々ウィルに分が悪いなと感じました。

女の子もドラゴンと戦っていい

エドワードの語りパートの演出や各々の演者のパフォーマンスも面白くて楽しくて、殊に可愛い可愛い「アラバマの子羊」と「時が止まった」の流れが大好きでした。
憎々しいドン・プライス(蒼舞咲歩さん)や狼男のサーカス団長(碧海さりおさん)や大男カール(大希颯さん)、子ども時代のウィル(茉莉那ふみさん)などなど皆個性的でキャラが立ってて愛おしかったです。
弔問に現実の彼らが訪れるところはなんとも言えない気持ちになりました。
音楽はどれも素敵で時間が経っても口ずさんでしまうものばかり。
たのしいたのしいだけではないのが、きっとこの作品の魅力なのかなと思います。
深い作品だからこそ、いろんな見方で心に刻んでいていいよねと。

♪倒せドラゴン~城を攻めて~と反芻しつつ、女の子だってドラゴンと戦っていいんだぞ、戦わなくてもいいけど、と思いながら帰路に就きました。

CAST

エドワード・ブルーム/礼 真琴 どのナンバーも最高でした。礼さんの歌声で聴けて幸せでした。
ジェニー・ヒル/白妙 なつ 終盤からの出番ですが、その説得力たるや。さすがでした。
ベネット/ひろ香 祐 ブルーム家の家庭医でエドワードの友人。なんども聞いているエドワードの自慢話を面白がって笑ってくれる良い人でした。
サンドラ・ブルーム/小桜 ほのか 澄んだ美しい歌声に聞き惚れました。エドワードの声色をまねるところも巧いなぁと思いました。
ドン・プライス/蒼舞 咲歩 登場するたびに笑ってしまう間の良さ、コミカルで憎めない憎まれ役でした。
人魚/希沙 薫 優雅な手の動きに登場のたびに思わず見入ってしまいました。
ウィル・ブルーム/極美 慎 父への複雑な感情がよくわかりました。愛しているからこそわかりたいし理解してほしいんだなぁと。
エーモス・キャロウェイ/碧海 さりお 怪しくて胡散臭くて狼男になると愛おしくて大好きなキャラクターでした。
ザッキー・プライス/夕陽 真輝 お兄さんのドンの引っ付き虫で、いつも兄に倣って罵倒にもならない罵倒「魔女好き男めー」で去っていくのに笑いました。
魔女/都 優奈 凄く圧のある魔女でした。「RRR」に続いて歌声が聴けて嬉しかったです。
ジョセフィーン/星咲 希 こんなにセリフが多い役をされているのをはじめて見たかもしれないのですが、お芝居がとても巧い方でした。
ジェニー(若かりし頃)/鳳花 るりな 映画とはちがうところで登場するので、さいしょはあのジェニーとは気づいていませんでした。2度目に登場した時にあああー!となりました。歌もお上手だし、いろんな場面でアンサンブルで踊っているのも目にとまりました。
サンドラ(若かりし頃)/詩 ちづる 「アラバマの子羊」可愛かったー。ヤング・ウィルとエドワードを窘める場面もツボでした。
カール/大希 颯 エドワードと2人で旅に出るときのナンバーが好きでした。あの高さで姿勢で歌えるの凄いなぁと思いました。

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2024/06/09

未来がこわい

5月25日に博多座にてミュージカル「クロスロード」を見てきました。

やまみちゆかさんのパガニーニの漫画を面白く読んでいたので、パガニーニがどのように描かれているのだろうと興味津々で観劇しました。

まず思ったのは「ツインリードヴォーカルみたいだなぁ」ということです。中川晃教さんのアムドゥスキアスと相葉裕樹さん(Wキャスト)のパガニーニによる歌のバトルが繰り広げられている印象でした。
お2人以外も歌唱力に定評のある方々がキャスティングされていて、それぞれに難しい楽曲に立ち向かっている印象。
音楽に聞き惚れるというよりはスポーツ観戦のようなハラハラドキドキ感。歌い切ったパフォーマーに「よっしゃ!」と言いたくなる感覚でした。
いますこし楽曲に華やかさがあるともっと楽しめるのになぁと思いました。

才能があるゆえに自分の不出来がわかるのは辛いだろうなぁ。それをわかってもらえず期待される辛さも。パガニーニが闇落ちしてしまうのはわかる気がしました。
芸術に身を捧げて限りない高みを目指すのはある意味で悪魔と契約するようなものかなぁ。
ほかには誰もたどり着けない場所に1人で居るのは孤独だろうなぁなどと思って見ていました。

契約関係を結んだアムドゥスキアスとパガニーニはその後芸術的な問題で相反し、芸術とは音楽とは創造とはということがテーマになるのかな?と思っていたのですが、アムドゥスキアスとの契約は既定の演奏回数に達したらパガニーニの魂を自分のものにする、演奏は私(アムドゥスキアス)のためにだけに演奏する、ということで、なんか悪魔せこくない?と感じてしまいました。いやいやそもそも悪魔ってそういうものなのかな。
アーシャ(有沙瞳さん)の練習のために弾くのはカウントされるのに、母親が歌っていた子守歌を舞台で演奏するのはカウントされないというロジックもよくわからんなーと思いました。論理的に抜けがあるからこそ悪魔なのかな。
中川晃教さんはノリノリで楽しそうだなぁと思いました。

音楽的には凄いなと思いつつ、戯作としては期待ほどの面白味はなかったかなぁ。
とくにモヤったのはパガニーニと母親テレーザ(春野寿美礼さん)の関係性の描かれ方です。悪魔と対比させる母親という属性だけで存在していて生身の人間ではないなぁ。
テレーザの子どもはニコロ(パガニーニ)1人ではないし、子どもらを食べさせ育てなくてはいけないという現実のためには打算も必要だっただろうと思うのだけど、そういうことは見ようとしないし描かないんだなぁと思いました。
パガニーニのコンサートを後方の安価な席で見ているテレーザが隣に座ったアムドゥスキアスにわが子ニコロへの母の愛情を示す場面にはうるうるしましたが、そこに至るまでのテレーザの描かれ方がモヤりました。
娘であればこういう見方はしないだろうなと。これは息子にとって都合の良い物語だなぁと思いました。

パガニーニのパトロンであるイタリアの女大公であるエリザ(元榮菜摘さん)もまた都合良く描かれた登場人物だなぁと思いました。
ナポレオン・ボナパルトの妹である彼女に取り入ろうとする人びとに囲まれ傲慢に振る舞うこと、パガニーニの才能を気に入って独断で宮廷楽長に任命したり彼を兄ナポレオンに会わせようとすること。
決して望んだわけではない途方もない権力と立場を得たことと、それと引き換えに失ったものを惜しみ苛立つ心境はとてもわかるなぁと思いました。
パガニーニとの無責任でわがままな人間同士の男女の関係も、なににつけても「ナポレオン・ボナパルトの妹」であることに心の奥底で傷ついていることも伝わる人物でした。
良識を逸脱して人から陰口を叩かれる行動は一種の自傷行為だなぁと。
しかし、こんな闇深い内面を有した女性を登場させながら、「愛するがゆえに」彼に黙って自ら身を退く人物として描かれていたのががっかりでした。
いえ彼女の気持ちは痛いほどわかりました。がっかりだったのはそのことに気づいているのはアーシャだけで、パガニーニにはすこしも響いていないこと。
彼女から与えられるものはしっかり享受していながら、彼女の存在が不都合になったら、彼自身は与り知らぬかたちで彼女自ら退場しパガニーニは無傷のままなこと。
これってけっきょく母親テレーザのときと同じだなと思います。
彼女はパガニーニが都合よく放埓な性愛関係をもつために登場させた人物で、パガニーニと作劇にとって無用になったら退場させる、それでいいと思っている脚本にがっかりでした。

アーシャについてもおなじです。
気ままな猫を気ままに可愛がるように愛玩動物としての存在だなぁと。
すこし優しく接するとオーバーアクションで喜びを表現し、邪険に扱ってもなお彼だけを追いかけてくる存在。
彼が社会的に無責任で自堕落な行動をとってもそこを責めないし(女性関係にも口出ししない)、自己問答代わりの対話相手にもなってくれ、窮地を脱するヒントもくれる。そういうところはイマジナリーコンパニオンに近いともいえるかな。
面倒なことは求めず、彼が得意なことについての教えを請い、無条件に励まし彼自身を肯定してくれるとても都合の良い存在。
アーシャ自身のためではなくパガニーニのために存在する、それがアーシャでした。

パガニーニ自身はそんな都合の良い人びとたちに囲まれてケアされながらその誰とも向き合っていない。
彼女たちの人生なんてどうでもよい。
女性たちだけではなく、執事のアルマンド(山寺宏一さん、Wキャスト)ともそんな関係だったと思います。
これはパガニーニの姿に仮託したテイカーを描いた物語だったのかなとモヤモヤが残る観劇でした。

CAST

中川晃教 アムドゥスキアス
相葉裕樹 ニコロ・パガニーニ(Wキャスト)
有沙 瞳 アーシャ(Wキャスト)
元榮菜摘 エリザ・ボナパルト
坂元健児 コスタ/ベルリオーズ
山寺宏一 アルマンド(Wキャスト)
春乃寿美礼 テレーザ

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2024/05/13

ここにあなたはいます

4月27日に久留米シティプラザ ザ・グランドホールにてブロードウェイミュージカル「カム フロム アウェイ」を見てきました。

すごくアメリカ人好みな脚本だなということと、チケット代はほぼキャスト代だなというのが見終わった直後の率直な感想でした。
アイリッシュな音楽が心地よかったです。

別の9.11の物語

作品の舞台はカナダの大西洋側にあるニューファンドランド島の小さな町ガンダー。そこに見知らぬ人びとが大勢押し寄せることになる。
そこからはじまる物語でした。

その理由というのがあの「9.11」アメリカ同時多発テロ事件。
かつてない非常事態にアメリカ領空が閉鎖され、ヨーロッパ方面からアメリカに向かう航空機はこの島にあるガンダー国際空港に緊急着陸を命ぜられたのだそう。その数39機、乗員乗客総勢約7,000名。これは島民の人口とほぼおなじとのこと。

ガンダー国際空港は、いまみたいに航空機が無給油で長距離飛行できなかった時代に給油拠点として整備拡張された空港で、昔はたくさんの航空機が経由していたけれど、いまはその役目を終えた空港だそう。
そんな状況説明が冒頭で住民たちによって早口でされていました。
(客席で見ている私はそれを聞き取り理解するのに必死でした)

はじめは小さな田舎の町のコミュニティから。
これはいつもの顔ぶれなんだな。いつもの朝いつもの出勤いつものパブ。バスのストライキも。
いつものようにはじまり、いつものように1日が終わるはずだったんだな。
そんな1日がはじまったばかりという頃、まさに青天の霹靂のように島の人口とおなじ数の見知らぬ人びとを受け容れなくてはいけなくなった住民たち。
寝る処は?食事は?着替えは?ほかに困り事は? 短時間で現状を把握し、たくさんの決断をする。脳みそもフル回転カラダもフル回転。まさに非常事態にアドレナリンが放出されまくってるかんじ。
(主に島民ビューラ役の柚希礼音さんが笑)

さまざまな理由でアメリカ本土を目指して飛行機に乗っていた国籍もさまざまな乗客乗員たち。
さいしょはどうしてこの小さな町に緊急着陸しなくてはいけないかも知らされていなくて。
ようやくTVニュースであの映像を見た衝撃。世界はどうなってしまうのか。家族や知人は無事なのか。なにをするすべもなく自分はいつまでここに滞在しなくてはいけないのか。
わからないことだらけ知りたいことだらけで寝食そっちのけで用意された公衆電話に長い列を作る人びと。
スマホはなくSNSもない時代、海外との連絡方法は国際電話かPCによるメール、BBS、チャットだったと記憶しています。

そんな5日間を描いた舞台でした。

驚嘆の舞台展開とキャスト陣

舞台上の役者たちは1人で何役も演じるけれど、上着や被り物を変えるだけで衣装替えはなし。
セットは木々らしきものと椅子とテーブルくらい。
それを役者たちが演じながら動かして、パブに見立てたり飛行機の客席に見立てたり、秒単位で転換していく。
さまざまなきっかけで飛行機の客席になったりバスの中になったりパブになったり臨時宿泊所の学校になったり。
演じる人たちも大変だなと思うけれど、見ているほうも目まぐるしい。
セリフの内容と発声でいまこの役者は誰を演じているのか判断する。
技術と運動能力が高くてよほど訓練された人たちでなくてはできない舞台だなと思いました。
とにかく演者が皆凄い!と思わずにいられない作品で。そこを評価できるかどうかかなというのが見終わってすぐの印象でした。

ちいさな棘たち

見終わった時は「よかったね」「凄かったね」という感想しか浮かばなかったのですが、あとになってだんだんと「ああ!」という気づきがある作品でした。
見ている時に自分が感じた棘のようなもの(その時点では何かわからなかったもの)の正体や理由があとになってわかってきたように思います。

親切で行動的でタフな島民たちがこの緊急事態にとった行動はとても素晴らしいと思う一方で、私は善良なキリスト教徒的な同調圧力に息が詰まりそうでした。
時に善意の人びとほど恐ろしいものはない、そう感じたことがある人は、ここではひっそりと息を潜めて生きていくしかないのではとか。そんなことを思いながら見ていました。
感じないようにしていた喉の奥の小さな棘の違和感を思い出させられたようで。
乗客の中に見かけたラビ(吉原光夫さん)に小さい頃に島に来て以来一切伏せていた出自を語ったあのジューイッシュの人(橋本さとしさん)が、短い場面だったのに強く心に残っていました。

言葉がわからずパニックになるアフリカ系の乗客(加藤和樹さん、森公美子さん)とは、お互いが持っている異言語の聖書の一説を指さすことで心が通じる一方で、ムスリムのアリ(田代万里生さん)に向けられるまなざしがどんどん敵意と憎悪を孕んでいくのも怖かったです。
彼が国際的ホテルのマスターシェフだとわかって皆の態度があっさり溶解するのだけど、そうじゃなかったら?という疑問が最後まで拭えませんでした。自分たちが認める価値観の中に身を置いていない異教徒だったらどういう扱いを受けたのだろうと。

アメリカンエアライン初の女性機長ビバリー(濱田めぐみさん)のエピソードはとてもわかりやすく、共感するところも多々ありました。
拍手が起きるような大きなソロナンバーがあったのは彼女だけだったと思います。このキャラクターに託したい思いが、脚本を書いた人にはあるのだなぁと思いましたし、2020年代のいまだからこそ大きな声で歌い上げても受け容れられるのだなぁと。
この場面が、このストレートな主張が、そっくりそのまま30年前に上演できただろうか、それが果たしていまと同じように受け容れられただろうかと。
時代性を最も感じたところでした。

緊急着陸した大勢の乗客たちを臨時の宿泊所まで移動させなければいけないのに、その日は折悪しくバスがストライキ中。
バスの運転手で労働組合のリーダーであるガース(浦井健治さん)の交渉相手はガンダー町長(橋本さとしさん)だったのでバスは町営なのかな。
いつもの朝の情景の時から町長はあまり相手にしたくなさそうだったけど、航空機の緊急着陸が決まってからはもうとにかくバスを動かしたい一心でガースにバスを動かすことを要請。
でもガースだって組合員の生活がかかったストライキをしているのだから簡単に「はい」とは言えない。

舞台を見ている私は、彼に早くストライキを中止して運行を承諾してほしいと思っていて、そんな自分の気持ちに気づいてとても怖かったです。
「緊急事態」とはこういうことなんだと。
個人の意思や願いが通らなくなる。周りを囲む1人ひとりからの圧力によって悪条件の労働を強いられても文句を言えなくなる状況になるということなんだなと。
皆とおなじ方向を向いていないと、コミュニティが「善」としたことを一緒にしないと、非難の目を向けられる状況なんだなと。

町長の要請を承諾したガースの本心はわかりません。使命を感じたのか渋々なのか。そこを深掘りするようには演出されていなかったので。見ていてわかったのは、そうするしかないと思ったのだなということだけ。
バスの運転手たちも、それぞれに誇りをもってやったかもしれないし嫌々だったかもしれない。いろんな人がいたのだろうなというのが私の想像です。

見知らぬ滞在者たちのために5日間寝食も忘れてありとあらゆるリソースを提供した人びとが称賛されるのは肯けますが、誰一人報酬を受け取りませんでしたと強調するのはどうなのかなぁと思いました。
レジオン(在郷軍人会)に属するビューラ(柚希礼音さん)をはじめ登場するパワフルな島民にとってはエキサイティングな5日間だったかもしれないけれど、皆が皆おなじ熱量ではないだろうなぁと、私はここに登場しない人びとのことを考えていました。

私自身の経験から思うのですが、島民たちのこれは「他所から来た人びと(カムフロムアウェイズ)」をもてなす文化だと思いました。「スクリーチイン」などまさに。
都人は喜んで享受するけれど、それで心をゆるして移住しようものなら関係は一変する。
客人をもてなす陰で透明化されている人びと(属性)が必ずいることを経験上知っています。

フレンドリーな島民のもてなしに心をゆるしてその流儀を容易に受け容れることができるケビンT(浦井健治さん)に対して、どうしても溶け込むことができないケビンJ(田代万里生さん)も小さな棘の一つでした。
たった数日で心を開くのが難しい人もいるでしょう。
蟠りなく溶け込めるケビンTはきっと育ちが良い人なんだろうなぁ。
でもケビンJのように露悪的な言動で自分を鎧わずには人前に居られない人もいる。人と人との関係をスイスイ泳げる人もいれば、うまく泳げず溺れかけてしまう人もいる。

突然投げ込まれた大海原でどうにか浮いているのが精いっぱいのケビンJはケビンTにそばにいてほしいのに、泳ぎが得意なケビンTは1人でどんどん遠くへ泳いで行ってしまう。
ケビンTにはその失望感はわからないんだろうなぁ。それは責められることではないし、その後一緒に遠泳できそうなロビン(加藤和樹さん)を新しいパートナーにしているのを「ああそうだよねぇ、それがいいよねぇ」と思いました。
あのあとケビンJはどうしたかなぁ。あの出来事を契機に心新たに幸せに生きていたらいいなぁと思います。

安否がわからず心配し続けていた息子がWTCの崩落で命を落としていたことがわかった人(森公美子さん)、互いに国籍も生活環境も人生観もちがっていてこの出来事がなければ一生出遭うこともなかったはずなのに終に人生のパートナーになった2人(安蘭けいさん、石川禅さん)、はじめは取材相手に舐められるくらいのヒヨッコだったのに激動の濃い5日間の取材を1人で担い成長を遂げた新人リポーター(咲妃みゆさん)とか。
登場する人物は皆人生観が変わる5日間を経験をして。
乗客たちは見返りも求めず親身にもてなしてくれた島民に感謝の念を抱きながら島を去って、そこから数年後、ニューファンドランド島に集っていました。

あのときの感謝を伝えるため、変わらぬ友情を確かめるため、そしてあの島での経験から得た人生観・価値観などをベースに築いていった自分の「いま」を報告し合うために。
そんな彼らの幸せな報告に「良い話だったな」と思いつつも、私の心の奥には小さな抜けない棘が残りました。
ここに集い、あの経験から得たものを肯定的に語る彼らは似通った社会通念(現代の西洋思想)を共有する人びとなんだなぁということ。
彼らには見えていない人びとがいるんだよなぁということ。
(9.11以来深まっていった断絶の要因がここにもあるなぁということ)

これは決して人と人のハートウォーミングな物語というだけでは終わらない作品だったのだと思います。
あえてなのかどうなのか、日本人に理解しやすくしたせいなのか、脚本にはたくさんの課題が散りばめられているにもかかわらず焦点が絞られ過ぎているように見えたのが残念だなぁとも思います。
観劇後に思い起こしながら、これはとてつもない情報量でたくさんのことを示唆し考えさせられる作品だったのだと思いました。

そして、ほんとうはこの豪華キャストを集めて演る必要はない作品なのではないかと思うのだけど、このキャストでなくては興行が成り立たないのが本邦のエンタメ界の現実なのかもしれないなぁとも思いました。

CAST

安蘭けい ダイアン/クリスタル/ブレンダ/管制官/パイロット/乗客/地元住民/町役場職員
石川 禅 ニック/ダグ/パイロット/乗客/地元住民/町役場職員/アップルトン住民/心臓専門医
浦井健治 ケビンT/ガース/パイロット/乗客/地元住民/ブッシュ大統領/町役場職員/心臓専門医/CBCリポーター/動物たちの声
加藤和樹 ボブ/ムフムザ/地元住民/管制官/パイロット/乗客/町役場職員/ブリストル機長/心臓内科医/ロビン
咲妃みゆ ジャニス/客室乗務員/ブリトニー(ウォルマート店員)/乗客(パーティーガール含む)/地元住民/ヒンドゥー教徒/動物たちの声
シルビア・グラブ ボニー/マーサ/管制官/パイロット/乗客/町役場職員/地元住民/ヒンドゥー教徒/AI Jazeeraリポーター
田代万里生 ケビンJ/アリ/ドワイト/管制官/パイロット/乗客/地元住民/町役場職員/心臓内科医/BBCリポーター
橋本さとし クロード/エディ/テキサス人乗客/管制官/パイロット/乗客/地元住民/ブレンダの兄/ダーム(アップルトンの町長)/ガンボの町長/ルイスポートの町長/心臓内科医
濱田めぐみ ビバリー/アネット/管制官/乗客/地元住民/町役場職員
森 公美子 ハンナ/マージ―/ミッキー/管制官/パイロット/乗客(パーティーガール含む)/ムフムザの妻/地元住民/町役場職員/イスラム人乗客
柚希礼音 ビューラ/ドローレス/管制官/パイロット/乗客/地元住民/町役場職員/税関職員
吉原光夫 オズ/ジョーイ/マイケルズ先生/ラビ/テリー/マッティ/管制官/パイロット/乗客/地元住民/税関職員/心臓専門医のリーダー/CTVリポーター

スタンバイ:上條 駿 栗山絵美 湊 陽奈 安福 毅

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2024/04/21

戦っていたの

4月14日に梅田芸術劇場メインホールにて宝塚歌劇雪組全国ツアー公演「仮面のロマネスク」と「Gato Bonito!!」を見てきました。

演じきった後の成長がたのしみ

全国ツアー公演ではありがちですが、柴田侑宏先生の作品を上演するには主要人物に役者が揃っていないなぁというのはやはり感じました。
恋愛巧者の主役の2人さえ出し抜くジェルクール伯爵の憎たらしいほどの自己評価の高さ「俺は出来る」感が、序盤の2人のやりとり(悪巧み)に説得力を与えるのだと思うのですが、ジェルクール役の咲城けいさんを頑張っているなぁと微笑ましく見つつ、いやいやいやこの役は「頑張っているなぁ」では期待値には届いていないんだなぁとも思いました。

2016/2017年に花組全国ツアー公演で2度上演された時は、主役の明日海りおさんより上級生の2番手(鳳月杏さん、瀬戸かずやさん)がいた頃だったので、いい塩梅にその二方がこのジェルクールに配役されていたんだったなとあらためて思いました。
とはいえそのほうが稀ではあるので、経験値の浅い人がいかにしてこの役をものにするのかというのが見ものでもあるのかなと思います。
臆せず自分の思う演技プランに沿って演じていると見えた咲城さんのポテンシャルは十分に感じられました。

彼女以外の下級生もおそらくここまでセリフがある役ははじめてなのかもと思える状態ではありましたが、このように実践で鍛えられるのが柴田作品の良さでもあるのかなと思います。お屋敷の下働きの3人組はこのツアーで芝居の間を自分のものにしていくだろうなと思いました。
この公演で卒業の千早真央さんが演じられるヴィクトワールはロベール(真那春人さん)とともにこの作品の要となる役で、2人の居方、眼差しがあるからメルトゥイユ侯爵夫人を多面的に見るきっかけにもなると思うので、卒業のその日まで役を深めて作品をより高めてほしいなと思いました。

私が観劇したのは初日から3日目。ツアー終盤のライブ配信ではどれだけ深化した芝居が見られるか、楽しみにしています。

2024年のいまだからこそ感じられた「仮面のロマネスク」

主役のヴァルモン子爵ジャン・ピエールが雪組2番手の朝美絢さん、ヒロインのメルトゥイユ侯爵夫人フランソワーズがトップ娘役の夢白あやさんという配役のバランスもあるのでしょうか、今回の「仮面のロマネスク」はなんだかいつもと違うなと思いながら見ていました。

法院長様(透真かずきさん)が自分の奥方を指して「これ」と言ったり、自分が留守のあいだ彼女をローズモンド邸に「預ける」と言うのを、「虎に翼」でいう「妻の無能力」の思想の一端だなぁと思ったりもしました。貞淑な妻とはこれを受け容れ弁えるのが当たり前で、トゥールベル夫人(希良々うみさん)もそういう人なのだろうなぁと。
いまの時代を生きているからこその目線で見ていたように思います。

ヴァルモンとメルトゥイユ侯爵夫人の「恋の駆け引き」感はそれほどでもなかった気がします。
お互い手玉に取りあっているという感じがあまりなかったというか、むしろ2人とも芯は真面目なんだなと。やっていることはあれですがどこかに一途さが見え隠れしていたような。
じゃあなんで2人はこんなことをしているの?と、いままであたりまえにわかっていると思っていたことがそうじゃないような新しい感覚の「仮面のロマネスク」だなぁという印象で、それはそれで面白く見ていたのですが、ラスト近くのメルトゥイユ侯爵夫人のセリフでハッとしました。
「私も戦っていたの」と独白する夢白メルトゥイユ夫人に。
このセリフの意味を今回ほどはっきりと感じたことはなかったなぁと思いました。彼女が何と戦っていたのかをこんなにはっきりと意識したのははじめてでした。

いままでは、それは仮面を被らないといられない彼女自身のプライドやおなじく本音を晒さないヴァルモンに対しての戦いのように漠然と思っていたのですが、「〇〇はかくあるべき」と縛り付ける世間とのあいだで駆け引きを挑み戦っていたのだとハッとしました。
女性は、既婚女性は、未亡人は、貴族は、(タカラジェンヌは)―――。
いまにも通じる戦いを彼女は続けていたんだなぁと、夢白メルトゥイユ夫人の誇り高い面(おもて)を見てそう感じました。

つねづね柴田先生は女性にやさしいなぁと私は思っています。
半世紀前の意味でいうところの「フェミニスト」。家父長制を大前提にしてその中で生きる女性に心を寄せ、彼女たちが生きやすい道を示そうとしてくれているのだなと感じます。
シャルドンヌ夫人(アルジェの男)やセシルの母ブランシャール夫人(愛羽あやねさん)のような弁えた年長の女性にどういう心持ちでいれば社会的無能力者とされる女性が苦しみ少なく心穏やかに生きられるかを説かせていたり、シャロン(琥珀色の雨に濡れて)やパメラ(フィレンツェに燃える)のような悪女と見做される女性の内心の純粋さを描いてみせて、そのように生きざるを得ない女性にやさしいなまざしを注いでいるように思います。

メルトゥイユ侯爵夫人もまたそういうキャラの1人だという認識でいたのですが、夢白メルトゥイユ夫人はこれまでとは違って見えました。
彼女は「そのように生きざるを得なかった」のではなく能動的に家父長制の価値観と戦っていた人だったのだと思いました。価値観に従ったふりをしながら壮絶に。
その覚悟をした人の顔だなぁと思いました。
2024年のいまだからこその視点を得て見えたものかもしれないし、演者もいまだからこそ湧き出づるものがあるのかもしれない。
おなじ脚本なのに演ずる人見る者のそれまでの積み重ねが、以前とは違うなにかを見せる。生で見ることに意味があるのだとしみじみと感じた演劇体験となりました。

美の圧に体感10分のショー

ショーは「Gato Bonito!!」。望海風斗さん主演で大劇場で上演された作品です。
生で見るのは初めてでしたが藤井大介先生らしさ満載でとても楽しかったです。

望海さんの時は相手役の真彩希帆さんともども「歌の圧」が印象的でしたが、この全国ツアーでは「美の圧」が凄まじかったです。
「私はマリア」で客席通路に佇む朝美絢さんにスポットが当たった瞬間、私が見たのは後ろ姿でしたが、その美しさに度肝を抜かれました。
ラテンの客席降りでは目の前で夢白あやさんと縣千さんが交差してあまりの美しき圧にどこを見るべきかと目が回り・・後になってなぜしっかりと網膜に焼き付けておかなかったのかと悔いることしきりです涙。
その後も美し過ぎるせいで人の心を煩わせてしまうことに悩む美しき猫様を堪能しあっという間に終わってしまいました。
楽し過ぎて美し過ぎて体感で10分のショーでした。
(もっと見て浴びていたかった―――!!)

お芝居もショーも余韻をかき集めてまたあの幸福感を欠片でも味わいたいと思える公演でした。
いまはただひたすらライブ配信を楽しみにしています。

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