« 少しずつ。 | トップページ | にゃんこだぞ。 »

2009/09/16

君はいつかの何とか云う人。

文庫版『百器徒然袋―雨』を読みました。
ええと、ナゼ「雨」なのかわかりませんでしたが、尋常じゃなく面白かったです。

薔薇十字探偵こと、榎木津礼二郎を主人公にした3篇が収められています。(なぜ「薔薇十字探偵」なのかはとくに理由はないみたい)

中禅寺(京極堂)が主人公だと1000ページ、多い作品では2000ページにもおよぶのに、榎木津が主人公だと250ページくらいで終わってしまう(笑)。
まちがいなく、きっとこれは榎木津だからだと思います。
とにかく破天荒。快刀乱麻?というか。荒唐無稽というか。
途中が飛んでいきなりなんですもの(笑)。説明はなし。
(中禅寺が主人公だと、まさにこの説明=憑物落しにページを費やすわけで)
まさに破壊神です。

1篇め、「鳴釜 薔薇十字探偵の憂鬱」は
複数の男たちに酷い目に遭わされて子までなしたお嬢さんの年の近い叔父である「僕」が、はじめて榎木津に逢い、榎木津の「仕切り」によって、男たちに報いを受けさせるお話。
榎木津が、「目には目を、歯には歯を」と言い出して、なんだか悪い予感が。
中禅寺(京極堂)までもが「悪趣味な」と言いながらも加担するし。
や、やっぱり???

男たちに女装させるために中禅寺ときたら例によって延々と薀蓄を。
そのなかで日本古来の伝統文化と称して歌舞伎と宝塚の話が。
そして「今はまだ東宝劇場が接収されているから大変ですね」と。
昭和28、9年頃のお話です。
中禅寺の知人の少女歌劇を愛好する妖怪研究家って、もしかして多々良先生?
多々良先生、あれで宝塚ファンだったの???
奥深いわ。

いつもは辛気臭い中禅寺も、渋々腰をあげたふうでいながら、イキイキと茶番を演じているし、本当に明朗活劇で面白かったです。
代議士ご令嬢の美弥子さんも、さいごはなかなか痛快でございました。
おカマの金ちゃんも(笑)。


2編め、「瓶長 薔薇十字探偵の鬱憤」は
甕の呪いに憑かれた女性と行方不明の亀の捜索のお話。
カメだ、いやカメだ、とわけわからん(笑)。
本職より怖い木場修も出てきて、本職さんたちにビビられるし。
鯉幟のような今川さんも出てきます。
(この今川さんの容姿の形容が、波津彬子さんの作品のおどけた妖怪みたいで大好きなんです)

例によって榎木津の滅茶苦茶な「仕切り」でカメの問題もカメの捜索も解決。
この榎木津の破壊神っぷりには恐れ入りました。


3篇め、「山颪 薔薇十字探偵の憤慨」は
前作で榎木津元子爵(榎木津の父だけど)のカメ(千姫)の捜索で、なぜか動物専門の探偵と勘違いされてしまった榎木津が、某元伯爵のヤマアラシのトゲヲちゃんを捜索。
探偵のくせに、ふだんは絶対に捜索とかしない男なのですが、トゲヲちゃんのトゲが見たいばっかりに捜索。
(榎木津によると、ヤマアラシはトゲが尖っているから偉いのだそうだ)

そこに別口の依頼が入って、例によって滅茶苦茶な「仕切り」の結果、両方とも解決。
振り回される皆は、大変なんだけど、でも楽しそうな気がします。

凡人にとって、エキセントリックで魅力的な人間に振り回される時間は、ある意味蜜の味。
麻薬のようなものかも。

ところで、この3篇の語り部の「僕」、いっこうに名前が出てきません。
榎木津という人は、人の名前を覚えないので、「僕」に逢う度に
「いつかの何とか云う人!」と呼びかけるし。
そうかと思うと「犬吠埼君」だの、「門前仲町君」だの、「北紋別君」だの毎回違う名前で呼びかけるし。
そのうえ、これは「僕」にも責任があったりするのだけど、榎木津以外の人たちからは、事件のたびに場当たり的な偽名(河川敷砂利彦だの、壷田亀三郎だの、下金(オロシガネ)君だの)をつけられてしまうし。
が、さいごのさいごでニンマリ。

いつもの登場人物たちも面白かったです。
益田君が、どんどんエスカレートしていく~。彼はどこへいくのだらう。
この本で初登場の「僕」の友人の紙芝居屋も、かなり変です。

ところで、私が宝塚にはまっているあいだに、シリーズが何作か映画化されたようですが、
榎木津役は、なんと阿部寛さんなんですね。なんかわかるかも。
(巻末の作品解説を寄稿してらっしゃいました)

| |

« 少しずつ。 | トップページ | にゃんこだぞ。 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 少しずつ。 | トップページ | にゃんこだぞ。 »