固ゆで卵は喉に詰まる。
高村薫さんの『リヴィエラを撃て』を読んでいます。
淡々とした描写でありながらどこか物悲しさが漂うところが、高村さんだなぁと思います。
思いを切々と語るのではなく、見たまま記憶のままを、ただ描写する。
そこで筆にのるもの、のらないものの、ちょっとした取捨選択。
それで思いが伝わってくるのが凄いなぁ。
筆がのってきたときに仄見えるセンチメンタリズムと、一段落ののちの侘しさ。
抑制された筆運びを台無しにしない程度の。そのバランスが絶妙。
そこにはまってしまうのかも。
政治経済、国際組織、物理化学の専門用語はまるっきしわからないけど、
描き出される「一瞬一瞬を黙々と働き、淡々と命を費やす男」に惹かれてしまう。
彼に向けられる女の言葉、肉親の言葉、同志や敵か味方がわからない者たちの言葉。
浮き上がってくる男のプロファイル。
何のために――。
これほど自分を抑制してまで、
何に命を懸けているのか。
ある一瞬にそれを感じることができたら
それが、ハードボイルド小説を読む醍醐味だと思います。
男が、心の奥底に封じ込めている口に出せない思い、一瞬過ぎる迷いや甘さ。
それがなにゆえなのか。
自己主張のつよい雰囲気ハードボイルは多いけど、
これはなかなかの作品と思いつつ読みすすめています。
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