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2010/04/13

指先に微熱が宿る。

Japanese Musical「戯伝写楽」。
わかりやすく明瞭でクリアな脚本なのに、
それをわざとのように曖昧にしている演出。
とても不思議。

 

不思議ちゃんと言われるヒロインのおせいだけど、
一番の不思議ちゃんは演出の荻田先生かもしれない。

 

見ていたら登場するキャラも2極に分かれる気がしました。
まるで作者を代弁するかのような、いきで明快な蔦重さん。
歌麿さんやタダ酒先生の大田南畝、浮雲さんもこちら側かなぁ。
想像だけど、この人たちは脚本のキャラのままなんじゃないかな。

 

その対極にいるのがおせいちゃん。
そして、十郎兵衛。

 

(以下、ねたばれするかも…)

 

荻田先生は、自分の頭に描いたままを役者に演じさせるのではなくて
演じさせてみて決めていくニュートラルな方法をとられるらしい。
捉えどこのない「おせい」というキャラを役者に演じさせるとしたら
この方法が合っていると思うし、大和悠河の持ち味から出てくる不思議さを
この役に生かすと、こんな感じかなぁというのはすごく納得できました。

 

で、十郎兵衛役の橋本さん。
中島かずきさんの脚本の意図がすごくわかっている人なんだろうな。
でも、今回はおせいに一番かかわる人で。
蔦重とおせいの狭間で生きなくちゃいけない。夢と現。嘘と真のあいだで。
橋本さん、すごく「読める」人なんだなぁ。人の心が。
彼だからこそ、やれている――そう思いました。
ぜったい難しいですよ。普通なら。水と油みたいだもん。脚本と演出が。

 

十郎兵衛って、本当に頭の回転が速い人。
瞬時にカチカチッと。
とっさにあんなことや、こんなことを思いついて行動に移せるのが凄い。
場を読むというか、相手の心を読むというか。

 

そして、この十郎兵衛さんって、もしかして橋本さとしさんそのものなのかも。
少なくとも脚本はそうじゃないかなー。
心の機微に敏感のくせに、おおらか。
いや、おおらかであろうとしている。
笑いたいと思い、相手を笑わせたいと思ってる。
もう、全身で「つっこんで♪」って言ってる。

 

あの立てた小指・・・・「どこのムード歌謡やねん!」
という客席からの心のツッコミを感じて、ムヒムヒされてるでしょー(笑)。
あのあたりは、橋本さんの「発散」の場面でしょうか。
あと、与七さんとのやりとり(笑)。最高~!

 

そんな発散系の凄さもあり、反面、私がゾクッとするのは
本当にラスト。おせいが去ってからのくだり。
あのセリフ。
あのおせいの絵だけで、おせいの気持ちがわかったんだ。
おせい本人ですら、気づいていない気持ちを。

 

だから、十郎兵衛はふっきれるんだなぁって――私は思いました。
私の勘違いかもしれないけど(笑)。
だって男の人ってそうじゃん。
女の気持ちがわからないうちは追いかける。
わかったら安心して、別のことができる。
そんな男の人、多くないですか?(笑)

 

でね、思い出にひたりながら1人杯を傾けてほくそえむの。
これは時代が変わってもそうじゃないかと思ってる。私はですが。

 

でも、女の気持ちは変わりますから。
瞬時瞬時に。
それ、わかってない男の人多いですよね。
おせいちゃんなんて、もうあっという間よ。
3歩歩いたら、忘れてるから。自分の気持ちも。好いた相手の名前も(笑)。
これ、絶対。
(だってこれ、大和悠河さんのありのままの演出だもん~)
(大和悠河、今を生きてるひとだもん~ 過去は3歩で忘れる。足元は見ていない)
(「いま」興味のあるものだけしか見ていない。行くとこまでいかないとやめられない)

 

おお。そうか。
中島かずき+橋本さとし VS 荻田浩一+大和悠河 だったか。
この作品は。
そうか。
(ちょっと浮雲さん風に)

 

鋭いツッコミ(中島さん橋本さん)に対して

 

「それはどうかな」

 

って曖昧にかわすのが、荻田さんであり大和さんだったわ(笑)。
(荻田さんは意図的に。大和さんは本気でさっきのことは忘れてるから)

 

でも、それもわかっていて、笑っておおきく包み込むのが、
橋本さんであり中島さんなのかな。

 

けっきょく、他流試合(いつから試合になったん?)の勝敗は
採点ポイントがそれぞれ違うから勝負がつかないか。

 

片方だけ好きな人は、もにょもにょしちゃうかも。
両方好きになれた人は、すごく美味しいかな。
両方が融合した瞬間を感じられたら、天上の美味に出会えるかも。

 

うー。早く大阪公演にならないかなー。

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コメント

はじめまして。
本当に申し訳ないのですが、宝塚には全く無縁な者です。
ミュージカルが好きで、さとしさんが好きで、戯伝写楽を観ました。
そのせいか、役そのもののせいか、初回は大和さん演ずるおせいちゃんを、どう捉えてよいか分からなかったんです。
でも観ていくうちに、大和さんのおせいちゃんがストンとはまりました。

theoさんのおっしゃるとおり、「両方好きになれた人にとっては~」に共感しました。
さとしさんのことも分かっていただけて、とても嬉しく思います。

大阪で更なる進化をみられると良いですね。
長文失礼しました。


投稿: えむ | 2010/04/18 21:55

◇えむさん、
はじめまして。コメントありがとうございます。

私はここ数年宝塚にどっぷりだったものですから、
橋本さとしさんってどんな方???と、どきどきでした。
お芝居とかお話しぶりとか拝見するに、おちゃめで
人間的にもお芝居にも包容力のある方ですね。
役の上でも、すごく個性的な人たちを、その人間性で「つなぐ」十さんが、
すごくはまっていらっしゃいましたね。

この作品もキャストの皆さんも、私は大好きになりました。
人間に対する目線が肯定的というか間口が広くて懐が深~~いですね。
何かにすごく長けているのにそれ以外はまったくダメな子や
一見おちゃらけてばかりみたいな人が垣間見せるものや
厳しい言葉を吐く人の心の奥や・・・
それぞれがダメなところや弱いところを持っているんだけど、
みんな魅力的で素敵に思えました。
この作品に出会えてよかったな。悠河さんがこの作品に出演して
本当によかったなと思ってます。

悠河さんは意図して演じるより、役に入り込んでしまった時のほうが
良い芝居をする人だと私は思っています。
でもこれは、日によってムラがあるのが課題かと…。
それから、今は女性としての声に深みを出せるようになっていただけたら…
とねがっています。
1度しかご覧にならない方が多数なわけですから。
言い訳はできない。
ただ、いまの彼女にしかできない芝居を。
いまのこのキャストの皆さんと思い切り演じてほしいです。

大阪公演は本当に…はじまったら、終わりですよね。
舞台も客席も一期一会の気持ちで、
素敵な舞台が見られたらいいなと思います。

お返事なのに長くなってしまいました…すみません。

投稿: theo | 2010/04/19 15:27

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