DREAM ON...
京極夏彦氏の文庫版『後巷説百物語』を読みました。
―― 嘘をね、嘘と承知で信じ込む。
―― 煙に巻かれ霞に眩まされ、それでもいいと夢を見る。
―― これは夢だと知り乍ら、知ってい乍ら信じ込む、
―― 夢の中で生きるしか、
健やかに生きる術はないんだと、御行の又市はそう言っていたという。
―――(『風の神』より)
妖怪、あやかしは、人が心安らかに生きるためのシステムなんだなぁ。
人は弱く、この世は悲しく辛いから。
なにもかも思いのままに生きている人は、そうはいないから。
時代が変わったからといって、前時代の人々が突然皆いなくなって
さあ、今日から別の新しい人たちだけの世界になるという訳ではない。
時代は地続き。
人の思いも地続き。
それを、忘れてしまっているよね。現代を生きる私たちは。
・
時代は維新の後、『巷説百物語』『続巷説百物語』の山岡百介は、
一白翁と名乗る齢80を超えた小柄な「薬研堀のご隠居」として登場します。
そこへ集まる者たちは、貿易商社勤務の与次郎、一等巡査の剣之進、
洋行帰りの正馬、剣術指南の惣兵衛、
そして、ご隠居の世話をしている山猫廻しのおぎんに面差しのよく似た娘、小夜。
本書は6つの物語で構成され、
剣之進が持ち込む「不思議な話」を皆で検討し結論が出ぬまま
薬研堀のご隠居に相談へ行くというパターンですすみます。
どの不思議話も、じつは若い頃のご隠居が現場にいた・・・というのは
出来過ぎなような、荒唐無稽なような気もするのだけど
(天子様までたばかって)
でも、彼(又市)ならありそう。そう思わせるものがある。
もちろん、これまでの2冊を読んでいるせいもあるでしょうけど。
人々が、きれいに化かされていることを読んでいて納得してしまうのは、
やはり、おぎんの美しさが説得力になっているんだろうな。(「五位の光」「風の神」)
別シリーズの登場人物である由良伯爵や和田慈行様のご先祖さまが登場するのは
京極好きにはたまりません。
やはり由良家は鳥にゆかりの家柄だったのですね(^_^;)。
それにしても、ご隠居の生活は
子どもの頃から「おばあちゃんになる」のが夢だった私の理想だなぁ。
ご隠居にとっての、又市さんやおぎんさんは、私にとっての大和さんだろうな。
好きな本に囲まれて、ときおり若い人たちが、
「大和さん」や「昔の宝塚」について、尋ねにくる。
そして、そばにはいつも、「大和さん」に面差しの似た娘が・・・(←ココ、ポイント高!!)
想像しただけで、うっとり
はい。
自分で見聞きしたものごとでも、書き記してしまえば物語。
ええ。物語はどれもこれも、皆つくりものです。現実(うつつ)では御座いませんよ。
―――(『風の神』より)
ご隠居の言葉に、そっくり同感です。
僭越ですが、私もブログを書くときは、そう思って書いています。
証拠に、同じものを見ても、人によってちがう「物語」になっているし。
それを読む人の捉え方も、十人十色。
人様の目に触れるところに出した以上、どのように受け取られても仕方がない。
それが嫌なら、ネットなどという誰でも読めるところに書いてはダメ。
それが嫌になったら、更新をやめると思います。
「赤えいの魚」「天火」「手負蛇」「山男」「五位の光」「風の神」の
6編の物語で構成されていますが、
時代的に、いまの世の中で語るのはデリケートな話題、人々のことにも
真摯に向き合って書かれているのに感動しました。
根底に流れる、人間への思い。細やかなやさしさが好きです。
ラストの情景は、せつなくて、しあわせで。
昔、木原敏江さんの漫画のラストシーンで味わった気持ちに似ている気がしました。
2003年の直木賞受賞作でした。
(しらなかった)
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