油断大敵。

日比谷シャンテ前で、大和会の出のガードに入っていた時のことです。

悠河さんはそんなに早くは出ないから、それまでは
組子ちゃんたちの楽屋出の様子を眺め愉しんでいました。
シャンテ前は絶好のポジションです。
回数は少ないものの、ガードに参加するようになって2年余。
それなりに組子ちゃんたちの顔は覚えている自負がありました。

会のない下級生たちが出て行く姿を何人か見送ると
会のある生徒さんがパラパラと出始めました。

「○○ちゃんかな？」「△△ちゃん可愛い～」
出てくる生徒さんを見ながら、会の方たちと雑談していると
楽屋口からステキなジェンヌさんが現れました。

ウエストシェイプのショートジャケットの黒のパンツスーツ。
フリルのブラウス。長い足！

「あのカッコイイジェンヌさんは誰？？？」

・

見掛けない人だなぁ。誰だろう？
いつも私がスタイルのよさに嘆息してしまう
ともちんさんでも、いりすちゃんでもありません。

そのステキなジェンヌさんは、颯爽と歩を進めて
オレンジのベストの集団の前に立ち、
にこやかにお手紙を受け取りはじめました。

「うそー！　みっちゃん？？？」
「えーほんと？　かっこいいよ？？？」
「変な帽子かぶってないよ？？？」

「ジェンヌさんみたい」

・ ・ ・ ・ ・ ・コラコラ。 みたい、じゃなくて、彼女は正真正銘のジェンヌさんです。

というのも、よく見る、みっちゃんこと、北翔海莉さんの
入り出のファッションというと ――

独特の丈の独特の形の独特の柄のジャケット。
インには独特の柄のシャツ。
独特の丈の独特の形の独特の柄のパンツ。
独特の柄の鳥打帽。（キャスケットじゃなくて鳥打帽）

―― といった、ジェンヌさんスタイルというよりは、
「ジャスト北翔海莉オリジナル」ともいうべき、独特なものだったから・・・。

ある時は・・・私は気がつかなかったのですが、隣の方に
「あれ、タニちゃんがいつか着てたのと同じジャケットよね」
と言われて、よーく見ると、たしかに見覚えが。
でも悠河さんは、そのジャケットに、そのインは合わせない、
という、やはり、「ジャスト北翔海莉コーデ」だったもの・・・。

でも、その日のみっちゃんはちがった・・・・・・。

みっちゃんて、こんなに足が長かったんだ。
こんなにスタイルよかったんだ。

やればできる子、だったんだ・・・。

だけど、こんなにステキなモノを
なぜに彼女はいつも隠しているの？

なにかの策略？
彼女の真の狙いは？？
何れ臥龍か凰雛か？

以来、私の中で、彼女はミステリージェンヌです。

あれは、昨年の悠河さんのサヨナラ公演のショーでの1シーン。
「夢・アモール」――
悠河さんの男役見納めの公演ということで、
悠河さんの登場シーンは、まさに悠河さんロックオン状態で見てましたが、
この「夢・アモール」の最初のシーンに悠河さんは出ていなくて。
（あとからホリゾントセンターから登場します）

かわりに、宙組ダンサー男役さんや将来有望株の男役さんたちが揃っていたので
立ち位置関係なしに公演ごとに、順番に1人ずつロックオンして見てました。

その日、私の目に飛び込んできたのは
酷薄にさえ見える薄い笑みと眇めるような視線の
みっちゃんによく似た官能的な男役 ―― みっちゃんによく似た――
―― みっちゃんだった。

え？？？

もう一度立ち位置確認。
センターでうめちゃんと踊ってる。
まちがいなく、みっちゃんだった。

みっちゃんは、ときどきこんな嗜虐的で官能的な眸をする。
いつもの柔らかい和やかな目じゃなくて。
「黒みっちゃん」だ。
私はびっくりして、どぎまぎと慄く。
企んでる企んでる・・・・・・と思う。
こんなみっちゃんの二面性は男役として、かなり武器になると思うのにな。
いつもは隠していますよね。
もしかして策士？
それとも、なーんも考えてないのに、あんな表情？？？
（それって、こわーい）

ねぇ。そろそろ臥龍も起きていいんじゃないかなぁ。