弔いを。
京極夏彦著『嗤う伊右衛門』を読みました。
(ねたばれします)
伊右衛門といえば、四谷怪談のお岩さんの旦那様。
歌舞伎では、奥さんであるお岩さんを離縁するために
謀を弄する酷い夫ですが、
この伊右衛門さんは、お岩さんへの純愛を貫く人です。
物語は、予想したとおりにすすみました。
でも、その予想どおりに話をすすめるためには、
そうとうの説得力が必要。
それを、ものの見事に書き上げられていて感歎しました。
どの人物の行動にも納得させられます。
伊右衛門の気持ちもわかるし、お岩さんの気持ちもわかる。
わかりたくない子殺しの女の気持ちも
世の中すべてが気に入らない傍若無人で悪辣な男の気持ちも
わかりたくないけどわかります。
人には、それぞれに思いがあり、動機がある。
この物語に出てくる人たちは、それを他人に伝える術をもっていない。
そんなふうに生まれ、育ってしまった。
だから、些細な事で気持ちが行き違う。
愛しい者を心のままに慈しむことができずに苦しむ。
人の気持ちが解れば解るほど、切り捨てる事、決着をつける事は難しい。
ただ1人生き残った男 ―― 御行の又市とともに
このかなしい愛し子たちに弔いを。
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