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2011/04/08

是非もない。

御園座公演「綺譚桜姫」の登場人物の1人、釣鐘権助(須賀貴匡さん)。
彼も悲しく重い宿業を背負った人でした。

とにかく芯から悪党で。

都の公卿吉田家に強盗の下見に入った折に美しい姫君桜姫を見とめて狼藉。
その一月後には本当に強盗に押し入り、家宝を奪い当主である姫君の父吉田少将を殺害。
姫君は権助の子を産み落とし、その子が姫君を追う破戒僧清玄の手元にあると知るや
桜姫との再会の切り札に赤子を奪おうとして挙句に清玄を毒殺。

強盗、強姦、人殺しをするに深い理由はない。
欲しいものを奪う。邪魔なものは消す。
是非もない。

(以下、超ねたばれです)

彼は物事を深く捉えない。重く受け止めない。
たとえ殺したのが実の兄であったと知っても。

突きつけられた事実に一瞬顔色を変えながらも
それ以上のことを考えるのを止めていた。

そんなことを考えては己が立ち行かない。

憐れだとか、気の毒だとか、申し訳ないだとか
そんなことを考えては、生きてはいられない状況に
幼い頃から身をおいてきた人間なのではないか。
そんなふうに私には思えました。

どこまでも軽口を叩く。
俺はこういう男なんだと。さいしょから。
俺はこういう育ちで、こういう親に育てられ、こうやって生きてきた。
誰に言うでもなく。
自分に言い聞かせて生きてきたんだろう。
是非もない ――― と。

殴られても蹴られても打ちのめされても飢えても、死に掛けても
是非もないと。

彼の口上を聞いていると、泣きたくなりました。
ああ悲しいなぁ。


犯した姫は実の妹で、殺したのは実の父と実の兄。

真実を知った桜姫は、親の敵、わが身を転落させた張本人の憎い相手と逆上するけれど
なにが悪いのか、彼は最期までわからなかったのではないか。

生き辛い世を、わが身とわが才覚だけで生き抜いてきた。
やらなければ、やられるだけ。

やられた相手が、
たまたまいつか押し込みの下見の折に美しいと見とめたお姫様で
自分の子を宿して、自分の破屋で一緒に夫婦として暮らし
女郎に仕立てた、腹違いの妹だった。
ただそれだけ。
彼にとっては。

是非もない。

昔むかし、生家を襲った凶事が彼の人生を変えた。
その事がなければ、まったく違う人生を歩んでいただろう。
都の公卿の次男坊として。

だがそんな繰言も、もしももたらればも是非もない。

公家に生まれて人買いに攫われ、人買いの親方に仕込まれ
親を知らず愛を知らず、我が身と我が才覚でこの世を渡り、殺し殺され命絶える。
是非もない。
それが彼にとっての人生。


権助を演じた須賀貴匡さんは、
無精髭を生やした野卑で、どこか甘い色気のある色悪の雰囲気で
このセリフの多い、心底悪で救いのない役を演じてらっしゃいました。

桜姫ももう1人のメインキャストの清玄さんも、思い込みの激しい人たちなので
彼がストーリーを繋いで回している感じでした。

エリザベートでいえばルキーニみたいなかんじ?
セリフも、観客に投げかけるようなところもあって。
1幕の自己紹介?的なところなどは、回を重ねれば重ねるほど
客席とキャッチボールになりそうで、
ああもっと長く公演があればもっと面白いのになぁと思いました。

千秋楽までの3公演の中でも、どんどんこなれていかれていたような感じがして
あと1週間公演を続けられたところをまた見たら、どう変わっていたのだろうと。
すごく演じ甲斐のありそうな面白い役だと思うので。
もっともっと権助を知りたかったです。

あーーー。
また見たいーーーweep

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