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2011/05/11

笑うチカラ。

京極夏彦著「豆腐小僧その他」を読みました。

角川つばさ文庫というジュブナイル系の
文庫シリーズ用に書かれた「小説 豆富小僧」と
京極夏彦作オリジナル妖怪狂言の台本「豆腐小僧」「狐狗狸噺」
「新・死に神」と落後「死に神 remix」が収録されています。

巻末には、昨年お亡くなりになられた大藏流狂言方で
豆腐小僧を演じられた茂山千之丞さんの
「京極作品と狂言との“歴史的出会い”」も特別収録されています。

まず小説「豆富小僧」ですが、これも映画とはちがうお話です。

先に読了した「文庫版豆腐小僧双六道中ふりだし」と
最初と最後はおなじかな。
あちらは幕末時代、こちらの舞台は現代ですが。

ジュブナイルらしいわかりやすさと
ジュブナイルらしい大団円。
ジュブナイルだけど、妖怪とはなんぞやという著者の妖怪論は健在。
自分の役割を心得たラストのお豆富ちゃんにじわじわと涙でした。

映画のシナリオのラストには納得がいきませんでしたが
こちらは深く納得です。
だって、映画のラストだと妖怪の意味がないもの。

妖怪とは人間の知恵であり文化そのもの。
この世に生きることを受け入れるための装置。

自然や人の力の及ばないものを畏怖することを忘れ
思い上がった現代人への語りかけとも読める作品だと思います。

「双六道中ふりだし」を読んだ後だと、ストーリーの意味がよくわかります。
たぶん、これを読んで「双六道中ふりだし」を読むと、
この児童向けの小説の深さをさらに感じられるのではないでしょうか。

さて、同時収録の狂言台本と落語について。

「豆腐小僧」と「狐狗狸噺」は、2003年に見ました。

自らの狂言を「お豆腐狂言」と呼ばれることを誇りとする大藏流茂山千五郎家と
妖怪通の京極夏彦氏とのコラボによって出現した新作オリジナル狂言。
それが地元福岡でも上演されるとのこと。
これは千五郎家好きで京極氏好きとしては見ないわけにはまいりますまい。
ということで。

ちなみに、「お豆腐狂言」とは、お豆腐のように
「いつの世も、どなたからも広く愛される、飽きのこない、そして味わい深い」狂言
ということだそうです。
詳しくは、お豆腐狂言 茂山千五郎家のオフィシャルサイトで。

お話がとても面白く、現代風なオチと風刺も利いていて
なおかつちゃんと「狂言」でした。

豆腐小僧を演じられた茂山千之丞さんがとっても愛らしくてファンになりました。
お間抜けな独特の間と、千五郎家らしい軽妙な毒。
そのとき既に齢80歳を超えていらっしゃいましたけど、狂言方の身体能力にも驚き。

今年に入って友人より、昨年の暮れ87歳でお亡くなりになったと聞きました。
毎年10月に大濠公園能楽堂で開催される「忠三郎狂言会」に
兄である千作さんと一緒に客演されて来られましたが、
今年はどうなるのでしょう。
もう千之丞さんにはお会いできないかと思うと寂しくてたまりません。

狂言「新・死に神」と落語「死に神 remix」は、
ともに死に神から人の寿命の見方を教わる冴えない花粉症の男が主人公。
掟破りの末のオチが、それぞれ狂言らしく落語らしく、巧い!と唸りました。


妖怪も演劇も狂言も落語も、みんな人間が創りだしたもの。
人間が創りだし、人間の心に作用するもの。

人間が制御できないものを、受け入れ、
そして、笑って。
いま居る場所で精一杯、生きるための仕掛け。

人であればこそ。

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コメント

>これを読んで「双六道中ふりだし」を読むと、
>この児童向けの小説の深さをさらに感じられる
>のではないでしょうか。

おお、、、そうですが、勘違いからこっちを先に
読み始めました。多分並んで平置きしてあったと
思われ。なかなか面白いです。読み終わったら
『道中』読んでみます。

投稿: 一陽 | 2011/05/12 20:38

◇一陽ちゃん、
ぜひぜひ! 薀蓄の部分も含めて面白いですから(笑)

このジュブナイル版豆富小僧は、
京極ワールドの入り口に最適な気がします。

投稿: theo | 2011/05/12 21:36

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