君と寝やろか五千石取ろか。
岡本綺堂の「江戸情話集」を読みました。
世話狂言の元ネタとなった心中の話を小説にしたものです。
「鳥辺山心中」
岡本綺堂自身の戯曲を、小説化したもの。
祇園の遊女お染と、江戸から将軍家光の上洛に従ってきた旗本菊池半九郎のお話。
2人の馴れ初めからその性格、心中にいたるまでの経緯などが細やかに描かれています。
(歌舞伎ではこの後の心中への道行きの場が見所なんですよね?)
半九郎の心情がとてもよくわかります。
あの結末も仕方がないのだなぁと。
か弱い遊女を捨て置けず、武士にとって大切な大小のもの(刀)を売ってまで自由の身にしてやろうとする
半九郎の情けと潔い性格が禍してしまうのがせつない思いです。
こんなお話なのに、公正で冷静な筆が綺堂らしいなぁと思います。
だからなおさら今読んでも古さを感じないのだと思います。
それにしても綺堂の日本語はいいなぁ。
「籠釣瓶」
江戸時代に起きた「吉原百人斬り」という事件を元にした小説。
「籠釣瓶花街酔醒」という世話狂言と元ネタは同じですが、歌舞伎とはかなりちがうようです。
地方のお大尽の若者が江戸で博打や喧嘩を覚えて徒弟を従えいっぱしの侠客気分になる。
さらに花魁・八橋に入れあげて遊蕩三昧。
だが彼の放蕩がすぎて田舎の家屋敷も田畑も処分するはめに。
身上を潰した彼の手許に残ったのは、千両の金と子飼いの使用人ただ1人。
男の名は次郎左衛門。
その残された千両さえも、以前の通りに豪気に使ってしまう。
金がなくなったら、そのときに考えよう 。
それまでは自分の零落は悟られずに大盤振る舞いを続けて
“佐野のお大尽”として見栄を張っていたい・・・
とくに贔屓の八橋には―― 次郎左衛門の心情がリアルです。