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2011/08/15

うすげしょう。

上杉可南子著「うすげしょう」

ひさびさに上杉可南子さんのデビューコミックスを読みました。
1988年の初版です。

掲載誌は小学館のプチフラワー。
萩尾望都、木原敏江、名香智子、岡野玲子、秋里和国、etc.と
そうそうたる作家さん方が秀作を発表されていた雑誌の中で
パッと見地味めで、柔和でおっとりとした絵柄で
京都の友禅染の家の異母兄妹の微妙な感情、
とりわけ朗らかで可愛らしい少女の心の奥底の夜叉を
京言葉にのせてはんなりと、
そして艶やかに描いた叙情的な作風に衝撃を受けたことを思い出します。

「女の子ひとりいてるだけで、場がなんとも華やかでよろしおすなぁ」
(「うすげしょう」1986年初出)

雪深い山村で育った従兄妹同士の淡く激しい恋のゆくえを描いた「山雪花」(1987年初出)。
ヒロインの真知子巻きが印象的でした。

茶器や骨董品を扱う老舗に婿入りした主人公の義妹(妻の妹)への情いを描いた「花の庭」(1962年初出)。
非力な和服の若旦那(養子婿)が昼間から実姉の家にふらふらと茶飲みに来る世界。
慣れ親しんだ本宅から新婚夫婦のための離れに移るのを寂しがって泣くお嬢様の妻と
その姿を見てもらい泣きする入り婿(主人公)の姿が、なんとも可愛い。
その可愛さと、心の奥のエゴの対比がなんともいえませんでした。

大学の研究室をやめて実家(神主)に帰ってきたとぼけた兄と、都会から訪れた謎めいた美しい女性。
武射奉納のお祭りに向かって絡んでいたそれぞれの心の奥があらわになっていく
「せめて射よかし」(1987年初出)。

天下三美少年と謳われる羽柴秀次の小姓、不破万作に懸想する男。
不破と思しき稚児姿の美少年との今生一度の契りと男の覚悟。
まるで能を見ているような「魚鱗」(1988年初出)。
(なんかこれを平家物語のものと記憶違いしていました)

「うちは芸で祇園一の舞妓になるんや」と
後見人はつくらないと固く意地をとおす舞妓と、若い将校の淡い邂逅。

「女ゆうもんは人の気持ちやら愛情やらで育てられるんどす」
「そういうもんで女は美しゅうなってゆくんどす」
「なんぼ芸だけをみがいたかて一緒や。芸は心どす。心がかようてないとただの人形と同じこっちゃ」
という置屋のお母さんのことばにうなずいてしまう「無名指-ななしゆび-」(1988年初出)。

はんなりと愛らしい肉の匂いを感じさせない絵柄の男女が
一瞬だけ立ち上らせる色香にまどう ―――
やっぱり好きです。この世界観。

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