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2011/08/25

君と寝やろか五千石取ろか。

岡本綺堂の「江戸情話集」を読みました。
世話狂言の元ネタとなった心中の話を小説にしたものです。

「鳥辺山心中」
岡本綺堂自身の戯曲を、小説化したもの。
祇園の遊女お染と、江戸から将軍家光の上洛に従ってきた旗本菊池半九郎のお話。
2人の馴れ初めからその性格、心中にいたるまでの経緯などが細やかに描かれています。
(歌舞伎ではこの後の心中への道行きの場が見所なんですよね?)

半九郎の心情がとてもよくわかります。
あの結末も仕方がないのだなぁと。
か弱い遊女を捨て置けず、武士にとって大切な大小のもの(刀)を売ってまで自由の身にしてやろうとする
半九郎の情けと潔い性格が禍してしまうのがせつない思いです。

こんなお話なのに、公正で冷静な筆が綺堂らしいなぁと思います。
だからなおさら今読んでも古さを感じないのだと思います。
それにしても綺堂の日本語はいいなぁ。

「籠釣瓶」
江戸時代に起きた「吉原百人斬り」という事件を元にした小説。
「籠釣瓶花街酔醒」という世話狂言と元ネタは同じですが、歌舞伎とはかなりちがうようです。

地方のお大尽の若者が江戸で博打や喧嘩を覚えて徒弟を従えいっぱしの侠客気分になる。
さらに花魁・八橋に入れあげて遊蕩三昧。
だが彼の放蕩がすぎて田舎の家屋敷も田畑も処分するはめに。
身上を潰した彼の手許に残ったのは、千両の金と子飼いの使用人ただ1人。
男の名は次郎左衛門。

その残された千両さえも、以前の通りに豪気に使ってしまう。
金がなくなったら、そのときに考えよう 。
それまでは自分の零落は悟られずに大盤振る舞いを続けて
“佐野のお大尽”として見栄を張っていたい・・・
とくに贔屓の八橋には―― 次郎左衛門の心情がリアルです。

一方、もう1人の男の名は宝生栄之丞。
八橋の情夫で能役者あがりの浪人者。
かれは花魁のヒモのような生活から抜け出したいと思っている。
2人の男と1人の女。
それぞれの気持ちが絡み合って解けぬまま、百人斬りの事件へと話がすすみます。

歌舞伎では容姿をネタに次郎左衛門の面子が潰されるようですが、
この筋のほうがリアリティがある気がします。
歌舞伎と小説のちがいでしょうか。
(小説が好評につき、これも3幕の狂言の戯曲にして上演されたそうです)

花魁の見得、男の見得。
自分に値段をつけることの果敢なさが身に染みるお話でした。

「心中浪華の春雨」
江戸時代に大坂で起きた3つの事件を1つに取り込んだ人形浄瑠璃を元に
のちにいろいろ書き換えられた狂言を、綺堂も書いているようで
そのノベライズ。

3つの事件のうちの1つの心中の主人公、六三郎という若者にスポットが当てられています。
この六三郎というのがとても気弱で真面目。
歯がゆいくらいなのですが、3つ年上の遊女のお園にはそれが可愛くて捨て置けないみたい。
お園は遊女という割りには、浮ついたところのない冷静な女性なんですけどね。
そんな女性だからこそ、こういう男に弱いのかも。
とにかくダメ男に甘い。
江戸へなんか行ったらきっといじめられる・・・辛い目に遭えば可哀そうと心配する。
もうなんかね、わかります(苦笑)。
でもだからって・・・。
いえ、そういう果敢ないお話なのです。

「箕輪心中」
「君と寝やろうか 五千石取ろか なんの五千石 君と寝よ」という歌で有名な巷話が元ネタです。
それを綺堂が3幕物の狂言「箕輪の心中」に仕立て、
のちに「箕輪心中」というタイトルでノベライズしたのだそうです。

旗本の若き当主藤枝外記と吉原の遊女綾衣の恋の結末。
外記は、なにに抗っていたのだろう。

身分違い、家、遊女という人身売買、そういうものがあってこその「心中」なのだと思います。
人一人の思いではどうにもならない虚しさ。やるせなさ。

綺堂自身の回想によると、発表当時(明治44年)はこの「心中」という言葉が
警視庁に許可されるか心配したそうだ。
その時は無事に通過し、その後「鳥辺山心中」を発表した時(大正4年)も支障はなかったのに
大正5年に「隅田川心中」という狂言を歌舞伎座で上演しようとすると
警視庁から「心中」という文字を削れと許可が下りなかったとのこと。
(よってこれは「風流一代噺」と改題)
大正14年頃には再びお構いなしになったそうで、言葉1つで上演を許可されたりされなかったり
というお上の圧力がしっかりあった時代だったのだという事実が現代の私には驚きです。

「両国の秋」
大正5年に創刊されたばかりの『婦人公論』に掲載された小説だそうです。
蛇使いのお絹、茶屋女のお里、2人の女の狭間で葛藤する御家人の次男坊仁科林之助。
侍といっても家柄の低い者はいろいろと大変で心痛だなぁ。
身分が邪魔、侍の矜持が邪魔。面子が邪魔。心の弱さが邪魔。
身勝手な男の心境がよく伝わってきました。
発表当時、読者の若い御婦人方はどう読んだのでしょうね。

小説が好評だったので綺堂自らの脚色で上演もされたそうです。

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コメント

やっとこさこちらに辿りつきました。
面白そうな本ですね。今度探してみます。
来週お会いできるのがなんだか楽しみ。。
今週いっぱいこちゃらにいて戻ります。

投稿: 一陽 | 2011/08/29 02:36

◇一陽ちゃん、
ブログ読んでますよ。
ハプニングもまた旅の思い出ですよね。
コメントつけようと思いつつ話題とズレが生じてあれ?
でそのままになってます。ごめんなさい。

この本オススメです。
平積みになっているようなものではないので
検索PCがある大きい本屋さんで探してみてください。
それか岡本綺堂コーナーがある本屋さん?
私はもっぱらネット書店で購入です(^_^;)

それぞれの戯曲も読みたいのですが、
ハードカバーでお高くて手が出ません。。。

計画中はまだ先だなぁと思っていましたが
近づいてきましたね~
私もたのしみです♪

投稿: theo | 2011/08/29 11:21

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