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2011/11/14

魔力ならば醒めないでいたい。

錦秋博多座大歌舞伎夜の部の3演目めの「楊貴妃」は
大佛次郎作昭和26年初演のお芝居だそうです。

同じ博多座で2004年に上演された、楊貴妃を描いた宝塚歌劇
「花舞う長安」のことを思い浮かべながら見ましたが、
こちらは、とっても大人な、それぞれの登場人物の単純ではない心のうちが描かれた
どこかだれかの心の洞にはまり込んでしまいそうな作品でした。

舞台セットが素敵で、天真(楊貴妃)が住まう道教のお寺の様子だけでわくわく。
モーブの薄物のカーテンや猫足の飾り台の上、青磁に生けられた一輪の牡丹。
お寺だから派手ではないのに、綺麗でうっとり。

そこへ、唐風のローブを纏った楊家の3人の姉たち登場。
笑三郎さん(のちの韓国夫人)、春猿さん(のちの虢国夫人)、芝のぶさん(のちの秦国夫人)。
とたんに舞台が華やいで、私もテンションあがりました(笑)。
綺麗な衣裳に優美な調度に美しい女形~)^o^(

笑三郎さんは、長女らしいものの分かったお姉様。
春猿さんは、いちばん喧しくて上昇志向な2番目のお姉様。
芝のぶさんは、2人の姉の後をついて行くタイプのお姉様。
大唐国きってのかしまし娘ですね(笑)。

姉たちがおしゃべりをつづけていると天真(福助さん、のちの楊貴妃)が登場。
姉たちが華やいだ桃色系のお衣裳なのに対して、白×ブルーのグラデーションの
なんだか寂しいお衣裳です。
1度目の結婚に失敗してお寺に引篭もっているという寂しい設定だからかな。
もったいないかんじ。

彼女は、このお寺にときどき訪れる高力士のことが気になるみたい。
だって、高力士さん(海老蔵さん)、めちゃくちゃ美男子なんですもの。
あんな人がたびたび尋ねてきたら、そりゃ~ぽ~っとなっちゃうと思うの。
見たらわかる。
ホント。
登場だけで説得力でした。

(以下ねたばれだと思います)

高力士さんは、宮中の有力な宦官で、天真を玄宗皇帝の後宮へ入れるために
彼女のもとを訪れていたのですよね。
そうとは知らずに高力士に恋心をいだいていた天真。
想うだけで思わず笑ってしまうくらい幸せだった夢を、
よりにもよって恋していたその相手によって打ち砕かれてしまって。

それからの天真の変わり方がひょ~!!あらあらびっくりでした。
夢を打ち砕かれた天真は、
勅命を告げ、玄宗の待つ宮殿へ行く支度をするよう告げる高力士に、
「影が口上を言うの? あの影が」と笑ってた・・・。

(高力士が登場する直前に、従兄の楊国忠から高力士は、男性としては
女性に向き合えない宦官、即ち皇帝1人が男である後宮の「影」だと教えられてた)

でも、その意地悪なさまですら、愛嬌があって可愛かった・・・。
高力士の胸中はどんなだろう?どきどきしました。


第二幕はいっきに10年後。
宮中の牡丹園で。

楊貴妃のいでたちは1幕とは打って変わって、艶やかな衣裳にすんごい釵。
楊貴妃の言動も、ずいぶん違う。。。
女性は、着るもので気持ちも変わる。
気持ちが変わると着るものも変わりますよねー。

女として手に入れられる全てをその手にした自信。
だけど、それでも満たされていないのかなー。
まだまだほしがるのはなぜかなー。
美しい口で、人間は裏切るから嫌いという。。。
皇帝に愛されて、大事にされて、贅沢三昧なのに、
道教のお寺で、誰かを想ってその訪れを待っていた頃のほうが幸せだったのかな。

李白が自分のために作った詩も気に入らない。
自分を誰かに喩えているから。「貴妃は貴妃だけのはずでございます」
プライド高ーい!

楊貴妃が去った後の、李白と玄宗皇帝の会話に、いちいち共感してしまいました。
李白曰く、驕慢も怒りも楊貴妃には化粧となる。何をしてもお美しく見えると。
生きる命の魅力をぎりぎりまで御身に示されたお方、と。
うんうん、そういう人がいるのよね、この世には・・・。

すこし疲れた風の玄宗は、私はただあれ(楊貴妃)に溺れている人間だと。
他の者には見えるはずの欠点も、自分には目に入らないと。
そこまで溺れられるのは、幸せじゃないかなぁと思います。

花は散るもの、夕焼けは消えるもの。
けれども楊貴妃の前に立つと、それを忘れてしまうのだと。
たのしみがいつまでも続くような気がする。
目の前の瞬間が、永遠のもののように思われると・・・。

そんな人に出会ってしまったら、それが幸せと覚るしかないような。
それこそが貴いもののような気がする私です。
玄宗の心持ちは、わかる気がするなぁ。。。

これが魔力なら、いつまでも醒めないでいたい、ともはや独白のように。
もう、ここよりほかに居場所はない。そんな玄宗の声が聴こえるようでした。

(まぁそれで政を過ってしまうのですが・・・)

ここまで思われているのに、まだ足らない楊貴妃・・・。
彼女の手に入らないものは何なのでしょう。

この後の、高力士が李白に楊貴妃からの放逐の伝言を告げに来て
2人が会話するるシーンも、言葉の裏にある気持ちが見え隠れする見せ場でした。
ひょ~李白さん、それかなり嫌味ー!
く~高力士さん、いやなやつー!

本音を言わない、いつも綺麗に収める。それが宮中での宦官の処世術なのかなぁ。
醒めて笑顔をつくりながら、言わないでもわかれよ、という高圧さもあったりして。
ぞ~~~っ。
でも美しい男です。

次から次に見せ場になって、
酔った楊貴妃が高力士に絡む。
皮肉をいい、またも「男の影」という言葉を使って揶揄する。
そして、私に触れてみたくはないかと誘惑する・・・。
男にしてあげると。

美しい2人がもみ合い絡み合い・・・。
そこまで言っておきながら、思わず楊貴妃を掻き抱こうとした高力士を
無礼だと突き放す貴妃。
なんて残酷な。
さらに高力士を貶めることを言いながら、大唐国の楊貴妃を咎める者がどこにあろうかと。
そう作り上げたのは、そなたではないかと。

どちらの気持ちも痛ましい、もう、ほんとうにこのシーンは夢に見そうなくらい、
美しくて残酷で胸にきました。


第三幕は、1年後の馬嵬駅。
安禄山が乱を起こし、長安を追われた玄宗たち。
叛乱の原因となった楊貴妃を引き渡せという敵の要求。

そんなことはできないと思い悩む玄宗に、楊貴妃は自分は露ほどの未練もない。
むしろ自分の美しさのために国が傾いたとならば、貴妃の名は誉れにもなりましょう。
私の美しさは万代の世までも語り草となりましょうと、
美しくおつくりをして、楊貴妃として敵の前に出ると言います。
牡丹の花のように盛りの時に散るならば、願ってもないことと。
この期に及んでもプライド高い楊貴妃。
傾国の美女はこうでなくちゃ。

身支度を整えに去った楊貴妃を見送ると、おもむろに玄宗に非難めいたことを囁く高力士。
貴妃を敵に引き渡せば、八つ裂きにされ惨殺されるのは間違いない
それならば、陛下の手で貴妃をなきがらにして敵に渡したほうがいい―――
決断を迫ります。
高力士、忠臣の体でこわいです。
心弱った玄宗は、もう高力士の心のままです。

惨殺されるのは耐えられないが、自らの手で殺めるのもためらう玄宗。
高力士にかわりにやってくれと。
一度は辞退するも勅命ならばと承る高力士。
言葉とはうらはらのパワーバランスがすごかったです。
それこそが、高力士の狙いで。

梨の花の下、楊貴妃をみつめる高力士がぞっとするほど美しかったです。
抵抗する楊貴妃。
自分の積年の本心を明かし、貴妃を殺めることが本望とばかりに
残酷な悦びに顔を輝かせる高力士。
抱きしめた楊貴妃の釵を抜いて―――
梨の花咲く庭に息絶える楊貴妃はたおやかでまるで絵のようで。
これで、楊貴妃は自分ひとりのものになった。
そんな満足感に浸っているように薄く笑う高力士が、やっぱりぞっとするほど美しかったです。

どの演目も、見応えがあり、初心者の私でも楽しめて
ほんといいもの見たわ~でした。


(私信)
cosmoさん、とつぜんご一緒していただいてありがとうございました。
観劇後の1杯も美味しかったです。
楊貴妃、ゆうがさんで見てみたいですよねぇ
つぎは梅田で~

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