そも恋は何の重荷ぞ。
先週金曜日は、夫の引越しの荷物を出したあと
娘と忠三郎狂言会に行きました。
毎年10月の第一金曜日に開かれるこの狂言会に行くたびにもう1年経ったのかと思うのですが、
忠三郎さんの一周忌である今年はさらに感慨ひとしおでした。
忠三郎さん、千作さん千之丞さんという
狂言界の燻銀の芸を見られることが魅力で
毎年見てきたこの狂言会でしたが
残念なことに忠三郎さん千之丞さんのご逝去により
昨年より大きく様変わりしました。
良暢さんをはじめ、大藏流の若手の狂言方の芸を見つつ
狂言の世界のこれからに思いを馳せる会になったような気がします。
さて。ことしの選曲は「禰宜山伏」「文荷」「泣尼」でした。
「禰宜山伏」は、禰宜を善竹忠亮さん、山伏を良暢さんがつとめられました。
忠亮さんは初めて拝見しました。
強力な山伏の良暢さんに対して、非力で人の善い禰宜という雰囲気でした。
山伏の前でぶるぶると震えるところや、美味しそうにお茶を飲むところが好きでした。
良暢さんの山伏はいやなやつ(笑)。
出羽の山から下りてきたばかりで、その立場、霊力を嵩に来て居丈高。
修行した山を上に見て、市井の者たちを見下している感じ。
現代でもいる。こんな人。
自分が属している方を上に見て、他の人たちを偉そうに見下す人。
自分が敬われないと無理無体云う人。
昔の観客であったお侍さんたちは、山伏が好きじゃなかったのかなー。
偉そうな山伏が面目をなくして逃げていく姿に、滑稽を感じていい気味と思ってたのかなー。
そんなことを思いながら見ました。
・
「文荷」はなんどか見たことがある曲目です。
忠三郎さん千作さん千之丞さんでも見てる。
この太郎冠者、次郎冠者好きです。なんとも憎めない。
なんとなくシェイクスピアの喜劇を思い起こしてしまう。
場所はちがえども、中世の雰囲気なのかなぁ。
この2人。
主人から「かの方」へ届けるように託された恋文を好奇心から勝手に見ちゃう。
主人は、男同士の契りを結ぶくらい真面目で恋文の内容も真剣。
その真剣さをネタにどんどん興がのってふざけるうちにとんでもないことに・・・。
2人の無邪気さや茶目っ気と、
対する主人の湯気が出そうな真面目さの対比が面白い。
このあと、怒ってへそを曲げた主人を2人してなだめすかして
けっきょくはゆるしてもらうんだろうなーと
そんな想像をするのも楽しいです。
「泣尼」は、僧を大藏基誠さん、泣尼を良暢さんがつとめられました。
僧の基誠さんは、昨年はじめて拝見しましたが、長身で姿が良い方。
一方の良暢さんは、そんなに縮むものかと思うくらいに腰を曲げた尼姿。
ものすごい身長差がそこに。
僧は思惑があって、なんにでもすぐに泣くという泣尼を伴って説法をするのですが
泣尼ときたらまったく思惑通りにならない。
どうでもよいことにはよく泣くくせに。
そのやりとりや、僧の説法をまったく聞いていない泣尼の様子が可笑しかったです。
それにしても良暢さんの腰の曲がり具合はすごかった。
3曲ともわかりやすくて、一緒に見た娘も隣でよく笑っていました。
帰り道も面白かったーと満足気でした。
こんな母娘の狂言ナイトもいいもんだなぁと幸せな気持ちで
新幹線で旅立つ夫の見送りに行きました。
平成24年10月5日(金) 午後6時45分開演 福岡大濠公園能楽堂
「禰宜山伏」 山伏 茂山良暢、禰宜 善竹忠亮、茶屋 篠原太一、大黒 中川広大
「文荷」 太郎冠者 秋吉英二、次郎冠者 中島清幸、主 河原康生
「泣尼」 僧 大藏基誠、尼 茂山良暢、施主 田口英俊
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