もはや涙は乾いてしまったけれど。
思い出の街に雨が降る
泣き濡れたあの日が甦る
もはや涙は乾いてしまったけれど…
「薔薇降る夜に蒼き雨降る」のナンバーが脳裏から離れません。
千秋楽から一週間以上経っているのに。
本当に記憶に深く残る作品でした。
荻田先生らしい言葉の世界。色。人間関係。
それぞれの出演者に宛て書きされたような個性ある登場人物。
本当に癖になる作品でした。
見終わってからのほうが後をひく。
思い出の薔薇に雨が降る
かりそめの恋人を憐れんで
もはや涙を流してくれる人もいないけれど
悠河さん演じるカッサンドラは
アンダルシア出身のロマ。
「教養のない父親と勇気のない母親」の元を飛び出して、
バルセロナのバルで観光客相手のフラメンコダンサーをしてた。
・
そのとき出会ったのが、
同じフラメンコダンサー&シンガーのビセンテ(中塚皓平さん)とエフライン(TAKAさん)。
まるでカルメンのように、自由に、彼らの心をざわめかせ、
謎めいて艶めいて傷つける女。
それがカッサンドラだった。
そしていつの間にか彼らの前からいなくなってしまった。
次の邂逅はマドリード。
政府高官ウーゴ・アルリエータ・ペドロッサ(tekkanさん)の妻ソニア、
別名“ラ・コンテッサ”(伯爵夫人)を名乗って。
でもそれは嘘。
バルセロナでフラメンコダンサーをしていたカッサンドラは
さらに上昇を夢見てカタルーニャの分離独立を目指す地下組織と接触、
組織のメンバーとなっていた。
そして同じメンバーのシルベストレ(東山義久さん)となにやら割りない関係ぽい。
じつは組織の首謀であるウーゴの身辺が危うく、その危急を打破するために
ウーゴ本人とその妻ソニア(AKANE LIVさん)によってひとつの謀が立てられた。
ウーゴは殺害されたと世間を欺き、その後地下に潜伏して安全に活動をつづける。
その偽装殺人工作のため、組織のメンバーであるカッサンドラがソニアになりすまし
マドリードに殺人依頼に来たのだ。
というのは表向き。
ウーゴとソニアの真の目的は、
組織を裏切って、マドリードで暗躍する闇の商人アンヘル(森新吾さん)と接触した
カッサンドラを制裁すること。
ウーゴの身の安全を図ると同時に、殺害の嫌疑をカッサンドラに向けるための策略。
カッサンドラは、ウーゴたちにはめられているのだ。
けれどカッサンドラはその策略を利用して、ウーゴを本当に殺してしまおうと
シルベストレに持ちかけていた。
だって、トップですら命を狙われてしまうような危機に瀕した組織にいたって
先は知れている。
彼女には思想とか理想とか政治的信念とかそんなものはない。
いまよりもっと自由にのびのびと羽ばたける場所で生きたいだけ。
だからシルベストレに、ウーゴを殺し組織を捨てて、2人で自由に生きていきましょうと
甘く囁く。
でもそれもまた嘘。
カッサンドラとシルベストレが手を下す前に、ウーゴは暗殺された。
アンヘルの手の者によって。
シルベストレとアンヘルのあいだでは、カッサンドラと本物の“ラ・コンテッサ”の謎をめぐって
仲間を裏切る取引きが。
アンヘルには“ラ・コンテッサ”とそれにまつわる利権を手に入れる鍵が
シルベストレにはカッサンドラが、それぞれ手中に収まるはずだった。
けれどもカッサンドラはシルベストレに明日はないと読んでいた。
理想と現実の狭間で心引き裂かれ、もはやカッサンドラと生きることしか残っていない彼に
彼女が望む未来を切り拓くことはできないと。
カッサンドラと“ラ・コンテッサ”の謎、両方を手に入れたのはアンヘルのほうだった。
でもそれも、アンヘルのちょっとした油断で終えてしまう。
カッサンドラは自由を手に入れた。
アンヘルに怯えながら生きていくのは「自由」ではないから。
二度と悲しい故郷には戻りたくない。
その思いから、上へ上へと目指してここまできた。
興味をひくもの、刺激的なものを追いかけて。
瑣末なことにはこだわったりしない。
誰かを愛したことなども。
そして偶に。
ほんとうに偶に
薔薇に降る雨を思い出すのだろう。
捨てた過去をほんのすこし思い出しながら。
お芝居の幕は閉じ、
もう二度と逢うことは叶わないのに
またもう一度逢いたくなってしまう
カッサンドラはそんな女性でした。
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