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2015/02/09

スウェーデン王国のために。

2月5日から7日まで、東京宝塚劇場で
宙組公演「白夜の誓い」「PHOENIX宝塚!!」を見てきました。

グスタフがどんどんストイックになっていくようでした。

この人は自分の死期を知っているのではないかと思うほど
物語がすすむにつれて何かを急いているようでした。

アンカーストレムを退けるときの「さがれ!」が
まるで彼自身の心の悲鳴のように聴こえました。

個人としての想いと国王としての信念。
二つの心が彼の身を引きちぎっているように。

『人は何かを手に入れれば、また何かを失う ―― 』

そしてそれからのグスタフにはもう、“スウェーデン”しか残っていないようで。
「私(わたくし)」は捨ててしまった人のように見えました。

完成したオペラ座を見上げる瞳に喜びよりも悲しみが宿っているように見えました。
大切なものを失って得たもの ―― その象徴であるオペラ座。
もうこれしか、彼には残っていない。

国王としての彼にはこれでまちがっていない、という絶対の信念がある。
オペラ座は、国王としての彼のいままでの功績の象徴でもある。

グスタフはそれを、アンカーストレムとともに喜びたかったはず。

そこに公私一体の、かれのたどり着くべき場所があったはず。
だけれど、グスタフのかたわらにアンカーストレムがいない。

「平和の殿堂がついに完成したのだ」
王としての達成感と安堵に、悲しい喪失感を帯びているように見えました。


『人は何かを手にした時、また何かを捨てる ―― 』

グスタフに斥けられ茫然自失でそう歌ったアンカーストレムの瞳には、
まるで主に捨てられた仔犬のような、深く傷ついた悲しみが宿っていました。

国王として「何か」を手に入れたグスタフは、私(アンカーストレム)を捨ててしまったと。

読書家で内向的なグスタフは、ストックホルムでの少年時代もパリの社交界にいても
アンカーストレム以外に心を開ける友はいなかったのだろう。

グスタフの傍らが彼アンカーストレムの居場所だった。

イザベルは、グスタフにとってアンカーストレム以外ではじめて心開ける人だったのだろう。

「ほどほどにしておけよ」―― どうせ人に傷ついて、俺のところに帰ってくるんだろう?
あのヤコブ(アンカーストレム)には、そういう余裕が感じられました。

けれども、イザベルとともに啓蒙思想を学び感化されたグスタフは、
将来の君主としてその内面を大きく成長させていた。

王党派の臣下たちに希われ国王としてスウェーデンをこの手に取り戻すと決意するときも、
ニルスに農民たちの困窮の有様を聴き、私を信じてくれとその信頼を勝ちとるときも、
リリホルンの贖罪の自殺を踏みとどまらせ「もういちど私に命を預けてくれ」と言うときも、
「私はロシアと戦う」と決意を口にするときも、
グスタフの胸には、イザベルのもとで学んだ思想と自信がある。

そこにアンカーストレムは踏み入ることができない。

いや、踏み入ろうとすれば、理解しようとすれば彼にもできないはずはないのだけど。
でも、そうしようとしない理由が、彼にはあるような気がする。

幼い頃、聖堂で撫育官テッシンが祖国の英雄ヴァーサ王の伝説を語るかたわらで
夢中で聞き入るグスタフと、一心に木を削り木彫の「剣」の出来栄えを気にするヤコブ。

グスタフに最高の「剣」をプレゼントしたくて一生懸命なんだなぁと思ってきゅんweep
この頃から彼は、「すべてはグスタフのため」なんだなぁ…。

対するグスタフもまた、この頃から偉大なヴァーサ王のように
「みんなを守る」なんだ。

『あの頃から何も変わってはいない』のは、グスタフだけではなくて、
アンカーストレムも同じ。

この3日間に見たアンカーストレムの瞳には、自分のもとから離れていくグスタフへの
焦りや悲しみが見えた気がしました。

グスタフを守りたいのに、グスタフは皆を守るために彼方を見ている。
グスタフが進もうとする道は、あきらかに「まちがっている」。彼の目には。

幼いとき、一心に木を削り剣をつくったように、
軍人として一心に自分を鍛錬し真剣に軍事学を学んだのだろうアンカーストレムの矜持は
先進的な考えのグスタフにことごとく砕かれる。
グスタフの考え、やり方では、国は守れない。

スウェーデンを軍事大国にし、常に勝ち続けること。
それ以外に国を守り、グスタフを守る方法などないはずなのに。

『すべては国のためだ』とは
アンカーストレムにとって「すべてはお前のためだ」と同義なのだと思いました。

『軍隊は俺の人生そのものだ』とは
「お前を守ることは俺の人生そのものだ」ということだと。

『なぜ俺の思いをわかってはくれないんだ ―― 』

“お前”を“国”と言い換えなくてはならない。
だから心に闇が拡がるんだよ、アンカーストレムweep

『お前の命を私に預けてくれないか』――この言葉こそ彼が待っていたものだよね。
それを目の前で、別の人間に言うグスタフ。
そりゃあ、心に闇が拡がるよねweep

軍人として誇りと厳烈さをもって行ってきただろう軍事訓練。
それを山育ちの山賊や農民たちに簡単にやられてたまるかと思うよね。

そしてグスタフを変えてしまったあの「フランス女」をストックホルムに呼び寄せるとか…。

彼の心が冥府をさまよう亡霊のようになってしまうのもわかる気がしました。

グスタフは自分が正しいと思うことを行うときに性急すぎて
疑問を抱いた者を取り残してしまうよね。
信奉、心酔しきった者でないとついていけない。
大事なのは、信奉者でない人びとをどう味方にするかなのに。

あとすこし、お互いに手を伸ばしあっていれば ―― こんなすれ違いはおきなかったかも
しれないのに。
こんな悲しいことにはならなかったかもしれないのに。

アンカーストレム目線で見てしまった2日間3公演は、悲しくてたまりませんでした。

アンカーストレムにとって『国』とは、「彼(グスタフ)」と同義。

グスタフのやり方では、スウェーデン王国は崩壊し
きっと何者かによってグスタフは殺されてしまうだろう。

グスタフのためにグスタフを暗殺する決断をするまでに、
彼の心のなかにどれだけの闇が拡がったかと思うと、とてもつらかったです。

国王を暗殺した者がただではすまないことは百も承知でしょう。
グスタフを殺して自分も死ぬ。
それしか選択がないほど追い詰められて。
彼はそうすることで命をかけてグスタフを守るつもりで。

『スウェーデン王国のために』
それはアンカーストレムにとって精一杯の愛の言葉。

グスタフもまた心のなかではずっと彼を待っていて
彼の姿を見とめたときには仄かな希望が見てとれる。――「来てくれたのか」
苦しい息の下で、どうしても彼に伝えようとする思いを言葉に紡ぎだす。
彼がつくってくれた「剣」を懐中から出して見せて。

「これをおぼえているか」
「私の思いはあの頃となにも変わってはいない」
「私が築きたかったことをわかってくれるか」
「お前は誰よりも国を思い、私を思ってくれた」

それ、アンカーストレムの心をわかっているってことだよね。

死に瀕してのグスタフの朦朧としながらもすべてをやり終え、伝え終えた感。
そのなかには確実にアンカーストレムに伝えた愛がありました。

卒業の日まで10日を切ったあの日、
グスタフにもかなめさんにも思い残すことはもうなにもないのだと ―― そう思いました。

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