物事はいつでもあるべき道をたどります。
6月8日と9日に宝塚大劇場にて宙組公演「王家に捧ぐ歌」を見てきました。
・・・の感想のつづきです。
配役が発表になったとき、もっとも心配だったのが
ゆうりちゃん(伶美うららさん)のアムネリス役でした。
なにしろ初演では、月組で2年トップ娘役をつとめ、さらに専科で経験を重ねた
檀れいちゃんが星組トップ娘役としてのお披露目で演じた役ですから。
トップスターの相手役として寄り添う役ではなく、娘役といえど1人で毅然と立っていなければ
成立しない役、それが「王家に捧ぐ歌」のアムネリスですから。
それを別箱ヒロインの経験があるとはいえトップ娘役ではない彼女が演じられるのかなと。
その大人っぽい容姿から、主人公よりも年上の美貌の女性役をふられることが多い
彼女ですが、前回の大劇場公演のエグモント伯爵夫人イザベラのお芝居を見ていると
ほんとうは年齢相応のお嬢さんなんだろうなぁという印象があったものですから。
「翼ある人びと」のクララ・シューマンや「SANCTUARY」のマルゴなど
演技指導や設定など細かい指導があれば、それに応えられる力はあるけれど
前回のイザベラのように、彼女の等身を大きく超えた器の大きな人物を
自分で解釈しての役作りするとなると、なかなか苦戦しているように見えました。
初演でこの作品のアムネリスの重要性を強く感じていただけに
ゆうりちゃん大丈夫かなぁ。毅然とラダメスと対峙できるかなぁ。
とくにラストのアムネリスはその美しさと威厳で作品の意味合いを決めるからなぁ。
どきどきどき・・・・・・で望んだ8日の初見。
結論を先にいえば、ゆうりちゃん、ちゃんとアムネリスでした!
・
たとえばラダメスが初演のままの湖月わたるさんだったら歯が立たないと思いますが、
朝夏ラダメスと実咲アイーダに伶美アムネリスはよいバランスでした。
なによりあのアムネリス様の豪華なコスチュームに負けずに着こなせているのが凄い。
豪華な寝椅子に身体をあずけてネイルケアをさせている傲慢で美しい姿。
黄金色のケープを翻していく気高さ。
シャキンシャキンと鳴るゴールドメタリックなドレスの優美な立ち姿。
ああ、宝塚を見ているわ~と惚れ惚れ♡
コスチュームに負けない着こなしは、そのままアムネリスの気高さと矜持に通じて。
まなざしも声も、堂々としたエジプトの王女、ファラオの娘として舞台に存在していました。
2幕冒頭の平和を謳歌するエジプトの民が努力や研鑽を忘れて
拝金やアイドル礼賛にうつつを抜かす様を、厳しく批判するアムネリスには、
その出自や美貌といった神の恩恵に甘んじず、さらに美や知性を磨く
向上心と努力の人であることがうかがえました。
常に勝者でありつづけること。
そのために自分を磨くことを怠らない。
その自分に向ける厳しさ、他人に向ける厳しさが、彼女のプライドの源でもあるのだなと。
だからそうではない者たちに、価値を見出せない。
戦うことを忘れて怠けている者、愚かな民に腹が立つ。
負けを認めて他人の足元に跪く存在をみとめることができない。
彼女を選ばず、
敗戦した国の憐れを乞うしかすべがない女を愛するラダメスの気持ちがわからない。
そんな精神性を感じて、ああ、彼女はファラオの“娘”なんだなぁ。と思いました。
「偉大なものは偉大なものである」
その偉大なものとは、太陽であり神でありファラオである彼女の父親。
その偉大なものに認められることこそが、彼女のアイデンティティなんだなぁ。
神より選ばれし統治者ファラオの娘として
神に等しい父が選び望んだ者を伴侶とすることによって父(神)に認められることで
この国でもっとも価値のある女性になるのだと信じているんだなぁ。
ナンバーワンであろうとしながら、じつは主体は別のところにあるのが
彼女の悩ましいところだなぁと思います。
神に認められその期待に副うこと、すなわち自分を選びエジプトの統治者となるという
自分にとってもっとも価値あることを、ラダメスが望まないことが理解できないのだなぁ。
『わからない、わからない、あなたの気持ちがわからない。』
自信に満ち溢れているように見えるけれども
彼女の魂は、神(父)の愛をもとめる不安な幼子なんだなぁ。
その『ファラオの娘』である彼女が目の前で父を殺され
国家の危機に直面して、心を決める。
ファラオの血統を継ぐ者として自分が全責任を負うのだと。
その瞬間から彼女は、それまでとは別の視点を持つようになったのだなと思いました。
つねに与えられる立場から、人にどう与えるかを考える立場に。
ファラオになると宣言し、裏切り者のラダメスを閉じ込めてしまいなさいと
宣ったあとの、感情を押し込めて堪えていた後姿が印象に残っています。
あのシーンは見事だなぁと思います。
とても好きな場面でした。
思いもかけず突然にファラオの責任を負うと決心した彼女の心中は。
ふつうの人だったら耐えきれない重圧だろうに。
でも、この女性ならばきっと背負えるだろうという説得力がアムネリスには必要で。
ゆうりちゃんはそこをちゃんと見せていたと思います。
ゆうりちゃん、すごいよと思いました。
と同時に、1人の女性としても彼女は変わっていました。
それまで父ファラオや国といった権威を借りてラダメスの気持ちを自分に向けさせようと
あがいていた彼女は、自身がファラオとなってはじめて
彼女自身の心からの願いとして、自分を選んでほしいとラダメスへ訴えていました。
ここで彼女の変化を感じたんですよね。
本音を吐けるってある意味強さだなぁと思って。
強がる必要がなくなった人って逆に強いなぁと思って。
でも、そこまでしてもラダメスの気持ちは得られなかった。
そして、ファラオとして宣った言葉は覆すことはできない。
せつないなぁ…アムネリス様。
その身に引き受けた責任において愛するラダメスを二度と出られない地下牢へ閉じ込めて
毅然とエジプトの民にファラオとしての宣旨を述べる。
不戦の令を。
神々しい輝きを放つその姿を見ながら、
その心のなかにはどれだけの嘆きと苦しみが溢れているだろうかと思うと
とてもせつなかったです。
この宙組の「王家に捧ぐ歌」は、初演の3人の圧倒的な存在感に比べると
それぞれの人物の人としての迷いや弱さが見えて、人間らしい印象をうけました。
ラダメスしかり、アムネリスしかり、アイーダしかり。
この宙組版ならではのバランスじゃないかなと思います。
あくまでも、まだ初日が開けたばかりの印象なので、
このあとどんどん変わっているのだろうなぁ。
さらに進化したアムネリスを見たいなぁ。
この役で伶美うららはきっと大きく成長するだろうなあと信じています。
以上、アムネリス様だけの感想になってしまいました。
(アイーダや他の人たちの感想も書きたいのに…。書けたらいいなぁ…)
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