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2015/09/04

なんとか、それまで生きてみようと思います。

加東大介著『南の島に雪が降る』(ちくま文庫)を読みました。
先月キャナルシティ劇場で見た同名のお芝居の原作です。
お芝居を見て原作を読みたくなりました。

テンポのよい読みやすい文章はさすが舞台俳優さんだなぁと思いました。情景がすうっと浮かんできます。
人が簡単に死んでいくとても悲惨で悲痛な状況にいるのだけど、そのことを細かに語るのではない。
故国を遠く離れて過酷な毎日を送る仲間たちに芝居を見せるために、あの時代あの場所で、多くの制約や障壁のなかで(食糧も物資も健康な体も安全な環境もないなかで)知恵や朗らかさや得意とするものを惜しみなく出し合い、苦手や困難にストイックに立ち向かう彼らの生き様を描くことで、そしてその舞台を必死の思いで見に来る兵士たちを描くことで、あの時あの場所にいた人びとの故国やそこにあった生活への焦がれるような想いをおしえてくれました。
そして憧れや夢見るひとときの貴さを。人にとってそれがどんなにちからになるかを。

作者の加東大介さんはとても温かい目線をもった方だなぁと思います。
お父様が黙阿弥のお弟子の狂言作家であったと知り、なんだかことしは私にとって黙阿弥イヤーだなぁと勝手にえにしを感じたり。
さらに女形姿で兵隊さんたちのアイドルになった前川五郎さんがスペイン舞踊教師として宝塚で教えたこともありますというくだりに、ほぅ…と宝塚歌劇の歴史も感じました。
こんななんでもないことに意味を見るのが人というものだなぁ・・・とこの本を読んだことで思うようになりました。

おかれている状況は、この本のなかに生きている人たちとは比べものにもならない私だけれど、それでも舞台に何かを見たりスターに憧れたり、観劇する日を待ち遠しく思って生活の張り合いにしているのは、根っこはおなじ気がします。
人であればこそ虚構を愉しむことができるし、虚構にちからをもらうのだなぁと。
この作品に出逢えてよかったです。

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