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2015/12/02

道を外れる権利。

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11月28日(土)福岡市民会館にて、宝塚歌劇雪組全国ツアー公演「哀しみのコルドバ」と「ラ・エスメラルダ」を見てきました。

(ねたばれしています)

約5ヶ月ぶりに見る宝塚歌劇。昨年秋の就任以来、芝居で観客を魅了してきた早霧せいな&咲妃みゆトップコンビによる2度目の柴田作品の上演に期待を膨らませ心躍らせての観劇となりました。

柴田侑宏先生脚本の作品は、前途洋洋たる青年が運命の女性との出会いと己が立ち向かう現実に激しく感情を動かされ、その経験を経て大人の域に足を踏み入れるまでの模様を描いたものが多く、今回見た「哀しみのコルドバ」もそういった作品の一つだと思いますが、正直なところ主人公のエリオに大人を感じる瞬間を逃したままラストを迎えてしまいました。

酷い現実をつきつけられたエリオが自分が味わった苦しみをエバに味合わせた者は殺すと言い放つ場面など、自分の痛みにいっぱいいっぱいに見えたのですが、じっさいそれもわかるのですが、私としてはここで大人の男の凄みとか大きさが見たかったなぁと思いました。ちぎちゃん(早霧せいなさん)は見た目が少年的なのでそう感じたのかもしれませんが。

一度は命のやり取りにまで至った敵手ロメロがエリオに歩み寄るところも、ロメロの大きさが見える胸きゅんな一瞬でしたが、そこでもエリオのほうからの「何か」がもちょっと見えたらもっと胸バクな瞬間になったのにな。柴田作品の好敵手と交し合う「何か」が大好物なもので。

ちぎちゃんの真っ直ぐな魅力。正義とか友情とか絆のために一生懸命で、勇気が似合い、皆に笑顔と元気をくれる力。
それがこのエリオには壁になっているような気がしました。
何が正しいか、どれだけ人を傷つけるか、わかっていてもどうにもならない情念。それにどれだけ強く揺さぶられているか。いろいろな感情や観念がどろどろに混ざり合い冷えて固まる前のさまを。
その果てに最初は纏っていなかったもの――情熱の涯てを知った大人の憂いや凄みといったものを纏ってエリオは完結する気がするのです。

トップ就任以来、トップコンビにぴったりの作品が続いて、雪組のプロデュース力に羨望をこめて感歎していましたが、ここにきて持ち味に真逆の作品が。ちぎちゃん最大の難関がきたーーー!ってかんじかな。

でもそれはそれでファンには大きな課題に取り組み成長する生徒さんの姿を見守り追いかける至福の時間でもあるのですよね。
まさにそんなふうに贔屓がいる時間を過ごし、いまもまたその途上にいる私は思うのですが。

ツアーはまだはじまって1週間をすぎたところ、その持ち味に柴田作品の領域を加味しより大きく成長することを願う楽しみがある。このタイミングで意図的にこの作品を当ててきたのだとしたら、そのプロデュース力に感服します。
長い道程の途中には、道を外れることも意味があるかと思います。
ちぎちゃんも道を外れる権利がある(笑)

と話が長々と逸れてしまいましたが観劇の感想に戻ります。

ミュージカルロマン「哀しみのコルドバ」は初演が1985年とのこと。強烈なスペインの母親たちや節操のない工場経営者の男。闘牛士の見習いたち。面子に命を懸ける男たち。上流の人びとなど端役の1人ひとりの背景までも浮かんできそうな確かな設定や風俗の描写。深い意味を含んだセリフや言い回し。1時間半の舞台の中に詰まった知性や教養。この世界観に影響を与えた映画や小説の匂いを感じつつ観劇しました。

マタドール姿や軍服や夜会服といった宝塚らしいコスチュームも華やかで見ものでしたが、演出はどうにかならないのかなぁとも思いました。
名作の脚本は宝塚の宝だと思うのですが、それを時代に合わせて新しく演出できればなおよいのに…と。
「るろうに剣心」の製作発表の動画などを見て興味抱いて宝塚を観劇する人たちのことも念頭に入れて興行しないともったいないのにと思います。

主要4人がそれぞれの関係性と感情を歌う「エル・アモール」の場面。書割が開閉しては奥から交互に人物が登場して歌い、また書割に入って消えて・・・というのはいくら全国ツアー公演でもちょっと・・・。
書割はなくしてライティング効果で見せるなどすれば、宝塚の名曲がいまの私たちの心にもっと印象的に染み入るのにもったいないなぁと思いました。

さらにまた、エリオとエバがどれほど再会に衝撃を受けているかがもっと見えたらよかったなぁと思いました。
ヒロインのエバ役の咲妃みゆちゃんはお芝居に定評のある娘役さんですが、彼女もまた柄ちがいの役に苦戦しているなぁと思いました。
過去にいわくのある社交界の華には申し訳ないけれど見えませんでした。

いろんな事情や状況は物語がすすむにつれわかってくるわけですが、まずはファーストインパクトとして、『社交界の華』たる美貌の女性が印象づかないとこの物語は成立しないと思うのです。
それは明朗で心清い少女でもないし、貞淑な奥方でもない。
その後すぐに登場する2者(アンフェリータとメリッサ)とはまったく趣を異にするタイプの女性。
清純にも貞淑にも見えないどこかいわくありげな艶やかな女性がそこにいなければ。

8年ぶりにエバに再会したエリオはまずその変貌に驚くのではないかな。
やがて事情がわかるのだけど、父親のいない貧しい娘が田舎から都会に出てきてお金持ちの未亡人になっている。大きな声ではいえない人生を歩いてきたのだろう。
いまは財界の有力者のパトロンをもち夜会の女主人を務めている。それができるということは判断力も知性もある女性なのだろう。

そんなエバのエリオへの思いは、何も知らない少女のときめきでも貞淑な奥方のよろめき、気の迷いでもなく――
無力な少女の立場からやっとの思いで現在の裕福な生活を手に入れた才知も打算もある女性が、運命の再会に心乱された果てに、何もかもを捨ててもよいとまで決意できるほどの激しいもの。
その激しい思いに身を貫かれる様を見たかったのだけども。
その裡にあるエリオへの純情と、意図せずにも振りまいてしまう婀娜な風情のゆらめく瞬間を。
エリオへ向かう言葉のひとつひとつがエリオに染み入りその心を捕らえていくさまを。
もう逃れられない境地に陥った2人の姿を。

かつて愛した少女の変貌をエリオはどう捕らえているのか。
アンフェリータを婚約者にしたエリオには、その道を上りつめてきた男の良識も処世術も備わっていると思う。アンフェリータは彼の将来をさらに豊かにするに違いない申し分のない女性として存在している。
8年前のエバとの別離を心の奥の傷としている彼にとってその傷を癒してくれるであろうアンフェリータと古傷を疼かせる現在のエバと、どちらを選ぶか。理性に従うならまちがいなくアンフェリータのはず。

それなのにエバの無軌道ともいえる行動に引きずられていく。その心に納得してしまう瞬間が私には来なかったのです。
私の想像のなかにいるエバは、その発する言葉や声の一つ一つがエリオの心に染みていき蕩かしていくようなエバでして。
そんな私の理想をゆうみちゃん(咲妃みゆちゃん)に押し付けてはいけないのかなぁとは思うのですが、ゆうみちゃんは声のよい役者さんなので、役を掴んだらやってくれるんじゃないかなーと。もう一度千秋楽近くに見れたらよいのになぁと残念です。

とダメ出しばかりしてしまい申し訳ないです。
ただちぎみゆをもってしても柴田先生の恋愛ものは難関なのだなぁと思いました。可愛らしいのが持ち味のコンビでもあるからなぁ。
と過去の名作の再演に立ちはだかる困難を感じた観劇でした。
柴田作品を演じる生徒さんたちには、昔のヨーロッパ映画を見て「何か」を掴んでほしいなぁ。いやもう皆見てるかな(^_^.)時代かな。
私の中で理想の絵ができあがってしまってて。それを押し付けてはいけないですよね。


トップコンビ以外ですと、星乃あんりちゃんのアンフェリータか可愛くていいなぁと思いました。
「結婚したかったなぁ」と正直に自分の心に向き合える人なんだなぁ。自分の心やいまの状況をちゃんと分析できて言葉にできて、可愛いだけではなくて公正で理知的な人。
あの父(アントン)の娘だなぁと思いました。いずれは闘牛士見習いの皆の優しいお母さんになれそうな女性だなぁと。
そのあとの歌もよかったです。歌が得意な方ではなかったと思いますがこれくらい歌えるのだったらこの先ヒロインをやってもいいのじゃないかなぁ。

それからいつもエバたちの様子をうかがっているフェリーぺのひとこちゃん(永久輝せあさん)をついつい目が追ってしまっていました。
ノーブルな雰囲気を醸し出す軍服姿の佇まいにルドルフ(うたかたの恋)のかなめさんの面影を重ねてしまって。
こんなふうに舞台の端で輝く生徒さんにときめくのってしあわせな時だなぁと思いました。

鳳翔大さんと大湖せしるさんの美形夫妻は目に麗しくてよかったです。雪組さんは好みの美形が多くて目が足りなくなります。

望海風斗さん演じるロメロは、エバのパトロンで主人公の敵役。とはいっても何も悪いことはしてないですよね。
むしろ男の面子をつぶされて、名誉を守るために命を懸けなくちゃいけなくて災難ですよね(^_^.)
名士としてぶれない行動指針に基づいて行動しているわけだし。
そんな彼でも真実が白日の下にさらされたときには内面の動揺が一瞬仄見えるし、事実と状況をきちんと把握してエリオに対して紳士的に応対しさりげなく立ち去るし。紳士だし品位あるしステキな人じゃないか、と思いました。

ほんとにこの物語には悪人はいないのですよね。生きていくために必死だったり情熱に押し切られたりちょっと身勝手なだけでとても人間味に溢れている人ばかり。そして皆根はおおらかで寛大で。そんなところもスペインという風土を思わせる作品になっているなぁと思います。

そんな人びとにもどうにもできない人生がある。何かが狂って一瞬にしてすべてを失ってしまう。そんな人を見たときにどんな気持ちを抱くか。そこに見る人のこれまでの人生がある気がします。
そんなことを考えさせてくれるところに柴田作品の面白さがあるなぁと思います。

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