お前はいつも私を奮い立たせてくれる。
1月26日(火)宝塚大劇場にて宙組公演「Shakespeare~空に満つるは、尽きせぬ言の葉~」と「HOT EYES」を見てきました。
いまの宙組の強みと弱点がはっきりと見えた公演だったなぁと思いました。
(以下ネタバレ含みます)
お芝居「Shakespeare」は脚本の粗のほうに気がいってしまい、2回の観劇では登場人物の気持ちに感動するところまで至らずに終わってしまいました。
ウィルと父親との関係、ジョージの野望の顛末、夫婦愛、劇団の人間模様、どれもさいごまで描ききれていないのがもったいないなぁと思いました。
もうすこし筋道を整理したら格段に面白さが増すだろうにと。
せっかくタネを撒いたのに芽が出るのを待たずに、花屋で買ってきた花籠のアレンジを並べて見せられたみたいながっかり感。
たしかに花籠は可愛いけれど、あのとき撒いたタネはどうなったの?と釈然としないまま。
脚本家は、自分が書き出したものについてさいごまで責任をもってほしいぞと。
シェイクスピアへのリスペクト場面が随所に挿入されていましたが、それが登場人物たちの感情の高まりや関係性の緊張感とリンクしていないため、ストーリーの本筋をわかりにくくしてしまっている。
また演じる側もそれに引きずられてしまって、役としての心情を表現する妨げになっていて逆効果であった気がします。
その影響がいちばん大きかったのが、真風さん演じるジョージ・ケアリーかな。
前半マクベスになぞらえるようなシーンで銀橋も時間もじゅうぶんに使ったのに、さいごはあのオチですかい?的な役。
真風さん自身、いったいどう見せればいいのか、つかめていないのじゃないかなと思いました。
彼がウィルとアンを仲違いさせるに至る彼自身の気持ち、大事なとことだと思うのですが描かれていない。
ダーク・レディのシーンは必要?―― あのシーンでウィルは自分の欲望を自覚したように描かれていましたっけ?
ジョージがサウサンプトン伯やエセックス伯を仲間だと紹介するも、共に政敵に立ち向かうシーンは描かれていない。
もっと3人とウィルとで政敵を追い詰めるところを描き、それに対して逆襲されるかたちでの捕縛、そしてウィルが台本を書けないという大ピンチからのアンの愛…と、後半をしっかり描いて盛り上げてほしかったなぁと思います。
物語に起伏がないために、どう演じればいいのか演じる方もわからないのではないかな。そのせいか皆がそれぞれに自分の得意な芝居をしているだけになってしまっている。
人物を描ききれない分、演者自身のキャラクターに頼りすぎているために、物語(主題)に対しての人物像や役割が不明瞭になってしまっている。そのために主題がぼやけて心地がわるいなと。
そんなふうに感じました。
シェイクスピア劇のなにが面白いって『人間』を深く描き出しているところに感心し共感できるところで。シェイクスピアを題材にとるなら、やはりそういったところを期待していまうわけなのだけど、肩透かしされた気がしました。
かなり辛口で申し訳ないですが、前半これは面白くなりそうだと期待したのに、それが途中で放り投げられてしまったようで残念に思ったからなのです。
と、脚本には辛口ですが、演じる生徒さんたちはさすが、大空時代、凰稀時代に芝居で鍛えられてきた組なだけあって、しどころがなさそうな場面であってもしっかりと見せているなぁと思いました。
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朝夏ウィルと実咲アンの出会いの場面はとてもステキで面白かったです。
年齢とかここにいたるまでの状況とか、それぞれのキャラがよくわかるように描かれているので、演じる人たちにも迷いが見られません。
「ロミオとジュリエット」の絡め方も活きていて面白かったです。このクオリティが全場で保たれていたら、まちがいなく名作でしょう。(だからこそ残念なのです!!)
中盤以降、ウィルが抱いた野望とはなんなのか、その野望の実現とひきかえに何を失ない何が残ったのか、失ったものをどれだけ欲しているのか、どうやってそれを取り戻したのか。
それが鮮やかに描き出せれば良い作品になると思います。
まぁ様の芝居力でキメてください!
愛月サウサンプトン伯と桜木エセックス伯は政治的な駆け引きや「リチャード3世」の上演とともに本来もっと本筋に絡む役になるはずだったのではないかと思いますが、中途半端な描かれ方になってしまっていました。
が、その中でしっかりとキャラクター付けをして見せる芝居をしていたのがさすがだと思いました。愛ちゃんの成長、ずんちゃんの成長、ぞれぞれに感じ入り胸が熱くなりました。
で、お芝居の本筋とはちがうところで目を引いてて、きゃ~でした。
あの女装は面白かったですが、もって行き方でもっと盛り上げられそうです(笑)。
初宝塚の方も笑えるように「大変なことになっている」意味がくっきりとわかりやすくなるといいな。
真風さんの役、ジョージ・ケアリーは演じにくそうだなと思いました。
ストラットフォードでピンチとなったウィルを救いロンドンへ招き、打倒ウィリアム・セシルを目指し芝居を書かせる。宮廷権力の掌握を目指す曲者かと思いきや、あっさり政敵に反撃されてビビりながら素人芝居を披露して、けっきょくは気のいい芝居一座のパトロンで幕。さいしょのあれは~?^^;と。
性格に一貫性をもたせるのが難しいかと思いますが、そこをなんとか奥様のベスとの関係性をヒントに納得のいくキャラクター付けをしてほしいなと思います。
ベスとの銀橋の場面はまるでマクベス。ウィルにアンとリチャードの仲を耳打ちする場面はまるでイヤーゴ。と美味しい敵役かと思いきや、愛妻家で脇が甘すぎる男(笑)。
にわか役者となって口上の紙?を持つ手をぷるぷる震わせているところは可笑しくて♡
銀橋で言っていた「お前はいつも私を奮い立たせてくれる」がこんなところで活かされるとは(笑) でも可笑しいけど脱力。
可笑しいけど、役者として彼女がちょっと可哀想にもなりました。見ている私も割り切ってスライドしなくちゃいけないのね…と、期待していたものをひっこめなくてはいけなくて、それがやるせなかったな。
ここにもっていくのなら、徐々に上手に裏切ってほしかったです。
真風さんのせいではないけれど、次に見るときにはそんな思いをしなくてすむように魅せてほしいな。(といってももう観劇する機会はないのですが)
ジョージ・ケアリーはとっても興味深い人物として登場して、ずっと彼を中心に見てしまっていたからこそ、たぶん私はこの作品に辛口になってしまったのではないかなと思います。
ほんとうに、ずっと彼ばかり見てました。
伶美うららちゃんのベスは美しかった~
マクベス夫人のような銀橋のシーンではその横顔にうっとりと見とれていました。
そりゃあ奮い立たされるでしょ。理屈もなにもふっとぶし(笑)
前半ではあんなに美味しいシーンがあったのに後半はエリザベス1世の女官としてそばに従うだけでセリフもなくて残念だなぁと思いました。夫ジョージとは目線を交し合うだけの芝居でしたが、それでも目を惹かれました。
うむむむ。もしかして私にとって足りなかったのは、素晴らしい脚本ではなくて、どんな脚本も吹き飛ばしてくれる圧倒的なナニカかもしれない
理屈抜きのオーラとか気迫とか美貌とかキラキラとか。
それこそが私が宝塚にもとめるものかもしれません。
ゆうりちゃんは今回は彼女の得意とする部分で勝負できていた気がしますが、それに甘んじずさらに深くベスという人物の心情に入ってみてほしいな。
真風さんとはお似合いのカップルだなぁと思いました。
今回専科から特出のコマちゃんはさすがだなぁと思いました。
セリフの第一声から惹きつける技量。しぐさだけで注目してしまう間。
それから少年役者役のせーこちゃんも、ちゃんと少年が女装しているみたいに見えたし、花道のコミカルな芝居にもひきつけられました。
技量ももちろんなのだけど、やはり『気』がちがう気がします。
2人とも動かす空気が大きい。
この作品における自分の役割や役柄をしっかりわかって的確な演技をしていることが、大きく見せているなと思いました。
逆に言うと、2人を除くとまだまだ自分の役柄、役割がつかめていない人が多かった印象を受けました。
「こう見せたいから、こうしてほしい」とその場面の皆に意思表示できる芝居リーダー的な存在にがんばってほしいなと思います。
きっとまだまだ成長できる余地があると思いますし、もっと作品を高めることができると思うので。
ラストのウィルとアンを見守る1人1人の気持ちがもっとはっきり見えて、皆の気が調和をもって幾層にも2人を包むといいなぁと思いました。
2回の観劇でしたが、宙組はもっとできる、もっとできると思いながら見てしまいました。
これからの宙組の成長に期待です。
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