« 虫のいのち。 | トップページ | それはファラオの娘だから。 »

2016/04/28

人生を選び取る勇気。

4月16日と17日、福岡市民会館にて宝塚歌劇月組全国ツアー「激情」「Apassionado!! III」を見ました。17日はツアーの大千秋楽でした。

14日夜と16日未明に熊本で震度7の地震が起き、福岡でも一晩中スマホが鳴り微震が繰り返す状況で16日は寝不足状態での観劇となってしまいました。16日14時公演ではショーの冒頭で揺れがあり、安全確認のため公演中断、そして最初からやり直しになりました。
その間、主演のたまきちくん(珠城りょうさん)は小林幸子状態で身動きもできず舞台上にいて(たぶん開演前からその状態)、数分間幕もあいたままで、そんなたまきちくんに客席から万雷の拍手が起きました。皆たまきちくんにがんばれーって思ったと思います。
客席にいる人も出演者も同じ眠れない一夜を過ごしいまここにいるんだなぁ。ところどころ不自然に空いた客席は今日来るはずで来られなかった熊本やその他の地域の方たちなのだろうなぁ。皆それぞれの胸になにかを思って劇場にいたのだなぁと思います。

さて、そんな中で見た公演の感想です。

お芝居「激情」は初演とはまったくちがう印象をうけました。キャストのバランスでこんなに見え方が変わるのかと驚きでした。

3公演見ましたが、どうにも私はメリメに共感できませんでした。なぜだろうと考えたのですが、メリメがただの見目良い傍観者に見えてしまったからではないかと思います。
この作品にメリメが登場する意味は? 存在意義が見出せなかったのです。
かちゃ(凪七瑠海さん)のメリメは端正で上品なおぼっちゃまに見えました。その造形はメリメとして正解だろうと思います。が、ホセの生き方に憧れると言いながらも、安全な立ち位置からホセを眺めて彼のことを分析したり同情したりしているだけな気がして、それだけなら客席で見ている私にもできることだと思って、なんのために彼はここに登場しているのかわからなかったのです。

カルメンという決して捕らえられない自由な鳥のような女に強烈に惹かれ、そんなカルメンのためになにもかも捨ててしまうホセという男に心動かされて、自分にはないその勢いと人生に憧れ、それを描き出したいという衝動に突き動かされて、こののちメリメは創作に彼自身の才能と情熱をぶつけることになるのではないのかな。
強く憧れながらも自分はホセのようには生きられない、そんな自分を省みながらも、ホセとカルメンを目の前にしてその時々に彼もまた変わっていく部分があるのじゃないのかな。ホセやカルメンにはない強い自制心ゆえに見せるものもあるのじゃないのかな。そんなものが見たいのに見えなかったから。
分析や同情のためだけに登場されても ―― それならその尺分ホセを演じる珠城さんの芝居をもっと見たいと思ってしまいました。その芝居から、私自身がいろいろと感じたいし考えたいと思いました。
皆に恐れられるジプシーの首領ガルシアとのコントラストは見事でしたが、それだけじゃなくてメリメの役作りではもっと内面も追求してほしかったなぁと思います。メリメの内なる葛藤が感じられなかったので、ただ安全なところから傍観しているだけのモラトリアム青年のように見えてしまったのが、彼にイラついてしまった原因のような気がします。

ホセ役の珠城りょうさんは内向きな私好みな芝居を見せてくれる人だなぁと思いました。経験を積んで良い作品に当たったら、そのリアルなお芝居で人気が出そうだなと思いました。
ただショーになるとやっぱり弱いかなぁ。
珠城さんがトップになったら、ショーで芯になれるような華やかなショースタータイプの2番手さんがいるといいなぁと思いました。

ショーの中でいちばん好きだった珠城さんの場面は、女役のかちゃ(凪七瑠海さん)と踊る場面でした。
踊るかちゃは端正で上品で好みheart01 珠城さんに向かって意味ありに微笑むかちゃ。それに対するたまきちくんのシャイな反応が好きでした。かちゃが珠城さんを転がしているかんじがとても素敵で、たまかちゃコンビいいなぁって思いました。(けっきょく私は振り回される珠城さんが好きなのか?)

ちゃぴ(愛希れいかさん)のカルメンは等身大の1人の女性としてその心情がとてもよく見える気がしましたが、そんなふうに他人から理解されてしまうのはカルメンではないなとも思いました。
自分の満足を追い求めたらいつも誰かを傷つけてしまって、ほんとはそんなつもりじゃなくて苛立ってしまっていつも不機嫌な女性、そんなふうに見えました。
そうすることしか出来なくて。
「カルメンはカルメンなんだ」が苦しそうで胸が痛かったです。あぁこの人は自己評価が低いんだなぁと思いました。辛そうで見ているとうるうるしてしまいました。

でも、そんなことに苦しんではカルメンじゃないんだよなぁ。自分探しとか恋に悩むとかはファムファタルには不要なんだよねと思いました。
明日のために今やりたいことを我慢するなんて生き方ができないのがカルメン。
明日に縛られず、明日も明後日も明々後日も、今したいように生きる。
「やるな」と言われたらやらないわけにはいかない。それをやったらどうなるかなんてどうでもいい。大事なのは今のこの感情。
それがカルメンだと私は思っているので、そんなカルメンだからこそ、ホセの選択にも物語にも価値が出てくる気がして。

ちゃぴちゃんのお芝居は多感なところが良いなぁと思っていたけれど、それゆえに等身以上に大きく見せられない欠点があるんだなぁと今回はじめて思いました。
声の高さや速さに小娘感が出ちゃうのも役を選んでしまうのだなと思いました。
こういう理屈では理解できないファムファタルに説得力を出せる、生身の自分よりも何倍も大きく見せることができるっていうのも生まれもってのものなのかな。
そんなことを思って見てしまいました。

ありちゃん(暁千星さん)のエスカミリオは番手的にしょうがなかったのねーというかんじでした。どうみてもエスカミリオの役目を担っていなかったです。
本人の持ち味的にも経験的にも難しい役があたってしまったなぁと思いました。でもこれから彼女が組の中で担う責任を思えばがんばってほしいです。
その持ち味の愛らしさや華は財産だなぁと思いました。(ショーは可愛かったheart04

全体的に作品の良さがぼんやりしてしまった今回のキャスティングだったなぁと思いました。
柴田先生の作品って初演の方への宛書が素晴らしいので再演はなかなか難しいのかなといつも思います。
それからセンスがやはり昭和なので、いまを生きる若い生徒さんには掴めないところがある気がしますし、いま見ている私も入り込みきれない価値観のちがいにうーん・・・ってなってしまうことがあり、手放しで賞賛にはなりにくいなぁと思います。

そんな中でも珠城りょうさんの芝居は好きだなぁと思いましたし、ショー「Apassionado!!」はやはり名作だなぁと思いました。
青木先生の主題歌大好きです。プロローグで満足しちゃいますよね。
シマウマのちゃぴはとってもステキでずっと見ていたかったですし、かちゃはキュートで上品で、ありちゃんとのハモりのシーン好きだったなぁ。
それと3公演とも気がつくと目を惹かれていた生徒さんがいて、それが蓮つかささんだということを覚えました。

まだ研9という若い主演の珠城さんを中心とした今回の全国ツアー公演。まだ弱いところもあるけれど、これから経験を積むほどにきっとよくなるだろうなぁと思わせるものがありましたし、そんな珠城さんを個性あるメンバーが盛り立てていったら、きっと面白いことになるだろうなとこれからの月組もたのしみだなと思いました。
あれこれ苦言(?)も言ってしまうけど、それを言えるのも宝塚のたのしみの一つで。
幸せな気分をいっぱいもらって帰ることができて、まだ余震の収まらない日々の心の潤いにさせていただきました。
地震で落ち着かない中、予定通り上演していただいて、月組の皆さんにはほんとうに感謝です。ありがとうございました。

|

« 虫のいのち。 | トップページ | それはファラオの娘だから。 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 虫のいのち。 | トップページ | それはファラオの娘だから。 »