そののち、あなたさまに。
5月5日より博多座で公演中の宝塚歌劇宙組公演「王家に捧ぐ歌」の感想その2です。
今回の公演は主要キャストのラダメス、アイーダ、アムネリスが初日がはじまってすぐから安定していること、博多座という宝塚大劇場よりも小さめの劇場で、出演者も半分に減ったことなどもあり、メイン以外のキャストに私が目を向けるのもいつもより早かった気がします。
主要3役以外では、まずウバルド役の桜木みなとさんが目にとまりました。
大劇場でウバルド役を演じた真風涼帆さんは、当時星組から組替えされたばかりで新生宙組の2番手となった方。
その経験値と長身と色気でもって、執拗な眼差しで妹であるアイーダを見張っていたり詰め寄ったりする感じが危険な雰囲気で、まるで妹に欲情してるのかと思うほどでした。
対する桜木さんのウバルドは一気に若返った印象でした。アイーダ役の実咲凜音さんとは同期ということもあってか博多座では双子の兄と妹という設定となったのだとか。
アイーダとは兄と妹という関係よりもさらに近い、自分の欠けた半身への執着のようなものを感じさせるウバルドでした。
私はアイーダがエジプトに囚われてもエチオピア人の囚人たちに頼られ、戦の勝ち負けを問われたり、現実的にどうしようもないことを願われたりするのは、彼女が神とこちらをつなぐシャーマン的存在であるということなのじゃないかと思うのです。
兄ウバルドの側近カマンテ(蒼羽りくさん)やサウフェ(星吹彩翔さん)に多大な期待を寄せられていたり失望されたりするのも、彼女にそれだけ人の心を掴む立場と力があるからではないかと。王女にはそういう役目があるのではないかなと。斎宮斎院のような勝手に恋をしてはいけない立場なのかなと。
だから男である兄よりも、女であるアイーダのほうが大事にされているのかなと思えました。
(この物語の中の架空のエチオピアの話としてですが)
大劇場の真風ウバルドのときは、妹である王女は巫女的役割、兄は武力を司る王子、と役割が分かれているのかなと思っていました。
けれど博多座の桜木ウバルドに、私は妹に代わって巫子ともなりうる危ういまでの精神の純粋さを感じました。
だから神の御告げを聞いてしまうのかしらと。
とても清らかでまっすぐすぎる魂で信じ、憎む。フィジカルなものにとらわれない、思い込んだら寝食を忘れてのめりこむ危うさを感じました。
真風ウバルドの時はアイーダが敵国の男を愛するのが裏切りに見えたけれど、桜木ウバルドにとっては自分の半身ともいえるアイーダが、恋をして俗に染まり清らかな魂を捨ててしまったように見えることが裏切りなのではないかなと思えました。
そんな危うい王子を、カマンテとサウフェが支えているようにも見えました。カマンテはウバルドとアイーダが揃ってこそ憑座としての意味があると思ってるのかもとか、いろいろ想像してみたり。カマンテが陰でウバルドを唆す黒幕かなとか。
大劇場では、ウバルドはもともとエチオピアの戦士としてテロを決行する計画であったところに偶然神の御告げの夢を見て勢いづいたようにも感じましたが、博多座のウバルドはつねづね神との対話を請い求めていた人なんじゃないのかなと。そうしてようやく神の御告げを聞いて奮い立ったような感じを受けました。
真風ウバルドは自分の戦闘力を熟知しているようだったけれども、桜木ウバルドは自分の力量など測らずに打って出る危なっかしさがあるなぁと思いました。
アムネリスも役者でまったくちがって見えましたが、ウバルドももしかしたらアムネリス以上に役者が変わって見え方が変わったなぁと思います。ほんとうに面白いです。