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2016年6月の3件の記事

2016/06/16

嵐もこわくはない。

ミュージカル「エリザベート」。
いろんな見方があるだろうし解釈もあるでしょうけど、私は深い孤独を表現するエリザベート役者が好きです。

エリザベートの孤独とはなんなのか。
それはありのままの自分でいると周りの人たちからまったく受け入れてもらえないことじゃないかな。
誰ともわかりあえない感覚。
子どもの頃は母親や親戚たちに。
本人としては悪いことをしようと思っているわけではないのに、やりたいことをやりたいようにやるとすべてを否定されてしまう感覚。
不幸なことに彼女のやりたいことっていうのが、穏やかな秩序ある生活をしたい人たちには迷惑でしかないことばかり。
それもどうしてもやらなくちゃいけないっていうよりも、いまやりたいと思ったことをやらずにいられなくてやってしまうこと。
非難されるのもしかたのないこと。
そしてやりたくないことを我慢してやるのはもっと嫌。そこはとてつもなく頑固。

唯一彼女を理解できるはずの同じ血を持つ父親は、やっぱり自分のしたいことしかしない人だから、子どもたちの養育は妻に任せていつも家を空けている。
帰ってくれば一緒にやんちゃなことをやってくれるからエリザベートは父親が大好きだけれど、気まぐれな父は自分が可愛がりたい時にしか可愛がらない人。
少女時代のエリザベートは、母親たちのおぼえめでたい姉を尻目に、いま夢中になれる冒険(危険な遊び)や空想に逃げながらも、内心では自分を認めてもらいたい承認欲求の強い子どもだったのではないかな。

そんな彼女の承認欲求を大いに満たしたのが皇帝からの思いがけない求愛だったのだろうと思います。
セロトニンの分泌増加でどんな問題ももう彼女を悩ませたりしない。
まさに嵐もこわくはない。
だから、先のことなど考えずに求婚を受け入れることができたのだと思います。その先にあるのは実家以上に彼女がありのままでいることが許されない場所なのに、そんなことは考えもせず。
フランツ・ヨーゼフの言葉も都合の良いところしか脳みそに入って来ないみたい。
彼に求められた高揚でそれ以外のすべてが見えなくなっている状態だろうなぁ。それほどあのときの彼女にはその事実が重要だったんだろうな。
でもそんな幸福感に満たされた時間は一時的なもの。その先には長い忍耐の時間が待っているもの。それを『責任』と呼ぶのだけども。

当然のように宮廷では彼女のやることなすことすべてが否定される。
「皇后だから」という理由で自分の行動原理を変える気などまったくないエリザベートにとってはすべてが耐え難い。
カルメンが「カルメンはカルメンなんだ」と言うのと同じように、自分基準で生きる生き方を変えられないし、たぶん納得いかないままに変えようとしたって心を病んでしまうだけ。
境遇に適応するためには適切なカウンセリングと根気強い愛の支えが必要な人だと思います。

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2016/06/11

祈りはやがて世界を変える力となる。

今年の宝塚歌劇宙組博多座公演『王家に捧ぐ歌』の千秋楽はもうとっくに終わってしまいましたが、もうすこしだけ思い出すままに書いてみます。

これまでの博多座宙組公演は私にとってエポックを画する出来事となっていたのですが、でもさすがに今年はそんなことはないだろうと油断していたらーーその予想は大きく裏切られてしまいました。
(油断していたからこそ楽日直前に大阪遠征を予定していたのです)

いちばんのトピックはひ孫ができたことです(笑)
誤解のないように書きますとひ孫のように愛着を感じる生徒さんができてしまいました。
これから宙組を観劇する楽しみが増えました

楽の1週間前まではずっとエジプトの戦士に注目していましたのでエジプト側から物語を見ていたのですが、楽日はやけにエチオピア寄りの視点で見てしまいました。

なんだかウバルドがかわいそうでたまりませんでした。
この子は生きる喜びも知らないまま死んでしまったんだなぁ。神の名の下に清らかなまま・・・と思うと。

つらかったよね、半身のような妹アイーダの心変わりが手に取るようにわかってしまって。
心から信仰し大事にしている神様のその御業を否定されてしまって。
「虫けら」だなんて言われて。
アイーダひどい

アムネリス様にラダメスの凱旋を告げに来る伝令さんと同い年くらいなのかなぁと思うと、ウバルドの死が私にはとても重く感じられました。
あの薔薇色の頬を恋に輝かせる若者と青春も知らず散った若者と。
生まれ育った国がちがうというだけでこんなにも・・・。

楽の伝令さんは、アムネリス様の笑顔をいただけて踵を返して去って行くお顔がとても嬉しそうに輝いていました。何か手応えを感じたのかな。お顔に出過ぎよ(笑)と思ってしまうほど。
あの場面にほのかな明日への希望を感じたばかりだったから余計にウバルドの短い一生に心が揺さぶられたのかもしれません。

こののちあの伝令さんがいちばん青春を謳歌するのかも。あのままずっとエジプトが平和だったら。
伝令さん、あなたの幸せは皆の悲しみの果てにあるのよ・・と。
そしてあの伝令さんは、これを見ている私自身にいちばん近いところにいる人なんだなぁと思いました。
自分の子どもや孫たちひ孫たちには彼のような人生であってほしいなと思います。いつまでも。
だからこそ忘れないでいてほしいし忘れないでいたい。ウバルドたちのことを・・・と思いました。

楽のずんちゃん(桜木みなとさん)のウバルドを見て、しみじみと宙の子の芝居だなぁと思いました。こんな芝居が私は大好きだとしみじみ。

もう大好きだ。エジプトもエチオピアも。

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2016/06/08

選ばなくてはいけないわ。

5月25日から27日までの3日間、梅田芸術劇場メインホールにて、ミュージカル『1789~バスティーユの恋人たち』を見ました。

宝塚版は見ていないので25日がまったくの初見でした。
今回この作品は主人公ロナン、ヒロインのオランプ、そしてマリー・アントワネットがWキャストになっていて、25日はマリー・アントワネット役の花總まりさんが一足先に楽を迎えられる日でした。

私が見た3公演は、25日マチネの小池徹平ロナン/夢咲ねねオランプ/花總マリー、26日の徹平ロナン/神田沙也加オランプ/凰稀かなめマリー、27日の徹平ロナン/ねねオランプ/凰稀マリー、でしたが、キャストの組み合わせが変わると心に響いてくるところもちがいました。
見られなかった組み合わせではどうなのかな。
花ちゃんのマリーとさやかちゃんのオランプの芝居も見たかった~~
加藤和樹君のロナンも見たかったです。(ぜひぜひ再演希望です!!!)

初見では、ねねオランプの『許されぬ愛』やロナンの『サイラモナムール』にうるうる。
2回目以降は1幕のパレロワイヤルからもう泣きそうに。ラストで全員が歌う『悲しみの報い』では涙が流れるのを止められず…。このカタルシスはクセになります。
作品自体は、名場面はあるけどドラマはない感じなんですけど。
ドラマは見ている側の胸の中にあって、それを役者に引き出される感じかなぁ。
それとフィナーレがこんなに楽しいミュージカルははじめてかも(笑)。

ラストで歌われる『悲しみの報い』の歌詞はしみじみ小池修一郎だなぁって思いました。あの甘っちょろい夢が私は大好きなのだ(笑)。
ただ全体的にはこれぞ小池修一郎なダイナミックな演出はなくて、どちらかといえば往年の宝塚的既視感がたくさんでした。
カーテン前のお芝居が多かったり、客席降りが多かったのも「ここは本来銀橋の場面かな?」なんて思ったり。
舞台機構の問題なのかもしれないけど小池先生がどのくらい携わったのかちょっと疑問かな。
小池修一郎的既視感も散見されて、見ていてあっネバセイ、あっエリザ、スカピン・・と思いました。
本来のフランス版がそうなのでしょうけど場面場面がぶつ切れなのを如何につないでいくかに苦心したのかな。それにしてもちょっと安直じゃないかなと感じたところや、唐突に感じたところがあったのも否めませんでした。
もしかしたら、フランス革命の顛末になじみのない人やロジック重視の人には感動しにくいかもとも思います。
私は演じる人たちの熱にノックアウトされたかなぁ。楽曲も好みでしたし。

フランス版を日本版にするのに苦心している気がしたのは楽曲もでした。本来もっと高い音なんじゃないのかなぁそのほうがカタルシスあるのになぁとか。もっと音響効果使ってもいいのじゃないのかなぁとか。ちょっと中途半端かなぁと思いました。
日本語の歌詞を当てたり演者の都合だったり観客の好みを考えたりしてこうなっているのかなぁと思いましたけれど、ロミジュリの宝塚版初演を見たときに感じたのと同じ歯がゆさを感じました。
これは日本版として確立していく過程でなくなっていくのかもしれませんけど。まだちょっと途中な感は否めないかな。

で、やっぱりこれだけビートがはっきりあるのにじっと聴いてるのつらいなぁと思いました。
ノリの良いナンバーでは客席も一緒に騒いで楽しむ作品ですよね本来は。できないけど。客席降りが多用されているのに無秩序はこわいですし。
でもせめて手拍子とかで盛り上げたいなぁと思いました。

キャストが発表になった時は本当に好きな役者さんばかりでうきゃっだったのですが、時期的に遠征が難しく、花ちゃんのマリーも見たいし・・と計画したら結局梅芸1遠征で3公演、限られたキャストスケジュールの中でしか選らべなかったのが今となっては悔やまれます。
3公演しか見られませんでしたが、ナンバーはいまも耳に残っています。またいつか見ることができたら・・・。

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