あくがれいでた二つの魂どこへ誘う。
11月28日(月)宝塚大劇場にて花組公演「雪華抄」「金色の砂漠」を見てきました。
お芝居「金色の砂漠」、私これすごく好きだぁと思いました。
号泣したりカタルシスがあるかんじではないのですが、心にひたひたと何かが溜まる物語でした。見終わって水槽から溢れそうなものをギリギリのところで堪えている感覚に陥りました。
ストーリーは「私これ知ってる」という既視感があり、とくにひねった感じではないのですが(昔の少女漫画やパラレル系二次創作でよく見た懐かしい設定(笑))、関係性がすごくよくできていているなぁと思いました。
織り込まれたエピソードが効いていてそこに息づく登場人物たちの性格性や役割がよくわかりました。
登場人物1人ひとりに物語を考えたくなるほどどの役もしっかりと造形されていて、その心模様もわかりやすかったです。
ライトな宝塚ファン目線からも、役が多くてタカラジェンヌ個人をを楽しむのにもってこいな上に、それぞれ役どころが明確なのでストーリーがちゃっちゃと進むのもいいなと(笑)。
少々合理的すぎるきらいもありましたが1時間半で完結させるためには致し方ないと思いました。
設定や人物像が緻密で確かなものであれば総てを言ってしまう必要はないのだなぁと思いました。
設定にツッコミどころがあるとしたら、王女に男の奴隷をつけて身の回り一切の世話をさせておいて間違いが起きたら罰されるというのは、あまりにも非現実的で夢夢しすぎるしきたりだなぁと(^^;
むしろ何かあっても気にもされない大らかさというかいっそ暗黙の不妊対策、後継者対策でもあるくらいじゃないと理解不能だなぁと浮世に穢れた私は思います(笑)。(それも母系主義じゃないと成り立たないですけど)
まぁそれも「宝塚だから」で世間が納得してしまうのが宝塚のすごいところかな。
なによりも、そんなことはどうだってよくなるくらいに矜り高い主人公2人の愛憎の物語りが美しい“みりかの”によく合っていました。
みりおちゃん(明日海りおさん)は矜り高く才能溢れる青年が破滅していく物語がよく似合うなぁ。
というかもはや破滅じゃないのだよなぁ。このラストまでが一つの“美”なんだなぁって思えてしまう青年ギィでした。
永遠に紡がれる叙事詩の主人公がここにいるのだなぁと納得してしまうかんじ。
それはかのちゃん(花乃まりあさん)のタルハーミネもおなじ。
なんど生まれてもタルハーミネは金の砂漠へと走り出し彼女を追いかけ追いついたギィは彼女を抱いて砂塵の中で無垢に還っていくのだろうなぁ。
お互いに「愛している」を認め合うのにこれだけのシチュエーションが必要で。それこそが似つかわしい美しい2人。
美しいものたちはこうして永遠になるのだ。そうして至高の終焉を繰り返す。
(いやぁ美しいってたいへんですねぇ、、、)
そしてその物語りを浮き彫りにしていくエピソードと2人をとりまく人びと。
・
キキちゃん(芹香斗亜さん)演じるジャーの視点があるから、あんなにも主人公2人が反発しあう物語であるのに大劇場公演として成立してるんだなぁと思いました。
心優しく穏やかで奴隷なのにどこか高貴で上品な雰囲気のジャーはキキちゃんの持ち味によく合っているなぁと思いました。
鳥を射損じるエピソードはジャーの人となりをよく表していたと思います。
自分が手柄をたてるよりも主人の客人が恥をかかないように気配りし、自分の能力を抑えてみせる。
主人である第二王女ビルマーヤと相思相愛でありながらも自分に許されない先へは踏み出さない。
自分が与えられない幸福のほうが自分が与えられる幸福よりもずっと愛するビルマーヤにとってふさわしく重要だと思うのだろう。
ビルマーヤもまた愛するジャーのために彼に優しい男を夫とするときめる。
互いを思いやり平穏と秩序を好むジャーとビルマーヤ。
誰よりも現実的なジャーとビルマーヤ。
この現実にとどまり、遥か遠い目線でギィの恋に憧れるジャーの視点が客席の私たちに寄り添いリンクするからギィとタルハーミネの物語りがいっそう輝いて見えたのだなぁと思います。
柚香光さん演じるテオドロスはその存在のすべてが豪華。
堂々とした王族の気品で絢爛で美しくて視線泥棒でした。うっかり彼が主役かと錯覚してしまうほどでした。(主役のみりおちゃんが今回は奴隷の姿だったりしたせいもあり)
タルハーミネとの膝枕シーンで上目遣いにタルハーミネを見上げる角度そのかんばせのすべてが美しく、全身白いお衣装で求婚するときの片膝付きの礼のその後ろへ流れる脚の角度や思いきり広いスタンスの麗しさ。
求められているものがわかっているわぁ
私の席近くにいらした宝塚初観劇風のお嬢様方はその夢夢しいポーズに思わず失笑するしかなかったようです。
世間で流布される、これぞ『ザ宝塚!』が目の前で繰り広げられたからでしょうね。
やはり私はこういう宝塚を求めているのだなぁと思い心で喝采しました(笑)。
ギィとジャーが同じ奴隷としての対照なら、柚香テオドロスは王族としてみりおギィ(イスファンディヤール)と好対照でした。
矜りよりも実利主義になったには彼自身の生い立ちが関係していそう。それを知りたくなりました。スピンオフが見てみたいなぁ。
瀬戸かずやさん演じるブリーと音くり寿ちゃん演じるシャラデハの関係も面白かったです。
新たな立場と荒々しい力を身につけた戻ってきたブリーなのにあーなっちゃう?なところ。絶対に立場が逆転してブリーのほうが優位なのに・・・。
なぜかあの場面でも心に水がひたひたと溜まってきました。
悲しいのかせつないのか喜ばしいのか自分でもわからない感情です。ただ人間って・・・って思ってしまうのです。
あのエピソードも印象的でした。
イスファン国王ジャハンギールがカッコよかったです。社交辞令よりも真実と実力主義の男。前王が治めていた国を武力で攻め落とし覇王となった男。この漢気溢れる武王が鳳月杏さんだったことに驚きました。男前~!
その言葉や性格でいかにしてこの国を手に入れたのかわかりました。
そして彼と前王の后であり現王妃でもあるアムダリヤの過去の物語りも知りたくなりました。
ただヒロインとしてはアムダリヤよりも私はタルハーミネのほうが好きだなぁ。
タルハーミネの実母はどんな人だったのでしょうか。タルハーミネはジャハンギールが国王になってから生まれた娘なのだろうか。それならば彼女の実母はどんな身分の人だったのだろうとか。気になりました。
1回しか見ていないのにいろいろと思いを馳せてしまう物語でした。
あの世界に息づいていた1人ひとりの物語りを聴きたくなってしまう作品でした。
そこに美しい琵琶の旋律があると素敵だなぁ。
お芝居「金色の砂漠」の前に上演された舞踊詩「雪華抄」も華やかで麗しくてちゃきちゃき進んで飽きさせない良い日本物のショーでした。
原田諒先生の日本物のショーを初めて見ましたが場面場面が美しくて良い仕事されたなぁと思います。
男役による鷹と鷲の舞踊が印象的で好きでした。
町人と町娘が往来でやけにベタベタしておったのが気になりましたけど(笑)。
美しい花組のトップコンビにふさわしいショーとお芝居でとても満足でした。
これで花乃まりあちゃんが退団してしまうのがとても惜しいです。
思わず東京まで見に行けないかと思いをめぐらせましたが、1月はまたムラに遠征するので無理なのでした・・・
かのちゃんらしく美しく男前に真摯にたおやかに最後の花道を歩んでくださいと思っています。
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