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2017/07/29

グリーンライト。

7月21日に博多座にてミュージカル「グレート・ギャツビー」を見てきました。

もっと少女趣味テイストでエモーショナルな作品を想像していたらちがっていました。
ここをピックアップするんだぁと思ったり。――アンダーグラウンドの描写に思いの外尺が割かれているなぁとか。
脚本演出の小池先生自身の男のロマンを投影したのかな?
ひたすらクールなギャツビーを描きたかったのかな。

ギャツビーが歌うナンバーはどれも難しくて見終わったらメロディも歌詞もあやふやで口ずさめるフレーズがありませんでした。
ストレートに心に届くナンバーがなかったなと思います。
歌えるキャスト向けの作品だなぁと思いましたが、さりとて井上芳雄さんにも合っていない印象も受けました。
もしかしたら井上さんは声の調子が悪い日だったのかも。あれっと思う箇所がありましたしガサガサしている印象だったので。
声質的にニック役の田代万里生さんのほうが合っていたかなと思います。
いずれにしても日本語に馴染みにくい印象でした。


井上芳雄さんのギャツビーは、軍隊に馴染みアンダーグラウンドで成功した、男の世界で成功し男の理論で生きている部分が印象づく人物になっていました。
脚本演出がそうなのだと思いますが、胡散臭さとか得体の知れなさがあまり感じられなくて、デリケートなところを掴まれる感じがしなかったなと思います。
哀しくなるような滑稽さとか困惑、イノセントなところが強調される瞬間を垣間見たかった気がします。
ピックアップされる場面からしても、そもそも小池先生が描きたかったギャツビーと私が見たいギャツビーが違ったってことかなと思います。

とてつもなく身の程知らずで有能な空想家で、その類まれな能力とはアンバランスな素朴さや迷惑なくらいな自信と小心さとかを私はギャツビーに見たかった気がします。
そんな彼が手に入れようとしたものは何なのか。

彼はデイジーが夢のような上流階級のお嬢さんだから恋をして、彼女に相応しい富を得たいま、彼女と結ばれることだけを考えている。
再会のシチュエーションにこだわったり。
デイジーという夢と一緒に夢の中に住まうことが彼の望みなのかな。―― そこにある幸福の本質とかはあまり考えていなくて。
彼女の立場とか気持ちとかは深く考えていなくて、彼女に嫌われたくないとは思って思慮深くはしているけど、自分と結ばれれば彼女は幸せになるはずということを疑いもなく信じている。
その夢の帰するところ―― を私は見たかったのだけど、夢の実現のために払った犠牲の部分を強調する脚本だったなぁと思います。

夢咲ねねちゃんのデイジーはとってもファンタスティックでした。
どのドレスもエレガントに着こなして、どこに佇んでいてもアッパーでプリンセス。
まさに夢のような女性。
ギャツビーが恋に落ちたのも、まさにそんなデイジーなんだろうなと思いました。

外見はもう言うことなし。
デイジーはまさにその上流階級でしか保てない外見で人を魅了する存在なのでこれでOKなんですけども、デイジーにしてはしっかりし過ぎている気がしました。
こちらもそういう脚本演出になっているんだと思いますけど。

「女は綺麗なお馬鹿さんのほうがいい」にねねデイジーは嘆きを込めていたけれど、人によっていろんな解釈ができる部分だと思いますが、私は自分が幸せであるためにそれを受け入れてしまって深くものを考えないことが習慣づいて、娘にも真からそうあれと思って言っているデイジー像を描いていたので、あらそうなんだ、と思いました。

この舞台では登場人物の立ち位置や気持ちがとても単純明瞭になっているのが私の戸惑いだったような気がします。
デイジーは浮気も平気なDV夫に捕らわれの身の可哀想なプリンセスに見えました。
もっと気まぐれでトムを振り回す場面もほしかったなぁ。
なんだかんだでトムはお嬢様育ちのデイジーの望みを叶えて満足してもらいたいのになかなかそうならないから、マートルのような女性に自分の願望の欠落した部分を求めるのではないかなと思うから。
トムはマートルの肉感的なところだけじゃなくて、自分が与えるものを喜んでくれるところを必要としてるんじゃないかと思うのだけども。
この夫婦がすれ違うのは決してトムだけのせいじゃないと思うのです。

せっかくキャリアのある男性キャスト女性キャストを交えてやるのだから、そういう男女の機微などなど宝塚版よりも大人っぽい脚本で見たかったなぁと思います。
そしてやっぱりギャツビーとトムが対峙する場面が見たかったなぁ。プラザホテルでの場面が。
夢と現実が対立し、夢すなわちギャツビーが敗北する場面が。

広瀬友祐さんのトム・ブキャナンはいかにもな長身のスポーツマンで白人至上主義のマッチョなWASPでした。
ブロンドのトロフィーワイフがいるのに肉感的な愛人がいたりして、それを男友達に隠さない。
つねに自慢をしていないといられない、自分を誇示し大きく見せていないといられない本当は弱い人なのかもねと思いました。
甘え甘えられる相手が必要な人なんだろうけど結婚生活ではそれが満たされないのかも。
デイジーのことを愛しているところも見えるけど自信がないから高圧的なのかな。
とても典型的なタイプに作りこんでいてわかりやすかったです。
個人的にはやっぱり彼がデイジーを愛しているのがわるエピソードがほしかったなぁ。デイジーの愛をギャツビーと争う場面が見たかったです。

田代万里生さんのニック・キャラウェイはとても人の好い人物になっていました。
ギャツビーのことも胡散臭いと思わず最初から受け入れていますよね。トムともうまくやっているし。
コミカルで愛すべきニックで、そんな彼の目線によるこの作品なのかなと思いました。
もっと批判的でシニカルな面もあってもよかった気がします。
彼の心の針がギャツビーに傾く段階が見たかった気もします。

AKANE LIVさんのジョーダン・ベイカーはさすがの安定を感じました。頼りになる(笑)。
フラッパーらしいボブスタイルがとてもお似合いでスポーティでファッショナブルな感じがとてもステキでした。
はっきりしない登場人物が多いからニックを引っ張って彼女が動かすところが多かった印象。
ニックと彼女のロマンスにほのぼのとさせられましたが、やっぱりそうなるよねぇという結末でした。
彼女は白黒つけてどんどん進んでいく人だと思いました。

マートル役の蒼乃夕妃さんは肉感的で崩れた魅力で快楽を享受することに一生懸命な20年代らしい女性像を体当たりで演じていました。
「CHICAGO」のキティ・バクスターの時も思いましたが振り切り方が男前で好きだわぁ(笑)と思いました。

鋭い中に脆さのある井上ギャツビーに相手役を引き立てることで自分もより輝いていた夢咲デイジーの対はとてもお似合いでしたし、それぞれキャストの皆さんが作り上げた役の中にその人らしさが盛られているところに面白さを感じました。とても良い座組だなぁと思って見ました。
それだけにもっと大人な彼らに合わせた脚本で見たかったなぁとやっぱり思ってしまいます。

いろいろと書いてしまいましたが、もし再演があればまた見てみたいと思います。
2回目からは楽曲にも馴染めるといいなぁ。

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