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2017/12/09

あの瞬きに導かれ。

12月2日と3日、福岡市民会館にて宝塚歌劇月組公演「鳳凰伝」と「CRYSTAL TAKARAZUKA」を見てきました。

「鳳凰伝」。楽しみで仕方ありませんでした。
まずバラクは誰?と思いましたよね。れいこちゃん(月城かなとさん)か、いいではないか、楽しみだなと思いましたよ(笑)。

脚本の部分で物を申したいところもあるのですが、それでもこの作品が好きだなとあらためて思いました。
主演のカラフ役の珠城りょうさんが歌う主題歌にしみじみと聞き入りました。
甲斐先生の曲はいいなぁ。盛り上がるなぁ。木村先生の歌詞もいいなぁ。木村先生なのになぁ。

カラフは実感を求めてさすらっている若者なんだなぁ。
かつての華々しい凱旋も彼には熱き血潮を滾らせるものではなかったのだなぁ。

初演の和央ようかさんのカラフは、圧倒的なビジュアルと比類なき実力のある男、なにもかもがこの世界と乖離している自己を感じずにはいられず、世界との齟齬を埋める何かに出逢うことを夢見ている男に見えていました。
どうしようもなく孤独に生まれついた人だなぁと。
そして、いずれ世界を手に入れる男だぁと。
ゼリムもタマルも心から彼を慕っているけれども、彼らでは彼の心を埋められない。
そんな彼が対等でいられる唯一の男が、バラク。
この人と対になるのはもうトゥーランドットしかないよねと思えるカラフでした。

その初演のイメージとはまったく異なる珠城さんのカラフを読み解くように見るのはとても面白かったです。
珠城さんのカラフは内面が若い印象をうけました。若くて清々しいカラフでした。
孤高ではない。世界を信じている人だなぁという印象を受けました。
国は滅ぼされてしまったけれど不幸ではない。
ただ恵まれていた過去に実感がないのだなぁと。
愛情深い父の存在、自分を心から慕うゼリムやタマルのような人びとが他にもきっとたくさんいて。
皆が自分によくしてくれて、皆を大事にも思っていて。だから感謝の言葉も素直に発せられて。
慈愛に満ちた世界に育ち、うたがいもなく幸福であったのだろうけれど、それゆえに心から渇望するものがない。
恵まれた環境を失ってもそれを惜しいとも思わないでいる青年、それが珠城カラフだなと思いました。

そんな彼の目に飛び込んで来た星。
初めてその熱い血潮を滾らせたもの。
手に入れること以外考えられない希望。
彼に「いま生きている自分」「いのち」を感じさせたもの。
それがトゥーランドットなのだなぁと思いました。

愛希れいかさんのトゥーランドットは何かに深く傷ついている感じがとても印象的でした。
それが何なのか、いろいろと思いを巡らせずにいられませんでした。

自分が父にとって価値があるものでなければ愛してもらえないと思い込んでいるトゥーランドットの心の中がすごく気になりました。
舞台から読み取れるのは、父皇帝はどんなお前であっても愛しているとわが子に語りかける人ではないのだなぁ。
腫れ物に触るように娘を恐れているようにも見える。
まだ夜明け前なのに、娘が叩く銅鑼の音一つで一張羅の正装で登場するほど娘を立てているように見えたけれども、そこにトゥーランドットは愛を感じてはいないのだな。
目に余る娘の冷酷さを止める強さはなく、娘の行動の責任をとる気もなく、むしろ自分とは無関係と逃げている態度にも見えました。
それがトゥーランドットをさらに追い詰め残虐な行いに駆り立てているのではないかな。
まともなことは言うけれども、行動はしない無責任な父。
そして娘トゥーランドットの前でカラフにお前のような息子が欲しかったとか、トゥーランドットが謎かけに負けたとたんにカラフに息子よ、と呼びかけるとか、娘の気持ちがまるでわかっていない人のようです。

たしか初演では、トゥーランドットの出産で母は亡くなったのだったと記憶していますがちがいましたっけ。
母親不在で、父は娘の愛し方がわからない。
頑張り屋で甘えることを知らずに育った娘。
アデルマやアムネリスみたいに女性コミュニティで上手に自分を生かすことも苦手。
お手本になる同性が身近にいなくて、昔の虐げられたロウ・リン姫にアイディンティを重ね、深くこの世を憎んでいる。
あぁたしかにこれは病むかも・・・。
男性を憎むのは父に愛してもらいたい裏返しでしょうか。
子どもの頃の身近な人たちの愛情表現次第で、成長してからの愛情生活に苦手を抱えるというのはわかる気がします。
もっと小さいうちに父親が、おいたをした娘をしっかり愛情をもって叱っておけよ、ということですかね。
幼い時から母のいない娘なのだから。
叱られる機会のないまま愛情を確信する機会のないまま、ここまでエスカレーションしてしまったようにも思えました。
タマルが示した無償の愛を、あの時トゥーランドットは初めて目の当たりにしたのかもしれないなと思えました。
人はそれが自分に向けられたものでなくても、誰かが誰かを愛する想いに安らぎや癒しを得ることがある生き物だから。
それがトゥーランドットの心の中の何かを動かしたのかなと頷けました。

月城かなとさん演じるバラクは、心に傷を持つ不良たちに頭と慕われる魅力がある男みたいです。
ならず者たちが皆彼の言うことを素直に聞いていました。
強いからだけではなく、厳しくても主義がはっきりしていて面倒見がいいのでしょう。
寂しい若者たちの疑似家族の長兄、もしくは父のような存在なのかなと思います。
そこに母を投影できるタマルが現れて、ならず者たちが皆泣いてしまう。
両親のいない少年ゼリムも。
初演では彼はバラクの胸で泣いていたと思うのですが、今回の全ツではそこが省かれていたような。
見たかった気がします。バラクの人柄が現れる場面だったから。

ならず者たちの頭として力を揮うバラクですが、部下たちとはわかちあえない彼の心中もあるみたい。
彼もかつてはラサの王子で、ダッタンの王子であったカラフにシンパシーを感じている。
元王子が盗賊の頭になるまでにはそれは言い尽くせない苦労があったのだろうと思います。
それゆえにか、バラクは斜めに世の中を見ているみたい。
国を治めるには何が必要か?の問いに、「民の信頼」と答えるまっすぐなカラフが眩しくもありそう。
「馬鹿な、愚かな民のご機嫌をとるのか?」と返すバラクは、この物語上の北京の民の愚かさ身勝手さを嫌というほど味わってきたのだろうと思います。
理想云々よりも、国を奪い、自分が自分らしく息衝ける場所を作りたいのかなと思いました。
千万の民に崇められる自分までは想像しているみたいだけどその先をどう考えているのかな。
口ではそこまでは言わないけれど、世の中からあぶれた仲間たちがどの夜も静かな寝息を立てられるような国を彼はイメージしているような気もしました。

自分と境遇の似ているカラフを仲間に誘うバラクですが、そこはあっさりと断られてしまう。
このときのカラフにはまだ「国」は実感の伴わない幻のようなものだから。
その後まもなくカラフはトゥーランドットを一目見て心を奪われてしまい、物語は急展開。
バラクにとってはその美しさも民と国を狂わせる元凶の禍々しい女性にしか見えないトゥーランドットが、カラフには別のものに見えているみたい。
カラフに何が見えているのかはわからないけれど、こういう目をした者はもう止めることはできないのだとバラクは知っている。
その炯眼でさまざまな人間を見てきて得た彼の答えなのだろうと思いました。
この男を止めることはできないというその言葉が空々しくならない、すんなり納得してしまえるカラフの珠城さんとバラクの月城さんの芝居の相性の良さが気持ちよかったです。

海乃美月さんのタマルがとてもよかったです。
そしてこの女性はもう、どうしようもなく奴隷なのだなと思いました。
こんな生き方、こんな感覚は私は好きではないのだけれども、でもこの女性に奴隷以外のものになれと言われても戸惑うだけなのだなと思いました。そんなタマルでした。

奴隷は王族の前では顔を上げてはいけないという掟は、ある意味正しいのだと思います。
あの横顔を見てしまったら、苦しむのは奴隷である娘自身だから。
身分を超えた思いからどんな禍が起きるか、その禍いは、奴隷本人だけでなく、その家族、その仲間に及ぶ可能性もじゅうぶんあるのだから。
本人を、その家族を、仲間を守るための掟なんだなぁと思います。
その掟を破ったばかりに苦しい思いを胸に秘めることになったタマル。

何もかも失ったティムール王が心地よくあるようにふるまい、苦しみがあれば取り除いてあげようとするタマル。
相手の繊細な心を読み取ろうとつねに全身全霊を傾けているタマル。
それは奴隷として生きるために彼女が身につけた術なのでしょう。その能力にとても長けている人だなと思いました。
バラクの部下のならず者たちはそんなタマルの姿に慈母を重ね見ているよう。(木村先生の夢も詰まっているような気がします・・笑)
人をケアする役目をしたらとても有能な人なのだろうに。

トゥーランドットに訴えかけるのは、愛する主人の命運を握っているのが彼女だと知っているから。
カラフの揺るがない気持ちもわかっているし、なによりもタマルにはトゥーランドットの怯える赤子のような心が見えているように私には思えました。
彼女には、声で相手の本心がわかる能力が身についている気がするから。
あなた様ならわかってくださるはずと己の命を懸けた凄絶な勝負に出て、それにタマルは勝利したのだと思います。

不思議なことに宙組版のときには私はタマルはあまり好きではなくて、むしろアデルマに同情したのですが、今回の月組版では逆でした。
演出が変わったせいでしょうか。
カラフの珠城さん、タマルの海乃さん、アデルマの麗泉里さんの持ち味やバランスのせいでしょうか。

アデルマはこれまでの中でいちばん怖かったです。
トゥーランドットを見つめるまなざしはトゥーランドット以上に冷え冷えとしていました。
宙組版ではアデルマが泣きながらタマルを鞭打つ姿が私は可哀想でならなかったのですが、今回のアデルマは逆に冷静に見えて怖かったです。
女官たちと歌を歌う場面も自分たちの境遇をはかなんで歌っている印象ではなくて、自分たちの立場を固持するために歌っているように見えました。
トゥーランドットへの対抗心が強いアデルマだった気がします。
そもそも再会のときのカラフの正論だけどきついものの言い方に、宙組版では傷ついているアデルマの心が見えて大変同情してしまったのですが、今回は珠城カラフの態度もそんなにきつく感じなかったし、アデルマも気の毒になるほど傷ついているように感じなかったので、そこからすべてがはじまったからかもしれません。
カラフが絶対的ではなくて等身大に近い好青年で、だからアデルマが割を食ってしまうのは仕方がないかな。
宙組版のふづき美世さんも彩乃かなみさんもアデルマを演じられた時にはヒロイン経験が豊富で、役を美味しくできるすべを身につけていらっしゃったせいもあるのかな。
でもこんな敵役的なアデルマもありだなと思いますし、全体のバランスからいっても月組版はこれで良い気がします。
麗さんは安定した歌上手さんだなと思いました。

ショーは大介先生の作品みたいにきゃぁぁあと盛り上がるタイプではなかったけれど、上品で良いショーだなと思いました。大劇場で見た時より好きかも。
さいきんよく全ツであるトップさんのワンマンショーみたいな場面(英語で歌うあれ)がないのも良かったです。

プロローグで珠城さんが客席をいじるところがほっこりしました。
珠城さんは攻めるように煽るんじゃないんですね。にっこり煽る(笑) で、きゃ~ってなりました。

Mr.シンデレラの場面、皆さんハマっててほのぼのと幸せな気持ちにさせていただきました。
箒をもった月城ダニー可愛かったです。
紫門ゆりやさんが物乞いから素敵に変身するところが好きでした。叶羽時さんとのペアが可愛かったです。
前髪命なお兄さんの千海華蘭さんが可愛かったです。
輝月ゆうまさんのお母さんが大きかったです。
海乃さんのシンデレラ、登場の時からヒロイン感半端なくてうわぁ♡と思いました。
月城さんダニーがポケットから物乞いの紫門さんに渡していたのは、とおりもん、明太子、めんべい、もつ(笑)

ドールオペラは圧巻でした。愛希さん凄すぎる。目が離せない。
ドールの皆さんも凄い。目が足りない。上手で一星慧さんに注目。覚えたぞ(笑)
デュエットダンスが愛らしくて幸せで珠城さんやさしいなぁと思っていたら、あぁぁぁぁ(涙)

ラテンの場面はとても楽しかったです。
ロケットでいちばん大きい人が一星さんだった。笑顔が可愛かったです。
黒燕尾も素敵でした。ここは千海さんに注目してしまった。踊りがとてもきれいでした。
珠城さんと愛希さんのデュエットダンスはほのぼのとしますね。

珠城さんは目を眩ませるようなオーラで自分を大きく見せるパフォーマーではないけれど、セリフや歌詞の意味をストレートに伝えられる役者さんだなと思いました。
アクの必要なキャラクター芝居だと面白みに欠ける気がするので脇役より真ん中でじっくり芝居を見せてくれる主役向きなのかな。
そんな珠城さんと芝居の相性が良い月城さんがいて、今回は出演していないけど登場の瞬間からなんだこの人は?!って瞬時に客席を掴む美弥るりかさんがいて、なんだかわからないけどそこにいると気になる暁千星さんがいて(笑)、支えになる上手い人がたくさんいて、期待の下級生も目立っていて月組いいなと思いました。
トップ娘役の愛希れいかさんはやっぱり素敵だわ無双だわと思うし、でも海乃美月さんを早くとも思うし、ぜいたくですよね。
群舞では千海華蘭さんと叶羽時さんに目が行くなぁ。
輝月ゆうまさんももう覚えたぞ。
グランドホテルで覚えた一星慧さんも最下級生だけどお芝居ショーともにわかったぞと(笑)。
こうしてわかる人が増えていくと次の観劇が楽しみになります。

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