愛の痛み。
1月10日(水)にシアター・ドラマシティにて宝塚歌劇宙組公演「不滅の棘」を見てきました。
初演をCS放送で見てとても好きになった作品で、いつか生の舞台を見てみたいなぁと思っていたので、愛ちゃん(愛月ひかるさん)のエロールで再演が決まった時はとても嬉しくてすぐに遠征を決めました。
初演では、エロールの厭世的なニヒリズムと独特のナルシシズムに引き込まれた記憶があるのですが、今回の再演ではまったく印象の異なるエロールがそこにいました。
傷ついた魂を抱えて戸惑い愛の痛みに苦しむ愛エロールの姿がとても印象に残りました。
大物感、スター感というタカラジェンヌには有利な持ち味がありながらも課題もある愛ちゃんですが、課題の一つ、歌をそうとう鍛えてこの舞台に臨んだなぁという印象を受けました。声がよく伸びているなぁと思いました。
ドラマシティの楽まで、そして日本青年館の楽まで歌い続けたらさらによくなるだろなという期待が持てました。
欲を言えば表情豊かに裏声を使えるようになるといいなぁと思います。
初演のエロール春野寿美礼さんが印象に残る場面で裏声を駆使されていたので、その記憶が甦ってしまいつい比較してしまうのは否めないかな。春野さんのリラックス♪がいまでも脳裏に浮かんでくるほどなので。
春野寿美礼さんは音色の美しい楽器のような声をお持ちだったので声を聴くだけで場面や感情を理解できる気がして、正直歌詞の細かなところを私はよくわかっていなかったのですが、今回の再演ではこんな歌詞だったのか!という場面が幾つもあり、それが新鮮でした。
宙組版は芝居の感情を丁寧に表現しているのかな。細かいところで演出もちがっているかも?
圧倒されるよりもじわじわ入ってくる感じに心を揺さぶられました。
同じ作品なのに演じ手が変わることで受け取るものも変わるのが再演の面白さだなと思いました。
長身で抜群の等身に真っ白なスーツやテールコートにトップハット、17世紀風コスチュームのどれもが良く似合っていた愛ちゃん。いやもうさすがだなと(笑)。
キザる愛ちゃんのしぐさや表情に懐かしい人が重なり私は少々感無量。
白いファーコートにソフト帽は似合いすぎてとても堅気には見えないなと(笑)。きゃーというより息をのんでしまいます。
世界を股に掛ける著名なシンガーというにはお行儀が良すぎて崩れたところがなく、隙がない着こなしが美貌の若頭みたいだなと思いました。
とてもソリッドでステージで女装するキャラではない気がするんですよね。
あの場面は春野さんだから活きた気がするので、愛ちゃんには愛ちゃんの個性を活かした意表をつくステージシーンに変更しても面白かったんじゃないかなと思います。
愛エロールは女性の扱いに手慣れているけど自ら望んで女性と親密になっているようには見えなかったです。目的のために女性を利用しているような。女誑しの甘さより端正さが勝るなと思いました。
甘い蜜よりも火遊びを求める女性が集まってきそう。
花組版は有無を言わさず感性で納得させられるのが魅力でしたが、この筋道重視でやや重い芝居のかんじが宙組らしいなと思いました。凰稀さん時代朝夏さん時代の宙組を見てきた私には馴染み深いかんじがします。
そして男役のキザりや目線のやり方、舞台化粧やスーツの着こなしには大和さん時代大空さん時代の香りを感じました。
そんな宙組の血脈を宿す愛ちゃんに強い思い入れを抱いてしまう私はやはり宙組ファンなんだなぁとしみじみ思いました。
(次の大劇場公演「シトラスの風」で湖月わたるさんの位置=3番手ポジションに立つ愛ちゃんを想像してワクワクします)
(逆にそうならなかったらどれだけガッカリするでしょう。。。なんのための「シトラスの風」再演かってなると思います)
(頼みます。ほんとに(>人<。)
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舞台を見終わって考えているのですが、19世紀初頭のエロールはとても禁欲的で抑制がきいているのに、20世紀になったら放蕩と呼べるほど躊躇なく女性を口説いているのはどうしてだろうと。
100年前はあんなにも自分に向けられるフリーダの眼差しから逃れようと必死だったのに。
その間なにがあったのか、時代性なのか。
50年前、19世紀末頃にはカメリアと快楽に耽る奔放な生活を送っていたようなので、やはりフリーダと息子が自分の前から姿を消してしまったことが、彼を自暴自棄に陥らせボヘミアンにさせていたのかな。
「ポーの一族」のエドガーには一族がいるから自分(エロール)よりは幸せだと愛月さんがおっしゃっていたとか聞いて、いやいやいや、あなたこそ家族(子孫)を作ろうと思えばやりたい放題なんだけど・・・と思ったんですけど。
でも、子孫たちもいつか彼の年齢を超え愛した人も子孫たちも1人残らず彼を残して逝ってしまうことにエロールは耐えられないかな。
安易に家族を作ってしまわないで孤独に耐えるところが14歳とはちがう大人の男性だからかしらと思いました。
だけどあんなふうに女性たちと親密になっていたら知らないうちに子孫ができていてもおかしくはないのではないかな。その可能性はまったく考えないのかな。
でももしそういう子孫がいてもあくまでもフリーダだけが彼が愛した女性でフェルディナンドだけがただ1人の我が子なのかな彼には。
なんだかちょっとねぇ。(ここは木村先生に物申すところかな)
フリーダ役の遥羽ららちゃんがとてもお上手でうれしい驚きでした。
可愛らしい子役のお芝居が上手な方だなぁという認識だったのですが、「バレンシアの熱い花」のシルヴィア役としてたおやかな人妻を好演されていて娘役らしいお芝居もできる方だなぁと知りました。
今回のフリーダ・ムハは意思の強い女性の役で、アルベルト役の澄輝さやとさんやコレナティ役の凜城きらさんを振り回す場面のナンバーで舞台空間を支配していて素敵だなぁと思いました。
声がとても魅力的だ方だなぁと思います。幼い声から落ち着いた低い声の芝居もできて。
意思の強い役でも愛らしさがあるのも魅力だなぁと思います。
エロールに必死にアピールするも子ども扱いされむくれているようなお顔が可愛らしいなぁと思いました。
歌がお上手な方が揃っているのも舞台の質を上げていてよかったです。
カメリア役の美風舞良さん、タチアナ役の純矢ちとせさん。エロールのコーラスガールの愛白もあさん、花咲あいりさん、桜音れいさん、花菱りずさん。
コーラスガールの面々は衣装を替えて時代時代の雰囲気を醸して歌っているのも素敵でした。
白一色のお衣装が娘役さんたちをいっそう美人に見せていました。
クリスティーナの母タチアナ役のせいこちゃん(純矢さん)がとっても美しくてソファのシーンはずっと凝視していました。
娘役さんたちをこんなに見ていた宙組公演もわたし的には珍しいかもしれません。
クリスティーナ役の華妃まいあちゃんは歌声がきれいで兄ハンス(留依蒔世さん)と一緒に歌う歌がよかったです。
自分の本心をなおざりにして常に相手の望むことを口にする女性で、エロールが「きみはそういう女性なんだ」(うろ覚え)と合点するところがすごく好きでした。
自分から求めなくてもいい子にいていたらいつか必ず神様からご褒美がもらえると信じているタイプの娘なのかな。神様に愛される自分であることが大事な人なのかな。
その神様をかんたんに別の誰かに挿げ替えそうだけど。
後先考えずに自殺しちゃうのも神様の愛を本当に信じている人というよりは本質的には利己的な人な気がして・・・いろいろと考えてしまう人物像でした。
そんな難しい役どころをよく表現されていたなぁと思います。
ハンス役の留依蒔世さんも優しいけれど自分の思いに実力が追いつかなくて自棄を起こして酒浸りな心の弱い青年を好演されていました。
見るからにダメ男なんだけど妙に気持ちが理解できてしまう役づくりをされていたなぁと思います。
母に愛されたいのに愛されなくて負のスパイラル真っ只中。妹を愛しているのに心配をかけてばかりで。そんな自分が情けないんだろうなぁ。純粋さがアダになっているタイプだなぁ。
こんなダメな兄をクリスティーナは自分の徳を高めるために利用しているとさえ思えました。
母タチアナは理想が高すぎて子どもたちを褒めずにけなしてばかりな人。
他人は自分個人にではなく自分の財産に敬意を払っていると冷めた目線で見透かしている人。自分に自信がない人なんだぁと思います。
そんな人の感情に繊細なところは息子に受け継がれている気がします。
母、息子、娘の3人が互いに病理を作り出しているみたいな家族だなぁと思います。
重苦しいテーマなのに飽きずに見られるのは、深い笑いと展開の巧さと華やかなソング&ダンスシーンが挿入されているからだなぁと思いました。
1幕ラストのショーシーンはわたくし的にたいへんサプライズでした♡
出演者が少ないこともありますが、下級生にも自分のターンがあって木村先生の愛を感じました。
久々に東京公演も見に行けるので、またの観劇が楽しみです。
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