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2018/05/13

あらやっぱり紫草ですわ。

5月6日と9日に博多座にて宝塚花組公演「あかねさす紫の花」と「Santé!!」を見てきました。

今年の博多座はお芝居「あかねさす紫の花」が公演日程前半と後半で、トップスターの明日海りおさんが役替わりをするという異例の上演スタイルだったのですが、前半のAパターンは大型連休もあり前もって観劇予定を立てることが難しく、当初は9日だけの観劇予定でしたが、急遽6日も見ることができました。
そしてこの6日を最後にショー「Santé!!」の客席降りが出演者とスタッフに体調不良者が出たためという理由でなくなってしまい、通路側の席だった私はまさに奇跡的に明日海さんをはじめとする生徒の皆さんにハイタッチと“Santé!!”をしていただけました。
9日も“Santé!!”可能な席でしたがこういう事情でしたので舞台の上の皆さんに向けて“Santé!!”してきました。
(公演日程の後半で客席降りが復活すると良いのですが)

さてお芝居「あかねさす紫の花」のAパターン大海人皇子主役Ver.(明日海さん/大海人皇子、鳳月杏さん/中大兄皇子、柚香光さん/天比古)の感想です。

じつを言うと、6日に観劇した時には鳳月さんの中大兄がいまひとつ決まらない感じをうけました。
中大兄という役は、主演のトップスター明日海さんの大海人皇子を圧倒する大きさと、大海人という夫がありながらも額田王が惹かれてしまう魅力が必要な難役だと思うのですが、ちょっと説得力が弱いかなぁと思えました。
しかし9日に観劇したときには己をつよく信じて迷いを見せない中大兄がそこにいました。
彼は欲しいと思ったものを我慢してはいけない立場なのだなぁ。
欲しいものを手に入れていく強さが中大兄を中大兄たらしめているのだなと思いました。
だからこそ皆がいずれ彼が帝になる器と信じて「大兄」と呼びならわしているのだと思います。

そんな兄を誇らしく眩しく思い慕っていることがよくわかる明日海さんの大海人皇子でした。
彼もまた王者の器なのにそんなことは思いもしない様子でした。

仙名彩世さんの額田は自己実現と幸福な家庭生活の狭間で揺れ動く女性の心が見えてとても共感しやすかったです。
幼い頃から気が合い趣味が合い息もぴったりな相聞歌を交し合える相手。黙っていても心が通じ合う相手。そんな大海人皇子との幸福な家庭に生きる自分と、少女の頃からの夢、自分が絶対だと思う中大兄に認められ、宮中で才能を存分に発揮して人びとに尊ばれて生きる華やかな自分と、どちらを選ぶか。
(おそらく中大兄を拒めばキャリアを失うのは必然でしょう)
それがどれほど茨の道でも後者を選びたい気持ちを抑えきれない。
ただあまりにも大海人とは魂が近しくて心が引き千切られる辛さに懊悩する姿が得も言われぬ美しさでした。
『畝傍は困ったことだろう――』
素の自分がどれほど懊悩していようとも、公の儀式の場では凛として誰よりも華やかに美しく輝いている額田に、やはりこの人はこういう瞬間が好きなんだなと思いました。
仙名さんは役を深く解釈して的確に表現できる技量の持ち主なのだなとシーラの時にも思いましたが、今回もそう思いました。

明日海さんの大海人皇子はとにかく可哀想でなりませんでした。
鳳月さんの中大兄、仙名さんの額田に対するとやや感情過多な気もしますが、否応なく引き込まれます。
幼い頃より心から慕いどこまでも従うつもりの兄と、魂の片割れのように愛する額田との間で苦しみ、どちらも尊く大事だから狂うしかなかったのだと思えて。
罪は兄と額田にあって、彼には露ほどもないのに2人への想いがあればこそ狂うほどに悩み苦しまなくてはならなかったのだと。
ここまで深く大海人皇子を演じて見せた明日海さんの後にこの役を演じる柚香さんにはかなりハードルが高くなったなぁと思いますが、どんな大海人皇子を見せてもらえるか楽しみにも思います。

瀬戸かずやさんの鎌足は表情が繊細で、とてつもなく器の大きな中大兄をさえ御そうとする底の知れない野心と鏡女王への気遣いが隠していても仄見える二面性が面白かったです。
酩酊して舞う大海人皇子が中大兄の傍らに槍を突き立てた時誰よりも素早く中大兄に駆け寄るところも、ただの利害関係だけではないものがあるようで、自分を冷徹に見せることもこの人独特のパフォーマンスなのかもしれないなと思えました。
すごく戦略的思考をしているようで根はピュアで優しいのかもと。

柚香光さん演じる天比古はいわゆるアーティストだなと思いました。すごく思い込みが強いところも、生まれに捉われずひと所に収まらない自由さも、それまでに築いたものを忽ちに壊して放り出す奔放さも。
今回の仙名さんの額田は菩薩みがあまりなく自己実現に必死な現代的な女性みが強いので、「そんな人とちゃうねんで」と彼の見込み違いに早々に諫言したくなる感じです。
「あんな人だったとは」と嘆かれてもねぇ。どんなにのたうって生きてきたとしても、額田のせいではなくすべて自分の責任なのだから。
そんな激しい感情も含めてすべてを、逆恨みではなく芸術に昇華することができたらいいのになと、この先の彼の生き方に思いを馳せました。

鏡女王はやっぱり長女だなぁと思いました。いい子でいてしまうんだなぁと。
せっかく我が儘を言ってもけっきょく追い詰められたら一歩退くタイプなんだなぁと思いました。自分が退く道を自ら提案してしまうところがなんとも・・。
妹の額田は追い詰められるほどに一歩また一歩と前に出てきそうで、その対比が上手くできているなぁと思いました。
桜咲彩花さん演じる鏡女王はたおやかな佳人で、さまざまいる女人の中から中大兄が見初めたのもさもあらんと思えました。
唐風の丸襟がとても似合っていて優美で時代が違うような気もするけどいいやってなりました。(それを言い出すと生地も色も履物も違うってなりますし(^^;)
額田と対になる時の存在の説得力も桜咲さんだからこそだなぁと思いました。

桜咲さん、舟坂郎女の芽吹幸奈さん、小月の乙羽映見さん、十市皇女の音くり寿さん、鸕野皇女の華優希さん、と花組も娘役さんが充実しているなぁと思いました。
後半Bパターンを観劇後にまたそのあたりの感想も書きたいなと思います。
今はただ、もう明日海さんの大海人皇子を見ることができないことが空しくせつない気持ちです。

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