そうなることもそう遠いことではないかもしれませんよ。
宝塚歌劇花組博多座公演「あかねさす紫の花」と「Santé!!」、千秋楽を含めて7公演見ることができました。(当初の倍近くになっていました)
ライブビューイングもAB両パターン見ましたし(博多座公演のライビュなんて珍事)、この5月は博多座公演に浸った日々でした。
観劇するたびにさらにさらにと感動したこと思ったことが溜まっていくばかりで書けないまま日にちだけが経ってしまいました。
これまでに書いた人のこともさらにいろいろ書きたいのですが、収拾がつけられなくなるに決まっているので、今回は主に書いていない役ついての感想を残しておきたいと思います。
とうことで、天比古のことを。
ABパターンでまったく違った中大兄皇子と大海人皇子を見ることができましたが、天比古もまたABパターンではまったく違う印象でした。
柚香光さんの天比古は、ほんとうにもう額田王しか見えていない人でした。ほかのことは1ミリも。
心は浮世から遠く離れて、ただ額田に思い焦がれ寝食も忘れてしまうような。
けれども年月を経て再会した額田を見て、自分が思い描いていた理想はこの世には存在しないことを思い知り、これまでの自分の漂泊の人生の意味を見失って絶望したように見えました。
とてつもない暗闇に堕ちて光を見失っているいまだけれど、時が経ち憑物が落ちてしまえば息を吹き返し、また新たに己が希求する理想を彫り出す道を歩きはじめることができるかもしれない。
プロセスの途中にいる若き芸術家の印象をうけました。
こんな生活力のない芸術家肌の天比古を支える小月。
こういうダメな男性に惹かれる人いるよねぇと思って見ていました。
一緒に夢を見ているというよりはダメであればあるほど惹かれ支えたくなるある意味共依存関係だなと思いました。
(でも小月がいなくなってもまた誰かしらお世話をしたい女性が現れるんじゃないかなぁ。このタイプは)
鳳月杏さんの天比古は、現世の濁流の中でもがきながら唯一額田王を心の拠り所としている人のようでした。
額田だけがこの穢土から彼を救い出してくれるはずだった。
なのに成長し女性としての情念に身を焦がす額田を目の当たりにして、忽ちにして自分の菩薩を見失ったように見えました。
生きるよすがを失った彼がどうすれば蘇生できるのか想像できませんでした。
別人として生まれ変わる? 新たな信仰をみつける? 小月との生活に意味を見出して良い夫になる?
小月を演じた乙羽映見さんは三場の冒頭で物憂くしっとりと歌う歌がとても印象的でした。
惚れた相手に身を尽くす女性の姿に説得力がありました。
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花組観劇では美しい娘役さんたちを見るのが楽しみのひとつですが、「あかねさす紫の花」はほんとうに眼福でした。
プロローグの蒲生野で舞う女人だち。
難波宮で赤子の十市皇女をあやし連れだって奥へと歩みゆく鏡女王と采女たち。
ほんとうに極楽浄土の天女を見るようでうっとりしました。
舟坂郎女役の芽吹幸奈さんはほんとうにお上手で安心感があります。彼女を見ると花組だなぁと思います(笑)。
櫛を持って額田を追いかけるシーンは毎回たのしみでした。
振り向きざまに威嚇したり、楽では上手の袖から額田を追いかけて走ってきて下手袖まで行ってしまいましたよ(笑)。
輿入れ後の額田への接し方、まなざし。彼女のことをどれだけ愛しく思っているかわかりました。
中大兄から人払いされてもきっと居室の外で気が気でなかったのだろうな。額田が取り落としたリンの音にあらぬ速さで駆けつけてくる場面が好きでした。
こんな人が傍らにいる額田は幸せ者だなぁ。
Aパターンでは大海人皇子に、Bパターンでは中大兄に「大和三山の話を知っているか」と振られた時の強ばった表情に戸惑いと大切な女主人を守らなければという彼女の心中が察せられました。
桜咲彩花さん演じる鏡女王は、中大兄が見初めるのもさもあらんと思えるたおやかさ。
我が儘を言ってみてもけっきょく通しきれないところに長女らしさを感じてしまいます。
でも何度か観劇してからは、プロローグの蒲生野で夫となった中臣鎌足と幸せそうに見つめあって踊る姿を見るのが好きでした。
瀬戸かずやさん演じる中臣鎌足は絶対に彼女を大切にしていると信じてます。
彼女にとってはあのまま中大兄のところにいるより幸せだったと思えます。
音くり寿さん演じる十市皇女は15歳とは思えないくらい幼く感じましたが、母額田はもちろん皆に大切に育てられている皇女なのだろうなと思いました。
采女たちにかしずかれて育ち、おっとりと純粋無垢なままに政略結婚させられて、凄絶な権謀術数の只中に放り投げられていきなり大人にならざるを得なかった娘たちがこの時代にはたくさんいたのだろうなと思いました。
十市皇女も夫大友皇子を父大海人皇子から自死に追いやられてしまう。
そんな未来を重ねて遣る瀬無くもありました。
音くり寿さんの鈴の音のような声がとても愛らしかったです。
十市皇女とは反対に、彼女よりも年下の鸕野皇女のなんと大人びた物言い。鸕野皇女は13歳で姉の大田皇女とともに大海人皇子の妃になるはず。
十市のようにおっとりと育つ環境ではなかったということですよね。
(祖父蘇我石川麻呂が父中大兄に攻められて自害し、それにより母越智娘は亡くなっています)
「私は父中大兄皇子が好きです」とはっきりと言うところはドキリとさせられました。
「ポーの一族」では儚げなメリーベルを演じていた華優希さんが、今回はしっかりとした考えを持ち、父のために叔父に嫁す覚悟を決めて、大人の女性である額田の気持ちを慮りながらも意を通す役を好演されていました。
その少女らしい自己犠牲を伴う生真面目さがいじらしくもありました。
父のもとへ行ってくださいと言う鸕野皇女の言葉をうけて、「私が中大兄皇子の処へいくことはもう決まっているのですね」と言う額田は狡いなと思いました。Bパターンではとくにその印象がつよかったです。
自分が中大兄皇子を選んだのだろうに。
そのくせ大海人皇子が中大兄の娘たちを娶ることには動揺する。
とはいえ実際に会った13歳の鸕野皇女に女性として優越感を感じているようでもあり。額田の計り知れなさを感じた場面でもありました。
果てには、大海人皇子は額田王をめぐって衆目の前で酩酊し中大兄に刃を向ける。その夫と父の一部始終を目撃しなければならなかった鸕野皇女の心中を想うと言葉もありません。
Bパターンでは、プロローグの蒲生野で大海人皇子の傍らで微笑み交わし舞っていた華優希さんの鸕野皇女の可憐な姿を見るたびにせつなくなっておりました。
(そんな鸕野皇女もその後父や夫を凌ぐ冷酷なことをやってのけるわけですけれども)
花野じゅりあさんのマダム感のある斉明帝も好きでした。
8場の最初の登場の時から高貴な雰囲気を醸してこの人は誰だろう?と思っていると「夫の舒明天皇が・・・」と。
あ、4場で「先の帝(皇極帝)」と呼ばれていた方だ。今上となり斉明帝の治世になったのだなと。
その後に無邪気に登場してくる大友皇子や有馬皇子と額田との会話など、この場はむかし古代史が好きたっだ私にはなんともせつなくたまらない情景が目の前に展開し印象深い場面でもありました。
(湯上り美人の総髪の中大兄まで登場しますし)
舞台には出てきませんが夫の舒明帝は推古帝から次期天皇に推されるほど聡明な人柄だったようです。
また女性うけのよい優しい人だったのではないかと思います。(たくさんいる推古帝の末のほうの娘を妃にしているのでそのあたりから人柄が知れたのではないかと思います。まさに女性ネットワークで)
華やかな女帝2人に挟まれてその治世は目覚ましい出来事があったわけではないけれど宮や大寺の造営や遣唐使の派遣など推古帝の後を継いで地道に治めていた人のようです。
その合間に夫婦で温泉旅行に行っていたことが記紀にも記されているのが舒明帝の人柄を表しているかなと思います。
そんな夫に大切にされ、優秀な息子たちをもち、2度も天皇の位に就くことを周囲が納得するだけのオーラのある女性。そしてたぶん歌舞や華美なものが好きそうな人。きっと額田の歌や舞がたいそうお好きでご贔屓なのだろうな。
じゅりあさんの斉明帝は、そんな私のイメージに重なりうれしく見ていました。
このメンバーで後日譚を見てみたいなぁと思いました。
中大兄、大海人皇子、額田王の三者によって物語りが動く場面も素晴らしかったのですが、舞台の情景をつくっている人びとがとても好きでした。
出演者全員が舞台の上につくり出していた華やかな万葉ロマンに酔いしれた5月だったなぁと思います。
そして先日、この作品はABパターンともBlu-rayとして発売されることが発表になりました。
しばらく宝塚のDVDなど買っていなかったのですが、これは買わずにいられない予感がしています。
(Bパターンを見るとまたAパターンが見たくなる・・)
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