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2018/08/23

だっておなじだもの。

7月30日(月)、8月8日(水)に梅田芸術劇場メインホールにて宝塚歌劇宙組公演「ウエストサイド・ストーリー」を見てきました。

あまりに古典的なミュージカルをいまこの時代に見て感動できるのかなと一抹の不安があったのですが、まったくの杞憂でした。
いまだからこそ感動したとも思いますし、この作品の奥深さを感じました。


真風涼帆さんのトニーがどうしようかと思うくらいとっても好みでした。
タレ目で金髪で育ちが良さそうな青年。
(育ちが良さそうというのはお金持ちの息子ということではなくて大人から正しく教育を受けている感じがするという意味で)
ハンサムという言葉がこれほどぴったりな人がいるかしらという。
見ているだけで幸せ。とても魅力的でため息でした。
(どうも私はルイ、フェリックス、トニーの系統に弱いらしい・・・)

トニーはポーランド系移民の2世。父親は夜学に通い、母親はいつも台所にいるちょっと太めの女性らしい。
楽な暮らしではないけど(夜学に行くのは英語力をつけてもっと収入の良い仕事をもとめてかと)勤勉で家庭的な家で育ったのがトニーのよう。
そんな家庭が居心地が良いのか、澄輝さやとさん演じるリフは4年もトニーの家に居候しているらしい。
トニーの両親はリフの事情をわかっていて居候を許しているのかな。
(叔父さんがどうやらリフに酷いみたい。どういうことかしら)

空想で互いの両親を紹介する場面、マリアをママに紹介するくだりで怖気づいて照れ笑いするトニー。
紹介するんだ。怖気づくんだ。といちいち関心してしまいました。
それが彼にとってのあたりまえなんだな。そういう親子関係なんだなと。
「息子さんを厄介払いできるんですよ」というマリアのアドバイスが気の利いた冗談になる関係なのだな。
トニーもマリアも家族の愛情に甘えることができる子どもなんだな。
なんだか、ほかのジェッツの子たちの境遇を思うとせつなくなりました。

アル中の父親、ジャンキーの母親、コールガール、客引き・・・彼らの周りにいる大人たち、ヨーロッパ系の移民の2世3世にあたる人たちだと思うけれどまともな就労は難しく、子どもに十分な愛情をかける余裕がなさそうで。
『出ていけ』『クズ』などの罵倒を日常茶飯事のように浴びせられているのが伺えるジェッツの子たちの自己肯定感の低さがとても悲しく思えました。
彼らには「厄介払い」という軽口も心に刺さりそう。
身体障碍、精神障害、トランスジェンダーなどを馬鹿にしながら裁判官やソーシャルワーカーに扮した仲間が自分たちをその人たちと同じだとお道化る場面は見ているのがつらかったです。
自分たちはしょうがない、こんな育ちだものと言う。

トニーにとって不良グループに帰属してストリートで暴れていたのは若者の通過儀礼的なものだったかもしれないけれど、彼らにとってはここにしか居場所がない。
明日も見えない彼らには、いま、ここ、しかないのだなぁと思いました。“シマ”であるストリートとここにいる仲間がすべて。
親に甘えられない彼らが自分をさらけ出して甘えられる相手はジェッツの仲間だけ。
彼らを見ていると胸が痛くてしかたありませんでした。

そんなジェッツと対抗しているシャークス。
アメリカ社会でももっとも差別されているプエルトリカンの若者たち。
愛月ひかるさん演じるリーダーのベルナルドも、移り住んですぐにジェッツに絡まれたらしい。
そこから徒党を組んでの対立になっていったのかな。

ベルナルドたちプエルトリカンはマシな暮らしをするために故郷からニューヨークへやってきた不法就労者。
ベルナルドの述懐によると、アメリカに辿り着いた当時の彼らはそうとう酷い有り様だったらしい。
彼らはジェッツの子たちとはちがい、学校へは通わず働いている。
不法就労だから“アメリカ人”のバイトよりもずっと安い賃金で働き、それでも貯めたお金で妹を呼び寄せられるくらい頑張っている。
差別を受けても、賃金は安くても、彼らには語れる“夢”がある。
稼いだお金で故郷に錦を飾りたい。キャデラックやキングサイズのベッドや家電を携えて故郷の人びとを驚かせ尊敬される夢。
なにより大切な家族を喜ばせる夢。
彼らは彼らのコミュニティの中にちゃんと居場所がある。

仲間と過ごすいまのほかにたしかなものは何もなく未来も信じられないジェッツの子たちにとっては、彼らシャークスが持っているそのポテンシャルがなによりも脅威なのだろうと思いました。
コツコツと真面目に働いていること。家族のために頑張ること。
自分より下だと見下している者たちが、いつか自分たちを超えて行くであろう恐怖が、自分たちの『シマ』から何が何でも追い出さなくてはならない理由なのだろうと想像します。

ここまで書いてきて、これらの情報がすべて自然な流れの中でセリフや歌詞にきっちりと入っていたことに驚かされます。
当時のN.Y.が抱えていた問題が、とても鮮やかに見えていました。
そしてそれは60年後に生きる私にも理解できる問題でもあります。
シャークスに対して「国へ帰れ!」と罵るジェッツの子たちは、いまこの国にも存在する人びとを思い起こさせます。
自分が見下している者たちに取って代わられる恐怖を抱え、明日への夢を持てない者たちがヘイトを叫んでいるこの時代と。

トニーとジェッツがすべてだったリフ。
仲間と家族を愛し、いつか愛する人とキャデラック(強大なアメリカの象徴)で故郷へ帰る夢を抱いてアメリカという国で頑張ろうとしていたベルナルド。
互いの両親に祝福され愛するマリアと家庭を築き子どもたちに囲まれ暮らしたかったトニー。
3人の命を奪ったものはなんだろう。

親に頼れず放置された子どもたちへの救いの手のなさ。
そうやって育った若者たちの不器用さと焦り。
差別と、経験値の浅い若者ゆえの短絡さ。
彼らの幼さとやってしまったことの重大さの乖離がつらくてたまりませんでした。


真風さんのトニーの純粋さになんども涙しました。
一見大人びた雰囲気をもつ人だけに余計に恋に有頂天になり楽観的にしか物事が見えなくなっている様が愛おしかったです。
英真なおきさん演じるドクとの関係も好きでした。
愛を感じて育った人だからこそ、ドクという大人を信じられるのだなと思いました。
ドクのトニーを見るまなざしに、私は私を重ねて見ていたように思います。
だから匿っているトニーが将来の夢を語る時の安心しきった表情がたまらなくせつなくて、そんな彼の頬を引っ叩いて目を覚まさせなくてはならなかったドクの気持ちを思うとつらかったです。

星風まどかちゃんのマリアの女の子らしい魅力も好きでした。
暴走気味のトニーにちょっと戸惑ったり、愛されている自信が彼女をより可愛らしくしていく様を見るのも。
ブライダルショップで結婚式の真似事する場面に涙し、「I feel pretty」で歌い踊る場面の愛らしさに目も心も奪われました。
トニーと出逢ってから14時間のあいだに、ときめきを知り愛される悦びと自信に輝き、幸せの頂点から一気にとてつもない不安に慄く経験をし、この世のすべてとなった人を奪われる悲しみと憎しみを知ったマリアに涙しました。
そのマリアを演じきったまどかちゃんに感動しました。
ジェッツもシャークスも関係なくその場にいる全員がたじろぐ気迫に客席にいる私も飲み込まれていました。
このキュートなルックスの内側にある強さがマリアという女の子の魅力であり、まどかちゃんの魅力ともリンクするなぁと思います。

愛月ひかるさんのベルナルドはとにかく濃かった。すごく濃かった。
身内の女、子どもは守るべきものであり所有物、な典型的ラティーノでした。
凄い色気を振りまいていましたけど、彼もティーンエイジャーで合ってますよね?
ダンスの時の体の線がまたなんともいえず美形で見惚れました。とくに屈んだときの肩の線、背中の線、横顔etc.
こんなにカッコいい男役さんになってたんだという驚きに唖然としました。
アニータとの並びが絵のように素敵でした。

桜木みなとさんのアニータはさっぱりとしたハンサムで野性味が魅力の女性でした。
皆に頼られる落ち着きと信頼感、冴え冴えとした判断力、そしてマリアに対する包容力が素敵でした。
ベルナルドに対しても臆せず対等に接するところも。(ゆえにベルナルドの男ぶりも上がる)
「アメリカ」はやはりこの作品の華になるナンバーだなぁと思いました。
ベルナルドはいつか故郷に帰ることを夢見ていたけれど、あのまま何事もなかったとしても彼女はきっとアメリカに残っただろうと思います。
アメリカで得た自由を捨てられないと思うから。
決定的にそこが、ベルナルドとアニータの求めているものの違いだなぁと思いました。

澄輝さやとさんのリフ。
トニーと戯れ合うときのユルさと、ジェッツを仕切りシャークスと対峙するときの鋭さのギャップが印象的でした。
ジェッツはキレやすいアクション(留依蒔世さん)や副官のディーゼル(風馬翔さん)を除くと他はあんまり強そうじゃなくて、漫画好きのベイビージョン(秋音光さん)や彼と仲良しでシャークスに捕まってケガを負わされてしまうエイラブ(七生眞希さん)とか、小心な頼りにならなそうな子たちもメンバーで。
心が脆弱だったりキレやすかったりコントロールしにくい子たち、手を焼く子や爪弾きになる子の集まりみたいだから、リーダーとしてまとめるのもなかなか荷が重そう。
シャークスみたいに同じアイデンティティでまとまっているのとはちがうから。
「Get Cool!」と諫めてなだめて、それでもはみ出しそうな彼らを心一つにまとめなくちゃいけない。
グループを離れたトニーをリフがいつまでも頼りにするのもわかる気がしました。
それでもこの居場所を守りたいリフ。
ここにしか、ジェッツにしかアイデンティティを見出せなかった彼がせつないです。
曖昧で不確かでやがてメンバーがいなくなったらなくなってしまうものなのに。
彼を追い詰めたものを考えるのがやっぱりいちばん胸に痛いです。

トニーとマリアが夢見た「いつの日か」も。
ベルナルドが夢見た「いつの日か」も。
リフは思い描くことすらなかったのかと思うと・・・。

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