語りあう理想を口づけに重ねよう。
博多座「1789 -バスティーユの恋人たち- 」。とうとう大千秋楽も終わってしまいました。
関西遠征のため7月30日の大千秋楽は見ることができませんでしたが、追加したチケットで29日の加藤ロナン夢咲オランプの千秋楽を見ることができて本当によかったと思っています。
正直こんなにハマる予定ではなかったので、千秋楽とか考えていなかったのが悔やまれます。
何度もリピートしたくなったのは、Wキャストの組み合わせが異なるごとに新鮮な感動があったこと。
そして「パレ・ロワイヤル」や「サ・イラ・モナムール」などのナンバーでそれぞれに息づく革命家たちをもっともっと見たくなっていったからかなと思います。
1つの場面に、1人1人に物凄い量の情報がつまっていてすべてを見切ってしまうことが出来なくて・・・。
渡辺大輔さんの【カミーユ・デムーラン】は初演の印象とあまりに違っていて驚きました。
初演では親しみやすいキャラクターだった気がしますが、再演では不器用なほどに真面目で折り目正しくて、多少なりとも後ろ暗いものを持つ凡人にはどこかとっつきにくいような眩しいデムーランになっていました。
力強く真っすぐに響く歌声がまたその印象を濃くしていたように思います。
自由と平等を説く持論にはひとかたならぬ自信があるけれども、なかなか民衆に耳を貸してもらえない。
その日の暮らしで精いっぱいな人々に自分の理想までたどり着けと激励しても、現実離れした話と鼻で笑われ受け流されてしまう。
そんな様子が1幕の「パレ・ロワイヤル」のナンバーでも見て取れました。
そんな彼の高尚な理想も、上原理生さん演じる【ジョルジュ・ダントン】が人懐っこく人々と安酒を酌み交わしながらわかりやすい言葉で語ると民衆の心に入っていく。
皆が笑顔になり、いつか一緒に世界を変えられる日が来るのではないかという希望に替わる。
その2人の対比がとても面白かったです。
デムーランにはダントンが、ダントンにはデムーランがいてこそ世界を変える力になるんだなぁと思いました。
すごく楽しいナンバーなのに、なぜか涙ぐんでしまうナンバーでした。
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ナチュラルボーンの正直者で、アンフェアなことができなくて、それが意図せずスカしているように見えてしまうデムーラン。
でも実は不器用なんじゃないかな。
たとえばナプキンを折り目正しく畳んだつもりがそうなっていなくて家の使用人や恋人がそっと畳みなおしてくれていることに気づいていないようなそんな感じ(笑)。
前しか見えていない人。
なんとなくほっておけないような魅力もあって、恋人のリュシルやダントンに大事にされているように思いました。
人徳かな。
彼の言葉に嘘はない。
だからこそムカつくんだよねと思う。本気で言っているんだもんあれ。
本人にはわからなくても、恵まれている人の言葉だなぁと思ってしまう。ロナンの気持ちがわかるなぁと思います。
デムーラン自身はいつもブレがない。けれど、見る人、受け取る人にとって、素晴らしい人にも会いたくない人にもなるだろうなぁと思います。
その誠実さは、いざという命がけの行動の中ではとても心強く、誰より信頼できる気がします。
人前でのキスも見せつけているつもりなんか全然ないんだろうなと思います。
相手と自分の心に誠実に向きあうと衆目の前でも億面なく口づけになるのねと納得してしまう清潔さがありました。
バスティーユ襲撃の前、若いシトワイヤンたちがそれぞれの恋人とキスをする場面で、デムーランとリュシルは、さいごまでそれぞれ自分の仕事の手を止めないで、ほかの全員がカップルになったあとにやっとお互いのもとに行くのに気づいて、責任感が強い優等生同士なんだなぁと思いました。
デムーランが扇動し革命に命を懸けている若者たちがここに集っている。彼らには家族があり愛する人がいる。その彼らに対する責任を2人は感じているのだろうなと。
そしてロナンの死に対して誰よりも重い責任を感じているのがデムーランなのだろうなと思いました。
嘆くことも慟哭することもできず死にゆくロナンの命をその腕に抱えているデムーラン。
この現実を受け入れることが出来かねる様子で。
「ダメだダメだロナン・・・」と思わず声に出していることもありました。
その胸に渦巻くものを思うと見ていてとてもつらかったです。
ロナンの死はその後の彼に何を与えたのでしょうか。
則松亜海さん演じる【リュシル】はとても大人な女の子で、デムーランはそんなリュシルに支えられているなぁとしみじみ思います。
デムーランが語る理想にさいしょに耳を傾け頷くのもリュシルなのだろうなと。
なかなか人びとに彼の意がつたわらない時も傍らに彼女がいる。
彼女が青年デムーランの力になっているのだなぁと思いました。
カフェで働くようになったソレーヌとリュシルが仲良くテーブルに腰掛けるところがいつも好きでした。
いつだったか、リュシルがソレーヌの前髪を直してあげていて、嬉しそうなソレーヌを見てなんだか涙が出てしまいました。
ソレーヌって母親がいないみたいだし、きょうだいも兄だけで。そんなふうにかまってもらえるのが嬉しいのだろうなぁと思えて。
さりげなくこんなふうに人をケアできるリュシルっていいなぁと思いました。
熱くシトワイエンヌを扇動するソレーヌと、お姉さん的に皆に信頼され慕われているだろうリュシル。
デムーランとダントンのように、この2人も良いコンビだなぁと。
それぞれの恋人とのその後に思いを馳せるとせつなくなってしまいます・・・。
=観劇日記録=
【7月3日(火)ソワレ/初日】ロナン/加藤和樹、オランプ/夢咲ねね、マリー・アントワネット/凰稀かなめ
【7月5日(木)マチネ】ロナン/加藤和樹、オランプ/夢咲ねね、マリー・アントワネット/龍真咲
【7月7日(土)ソワレ】ロナン/加藤和樹、オランプ/神田沙也加、マリー・アントワネット/凰稀かなめ
【7月9日(月)ソワレ】ロナン/小池徹平、オランプ/夢咲ねね、マリー・アントワネット/凰稀かなめ
【7月14日(土)マチネ】ロナン/加藤和樹、オランプ/神田沙也加、マリー・アントワネット/凰稀かなめ
【7月14日(土)ソワレ】ロナン/小池徹平、オランプ/夢咲ねね、マリー・アントワネット/凰稀かなめ
【7月18日(水)マチネ/凰稀さん千秋楽】ロナン/小池徹平、オランプ/神田沙也加、マリー・アントワネット/凰稀かなめ
【7月26日(木)マチネ】ロナン/小池徹平、オランプ/神田沙也加、マリー・アントワネット/龍真咲
【7月29日(日)ソワレ】ロナン/加藤和樹、オランプ/夢咲ねね、マリー・アントワネット/龍真咲
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