君はそういう幸せを追っているのか。
2月2日から25日まで博多座で上演された宝塚宙組公演「黒い瞳」の感想のつづきです。
「黒い瞳」の出演者が発表になったときに私が予想した配役と実際の配役がちがったのが、ミロノフ大尉、ベロボロードフ、ズーリン、パラーシカでした。
私の中で、ワイルドな髭面のコサックのベロボロードフと澄輝さやとさんが結びつかなかったのです。
あき様(澄輝さん)は軍服だろうと勝手に思って、ミロノフ大尉かなぁズーリンかなぁと・・・。
それがまさかのベロボロードフ!
初日はやはり澄輝さんが浅黒い肌で髭を生やしていることに違和感がありましたが、いつしかカッコよくて見惚れていました。
あのコサックの衣装に髪型にお髭でカッコイイのはもう神の技かと。
無造作にしているようでめちゃくちゃオシャレだと思いました。
フロプーシャ(春瀬央季さん)と並ぶと眼福極まりなかったです。(ははぁさては大将面食いだなと思いました)
ニコライ、プガチョフ、ベロボロードフ、フロプーシャの4人の反乱軍本陣の幕舎の場面、好きでした。
大将と貴族の若造を訝し見る2人の目線の圧が場面の緊張感を作りだしていたなぁと思います。
プガチョフも内心居心地が悪かったのではないかしら(笑)。だからさっさとあの場を離れてでて行こうとするのでは…。
プガチョフの挙兵前からの知り合いでずっと一緒にやってきたのに、世間知らずの貴族の若造をやたら依怙贔屓する大将に不満を持つのはわかるなぁ。
おたがい昔からの知己だと思っていたのに疎外感を感じてしまいますよねぇ。
ニコライの姿を見るたびにベロボロードフのイライラが増しているようでした。(嫉妬か?)
それが裏切りの動機の1つなんじゃないのかなぁ。
(プガチョフも無頓着だから・・・そのへん。理想高き人にありがち)
プガチョフを裏切りズーリンに斬られてしまうけれど、この人(ベロボロードフ)にはこの人なりの一貫した行動原理があったのだと思いました。
蒼羽りくさんが演じたマクシームィチは、ミロノフ大尉の部下で国境警備隊の一兵卒。純朴で人の好さそうな若者像がりくちゃんにとても似合っていました。
赴任してきたニコライの荷物を運んだり、パラーシカに呼ばれて暴れる山羊をなだめに行ったり。
このまま平和な時が続いていたら家族をたいせつにする兵隊上がりの農民として暮らしていけたのかな。
いやそれはやっぱり無理かな…時代が場所が生まれがそれをゆるさないだろうから・・・。
コサックでありながらミロノフ大尉の部下になった経緯はわからないけど、彼以外にもいるように描かれていたので仕事を得るため政府軍の国境警備隊に入隊しているコサックは少なくはなかったのかな。
そういう彼らのもとにコサックの長プガチョフの蜂起の知らせがもたらされる。気持ちは大きく揺らいだことだろう。
コサックの仲間が身内がこのロシアでどんな扱いをうけどんな暮らしをしているか。
世直しの英雄プガチョフの天下になったらきっと…と。大きな希望を感じたのだろうなと思います。
けれどもミロノフ大尉にひとかたならぬ温情をうけたとみえるマクシームィチは、自らのアイデンティティと大尉や恋仲のパラーシカを思う自分の気持ちとの間で大きく揺れ動いているのが伝わってきて見ていて辛かったです。
恋人に「生きているんだぞ!」と絶叫するシーンはニコライとマーシャとも重なり、幸運な主人公とはちがう彼の境遇がなおさら憐れを誘いました。
政府軍に見つかったらどんな無惨な目に遭うかわからないのに命懸けでパラーシカの頼みを聞いてニコライのもとにマーシャの手紙を届けに来るマクシームィチ。
プガチョフ軍に捕らえられたミロノフ大尉たちを正視できずにそっとその場から離れて行くマクシームィチ。
善良な彼だからこそ敵対する人たちにも思いをかけずにいられなくて、それゆえ苦しみ深く傷ついているのだなぁとりくマクシームィチを見ていて胸が痛くなりました。
シヴァーブリンの凶弾からニコライを庇った時のりくマクシームィチの微笑みを浮かべた表情は、ニコライを守り切った安堵に満ちていてやっと自分を認めることができたようで涙を誘われました。
ずっと罪悪感とアイデンティティとの狭間で苦しんでいた彼にようやく安らぎが訪れたようで・・・。
雪のコサックとして踊るりくちゃんは微笑みを浮かべて幸せそうで、きっとマクシームィチの魂も雪の大地に浄化してすべてを優しく包んでいるのだろうなぁと思いました。千秋楽が近づくにつれ、さらにさらに透明感が増していた印象です。
雪のコサックは、ベロボロードフだった澄輝さんやプガチョフ役の愛ちゃんたちも微笑みを湛えて浮世のすべての執着から解き放たれ、真ん中で互いを愛おし気にみつめあうニコライとマーシャを祝福するように優しく踊っていて、その姿に舞台美術の白い世界やロシア民謡の黒い瞳のアレンジの音楽も相俟って、見ている側の心も浄化されるようなカタルシスを感じました。
だから見れば見るほど好きになっていった気がします。