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2019/03/02

やつのさいごの顔を見守ってやりたいんだ。

2月25日、宝塚歌劇宙組博多座公演が千秋楽を迎えました。

初日から3週間とちょっと、かつてないほどの頻度で観劇しましたが、この日の舞台は出演者全員の集中力が凄まじくて、どこを切り取っても至高の千秋楽だったと思います。

プガチョフ役の愛月ひかるさんが「次はいつ、どんなかたちで逢えるかな、俺たちは」というセリフを発する場面の無音の客席に、劇場中が身じろぎもせず集中しているのがわかりました。

それを受けたニコライ役の真風涼帆さんも何か込みあげるものを堪えているように見えました。
政府軍がプガチョフを追い詰めていると聞き、マーシャにどうしても奴の最期の顔を見守ってやりたいんだとニコライがその心情を吐露する場面も、いつもに増して思いが込められているように思いました。
私はそこに真風さん自身の愛ちゃんへの気持ちが重なっているように感じられて胸がいっぱいになりました。

「口笛を吹き雪の上に歌を書こう」と歌いながら絞首台に向かうプガチョフの歌い終わりに鳴り止まない拍手。
真風さんも次のセリフを言うまでの尺を長めにとって客席の思いを受け止めてくれていたように思います。
主演の真風さんの気遣いがそこここに感じられた舞台でした。
(宝塚ファンが大事にしたいことをわかってらっしゃるなぁと思います。足らなくもなく過剰でもなくバランス感覚が絶妙)

愛ちゃんの底力と真風さんのトップとしてのキャパシティ、そして宝塚ファンの愛を感じた心に残る千秋楽でした。

どんな苦しい役であってもその役として苦しめるところが愛ちゃんの凄いところだと思います。
漠然と曚い雰囲気を醸し出すだけではなくて、ちゃんと板の上で苦しむことができる強さを愛ちゃんは持っている人だなぁと思います。

この博多座公演中に出逢った人から、どうして愛ちゃんはもっと早く本気を出さなかったの?と言われたけれど、私はいつだって愛ちゃんは本気で自分と向き合っていたと思っています。なかなか結果に結びつかなかったけれど、それがようやく実を結んだのだと思います。
遅いとか詰めが甘いとかは本人がいちばん感じているだろうし、それでもなお自分の弱点と向き合い続けている愛ちゃんが好きです。
だからこの博多座で愛ちゃんが見せてくれたものはとてもうれしかったですし、きっとこの次もこの先も輝いて見せてくれると信じています。
この先も良いことばかりではないことは彼女がいちばんよくわかっていると思います。
それでも進む勇気を愛ちゃんは持っていると信じています。
その姿を私は見届けたいと思います。


以下は公演期間中に書けないでいた「黒い瞳」についての感想です。

これだけ敵味方、身分など様々な属性の人物たちが登場して、その誰もに人柄や背景が見えるのがさすが柴田先生の作品だなぁと思います。

そして初日から千秋楽までなんど見ても物語に浸ることができたのは、トリオの和希そらさん(愛)、秋音光さん(勇気)、優希しおんさん(祈り)の3人が、一貫して高いレベルで安定していたからではないかと思います。
身体能力の高さ、シンクロ度の凄さ、セリフや歌の明瞭さなど見応えがあり過ぎました。
マーシャをリフトするところは毎回毎回わくわくしました。
人間の役ではない分、感情表現に頼らず技術を見せていかなくてはいけない役割を見事にこなしていて魅了されました。
こんな素晴らしいパフォーマンスが見れたこともこの博多座公演での収穫でした。なんというか・・・恐れ入りました。


初日から千秋楽まででいちばん印象が変わったのが桜木みなとさん演ずるシヴァーブリンでした。
さいしょはいっそ清々しいまでの卑劣漢ぶりをニヤニヤしながら楽しんでいたのですが、ある時、遠乗りから帰ってきたマーシャを彼が愛おしそうに見ているのに気づいてハッとしました。
それからニコライに声をかけられたマーシャが嬉しそうな表情をするのを見て表情を曇らせたかと思うと、ふっと片頬で笑んで「手の早いことで」と皮肉を投げかける。―― ああこの人も1人の人間なんだと思いました。
それ以来シヴァーブリンのことが気になって気になって頭から離れなくなりました。

この人もまた貴族だというけれど、どうしてこんな辺境の地にいるのだろう。どうして従僕はいないのかしら。
貴族の子弟がこんなに荒んでしまったのはどうして?
家族の愛に恵まれなかったのかしら。
じつは庶出の生まれで正嫡の兄弟と分け隔てを受けて育った?
いや逆に正嫡でありながら、腹違いの弟にばかり愛情が注がれてグレてしまい、決闘騒ぎを起こしたらこんな辺境に厄介払いされてしまった?
どんなふうに、どんな言葉でマーシャに結婚を申し込んだのかしら?
田舎娘が貴族の自分のプロポーズを断る訳がないと高を括っていたらすげない返事で、思わずコサックの娘がうんたらかんたらと口走ってしまったとかー。
好きな女の子に意地悪することでしかコミュニケーションがとれない幼稚な悪ガキ心理そのままに接しているところに、ニコライが登場してあれよあれよで2人は恋仲に?

甘やかされ大事にされてありのままでいるだけでマーシャに好意を持たれるニコライ。
貴族の自分が遜って媚びへつらって部下になり司令官に取り立ててもらったプガチョフさえも、ニコライには一目置いて「先生」呼び。
せっかく手に入れた(と思っている)マーシャまで奪い取られて。
自分の幸運を当たり前だと思って、さらに彼シヴァーブリンが望んでも手に入らないものを次々に手に入れていくニコライ。
考えたら辛くなってきました。

卑劣な男だけど、彼がベロゴールスク要塞の守備について批判していたことは真っ当だし(暢気に浮かれている場合ではなく、司令官である大尉はもっと前から兵士の訓練に力を入れて、中央政府に要請すべきことがあったはず)。
人柄は良くても状況が判断できない上官にイラついていたのもわからなくはないな。
なにより、査問委員会で彼はマーシャの名前を出さなかったんだよなぁ。

状況の察知能力などは誰よりも聡いのに人と対等にコミュニケーションできないのは、まともな愛情をうけて育っていないからではないかなぁ。
そんな彼を思うとせつなかったです。

ここまでいろいろ想像して肩入れしたくなるシヴァーブリンを見せてくれた桜木みなとさんの繊細な芝居が好きでした。

ありのままで人から大事にされ助けられて次から次に幸運が向こうから舞い込んでくるニコライ。
所詮おぼっちゃま・・!! 皆に愛される正真正銘の主人公なんだなぁ。
それを演じきって見せてくれた真風さんも凄いなぁと。


人柄で皆から慕われるミロノフ大尉の松風輝さん。
解いた毛糸を手に巻いて登場の碧眼のイヴァン中尉の星吹彩翔さん。
感情が入ると声が高くなり、戦闘中でも眼鏡を直すセルゲイエフ少尉の若翔りつさん。
長閑なベロゴールスクで生きる士官さんたちの雰囲気を面白く表現されていたなぁと思います。
死に際しても最後までプガチョフに盾突く気概と女帝への忠誠心、足を引き摺りながら絞首台へ向かう時も敵兵の手は借りない、長閑に過ごしていた頃とは打って変わった帝国士官ぶりが見どころでした。

ミロノフ大尉の奥方ヴァシリーサ(美風舞良さん)は、ただ感情的に喚いているように見えたのが残念だったなぁと思います。
あの状況下でうら若い未婚の娘に母親が付き添わない危うさにも気づかないお花畑な人に見えてしまって。
さらに娘の安否もわからない状況で自死するなど愚かな母に思えました。
初演はもっと賢夫人に見えていたんだけどなぁ。

初演のミロノフ夫人は、国境警備隊とは名ばかりで暢気に構えていた挙句に窮地に陥って、この期に及んで夫人を締め出し埒もない軍議をしている士官たちに現実を明らけく突きつけ、けれども非難をするのではなく自分も当事者側としてここに残るという決意を表明する、侠気溢れた肝の据わった女性に見えていました。
だから養い子とはいえ可愛い一人娘のマーシャを1人でオレンブルグに行かせることも勇ましさの陰で耐えるのだろうなと想像できました。

あたりまえに母親が付き添って無事にマーシャがオレンブルグに到着してしまったらドラマが終わってしまうので、ミロノフ夫人には要塞に残ってもらわないといけないのですけどね。
その動機のところの印象が初演と両極端でうむむむむでした。

それからパラーシカ(瀬戸花まりさん)も、恋人のマクシームィチを命懸けのパシリに使っておきながら、コサック軍が敗北しても彼の安否の心配はしないのかなぁと思いました。そんなことないよねぇと。
明るくおしゃべりでくったくのない性格はよく表現されていたけれども、内心が見えなさすぎるのがちょっと物足りないなぁと思いました。
(マーシャが監禁されていた頃、パラーシカはどこにいたのかな? コサック兵にもみつからずにマーシャから手紙を預かってマクシームィチに手渡していたとしたら有能すぎて凄い!)

千秋楽でミロノフ夫人が投げた毛糸玉をうまくキャッチできて(前楽で珍しく失敗しちゃってた)、客席から拍手が起きたときのはにかみが可愛らしかったのだけど、そういう心の動きをもっとお芝居でも見せてほしいなぁと思いました。

お2人とも歌うまさんで声がよく出る方なのだけど、それがかえってお芝居をするうえで弱点にもなるのかな。
(お2人とも宙組のコーラスや海外ミュージカルの上演では頼もしい宙組のたいせつな娘役さんです)


以上ベロゴールスクの皆さんについての感想だけですが、ここでいったんアップします。
(まだ反乱軍とか政府軍とか、ここに書いていないベロゴールスクの彼とか・・・書きたいです・・・)

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