愛はどこにいる。
5月9日に広島文化学園HBGホールにて、宝塚歌劇星組全国ツアー公演「アルジェの男」「ESTRELLAS~星たち~」を見てきました。
専科に異動になった愛ちゃん(愛月ひかるさん)の出演が発表になってから観劇遠征を思い立ち、チケットの手配に走ったのも遅かったし、初めてのホールでもあったのでどうなることかと思いましたが、行って本当によかったです。
(広島駅に着いて食べたお好み焼きも柑橘のパフェもお土産のお菓子〈ひとつぶのマスカット〉もめちゃめちゃ美味しくてまた食べたい!広島に行きたい!と夢見ています。まさに美味しい観劇遠征でした♡)
「アルジェの男」はさすが柴田先生の脚本という面白さと、星組メンバーの芝居力が活きて見応えがありました。
いまの感覚で見ると、登場する女性たちがそろいも揃って男性たちに都合がよいなぁと思えるのですが、書かれた当時を考えると、宝塚らしく柴田先生らしく破格に女性に優しい、女性たちへの愛おしみの気持ちのこめた作品だったのだろうなぁとも感じます。
往年の柴田作品には、酸いも甘いも噛み分けた賢夫人たちがしばしば登場しますが、「アルジェの男」にもボランジュ総督夫人(白妙なつさん)とシャルドンヌ夫人(万里柚美さん)という2人の大人の女性が登場します。
男性社会の中で確固とした居場所を築きひとかどの紳士に一目置かれる、タイプの異なる2人の女性は、こういう風に賢く男性に愛されれば女性は幸せになれると示しているようにも感じました。(いまこれが新作だと噴飯ものですが・・苦笑)
1974年の少女時代の私がこの作品を見たらそのようなメッセージを受け取っただろうなぁと思います。
そしてそれが柴田先生の女性たちへの愛なのだろうなぁと思いました。
「バレンシアの熱い花」に登場するマルガリータが大人になったらボランジュ夫人のようになるのかなぁ。イサベラが紆余曲折の末にシャルドンヌ夫人のようになる可能性もあるのかなぁなんて想像したりもしました。
「バレンシアの熱い花」の初演が1976年。まさに当時の柴田先生の理想の女性像なのだろうなぁと思ったり。半世紀近い歳月を経ての上演といのはいろんな感慨を呼び起こさせるものだなぁと思いました。
いまの少女たちにはどんなメッセージになっているのでしょう。訊いてみたい気もします。
主役のジュリアンを演じた礼真琴さん。やはり歌を聴かせるなぁと思いました。聴いていて心が高揚する歌い手さんだなと。
いまを感じさせるというのか、はしるようなクセになるような歌でした。それがジュリアンという若者の生き方に合っていたような気がします。
孤児で気にかけてくれる大人もいない。悪さをすることで仲間と連帯しているような若者。「コロシ(殺人)」と「タタキ(強盗)」以外はなんでもやったと豪語する。頭も良いし口も立つ(女の子に対しても)血気も腕力もある。でもこのままではいずれ街角で野垂れ死ぬだろうそんな若者。
そのことを彼自身がいちばんわかっているのだろうなと。そうはなりたくない。だから荒唐無稽とも思える野望を抱いているのだなと。そこからはじまる物語でした。
このままで終わるには知能もプライドも高い。けれどそのポケットにはなにもない。――With no love in our souls and no money in our coats(R.Stones)だなぁって。
野望が唯一の拠り所なんだろうなぁと思いました。
そんな若者が偶然にもチャンスを掴む。仲間たちに揶揄され袋叩きにも遭いながら信念のもと歯を食いしばって下積みから上を目指しているその眼光。綺麗事が言える身分ではない。利用できるものはなんでも利用しなくては目指すところへは辿り着けないとわかっている。礼真琴さんが見せてくれるジュリアンを非難する気にはとてもなれませんでした。
都会の裕福な家庭に育っていたら、心に闇を抱えることもなく自らの才能を発揮できていたのだろうに。
そしてパリで出逢う彼とは境遇のちがう若者たち。エリザベート、ミッシェル、ルイ、アナベル・・・。
彼らがあたりまえに手にしているものはすべて、彼にとっては自ら勝ち取っていくもの。
彼には、彼らが自分と同じ人間とは思えていないふしがあるような気がしました。彼らに共感すべき心を見出していないような。彼らの感情とは手玉にとり利用するためのもの。成り上がるための道具でしかないんだなぁと。
ボランジュの期待に応えるべく黙々と仕事に精を出し、自分が目指すところへ向かって着々とプランを練り実行していくジュリアン。愛を知らないジュリアン。
一緒に働いているミッシェル(紫藤りゅうさん)とはすこしずつ何かが芽生えてきているのかな?と思えていたその矢先に。
過去と現在が交錯し、過去のためにいまが砕かれようとして、いまのために過去を抹殺しようとして。
ついには自分がやったことの報いを受ける。
そのまえに一瞬でもサビーヌによって愛がいまここにあると知ったことが救いかなぁ。やっとジュリアンの空虚は埋まったのだろうなぁと思えたことが。
でもサビーヌの気持ちを思うとやりきれないなぁ。
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ジュリアンの悪友ジャックを演じた愛月ひかるさんは、クラシカルな男役の雰囲気で琴ちゃんと好対照でした。
ねっとりと悪でした(笑)。さいきん大人の大悪党役が多くて、またそれがハマる人なので、今回は小物感を出すのに苦労したのじゃないかな。
若くて危うさのあるジュリアンに拮抗する若さと彼への複雑な感情、物騒で剣呑な感じを琴ちゃんとのバランスをとりながら演じていたのはさすがだなと思いました。
サビーヌを演じた音羽みのりさんは、「大海賊」のアンが好きだったので、ヒロインを演じている姿を見られてうれしかったです。
綺麗なお姉さま役がお似合いな方ですが、今回も甘えるのが下手なしっかり者でジュリアンに向ける無償の愛が印象的なヒロインが素敵でした。クラブで踊るシーンは目が吸い付けられるように見てしまいました。生腹背中・・・素敵でした♡
サビーヌの成育歴を想像せずにいられませんでした。甘やかされたことのない娘なのだろうなぁ。ボランジュ家のエリザベートとは正反対の環境で育ったのだろうなぁ。
献身的なのは自分に夢を見て生きてはいけないからだなぁ。
紫藤りゅうさんが演じたミッシェルは、ジュリアンの同僚でジュリアンとは対照的な若者。彼は根本のところでこの世の中を信じている人だなぁと思いました。他人を信じられる人なんだなぁと思いました。
それでいて自分が持っていないものをジュリアンの中に見ている人。そしてジュリアンの空虚も感じている人なんだなぁと思いながら見ていました。
紫藤さんの雰囲気とミッシェルがとてもよく合っていたように思います。
ボランジュ総督を演じた朝水りょうさんは、威厳といわくありげな雰囲気を持つ粋な大人の役がぴったりでした。まだ研10?びっくりです。恫喝に迫力があって驚きました。
自らもまた這い上がっていまの地位に就いたと語る、ジュリアンが生き方の手本と仰ぐ人物を見事に演じられているなぁと思いました。ジュリアンがこの人を信じて食らいついていこうと思うのがわかる気がしました。
アナベルを演じた小桜ほのかさん。彼女も歌を聴かせる人だなぁと思いました。客席がしーんとなって聞き入っていました。泣いている人の気配もちらほら。セリフの声も娘役さんらしくて良いですねぇ。
アンドレがあのような行動に出ると言うことは、傷心のあまり自死したか、または自死も同然の状態になったということでしょうか。
叔母のシャルドンヌ夫人とは真反対の無垢でまさに深窓の世間知らずのお嬢さんなのだろうなぁ。
プロブラムにはジュリアンに夫人がアナベルと結婚してくれるなら政界での将来を保証するとほのめかすとあるのだけど、酸いも甘いも噛み分けた彼女の言う「アナベルを守ってくれたら」が結婚を示唆しているとは私は思えないのです。盲目の姪が公に名士夫人という任を負えるかくらいは考えていそうだから。
ジュリアンにも出世をする男は多少は悪党(ワル)でなければという意味のことを言っているので、そこに2人の合意がある気がするのです。
きっと、シャルドンヌ夫人はおいおいアナベルに言い含めて理解させたうえでそれも幸せなんだと思わせられる自信があったのではないかと思うのです。でも夫人の思惑に反してアナベルがそれを知るのが早すぎたのかと。まさかあんなかたちであんなタイミングでとは予想していなかったのかなと。
と、このあたりは見る者に任せられているのかなとも思います。
エリザベート役の桜庭舞さんははじめてはっきりと認識した娘役さんでした。エリザベートとても良かったです。
あどけない時代のこまっしゃくれた憎まれ口も愛らしく感じてついついニヤニヤして見てしまっていました。
両親が愛おしく思っているのもそりゃあそうだよねとよくわかります。
そのプライドのまま年頃のお嬢さんになって、ジュリアンを意識しながらもやっぱり憎まれ口を叩いてしまうところとか。そうだよねーと思ってしまいます。そんなに急に変わるなんてできないよねーと思います。親が望んでいるとわかっているとなおさら。わかるわー好きだわーこの子・・・と思いました。(拗らせちゃっている人を好きになってしまう性分なもので・・・)(関係ないけれどロザリア@アンジェリークをこの娘役さんで見てみたいなぁと思いました)
アンドレ役の極美慎さんは儲け役ですねぇ。役も良いけど極美さんのお芝居もとても素敵でした。
じっと耐えている眉間や、背中が絵になる人だなぁと惚れ惚れ。アナベルをお姫様抱っこから膝をついて優しく降ろしてあげるところなんて値千金。素晴らしいものを見た気分になり心がきゃ~~~♡とあがりました。
その積み重ねのうえでのラストシーンの亡霊のような、でも一目でアンドレだとわかる立ち姿はとても印象的でした。
ほかにも書ききれないくらいの星組の出演者の皆さんの熱演で、ほんとうに良いものを見ることができたなぁとしみじみと思いました。
「ESTRELLAS」も見ごたえのあるショーでした。
途中コンサートっぽい感じのシーンが続いていましたが、それも含めて礼真琴さんとこのメンバーに合っていて見ていてとっても盛り上がりました。
客席降りの紫藤さんにきゃ~~~ってなったり、極美さんの目線に思わずきゃーーー!!ってなったり(笑)。
星組さんの若手に綺麗な方がたくさんいるのもわかりました。(お名前はこれから勉強します)
星鷺の場面が印象的でした。ほのかちゃんを優しくみつめる愛ちゃんと愛ちゃんを見上げるほのかちゃんのペアもしっくりしていましたし、愛ちゃんの良さが出ているなぁと思いました。
そしてやっぱり踊る琴ちゃんに惹きつけられて。前後しちゃいますがリベルタンゴも好きでした。
それから黒燕尾!! とても情熱的で若々しい黒燕尾だったなぁと思います。ここでも綺麗な若手の方のお顏も気になるし、愛ちゃんが星組さんと黒燕尾を踊っている!という事実にも感動するし、やっぱり琴ちゃんのキレに感心するし。
1日2公演だけの観劇でしたが、濃い1日を過ごしたなぁといま思い出してもしみじみします。
また星組さんを見に行ける機会があったらなぁと思います。チケットが手に入ったら・・ですけども。。(いまからチケ難予想)
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