この世界 残酷だ。
5月26日に北九州ソレイユホールにて、ミュージカル「笑う男」を見てきました。大千秋楽の公演でした。
ストーリーも良いしキャストもすごくハマっていると思いましたが、なにかカチッと来なくて消化不良かなぁというのが見終わった感想でした。
ウルシュス(山口祐一郎さん)の歌をはじめ、どのナンバーも歌詞が示唆するものを深く考えたくなるのにそれを活かせていないかんじがしました。
主人公のグウィンプレン(浦井健治さん)が何に迷い何に惑わされ何に憤り何に目覚め何を求めたのか・・・わからない訳ではないのだけど、見ていてああなるほどとなる前にハイ次!って進んでいく感じで、展開に「間」がほしいなぁと思いました。
ナンバーも1人で歌うものが続いて、圧倒されるようなパフォーマンスを愉しむという感じでもなくて。それならやっぱり登場人物の内面をさぐらせてほしいなぁと思いました。
とくに私はウルシュスの気持ちを追いながら物語に浸りたいなぁと。そこには私の心に響くたくさんの金脈がありそうでした。
好きだったのはウルシュス一座のパフォーマーたちのやりとり。とても人間的で。かなしくもありやさしくもありたくましくもあって。イキイキとした場面だったなぁと思います。
なかでもデア(夢咲ねねさん)を励まそうと一座の女性たちが歌う場面は心に溢れてくるものがありました。彼女たち自身も見世物一座に身をおくそれぞれに訳のある人たちだろうに・・・。ああだからこそデアの心の痛みにこんなに寄り添えるのだなと思いました。
こんな心と心のやりとりがもっと見たかったなと思いました。
グウィンプレンもウルシュスもジョシアナ(朝夏まなとさん)も自己完結しちゃっているんだよなぁ。
作品の主題にあるものは好きなので再演されたらまた見たいなぁと思うのですが、そのときはすっと心に入ってくるといいなぁと思います。
朝夏さんの女優姿を見るのは宝塚退団後初だったと思うんですが、まったく違和感がありませんでした。考えたら傲慢でキュートなスカーレットを現役時代にたくさん見てるのでした(笑)。(緑の帽子のシーン可愛かったなぁ)
傲慢でひねくれもので素直なジョシアナ公爵役は彼女にとても合っていると思うのに、心情もたくさん歌っているはずなのに、はじまりから終わりに至るジョシアナの変化が不鮮明に思えたのはなぜかなぁ。彼女がいちばんグウィンプレンに影響され変わっているはずだよねぇ。
私はやっぱり貴族院の場面がすべてに向かってうまく作用していない気がするなぁ。それがジョシアナの見え方にも影響しているように思います。
宇月颯さんがウルシュス一座の女性パフォーマーとして参加されているのを発見してうれしかったです。ジャンプも高くてさすがだなぁと思いました。これからもまた舞台で宇月さんを見られたらうれしいな。
一座の場面はすごく好きだったし、デア役のねねちゃんとのお芝居もよかったです。「涙は流して」の場面をまた見たいなぁと思います。
デア役の夢咲ねねちゃん、浮世離れした雰囲気で世界観を作り出してしまうのがさすがだなぁと思いました。まるで夢を見るような心地で私はねねちゃんのデアのことを見ていました。
ウルシュスはこの世は残酷だと主張しながら、このデアを儚く脆いものとして過剰に保護しようとするんですよね。そこにウルシュスが心の奥に閉じ込めた真の希望がある気がするのだけど。
彼の言う『残酷なこの世界』では生きていけないはずのデアを大切に守り育てたウルシュスの心の奥にあるものを知りたいなぁと思いました。
その心があるから人間は滅びずに存在していられている気がするのです。
その心が危機を迎えている気がするいまだから、この作品が投げかけている主題が響いてくるのではないかなと思います。
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