おまえの決心は俺が見とどけてやる。
12月9日と10日、宝塚大劇場にて宙組公演「El Japón(エル ハポン) -イスパニアのサムライ-」と「アクアヴィーテ(aquavitae)!!~生命の水~ 」を見てきました。
前回11月22日23日に見たときは、うまく咀嚼できないまま飲み込んでしまったような腑に落ちない印象を受けていたのですが、今回はぐいぐい引き込まれて集中して見ることができました。
ストーリーを追いながら集中して見ていると、あっそうなんだ、なるほどの連続。どの場面もどのセリフも、見逃すのが聞き逃すのがもったいなくて、ビューポイントも多々。目が足りない。となりました。
真風涼帆さん演じる主人公(蒲田治道)が内省的なサムライというキャラクターなので、役柄的に受け身なため、周りが強く押さないと強く押し返せない。周りの芝居しだいで起伏が乏しい作品になってしまうように思います。
前回見たときよりも周囲の人たちの気持ちが強くなっていたのが集中して見られた理由じゃないかなと思います。
とくにエリアル役の桜木みなとさんが変わったかも。より漫画的に押し気味に治道とかかわっていってた気がします。ひとの話など聞いちゃいない(笑)。一方的なエリアルに、そんなつもりはないのに巻き込まれてしまう治道が好きでした。
さらにもっと過剰にナルシストに演じてもいいのではないかしらと、そのほうがぜったいにたのしい(笑)。
それから、はる役の天彩峰里ちゃんも漫画的な役づくりが活きているなと思います。
今回は、ほかの奴隷に売られた女の子たちもキャラが濃くなっていて、みんなでわちゃわちゃしている場面がたのしかったです。それぞれにちゃんとキャラがあるのだなと。ロベルタ(花音舞さん)やアレハンドロ(芹香斗亜さん)とのかかわり方にも個性が見えました。
ドン・フェルディナンド役の英真なおきさんはいわずもがなで心得ていらっしゃる。目つきからセリフ回しから絵に描いたような下種が過ぎる悪党。こんなふうに演じられたらたのしいだろうなぁ。
ドン・フェルディナンドの手下の黒マントの軍団が、前回見たときよりもカッコよくなってました。スタイル良い人たちがマントを翻す姿は眼福。(下級生だと思っていた人たちがどんどんカッコよくなってきてて焦る~でも帽子が目深でいまいち判別がついていない私です・・涙)
せっかくなので、次に出てきたときにも誰が誰とはっきりわかるキャラづくりにするといいのになぁと思います。
あの悪辣な奸物ドン・フェルディナンドの手下となるような人たちだから、それは一筋縄ではいかない気性とか裏事情がありそう。
ヒロインのカタリナ役の星風まどかちゃんが情感豊かになってていてすごいなぁと思いました。肌色と合わないなぁと思っていたドレスもすっきりとして見えました。
なのに、まどかちゃんが存分にヒロイン力を表現できる場面がないのだよなぁ。
剣術の稽古を通じて治道との心の距離が近づく場面とか、治道の帰国が決まった知らせをうけて心揺れる場面とかは描かれていないのですよね。
2人が剣術の稽古をしているはずの時間に、宿屋の女の子達と使節団の若者たちが元気にエイヤー!やっている場面を見ている場合じゃないのよ私は~!(可愛いけど)
一緒に観劇した初見の友人も、意識が飛んだときに肝心な場面(治道とカタリナが心通わす場面)を見逃してしまったと思ったと言っていました。
いやいやいや、そもそもそういう場面がないのです。びっくりですよね。
どうやらこの物語りは、私たちが思っているのとは異なるロジックではこばれているようなのです。
それゆえに初見では上手に咀嚼できなかったのだと思います。
ストーリーを追いながら気づいたことですが、この作品は、少年漫画の流儀で見ないとだめなんだと。
「死に時を探して無為に生きていた主人公が、マストアイテムを得て覚醒する」物語なのだと。
そのアイテムが、守るべき人、倒すべき悪、ライバル、そしてトモダチ。
目的が達成されたとき、おのずと恋も成就する。そういうロジックなのだと。
(だから恋愛模様の展開にはあまり場面を割かないのだろうなぁ)
守るべき人とは、主君であったり愛しく思う人であったりですが、あちらがどう思うかは関係なく、自分がこの人と決めた人のこと。
ライバルはこの作品では変則的で、主人公は意図せず勝手に巻き込まれてる(笑)。トモダチもまぁそうかも。
基本的には翻弄され型の主人公で、内省的な恋愛体質なので、彼を動かすには突拍子もない人物や出来事が必要なのだと思います。
アレハンドロみたいなトモダチが。
宿屋の主人におさまっても、いろんなもの(事件)をアレハンドロが持ってきそうだな。そのたびに巻き込まれる治道、みたいな-その後のイスパニアのサムライ-のスピンオフが見てみたいなと思います。(こんどこそマカロニ・ウエスタンになるかな)
もちろん、もれなくエリアスと藤九郎(和希そらさん)がくっついてきますね。
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かつて愛する人を救出に向かうことができずに悔いを残した治道が、こたびはそれを成し遂げたように、愛する人と一緒に戦うことができなかったことを悔いていたカタリナが、剣で治道を助けることができた。
生きていれば人は前にすすむことができる—— 囚われていた過去から解き放たれ、新しい人生に踏み出す2人の心にクローズアップするのか?と思ったら、舞台上では敵味方双方入り乱れ、アレハンドロがその場を浚って「本物の剣士かどうか」が最重要課題みたいになっていて、あれよあれよで大団円。
ヒロインはどうでもいいんかい。いやいいんだろうな。そういう御流儀の作品なんだろうな。
なぜそれを拾わない?!と思う部分があるかと思うと、えっそこ拾うんだ!という意外な面白さがある作品でした。
「こいつは俺の獲物だ」(エリアス)とか「勝手に死なれては困るんだよ」(藤九郎)とか少年漫画感半端なくて。
短期間の稽古で奥義を会得しちゃったりするのも少年漫画(笑)。
治道が不法滞在者になってしまうと大問題になっているのに、誰も藤九郎のことは心配しないけど、暢気にしていていいの?とか(笑)
ツッコミながら見るのも宝塚のたのしさかな。
予想とはちがう、私の感覚とはちがうストーリー展開ではあったけれど、皆の芝居がひとつの流れになっているのがわかると面白くなってきました。
そしてエリアスを諭すアレハンドロの言葉にうるうる。この人は人を信じることができる人だからこんなに魅力的なんだなと。たとえ期待通りに事がはこばなくても、切り抜けられる自信があるから人も信じられるのかな。それを大人の余裕というのかも。
ほんとうにそれでいいの?打算じゃないのね?と思う強引なハッピーエンドだけど、ラストの治道とカタリナのラブラブな顔を見ていたらこれでよかったのだと思えました。
ストイックに剣の道を教える治道と、拗けそうになった心に寄り添えるアレハンドロ、2人をお手本にして、きっとエリアスも藤九郎も人として成長するのだろうなという希望をかんじさせるラストが大好きです。
人を育てることこそが希望なんだと思えます。
同じように治道を見守っていた西さん(瑠風輝さん)や、きっと治道のような真面目な剣士だったのだろうバルトロメさんがいたからこそ、治道もアレハンドロも人を育てることができる人になったんだろうなと思うと、しあわせな気持ちになれます。
西さんを演じる瑠風さんが、真風さんの先達という学年や経験値からすると難しいだろう役を演じていましたが、滑舌よく竹刀使いも鮮やかで要所要所を締めていてとてもよかったです。
藤九郎を諭す場面では主題にかかわる大事なセリフを明瞭に慈愛深く伝えていて惚れます。いま上司にしたい人オブザイヤー2019のNo.1。
西さんはそのうち安西先生になるんじゃないかなと密かに私は思っています。(体型以外)
帰国の前の場面、道化に対しても礼節を尽くす支倉様(寿つかささん)も好きです。こういう尊敬できる人だからこそ、はるばる異国の地まで部下が無事についてきているのだなと思います。
良い組織だということですよね。
そんな皆さんの殿、伊達政宗(美月悠さん)が鬼剣舞のあいだずっと太刀持ちのお小姓(七生眞希さん)と談笑しているのに気づいて、やけに馴れ馴れしく話しているけどよいの? 眼前で舞われている鬼剣舞をちゃんと見てあげなくてよいの? と勝手にハラハラしていたのだけど、そっか。殿と作十郎(小姓)は歴史に残る関係なのですね。
狼藉者を斬り捨てることができなかったゆえに、可愛がっていた治道をイスパニアに懲戒するくらいの厳然としたお殿様の別の顔を見てしまった。。まったくゥ。(2人の恋の行方が気になって私まで鬼剣舞を見損なってしまった・・)
使節団のメンバーでは内蔵丞さん(秋音光さん)が目立っていました。酔っぱらってドン・フェルディナンドの手下の前を通る時、宿屋でわちゃわちゃしている時。
ほかのメンバーも見分けられるようになるともっとたのしくなりそうです。
スペインの宮廷では、レルマ公爵(凛城きらさん)やウセダ公爵(春瀬央季さん)の衣装等が意外と地味かなぁ。よい生地なのでしょうけど色味が落ち着いてて。もうちょっと差別化されていると、ラストで「ありゃ?」感が増していいのになぁ。(この親子関係、兄弟関係に興味津々です。-その後のイスパニアのサムライ-にもぜひキャスティングしてほしいです)
さいきん見る欧州を舞台にした作品はなんだか色味が暗く感じるのですが、この作品もそうだなぁと思います。リアリズムの追求でしょうか?
和物のほうが色味が明るいですよね。
治道の想い人だった藤乃を演じる遥羽ららちゃん、声といい表情といいほんとうにたおやかで、彼女の登場で治道が過去に引き戻されるのがわかります。治道演じる真風さんとほんとうに美しい一対で、見惚れてしまいます。
(やはり和物は美しいと思ってしまします)
ということで、がぜん楽しくなってきたエルハポンですが、次回観劇は東京公演の楽近くまでおあずけです。
どこまで深化しているのかもたのしみです。
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