彼女を信じてくれてありがとうございます。
12月13日と14日に宝塚大劇場にて、宙組公演「アナスタシア」の前楽と千秋楽公演を見てきました。
約2週間ぶりの観劇でしたが、こんなにも深まるものなのかと驚きでした。
特に前楽はすべてがピッタリとはまった快感と夢見心地が途切れることなくラストシーンに導かれました。
ほんとうにあえて挙げるとすれば1か所だけ、1幕の終幕間際のヴラドのアドリブへの客席の笑い声が次のディミトリのセリフまで残ってしまったのが惜しかったことくらいでしょうか。時間にして何秒もないタイミングなんですけど、ほらやっぱりアーニャはアナスタシアでしょ?と確信できる私の好きなセリフに被ってしまったのが・・。でも客席が湧くのを禁ずるのは違うと思うし、さりげない言葉だから良いのであって語気を強めても興ざめだし、まさに舞台は生ものだなぁと思いました。でもほんとに一瞬現実に戻ったのはそこだけで、夢を見続けた3時間でした。
千秋楽は客席も雰囲気がちがったし、舞台の上も独特の緊張があった気がします。
ディミトリ(真風涼帆さん)がアーニャ(星風まどかちゃん)との別れを意識する歌を歌えば、私もつい「ああ大劇場で宙組のまどかちゃんを見るのも今日が最後なんだ・・寂しいなぁ」などと雑念が入ってしまい、前日のように無心で見ることができませんでした。
1幕で真風さんは喉をいかしてしまわれたのかな。前楽の方が声が自在に伸びていたと思います。慎重に音を置いて歌われていたようで、前楽よりもおとなしめなディミトリでした。そのぶんせつなさは千秋楽のほうが増して感じられた気がしますが私の気持ちのせいもあったかもしれません・・。
アーニャ役の星風まどかちゃんも、前楽はオールパーフェクトだったのに千秋楽は何回かセリフを噛んでいてこれも千秋楽かなぁと思いました。でもセリフを言いなおししてもダウンせずクオリティを保てるのは流石だなぁと思いました。これほど信頼できるパフォーマーはそうそういないなぁとあらためて星風まどかちゃんという存在の稀有さをおもいました。
ふりかえると1か月前にはじめて観劇して以来、ディミトリのことばかり考えています。
サンクトペテルブルクの路地裏で生きるストリートチルドレンだったんですよね。お父さんは強制収容所で亡くなり、お母さんはそのずっと前からいない。
この街で生き抜くには賢く抜け目なく立ち回らなくては。まともなことをしたって生きてはいけない。盗んだり人を騙したり。力のない子どもは捕まれば殴られたり蹴られたりはあたりまえ。自分を生かすので精一杯だったよね。
悪びれてはいるけれど、アーニャに出逢って、彼女をパリに連れて行くために一生懸命お金を作ろうとする姿は胸を締め付けました。人様のお財布からお札を抜いている姿も。そうしたって出国許可証を手に入れるだけのお金は作れないんですよね。それもとてもせつない。
ヴラドやアーニャに出逢わなければ、ディミトリも悪友たちとウォッカに溺れるしかない人生だったかもしれない・・・この街で。
親のいないストリートチルドレンだった彼が大公女様のプリンスになるというおとぎ話なんだなぁ、これは。
おとぎ話は自分で作ればよいと強がりを言っていたけれど。アーニャがダイヤモンドを持っていなかったら成立していないお話。
彼がアーニャを心から信じたから起きた奇跡の夢物語なんだなぁ。そんなことが自分に起きるなんて少年の頃の彼は思いもしなかっただろうなぁ。ほかの誰かになれたらと、そんな無邪気な空想を少年だった彼も想い描いたことがあるのだろうかと、凍えてひもじい夜にどんな夢を見ていたのだろうと思うとせつなくてたまらなくなります。誰かの温もりの中にいた幸せな記憶はいつのことだったのだろうと。
ほんとうはアーニャが主人公の物語なのだろうけど、宝塚版だからこそのディミトリの比重が私は好きです。アナスタシアの過去ほどは彼の過去は描かれていないけれど、だからこそもっともっと彼のことを知りたいもどかしさはあるけれども。
でもそれも前楽と千秋楽にはみんな真風ディミトリに見ることができました。
彼が歌う歌詞が情景となってはっきりと見えた前楽、そして千秋楽でした。
「In A Crowd Of Thousands」で浮かび上がってきた痩せて汚れた少年と大公女様の邂逅。2人がともに記憶していたおなじ情景。
そしていま目の前で彼女に跪くディミトリの姿。幾度かつながりかけては消えた線と線が交わった奇跡の瞬間を私は目の当たりにしている——。
アーニャに出逢う前、少年の頃の思い出、アーニャに出逢ってから・・・どのディミトリも私は愛おしくてたまらなくて大好きです。
自分をみつけても手を振ったり笑いかけたりしてはだめだというディミトリの言葉に、千秋楽は専科に異動してしまうまどかちゃんと宙組に残る真風さんが重なって、たまらなくせつなくもなりました。こんなところでも雑念が・・・涙。
けれどあんなに鳥肌が立つほど息の合った「In A Crowd Of Thousands」を聴いたあとでは・・・。
このコンビだからこそのハーモニーを私はもう生では聴けないのだと思うと寂しさがぐっと押し寄せてきました。たぶんこの状況(コロナ禍)では私は東京まで公演を見に行くことは叶わないだろうから・・。
この作品を真風さんとまどかちゃんの主演で見ることができて良かったと思います。