長い旅路の果てに掴んだ お前の愛。
4月22日に東急シアターオーブにて、「エリザベート TAKARAZUKA25周年スペシャル・ガラ・コンサート」を見てきました。
花乃まりあさんがシシィを演じると知って、どうにかして見たいという思いと時節柄を慮る気持ちに揺れながら抽選に申し込み、幾たびかの先行抽選で辛うじて手にすることができたチケットを手に観劇が叶いました。
これまでエリザベートのガラコンを見たことがなく、そのコンセプトも概要もよくわかっていなかったのですが、キャストの豪華さにびっくり。明日海りおさんのトート! 北翔海莉さんのフランツ! ルキーニ役の望海風斗さんにいたっては宝塚退団後初の外部出演!! ルドルフは七海ひろきさん?! そりゃあチケットがなかなか取れないわけです。しかも宝塚のコスチュームで上演されるとは。
観劇が現実となって事の重大さに気づいた次第でした。
タカラジェンヌの愛し方には、その可能性を信じて見つづけていくというのもあると思いますが、その期待に応え尽くし夢を見せ尽くして卒業していく人もいれば、可能性を残したまま卒業していく人もいて、花乃まりあさんは私にとって後者のジェンヌさんでした。もっと彼女に夢を見ていたかったんです。
結論から言うと、本当に見に来てよかったと思いました。私の中のなにかが成仏できた感じがしました。偉大なる自己満足ですが。
娘役さんはとくにですが抜擢も早ければ卒業も早くて、人間的にも咲ききるまえに去っていかれるのがもったいないなぁと思うことがしばしば。
宝塚と言う閉じられた花園に適応することに命を費やしてやっとその目に映る世界が開けたかなぁと思う頃に卒業される。
宝塚とはそういうところと言われてしまうかもしれないけれど、その世界を愛するあまりに過剰な約束事を信じ込ませて囲いの中に押し込め私たちファンがその青春を消費する、それでいいのかなと心が痛くなることがあります。
いつも心のどこかに彼女たちへの申し訳なさがあるゆえにか卒業後のしあわせを切に祈らずにいられない。しあわせそうな姿に安心する。身勝手な想いです。
でもしかし。
私がそんな身勝手な罪悪感にとらわれているあいだも、宝塚の卒業生の皆さんはその命と芸を磨きつづけていたのだなと目が覚めるような素晴らしい舞台を見ることができました。
7年前、黄泉の貴公子の印象だった明日海りおさんは、いま堂々たる帝王でした。
中大兄やエドガーを経てのいまの明日海さんのトートなんだなぁと。経験を重ねることで同じ役を演じてもこんなに深みが増すんだなぁと思いました。
時間と空間を支配し、流し目ひとつで心を撃ち抜く威力に見ていてワクワクが止まりませんでした。このトート閣下大好き!となりました。
歌にも余裕が感じられて巧みに歌い方を変えたりされてました。ミルクのさいごの歌いあげ方も好きだったなぁ。
そしてすこしも悪びれることなく負の感情や悦びの感情を見せるトート閣下でした。
エリザベートに拒まれてこんなに傷ついた顔をするんだ。一瞬垣間見せるむうっと不貞腐れたような表情には見覚えが。この表情にいつも私はきゅんとしてしまうのです。
彼女を不幸に導く企みを巡らす時こんなに邪悪にほほ笑むんだ。そんなに彼女を愛しているんだと思うトート閣下でした。
自分から死に誘っておきながら「まだ私を愛してはいない!」とエリザベートを突き放す場面はいつも観劇しながらこれはどういうことだろうと考えてしまう場面なのですが、このガラコンではすんなりと腑に落ちていました。
それくらいエリザベートに愛されたがっているトートに見えました。
自分が望む完璧なかたちで愛されないとゆるせない我儘な駄々っ子のようなトート。すこしの瑕もゆるせず思い通りでないと傷つくトート。
私の性癖に刺さり過ぎるトート閣下でした。
そのトート閣下がエリザベートの愛を得て抱き寄せる時のなんと満足気なこと。ラストの昇天の場面でこんなにも自身が救われたように見えたトートを私は知りません。
ウン・グランデ・アモーレ!
死が人を、人が死をこんなにも愛し求めて結ばれたんだ——
・
北翔海莉さんのフランツ・ヨーゼフは登場シーンのあまりの可愛さに全私の心がどよめきました。現役時代より若くない???
そしてとっても優しそうな若き皇帝でした。
でもシシィ気をつけて。優しい人にはしがらみがいっぱいよ。穏やかな笑顔は秩序を重んじるゆえよ。あなたがもっとも苦手とする世界の人よ。
という心配も空しくさっさと北翔フランツのプロポーズを承けてしまった花乃シシィ。
そりゃあそうよね。こんな立派な方に優しくされたら目の前のことしか考えられなくなるよね。サプライズプロポーズというのは冷静になって考える隙を与えないところに作戦の意味があるのだから。承諾をもらった相手の人生最高の喜びを見せられるところまでがセットだからクーリングオフもしづらいよね。などど思ったり笑。
北翔フランツは母に支配されているというよりは、母を愛し母の愛を理解している息子だなという印象でした。
葛藤はあっても皇帝として守らなければならないもののために決断をしているかんじ。「母の助言は君のためになるはずだ」も本当にそう思ってシシィに理解してほしいと願っているのだろうなと。
シシィも自分のように聞き分けてくれるものと思っているからすれ違うのだなぁ。
シシィからの手紙も本当に何度も何度も読んでその整合性を自分なりに生真面目に納得してお返事に来たのだろうなぁ。
でもね、あなたの妻は自分を押し通すことしか考えないアーティストには向いているけど、治世者にはもっとも向かない人だから。あなたはこの先ずっとひとりで重荷を背負い続けることを覚悟して・・というかどんな重荷もけっして投げ出さずにひとりで抱えていくのよねと見ていて納得してしまうフランツでした。
若き皇帝から壮年、老年への変貌も見事で、一貫してシシィを愛しているフランツだなぁと思いました。とてもピュアな人なんだなぁと。
そして難しい歌も現役時代以上に表現豊かに歌われていて聞き惚れました。深みのある歌声でまるで楽器を奏でるみたいに歌うのだなぁ。
この歌を聴けてよかったなぁと心から思いました。歌うお仕事はつづけてほしいなぁ。
ルキーニはなななんと、この日が宝塚を卒業して初お目見えの望海風斗さん。
ほんの10日ばかり前に映画館でご尊顔を拝したばかり(ライブビューイングで)なのですが、ルキーニの扮装姿を見るとこんなに痩せられてたんだ!とびっくり。
軽妙に物語世界に客席を誘いときに煽り、役者のあいだを縫うように歩き脇でシシィと話をしていたりと自由自在なルキーニでした。
2幕冒頭のキッチュは独壇場。俺の話をしていい? あっちの世界からこっちの世界に来たの云々、みんな心配してたでしょ、と客席に向かって話しかけられるのを聴いて、えっ今日が初お目見えだったんだと知った次第でした。(2日目くらいかと思ってた)
トート閣下やフランツさんたちと楽しくやっておられるそうです笑。
あと自分の応援団みたいな服のひとがたくさんいるということも言われてたので、ははぁんボーダーシャツの望海さんファンがたくさん詰めかけているのねと思ったのですが、その中に真彩希帆さんがいらっしゃったことを後から聞きました。
キッチュは割れんばかりの手拍子でもう最高潮に盛り上がりました。お歌も自由自在でさすがでした。
そしてこの日のルドルフは七海ひろきさんでした。
七海さんがいちばん変わらないなぁという印象でした。リーゼントに軍服もいつも着ているみたい笑。
「闇が広がる」で明日海トートが嬉しそうに七海ルドルフを死へと誘っていたのが印象的でした。トートってこうだったっけ?と。
その後24日に見たライブ配信の蒼羽りくさんの暗雲を背負ったような鬱々したルドルフの時は、明日海トートも禍々しさが際立って見えたので、やはりあれは七海ルドルフが相手だったからなんですね。相手役によって異なる顔が見られるのも役替わりの面白さ。
七海ルドルフは革命家たちにそそのかされて簡単に御輿に乗ってしまう素直なルドルフだなぁと思いました。
明日海トートに無条件に身をゆだねるこの感じ。凰稀バトラーと大階段で踊っていたときの七海スカーレットを思い出すなぁと懐かしさがこみあげてきました。
こういうところも変わらないなぁと思った理由でしょうか。
そうそう。カーテンコール後の挨拶の時、泣いちゃった花乃まりあさんの隣でおたついている様子が保護者っぽくて思わずお兄さんだなぁと。WMWで共演した仲だったなあと思い出されたり。自分の親友に恋をうちあけて泣いている妹を見守る兄のシチュエーションを妄想してしまいました(どっちにも声をかけられない)。
花乃まりあさんのエリザベートは夢に見たエリザベートでした。
7年前の彼女ではこのエリザベートは演じられなかったでしょう。この7年という時間を彼女が生きてきたからこそのエリザベートなんでしょう。このエリザベートを見られたことが私には奇跡に思えました。
さいしょの「愛と死の輪舞」で下手端のセットの上に明日海トートが、上手端のセットの上に花乃シシィが立ったのを見た時、同じ舞台に2人が対で立っているそのことに胸がいっぱいになりました。
その瞳が俺を焦がし 眼差しが突き刺さる
息さえも俺を捕え 凍った心溶かす
歌詞の言葉のひとつひとつが放たれた矢のようにまっすぐに心に射し込んでくるのは、なにもない舞台にだた2人だけがいるからでしょうか。
みりかのワールドに時を忘れた数分間でした。
そしてこの「愛と死の輪舞」が2幕ラストまで一本のテーマとなって貫かれていたトートとエリザベートでした。
花乃シシィは解放されたいシシィだなぁと思いました。
コンサートなので具体的に何から解放されたいというのは見えないのですが、ここではない何処かに自分の居場所があると思っている人なのだなぁと思いました。でもここを恐れているけれどたどり着くべき場所も怖がっているようなそんな印象もうけるシシィでした。
そこには誰かが待っていると感じてはいるけれど。
ラストシーンは人生という長い旅路の果てに待っていた明日海トートに迎えられ差し伸べられた腕の中にやっと自信をもって飛び込むことができたエリザベートというふうに私には見えました。トートの腕の中がやすらげる場所になった瞬間を見た気がしました。愛を恐れ信じることができなかった彼女がようやくたどり着いたところ。喜びのオーラを全身から放つ花乃エリザベートと深い闇から救われたような面持ちの明日海トートになんだかとっても尊いものを見た気持ちになりました。
これもガラコンサートゆえに、いろんなものがそぎ落とされていたから見ることができた夢なのかな。
あの頃からずっと見たかったものを見ることができたという思いで自分の心が満ちていくのを感じることができました。
ほんとうに見に来て良かったと思いました。なにより私自身が救われたようです。
この回は2014年花組版のフルコスチュームバージョンだったのですが、北翔さん、七海さん、花乃さん、そしてゾフィー役の純矢ちとせさんとメインキャストに私がよく見ていた頃の元宙組生が配役されていて(揃ってハプスブルク家)、宙組ファンとしてもうれしかったです。
同じく2016年宙組フルコスチュームバージョンには元花組生がいっぱいですね。トップコンビが元花組だし。というかフルコスチュームバージョンが2014年花と2016年宙の2パターンだからか笑。
(話が逸れてしまうけれど、歴代のトートって元花組生が多いですよね・・麻路さきさんと彩輝なおさん以外みなさん元花組生??)
純矢ちとせさんのゾフィーは現役時代より怖かったです笑。でも強さの中にフランツへの深い愛が感じられるゾフィーでした。
大月さゆさんは色っぽいマダム・ヴォルフ。大人になられたヮと思いました笑。望海さんとの掛け合いがとっても楽しそうで濃厚でした♡
純矢さん大月さんともには全公演に出演だそう。お2人ともに89期で、もちろんいわずと知れた明日海さん、望海さん、七海さんもと89期が大活躍の公演でした。
現役生からは専科の悠真倫さんがマックス公爵役で出演されていました。
2014年花組、2016年宙組でもマックス公爵役でしたよね。家長としては無責任だけど自分に似ているからこそシシィを心配する父親の愛情が感じられるパパでした。カーテンコールの花乃まりあさんの挨拶のときも、七海さんと一緒におろおろされて本当にパパみたいでした。
あ、そういえば七海さん主演の「燃ゆる風」では羽柴秀吉役で竹中半兵衛役の七海さんと共演されたご縁が。
ほかにも望月理世さん、麻尋しゅん(えりか)さん、綾月せりさん、芽吹幸奈さん、如月連さん、琴音和葉さん、玲実くれあさん、天真みちるさんなど懐かしいお顏がありました。なにげに元月組生、元星組生も活躍されているなぁと思いました。
次は30周年のガラコンサートが開催されますよね、きっと。
人生経験を積まれ人間的にも成長されたOGの皆さんがどんな「エリザベート」を見せてくれるのか。またチケットを手に入れて見てみたいと思います。
そのときは、安心して観劇できる日々が訪れていることを信じています。
| 固定リンク | 0
コメント