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2021年7月の5件の記事

2021/07/19

未来なんか君にやる今を僕にくれ。

7月5日と6日に宝塚バウホールにて星組公演「マノン」を見てきました。

愛ちゃん(愛月ひかるさん)の主演舞台を見るのは2018年の「不滅の棘」以来。星組での主演は初です。

1回目の観劇後に思ったのは、「なにゆえこのペアでマノンなんだろう?」でした。研15の愛ちゃんと研10の有沙瞳ちゃんで。
この2人の主演なら大人な恋愛を描いたものが見たかったなぁと。

愛ちゃん演じるロドリゴは貴族の若様。次男坊なので領地は継げないから将来は聖職者になるか軍人になるかかな。品行方正で将来を嘱望されている10代の学生。故郷に帰る途中で友人を待っている間に追われている少女を匿う。
少女の名はマノン(有沙瞳ちゃん)、自分を修道院に入れるという親の元から逃げ出し近衛兵の兄を頼ってマドリードに行くのだと言う。
出逢ったばかりのロドリゴに一緒にマドリードで暮らそうと誘ってしまう娘です。そりゃあ親は彼女を修道院へ入れようと考えるよねと思いました。

そんなことも思い至らないロドリゴ、純粋培養で育ったのか。出逢ったばかりの自分に躊躇もなく体を寄せてくる彼女にすっかりその気にさせられてしまって。
一目惚れなのはわかるけど、自分にかんたんに許すことをほかの男にだって許すだろうとは考えないのかな。
自分の気持ちを愛だと思っているけれど、支配欲と独占欲を勘違いしているだけじゃないのかな。
裏切り者のマノン!と罵るけれど支配させてくれないマノンに逆上しているだけじゃないのかな。
順風満帆な未来も自分を信じてくれる友人も家族もなにもかもすべて棄てて彼女のもとに奔る理由はなんなのかな。
すべては人としての未熟さゆえなんだろうか。

マノンはヒロインとしては面白味がないなぁと思いました。
カルメンのように強烈な自分を主張するわけでもない。貞操観念が希薄で享楽的で抑制がきかずに流されやすいだけ。魅力的とは思えないなぁ。男性には魅力的なんだろうか。都合がよいから?
その場面その場面でいちばん自分の欲望を叶えてくれる男性を見極める本能に長けていて、関心を引くのが巧い娘。
出逢ったあのとき、彼女の本能が選んだのがロドリゴ。若くてハンサムで見るからに裕福な名家の子息。
でもずっと彼女を満たし、いちばんであり続けるには彼はリソース不足だったから、その不足している部分を自分の働きで補おうとしたということだよね。ロドリゴと楽しく戯れて暮らせるならお金持ちの男の相手をしてもかまわなかった。
それをロドリゴが受け容れられれば彼女的には問題はなかった。彼がプライドと独占欲で計画をめちゃくちゃにさえしなければ。
今際の際でロドリゴに殊勝な口調で愛を告げるのは、自分のためにここまで来てくれた男性は彼しかいないからだよねと思います。

主演の2人が芝居ができるだけに綺麗事で誤魔化せないものが見えた気がします。
けっして純愛カップルではない、それぞれのエゴとエゴが招いた破滅が。
カタルシスはどこにもない作品だなぁ。
なにを描きたい作品だったのか。主演の2人は何を表現したかったのか。
見ればわかるという作品ではなく、見る人の心に問いを残す作品なのかなと思いました。

綺城ひか理さんが演じたロドリゴの友人ミゲル。
ロドリゴのために手を尽くす良き友なのに裏切られてしまう人。あのとき自分が遅れて来なければと責任を感じてしまっているのでしょうか。
彼が真摯であるほどロドリゴの不道徳さと後戻りが出来ないところまで来てしまった立ち位置が際立ちます。
綺城さんは前作のロミオ(礼真琴さん)に続いて今作ではロドリゴ(愛月ひかるさん)に裏切られてしまう親友の役なんだなぁ。
フィナーレ冒頭の歌とダンスがとてもカッコよかったです。

マノンの兄レスコー役の天飛華音さん、「エル・アルコン」のキャプテン・ブラックの人ですよね。今回も舞台センスの良い人だなぁと思いました。
それにしてもマノンといい、兄のレスコーといい、どうしたことでしょうこの兄妹は。レスコーは近衛士官だというしマノンの身なりにしても使用人たちがいることにしても、貴族ではないとしてもそれなりに良家の子女でしょうに。享楽的な性格ゆえに身を亡ぼして親はたまらないだろうなぁ。
でもロドリゴへの献身的ともいえる協力やマノンとの兄妹仲の良さを見ると、裕福でも家庭は複雑で頼りにくかったり露悪的にふるまってしまう訳があったりしたのかなぁと考えてしまいます。
本当に悪いやつならお金を仲間に渡さず着服してロドリゴを見捨てて遁走したでしょうに。命など懸けずに。

ロドリゴとマノンの隣人でマノンの援助者フェルナンド役の輝咲玲央さん、レスコーがマノンのパトロンにとみつけてきたアルフォンゾ公爵役の朝水りょうさん。ともに色気のあるおじ様役が素敵でした。
フェルナンドはマノンにつれなくされても嬉しそうなちょっと卑屈で歪んだ感じのあるお金持ち。アルフォンゾ公爵は高慢で男の沽券を傷つけられたら執念深く相手を追い詰める自己愛の強いヤバイ人。とそれぞれいわくのありそうな人物造形が面白かったです。英真なおきさんのDNAを継いでいそうなデフォルメの効いた悪役っぷりが星組らしいなと思いました。

レスコーの恋人エレーナ役の水乃ゆりさんはどこにいても目に付く華のある娘役さんでした。
エレーナは享楽的で教養のない街の女という雰囲気ですが、きっと感性や性格は悪くない娘なのだなぁと思いました。レスコーに、お金のために自分がお金持ちの相手をしても平気かどうかと訊いて膨れる場面はとても好印象で、そのときのレスコー役の天飛さんのつれないけれど彼女を思っているのがわかるリアクションも良くて、ここからレスコーへの見方が変わった気がします。
主演の2人とは対照的ともいえるカップルで微笑ましく、このあとのエレーナを思うと胸が痛みました。

ロドリゴが誤って撃ち殺したロペス(彩葉玲央さん)をはじめ彼が愛と呼ぶエゴを貫こうとしたために何人もの人が不幸になっているのだなぁ。
マノンの心を手に入れたと満足したあの一瞬(それすら私には思い違いに思えるけれど)の代償として。

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2021/07/14

ブローニュの森の奥で。

7月6日に宝塚大劇場にて宙組「シャーロック・ホームズ-The Game Is Afoot!-」「Délicieux!-甘美なる巴里-」のぴあ貸切公演を見てきました。

Délicieux!」はベルエポックからレザネフォルの時代のパリの雰囲気を甘やかで可愛いお菓子たちになぞらえ、これでもかと可愛いや華やか楽しいを盛り盛りに盛ったショーでした。
クリームでデコレーションしたケーキの上にカラフルなマカロンやフルーツ、さらにさまざまな砂糖菓子を食べきれないほどのっけたみたいな欲張りな甘くて甘くて甘いショーでした。

例年だと7月にホテル阪急インターナショナルで開催されている巴里祭を贅沢に大劇場でやったらこんな感じでしょうか。
プロローグからLEDの彩り華やかな大階段がドーン、お菓子の箱をひっくり返したように段上から次々に繰り出してくるホワイトにラベンダーカラーがアクセントのアイシングクッキーみたいなコスチュームの出演者のパフォーマンスに心躍り、宙組生、初舞台生も総出のフレンチカンカンまで体感時間あっという間でした。
舞台花道銀橋に居並ぶタカラジェンヌたちの真ん中で真風さんがお遊戯指導の先生みたいに一緒に踊りましょうとマカロン型スティックをフリフリしてた絵は意味がわからなくなるくらいリッチでファンシーなパノラマでした。

つづいて大階段をしずしずと降りてくるローブアラフランセーズ(輪っかのドレス)の長身の美女、マリー・アントワネットの芹香さん。プティトリアノンで退屈しのぎにスウィーツをご所望。
マカロン男爵の紫藤りゅうさんとご友人の留依蒔世さん、すべてが可愛い夢の世界でなにを血迷いマッチョを目指すのか、あんな可愛い上着を着て(笑)。あえて意外性を突いて王妃さま(と観客)を攪乱させる作戦なのかなぁ。

ガトーフレーズの風色日向さん、亜音有星さん、大路りせさんの苺可愛いアイドルトリオ、ポージングとウィンクが鼻につくくらい可愛いくて胸きゅん。ですが王妃さまのお好みには合わないみたいで残念。
ヴィオレット・クリスタリゼ(菫の砂糖漬け)の瑠風輝さんと鷹翔千空さん、このどこぞの辺境伯のご子息だといういかにもな宙組の貴公子たちに思わずオペラグラスでロックオン。すみれ色の宮廷服が映える超絶スタイルに金縁眼鏡、憂いと知性を宿したお顔立ちと美声が鬱になるほど素敵。ですがやっぱり王妃さまはお気に召さないご様子。
クレープ侯爵(公爵?)の和希そらさんはキザりと甘く深い美声でアントワネットさまを虜にする作戦だったようですが功を奏さずアントワネットさまの厳しいツッコミが。

そこにアントワネットさまのお好みを知り尽くしたあのお方がご登場。
その手にはアイスクリームの銀の器が。これまでとはアントワネットさまの食いつきがちがいます。アイスクリームになのかフェルゼン伯爵になのか・・その両方、彼女を喜ばせるためにアイスクリームを選ばれたフェルゼン伯爵にでしょうか。アントワネットさまはたいへん暑くていらしたようなのです。あーそんな慎みのないお姿で、おみおみおみおみおみ足を~~(素敵)。
金髪ロングヘアの麗しい真風さんを見るのはいつぶりでしょう。もしかして王妃の館以来??

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2021/07/09

かならずおまえに辿り着く。

7月6日に宝塚大劇場にて宙組「シャーロック・ホームズ-The Game Is Afoot!-」「Délicieux!-甘美なる巴里-」のぴあ貸切公演を見てきました。

4回観劇して初の2階席でしたが、2階席から見ると舞台セットやライティング、フォーメーションなどがダイナミックでとても見応えがありました。
ホームズがアイリーンの楽屋を訪れる時のノックは、ライティングとノックの音と真風さんの仕草が絶妙にスマートで素敵だなぁと思いました。2階席からじゃなかったら気づかなかったなぁと思います。
ほかにもセットに投影された鎖やライヘンバッハの滝の映像も壮観でしたし、ロンドンの街は舞台奥にいる人々の様子も見えて物語の世界観により浸ることができました。

1週間前の観劇では作品の世界観を掴めず戸惑いましたが、今回はすっと問題なく入り込んで見ることができました。
前回はいちいちショックを受けたり戸惑っていたりしていたのでそれぞれのキャストのお芝居も頭の中で整合性がとれず意味がよくわからずにいたのですが、今回は芝居の方向性や塩梅も自然に受け止められ面白く見ることができました。
そのうえでホームズが落ち着いてきたなぁという
印象をうけました。なにもセリフのない間を安心して見ることができました。
“真風ホームズ”が存在していました。

ホームズを取り巻く人びとのキャラ立ちも面白かったです。
遥羽ららちゃん演じるハドスン夫人はホームズに振り回されてお怒りになりながらもその実とても協力的でいつもご苦労様!って思いました。本当はホームズのことが大好きなんだなと(笑)。
天彩峰里ちゃんのメアリーの浮世離れしているようで核心を突くひと言にその瞬間誰もがなにかを察することができている感じがとても良かったです。ワトスンぜったい彼女を手放しちゃだめだぞと思いました。ワトスンにとってメアリーとホームズは両極の対となる存在なんだなと思いました。
そしてやっぱり凜城きらさんのマイクロフトが好き。弟に甘いんだから~~と思います。
芹香斗亜さんのモリアーティも見慣れてきたゆえ、ストーリーを面白く見ることができたと思います。(前回はモリアーティが登場するたびに、おー、おぉ、おー?って感じで最後まで慣れませんでした笑)

潤花ちゃんのアイリーン・アドラーが人を出し抜くかんじのシーンが好きで、マイリンゲンでのモリアーティとのやり取り、ラストの墓地でのホームズとのやり取りはたのしくて仕方がないです。潤花ちゃんの話し方のペースとか耳障りのよい声音とか含めてお芝居が好きです。
アイリーンに非難がましいことを言われているホームズも好き。相手が自分を責めるのを黙って聞いている時の真風さんが好きなのかも。懐の大きいかんじが。彼女との信頼関係が見える気がして幸せな気持ちにさせてもらいました。

桜木みなとさん演じるワトスンのメアリーに向けるまなざしが好きでした。とくにメアリーが不思議と真実をついたひと言を発した時。彼女に対する深いリスペクトが感じられました。
ホームズが滝から落ちてからの一連の深い感情表現は唐突に感じられ、そんなに?と思い
ました。それというのもそれまでにホームズとの深い絆を感じさせるエピソードが描かれていなかったせいだなと思います。ワトスンとしてのその感情は正解なのだと思うけれども。ちょっと置いてけぼりな気持ちになりました。

ポーロックの瑠風輝さん、モラン大佐の鷹翔千空さんがカッコよくて加点倍増でした。それぞれの魅力を引き出せる役になっていて生田先生わかってらっしゃる。
美声揃いのスコットランドヤードのメンバー(和希そらさん、留依蒔世さん、希峰かなたさん、真名瀬みらさん、湖風珀さん、風色日向さん、亜音有星さん)が歌い継ぐ場面も好きでした。美声がヤードの採用条件? それとも配属されたら毎日歌の鍛錬があるのかな。

そして今回も、モリアーティチーム(芹香さん、松風輝さん、紫藤りゅうさん、瑠風さん、鷹翔さん)からホームズチーム(真風さん、凛城さん、桜木さん、和希さん、留依さん、遥羽ららちゃん、瑠風さん、希峰さん、天彩峰里ちゃん)と歌い継ぐ「The Game Is Afoot!」は最高に気持ちが盛り上がりました。真風さんがちょうカッコイイし。

女王陛下(瀬戸花まりさん)とマイクロフト、そして大臣たちのやりとりも関係性が面白くて好きでした。
これはエンタメ作品なんだとわかって見ると見どころがいろいろみつかって、リピートが楽しみです。

見終わった後で、ホームズが歌っていた曲の1フレーズが頭をぐるぐる。「かならずおまえに辿り着く」って“おまえ”って誰なのかなぁ。
帰宅してプログラムを見ると「真実」に“おまえ”のルビが。
生田先生こういうのお好きですよねぇ。

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2021/07/03

雨が降らなければ虹は出ない。

6月28日と29日に宝塚大劇場にて宙組公演「シャーロック・ホームズ-The Game Is Afoot!-」「Délicieux!-甘美なる巴里-」を見てきました。

「Délicieux!」はベルエポック、レザネフォルのパリに可愛いアイシングをかけたような世界観。おそらく地上のどこにもない空想上の「パリ」という憧れの世界を具現化したような多幸感でいっぱいになるショーでした。

でも、甘やかなシャンソンを歌い継ぎ、舞台上のタカラジェンヌと客席とがペンライトで愉しくシンクロしたり甘く美しい狂騒のカンカンで最高潮に盛り上がったり、プチトリアノンで王妃さまと個性的なスイーツを愉しんだりした後で、突如としてR指定の世界になるのがどうしても受け入れられませんでした。
初めはけっこうリアルな小道具たちだなぁ、なかなか本気のボンデージファッションだなぁと思って暢気に見ていたのですが。
だんだん、えっ・・これ・・?となりました。

様式や設定にそうしたものを取り入れたショーならこれまでもありましたが、性的な嗜好そのものをショーとして見せていたものはなかったと思います。
どうぞ性的対象として見てくださいというような。その中には盲目の少女までいて。

これが閉じられた劇場の中だけで完結するならまだいいのですが、映像となってネットにでも流れたら取り返しのつかないことになりはしないのかと心配です。
その前にこれは放送しても良いものなのかも疑問です。
「清く正しく美しく」というモットーは、彼女たちが性的対象として見られないようにと守ってきたものでもあったのではないのでしょうか。
それを自ら破ってしまってどこへ向かおうというのでしょうか。

このあとのラテンの場面からはまた盛り上がって、キュートな娘役さんたちの銀橋渡りやキャンディーケーンを手にした軽快なスウィング、マカロンカラーの衣装が目に涼やかで美しいコーラスの場面ではこの公演での退団者のピックアップもあったりして胸がいっぱいになりました。
カッコイイ男役スターさんたちの歌とダンスに心でキャーキャー叫んで、とてつもなく可愛いピンクのドレスとハットの娘役さんたちに囲まれた芹香さんが華やかに大階段で名曲を歌ったり、黒燕尾の男役さんたちがペアでタンゴを踊った後は、シフォンのブルードレスの潤花ちゃんが登場して芹香さんの歌で真風さんとデュエットダンス・・・こういうのが見たかった!と思うものがこれでもかこれでもかと噴水のように溢れてきて、
最後は振り切れるほど幸せな気分になれるのでまた見に行くのが楽しみなのですが。
切にあの場面は変更を加えてほしいなぁと思います。
安心して宝塚を見に行きたいから。

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2021/07/02

The Game Is Afoot!

6月28日と29日に宝塚大劇場にて宙組公演「シャーロック・ホームズ-The Game Is Afoot!-」「Délicieux!-甘美なる巴里-」を見てきました。

シャーロック・ホームズ-The Game Is Afoot!-」は期待していた方向と違っていて初見は戸惑いました。
生田先生の余計な設定を膨らませる癖は治らないのかなぁ。
ホームズが女性嫌いの傾向だからこそアイリーン・アドラーが稀有な存在として輝いているのに過去の恋人を創作する必要があるのかな。(アドラーを登場させない映画等ではヒロインとして原作にはいないホームズの恋人が登場する場合もあるけど)

世界観が幼い気がするのもイマドキなのかなぁ。物語上意味のあるワードが軽いのも気になりました。
これはアイリーンではないアイリーン、モリアーティではないモリアーティ、ホームズではないホームズと思って見るのが良さそうです。
モリアーティの一味からホームズの仲間へと歌い継ぐ「The Game Is Afoot!」は声の良いメンバー揃いで耳に最高だし、ザ男役の真風さんがとってもカッコよくてこのうえなく気分が高揚したのでこのシーンのためにリピートできると思いました。そこからラストにかけては隙なく好きだったので、だからこそいろいろと惜しいなぁと思いました。

主演の真風涼帆さん演じるホームズ像はどうもしっくりきませんでした。
真風さんって男役のなかでも最高な部類の素材だと思うんですけど、その魅力を活かしきれていなくてもやもや。
ホームズの造形としてのカッコよさもない。高い声で抑揚がつきすぎる話し方、過去の恋人を思って苦悩する等、どう考えても原作とは程遠い。
これは“あのホームズ”ではないと思って見るべきなのだなと思うけど、じゃあこの作品のホームズはどんな人物?となると見えてこない。なので魅力的な人物に思えない。
それでいてワトスンとの掛け合いの歌では原作の設定を引用していて、もはやどうしたいのかよくわからない。設定は使っていながらそのワトスンへの反論の仕方がホームズらしくない。
見ている側としては過去の作品のスタンやディミトリに似ていて混乱する。真風さん引き出し少ない?と思ってしまう。
人を見透かしたような態度の偏屈な英国紳士が思わぬリアクションを見せた時、それがとてつもなくチャーミングに見えるのがホームズの魅力だと私は思っているのだけど、そういうところが見えなかったのが肩透かしでした。
いつもはぞんざいに扱っているワトスンを実はかけがえなく思っているのが見えたり、女性嫌いかと思っていたらリスペクトしてる女性がいたり、クールだと思っていたら子供っぽい面があったり情熱的に悪と対峙したり、前提条件が明確にあるからホームズは面白いのになぁ。

アイリーン・アドラーもあのアイリーン・アドラーではないなと思いました。
でも演じている潤花ちゃんがとても華やかで上流階級でスキャンダルの中心になるのはなるほどと思いました。お衣装部さんも頑張り甲斐がありそうです。どのドレスも着こなしていて素敵だなと思いました。
ただ生田先生のこだわりかヘアスタイルに縛りがあるみたいで、どのドレスを着ていても同じように見えたのが面白くないなと思いました。ドレスに合わせたいろんなヘアスタイルが見られたらよかったのになと思います。
女王陛下主催の祝祭に出席する時も旅着でドーバーを超える時もおなじなんてアニメみたいでなんだかなと。いやアニメでも、ここぞという時はいつもとちがったヘアスタイルで登場してわぁっと言わせるものですが。
潤花ちゃんがこんなにたくさんの
セリフを話す作品を生で見たのは初めてでしたが、日本語のイントネーションに癖がなくて綺麗な話し方ができるのがとても素敵だなと思いました。

芹香斗亜さんのモリアーティの造形はもう原作のイメージとはかけ離れていました。
宝塚ですから役づくりが若くなるのは予想していましたしポスターを見てもそれはわかっているつもりでしたが、想像以上に子どもっぽい役づくりで「黒執事」に出てきそうなキャラだなぁと。
ヘアスタイルもアイリーンと同様にアニメっぽいアッシュ系カラーとカットで2.5次元ミュージカルのキャラみたい。
といいますか舞台セットも「黒執事」みたいだなーと思ったし、もしかして生田先生は2.5次元ミュージカルをやりたかったのかな。(本当は「憂国のモリアーティ」をやりたかった??)
そうならそうと最初から言ってくれればいいのに——!
新潮文庫を読んでいるつもりが電撃文庫を読んでいた!みたいな(誰かがカバー掛け替えた??)感覚に陥ってどうしていいのかわからなかった時間を返して。
生田先生の場合、たびたび公演解説と実際の舞台のテイストがちがう問題が。
見る側も初見で受け入れるのに戸惑うけど、演じる側も戸惑うんじゃなのかな。舞台上に存在する人びとにも齟齬があった気がします。19世紀の写実主義な人びとの中にデジタル彩色の人がいる印象でした。

ほかに気になったところは、レストレード警部(和希そらさん)がマイクロフト(凛城きらさん)を殴る場面。
ガチガチの身分社会であるヴィクトリア朝時代に法と秩序を守る立場のスコットランドヤードが一門の紳士を殴ったりするかな。あれくらいのことで。それも政府高官を・・と。設定崩壊してるなぁと見るたびにあーあとなりました。

若手スターや娘役の起用の仕方とか、顔見世的場面を作ったりとか(地下の武器工場の場面やロイヤルオペラハウスの場面など)、役者それぞれに愛がある作り方がされているのは見ていて嬉しいし、ラストの趣向もとても好きなので、世界観がまとまって「んん??」と思わずにすむといいなぁと思います。
次の観劇では好きなところをたくさん見つけてきたいと思います。
——まだ獲物は飛び出したばかり!

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