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2021/07/14

ブローニュの森の奥で。

7月6日に宝塚大劇場にて宙組「シャーロック・ホームズ-The Game Is Afoot!-」「Délicieux!-甘美なる巴里-」のぴあ貸切公演を見てきました。

Délicieux!」はベルエポックからレザネフォルの時代のパリの雰囲気を甘やかで可愛いお菓子たちになぞらえ、これでもかと可愛いや華やか楽しいを盛り盛りに盛ったショーでした。
クリームでデコレーションしたケーキの上にカラフルなマカロンやフルーツ、さらにさまざまな砂糖菓子を食べきれないほどのっけたみたいな欲張りな甘くて甘くて甘いショーでした。

例年だと7月にホテル阪急インターナショナルで開催されている巴里祭を贅沢に大劇場でやったらこんな感じでしょうか。
プロローグからLEDの彩り華やかな大階段がドーン、お菓子の箱をひっくり返したように段上から次々に繰り出してくるホワイトにラベンダーカラーがアクセントのアイシングクッキーみたいなコスチュームの出演者のパフォーマンスに心躍り、宙組生、初舞台生も総出のフレンチカンカンまで体感時間あっという間でした。
舞台花道銀橋に居並ぶタカラジェンヌたちの真ん中で真風さんがお遊戯指導の先生みたいに一緒に踊りましょうとマカロン型スティックをフリフリしてた絵は意味がわからなくなるくらいリッチでファンシーなパノラマでした。

つづいて大階段をしずしずと降りてくるローブアラフランセーズ(輪っかのドレス)の長身の美女、マリー・アントワネットの芹香さん。プティトリアノンで退屈しのぎにスウィーツをご所望。
マカロン男爵の紫藤りゅうさんとご友人の留依蒔世さん、すべてが可愛い夢の世界でなにを血迷いマッチョを目指すのか、あんな可愛い上着を着て(笑)。あえて意外性を突いて王妃さま(と観客)を攪乱させる作戦なのかなぁ。

ガトーフレーズの風色日向さん、亜音有星さん、大路りせさんの苺可愛いアイドルトリオ、ポージングとウィンクが鼻につくくらい可愛いくて胸きゅん。ですが王妃さまのお好みには合わないみたいで残念。
ヴィオレット・クリスタリゼ(菫の砂糖漬け)の瑠風輝さんと鷹翔千空さん、このどこぞの辺境伯のご子息だといういかにもな宙組の貴公子たちに思わずオペラグラスでロックオン。すみれ色の宮廷服が映える超絶スタイルに金縁眼鏡、憂いと知性を宿したお顔立ちと美声が鬱になるほど素敵。ですがやっぱり王妃さまはお気に召さないご様子。
クレープ侯爵(公爵?)の和希そらさんはキザりと甘く深い美声でアントワネットさまを虜にする作戦だったようですが功を奏さずアントワネットさまの厳しいツッコミが。

そこにアントワネットさまのお好みを知り尽くしたあのお方がご登場。
その手にはアイスクリームの銀の器が。これまでとはアントワネットさまの食いつきがちがいます。アイスクリームになのかフェルゼン伯爵になのか・・その両方、彼女を喜ばせるためにアイスクリームを選ばれたフェルゼン伯爵にでしょうか。アントワネットさまはたいへん暑くていらしたようなのです。あーそんな慎みのないお姿で、おみおみおみおみおみ足を~~(素敵)。
金髪ロングヘアの麗しい真風さんを見るのはいつぶりでしょう。もしかして王妃の館以来??

例の場面は振付がすこし変わっていました。
いちばん苦手だった潤花ちゃんが真風さんにスパンキングされる振付は鞭の音がなくなっていました。
潤花ちゃんと桜木さんのキャットファイトの平手も音がなかった気がします。
2階席からは生々しい姿態が目に入らなかったせいもあり前回見た時よりも際どさが和らいだように感じました。
でも逆に1階席では気づかなかったことに気がついてやっぱりこの場面は場面ごと変えるか大幅に変更を加えてほしいと思いました。

夜のパリで道に迷いお腹を空かせた潤花ちゃんが、素敵なパティシエ真風さんのお店に足を踏み入れ、究極のスウィーツを求めて魅惑の音楽とともに古き良き時代のパリをめぐるレヴューというコンセプトの中で、この場面だけショーの主体が不明になっていると思います。
カラフルなお菓子たちに笑顔をこぼして喜んだ少女とそれを見つめてほほ笑んでいた観客の心はいずこに?

鞭で苛まれて喜んだり、いかにもなキャットファイトを見せたり、勝者のプライズとしてベッドで組み敷かれたり、道に迷ってお腹を空かせていた少女を演じていたトップ娘役に具体的な性的嗜好を表現させるのはやめてほしいです。まるで少女が性的搾取されているみたいだし、彼女を鞭打っている人があの優しく微笑んでいたパティシエと同じ人だなんて悪趣味に思えます。彼女の屈託のない笑顔がよけいに痛々しく感じられました。
さらにそういう性的な駆け引きを売り物にしている設定の中に、盲目の少女やショーのマスターに縋りついて媚びる美少年という未成年に見える役を登場させるのも児童虐待を見世物にされているようで耐え難いものがありました。

ベルエポックそしてレザネフォルの時代。
人と文化は都市に集まり、民衆は熱狂し貴族たちは没落の前の徒花を咲かせた。
そんな時代の狂気や退廃を描いた映画がありました。人間の嗜虐性や自暴自棄に享楽にふけるさま、その実人生を棄てきれず犯した罪をなすりつけ忘却していく人間たち。
人が忘れ去ろうとしている罪や不都合なことを綿密なシナリオや手法で暴いて見せることと、嗜虐そのものを見世物とすることは意義が違うのではと思います。
それを観客に見せる目的はなんなのか。
ブローニュの森の大人の恋の駆け引きならもっと別の描き方があったのでは。
併演の「シャーロック・ホームズ」が目当ての観客や「宝塚のレヴュー」を楽しみに見に来た観客を念頭に置いた作品づくりをしてほしかったです。
宝塚とタカラジェンヌを愛する人々のために誰もこれを止めてくれなかったことが悲しいです。

この場面につづく宝塚らしいラテンアレンジの曲とダンスにほっと胸をなでおろし、見ているうちにまた気分が盛り上がりました。
ブラック&ゴールドのコスチュームの潤花ちゃんがとても素敵でした。なんとなくジョセフィン・ベイカーを思わせるような1920~1930年代の雰囲気がとても好きでした。
(かなり余談になりますが、ゲランがジョセフィン・ベイカーのために調香した香水は『スー・ル・ヴァン(Sous Le Vent)』という名前だそうです)

遥羽ららちゃんを中心とした娘役さんたちが銀橋を渡る場面は可愛いさに頬が緩みました。
芹香さんがコール・ポーターの「I Love Paris」を歌い曲調がどんどんアップテンポになっていくところはとっても楽しくて思わず手を叩きたくなりました。
色とりどりのマカロンカラーの衣装で希望を歌う場面は退団者のピックアップもあり、全員が並ぶとちょうど虹のように見えて「雨が降らなければ虹は出ない」という歌詞とともにとても感動的でした。
白いケーキタワーの上でフランボワーズのマカロンみたいな可愛い色あいのコスチュームでポージングして登場する初舞台生に思わずわぁ~~っとなりました。一糸乱れぬ息の合った元気いっぱいのロケットは初舞台生だなぁと見ているこちらの心も弾みました。この可愛い初舞台生たちがスターに育っていくんだなぁ。

赤チーム白チーム青チーム、トリコロールに分かれたスーツとソフト帽で男役スターが歌い踊る「パリ・カナイユ」は、待ってましたの場面。可愛い楽しい綺麗の中で良いスパイスになっていました。しなやかな人ダイナミックな人スタイリッシュな人エネルギッシュな人、それぞれの男役さんが自身の魅力を出してきてカッコよくキザって目が足りない。目にも耳にも幸福でした。なかでも鷹翔千空さんのスター性をあらためて実感。宙組のザ男役に育ってほしいな。
大階段でファンシーピンクのドレスとハットの娘役さんに囲まれ芹香さんがガーシュインを歌う場面。私の目が喜んでいる♡
黒燕尾は真風さんが歌うムーディーな「パリの散歩道」。曲が次第にタンゴアレンジになっていき、たくさんの男役がペアでタンゴを踊る珍しい場面に。私は毎回秋音光さんと瑠風さんのペアに惹きつけられていました。とても端正なダンスがなぜかせつなくて。

芹香さんが伸びのある声で歌う「トワエモア」に乗せて真風さんと潤花ちゃんが優雅にデュエットダンス。真風さんの優しいリードと揺れる潤花ちゃんのシフォンのブルードレスがドリーミーで素敵でした。こういうテイストのトップコンビなんだなぁというのを実感。
パレードはまたまたボンボニエールをひっくり返したみたいに大階段から次々にファンシーでチャーミングなタカラジェンヌが繰り出し多幸感でいっぱいに。
久しぶりに見た貸切公演は終演後にトップスターの真風さんから挨拶がありました。

世界がまろやかに溶け目の中にはキラキラした残像を宿したまま時を忘れ、気がついたら帰路の電車の中にいました。すぐには解けない魔法にかかっていたみたい。
またこの世界に浸れることをいまからカレンダーを眺めて楽しみにしています。

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