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2021/08/07

いちばん大切なものを手に入れた。

愛ちゃんこと愛月ひかるさんが「柳生忍法帖」「モア―・ダンディズム!」の千秋楽(2021年12月26日)で退団することが発表されました。
予感はありつつ外れてほしいと祈っていたのですが、現実になってしまいました。
ようやく世界が愛ちゃんに追いついたところだったのに。

人にも物事にも正直に本音で向き合う愛ちゃん。
甘くコーティングされた関係性を見ているのが好きな人には敬遠されてしまうのかなと悲しく思った頃もあるのですが、いま彼女を認めてくれる人がこんなにいることが素直にうれしいです。

先月バウホールで見た愛ちゃん主演の「マノン」は、学年の若い役者同士ならなんとなくほわほわと埋まって夢のような物語で終わっただろうところを、相手役の有沙瞳ちゃんともども
実直に緻密に演じて、エゴとエゴが絡んで導きあった因果が見える作品になっていました。
これまで愛ちゃんが演じてきた役やその役づくりを思い返すと単純な人物造形にはとてもならなかったのだろうなぁと思います。なにも考えていないなにも思っていない無心の役がいちばん演じにくいだろうなぁと。
ただ存在し動き見つめるだけで見る側の想像を掻き立て成立させてしまう圧倒的
真ん中タイプの役者さんもいますが、愛ちゃんも有沙瞳ちゃんもキャラクターを演じることに長けた役者さんで、これまでの来し方を経ていまがあるのだなぁとしみじみ思いました。



私は顔を覚えるのが苦手なたちなのでヅカ友さんたちの下級生の話題についていけないことがしばしばあるのですが、愛ちゃんのことは比較的早く2009年の中日劇場公演のショー「ダンシング・フォー・ユー」のシャルマンで“超絶プロポーションの下級生”と認識しました。(ヅカ友さんたちはその前の本公演の「ダンシング・フォー・ユー」で話題にされていたので周回遅れなのですが・・)

大和悠河さん退団直後は燃え尽きて、心境的にしばらく宝塚は見られそうにないとファン友さんたちと話していたのですが、ではヅカ復活はいつになるだろう?という話題になった時に「愛ちゃんがスターになる頃かなぁ」と言ったのはいまもはっきりと覚えています。“ピヨピヨの愛ちゃん”がスターになる頃―― あまりに漠然としていつともわからない未来という気がしていました。でもいつか訪れる未来だとも確信していました。
その後外部のミュージカルやディナーショーの客席で愛ちゃんを時折見かけました。(ほかの生徒さんもいらしてたと思いますがなにしろ顔覚えが悪いので愛ちゃんしか認識できない状態で・・汗)
当時は宝塚観劇は年に数回ほどで、タイミングが合わず宙組観劇ができていなかったこともあり、愛ちゃんを見かけることが唯一私にとって宙組を意識させる瞬間でもありました。

その愛ちゃんの舞台姿をようやく見たのが2012年12月「銀河英雄伝説」東京公演。愛ちゃんは帝国軍のワーレン役でした。記憶にあるのは出征前夜の娘役さんとのダンスです。相手の娘役さんを包み込むようにみつめる男役さんだなぁという印象をうけました。
そして怒涛のようにヅカ復活を果たして、「モンテ・クリスト伯」の凰稀かなめさん演じるダンテスの影武者や息子役、「うたかたの恋」のフェルディナンド大公という前途有望な若手スター姿に目を瞠り、「風と共に去りぬ」新公のベル・ワットリングの輪っかのドレス姿をタカラヅカニュースで見ておおっと唸りました。(思っていたよりも美女だったんですよ!)
このころには旧知のファン友さんたちが愛ちゃんのファンになっていて入り出での話など聞いたりして、自分の贔屓よりも愛ちゃんのことをよく知っていたかもしれません(笑)。

凰稀さんトップ時代はいかにも正統派の若手路線を歩んでいると思っていましたが、2015年の朝夏まなとさんプレお披露目「TOP HAT」のべディーニにはびっくり。こんなはっちゃけた役もやれちゃうんだ。
朝夏さんトップ時代はトップさんの友人や個性的な敵役などクセのある3番手の役を演じることが多くなりました。「神々の土地」のラスプーチンの怪演は衝撃でした。
真風涼帆さんトップ時代に入ってからは「不滅の棘」のエロール、「天は赤い河のほとり」のマッティワザ、「ウエストサイドストーリー」のベルナルドなど長身のルックスを活かし美意識高く細部までこだわる役づくりが魅力的でした。愛ちゃんが演じる役の心情を想像して見るのが好きでした。
このころになると私にも愛ちゃんが克服しなくてはならない課題もわかるようになってきて、それをどうクリアしていくのかやきもきしていたことも事実です。でも自分の課題に正面から向き合っていく姿にさらに応援したくなる気持ちを掻き立てられていました。
トップや2番手さんなどスターが他の組から異動してくることが多い宙組で、愛ちゃんの存在そのものが私にとって宙組観劇を実感させる大きな意味のあるものになっていました。
「愛ちゃんがいるから宙組」だと疑いもなく思っていたのです。

そんな折の専科への異動発表は衝撃すぎました。
宙組最後の公演となった2019年2月博多座「黒い瞳」のプガチョフ。真風さんとのお芝居での絡みを目に焼き付けるように何度も劇場に通いました。
専科になって初の特出の星組全国ツアー公演「アルジェの男」は広島に見に行き、星組との相性の良さを感じてこのまま星組生にならないかなぁなんて身勝手なことを思っていたら、なんと星組異動の発表が。すごく嬉しかったです。
と同時に就任したばかりの期待の若きトップスター礼真琴さんの下でどれだけの期間在籍できるのだろう・・という不安も感じていました。

そして2020年2月に迎えた礼さんのお披露目公演、愛ちゃんにとっては初の大劇場での2番手公演を初日が開けて間もないうちに見に行きました。「眩耀の谷」では礼さんの上官である管武将軍を演じる愛ちゃんに、愛ちゃんならもっとできるんじゃない?と叱咤激励したい気持ちになりました。まだ力を発揮できていないなぁと。(愛ちゃんでも借りてきた猫状態になりますよね・・そのときは思いもしていなかったけれど)
併演の「Ray」は万能のエンターテイナー礼さんからザ・男役の愛ちゃんへと芯になる場面が替わるたびにオセロの盤面のように雰囲気ががらりと変わるのが新鮮であっという間の疾走感満載のショーで大満足。2回目の観劇が楽しみと思っていた矢先に新型コロナ感染拡大によりまさかの公演中止に。そこから宝塚歌劇が約4か月間も公演しないという前代未聞の事態になるとは思いもしませんでした。
ようやく次の星組公演を見に行けたのは11月全ツ梅田の「エル・アルコン」と「Ray」。ショーのオリンピックの場面が別場面に替わっていたりして、パンデミックとオリンピックの延期を実感するも愛ちゃんの活躍と充実の極を感じさせる星組の舞台に興奮しました。

そして今年2021年「ロミオとジュリエット」。ティボルトそして死。どちらもいまの愛ちゃんだから表現できるものだと思いました。
その公演期間中に放送された極美慎さん天飛華音さんとのスカイステージトークでは、彼女らへの期待とともに自分の持てるものを下級生に伝えなければという使命感も感じ取れました。
着々と後に続く人たちに何かを残そうとしている・・と。その感じを「マノン」でもさらに強く受けました。

思えば、なぜ宙組出身のトップスターがなかなか生まれないのか。宙組からの異動の折にこの十数年来言われているこの問いにその身をもって答えを探したいと言っていた愛ちゃん。
その答えの糸口はみつかったでしょうか。それをいつか宙組に伝えに来てくれるでしょうか。

なんだか思い出は次から次に溢れてきてとめどもありませんが、気持ちを整理しながら次の星組観劇に臨もうと思います。
「柳生忍法帖」「モア―・ダンディズム!」の東京千秋楽のその日まで、愛ちゃんには男役を極めつくしてファンを魅了しつづけてくれることを願っています。
期待しています!

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