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2021年10月の4件の記事

2021/10/27

待っていてくれるんだな。

10月23日に博多座にて、宝塚歌劇月組公演「川霧の橋」「Dream Chaser -新たな夢へ-」のソワレを見てきました。
(幸さんのセリフの語尾が記憶していたのとちがっていたので、前回の感想のタイトルを修正しました汗)

この日は中日とのことで、10月11日の初日と翌日のマチネ以来の観劇だったのですが、もの凄い進化を遂げているなと感じました。
舞台の上のひとつひとつのセリフや感情が真っすぐに心に届いてきて私は冒頭からラストまで入り込んで見ていました。

初日もとても感動したのですが、1点引っ掛かるとしたら「おみっちゃんはあれで2年待つの凄いなぁ」だったのですが、今回は「いやぁこの清さんになら初心な娘は勘違いしちゃうわ、初心でない私もコロリだわ~」と思いました。
暁千星さん演じる清吉の雰囲気が大きく変わった気がします。危なっかしい捨てておけないような色気が出たといいますか。
おみっちゃんを見る目の輝きに、この瞳にロックオンされたら敵わないわと思いました。

告白されて豆鉄砲を喰らった鳩になったところから、清さんが行ってしまってウフフってなってるおみっちゃんがとても可愛くて。
清さんの雰囲気が変わったことでおみっちゃんの反応も変わったなと思いました。
この日のことを思い出すたびにきっと、おみっちゃんもまんざらではない気持ちになっちゃって、待っていなくちゃと思ってしまうのじゃないかな。
あの一瞬に絆されてしまったのよね。
そう見えると、その後の幸さんの真摯な想いをなかなか受け入れられないのも納得でした。
一瞬の夢見心地と約束は守らなくてはと思う少女らしい律義さのために自分の将来を決定づけてしまった、愛情についてなにもわかっていない娘なのだなぁと思いました。

そんなおみっちゃんをずっと思っている月城かなとさん演じる幸次郎は、
なんていうのか、やっぱり融通の利かない頑固者だけど信用のおける人だなと思います。
自分の大工道具を自分の手で大事に手入れして仕事をする人柄は、きっと愛情の面でも同じなのではないかなと。おみっちゃんのことも大事に大事に想い続けているのだろうなぁ。
口下手は直した方がいいかもと思いましたが、大人になった彼はそこもちゃんとわかっていますよね。
回り道をしたけれど、やっぱり2人にとって必要なことだったのだなと思いました。

一緒に見た方が初見だったのですが、1時間半とは思えないくらい長く感じだとおっしゃっていました。
私も初日にそう感じたのを思い出しました。つまらなくて長いのではなくて、ヒロインたちの境遇が幾度も変化していき、まだこれで終わりじゃないんだ、どうなっていくんだろう?と思うポイントが何回もあったのに1時間半しか経っていないことに驚いたのです。
それぞれ登場人物たちの情報もてんこもりでしたし、登場人物たちそれぞれの場面が主人公たちの結末にちゃんと意味を成していたことも驚きでした。

日本もの人情ものということで、最近見た宝塚の作品に比べて登場人物が心情を歌ったり踊ったりする場面が少なめだったので、その分の時間で情報がいろいろ盛り込まれていたというのもあったかもしれません。
説明台詞がほとんどなくて、状況や関係性が会話形式で描かれていたことで、たくさんの登場人物にセリフがあったことも情報量が濃いと感じた理由かもしれません。そのセリフ自体は短いものであっても。
「お嬢さん、水溜りがあります」のひと言で、お組さんがどんな育ちの人なのかが浮かび上がって鳥肌でした。
その育ちこそがあの大火の日の行動につながるし、その行動がその後の人生が変わってしまうきっかけともなっていて心で唸るしかありませんでした。

おみっちゃんの家のお隣のお常さんとの関係性も秋鯵のセリフのやり取りでわかりましたし、同じように茅町の人びとの関係や杉田屋さんの内の人間関係や序列もセリフで理解できました。そうそう意外と大事な権さんの職業も。
女性たちの上方言葉で清さんと権さんが大阪で再会していることも説明なしでわかりました。これは日本物ならではの効果でしょうか。
脚本を書いた人のセンスの冴え、そして観客を信じて書かれた脚本だなということもしみじみと感じます。
今回の再演にあたって、初演と演出をほとんど変えていないとのことですが、それも良かったのかもと思います。

この日は、初演の主演コンビ剣幸さんとこだま愛さんがご観劇で、カーテンコールで挨拶された月城かなとさんに大きな拍手をおくっていらっしゃるのが後ろからよく見えました。
月城さんがお2人がご観劇であることを、お稽古場でいただいたお言葉を交えながら紹介されていました。そのお言葉は月城さんにとって宝物なのだなぁという印象をうけました。
一瞬柴田先生のお顏が浮かんだこともおっしゃっていて、こうして宝塚は続いていくんだなぁと感慨深かったです。
月城かなとさんと海乃美月さんのプレお披露目がこの作品でよかったなと私も幸せな気持ちにさせていただきました。

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2021/10/21

俺は人でいい。

10月16日に宝塚大劇場にて星組公演「柳生忍法帖」と「モア―・ダンディズム!」を見てきました。

「柳生忍法帖」はとってもエンタメでした。
原作を読んだことがないので、どんどん展開するストーリーにどうなるのかな??と思いながら見ていました。

主人公は言わずと知れた剣の天才柳生十兵衛(礼真琴さん)。
非道な藩主に弄ばれ、そのために肉親を失い居場所をなくした女たちの無念を晴らすため、指南役を引き受ける。

ヒーロー(十兵衛)が弱きをたすけるストーリーではあるんですけど、可哀想な人をただ守るんじゃなくて、無力な彼女たちが力をつけ強く生きられるように鍛え、学びを与えるという視点が素敵だなと思いました。あくまでも主体は彼女たちという体で。
女たちを叱咤激励しながらそっけなくも温かいまなざしを向ける十兵衛がいいなぁ。きっと十兵衛のことをそんなふうに育てた人がいるのだろうなぁと思いました。
おそらく生まれて初めてひとりの人間として扱われ、学びの場を与えられて生き生きとしている女たちの姿もいいなぁと思いました。

女性にとって地獄の世の中は、男性にとっても地獄だなと思いました。
力のある親の子どもに生まれなければ惨めに虐げられて生きるしかない地獄。
力を誇示する者に逆らえば、人間らしく生きることもできず、死ぬことでさえ人としての尊厳を貶められる地獄。

芦名一族も、過去の恨みを晴らして自分たちが復活するためにどんな非道なことでもする時点で、自分たちを滅ぼした者たちと同じなんだよなぁと思いました。
彼らの目指す先には救いがないなぁと。

そんな中で人々と触れ合いながら十兵衛が到達する境地がうれしかったです。
けっきょくのところお坊ちゃまなのだけど、それでも、たとえ現実は簡単にその希いどおりにはいかないものだとしても、ONE FOR ALLではなくALL FOR ONEを標榜して行動するヒーローを見たかったのだなぁ私は。
大野先生の書く本は、途中はまぁいろいろあれでもラストは(この世の中は、人間は)棄てたものじゃないなと思えるところが好きです。

礼真琴さん演じる十兵衛は、独りで求道しながら生きている人なんだけど、彼にはちゃんとその成長を見守りつづけている人がいるんですよね。
それが礼さん自身の立場とも重なって好きでした。
恋愛心理はおそらくどうでもよくて、特上の異性から好きと言われたらそれで一つの達成(上がり)なのが、大野先生の前作「エル・ハポン」でも感じたけれど少年漫画的だなと思いました。
「双六」なんですよね。それはそれでいっかと思えるエンタメ作品に仕上がっている感でした。

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2021/10/16

スウィングしなけりゃ意味がない。

10月15日の宝塚バウホール月組公演「LOVE AND ALL THAT JAZZ」を見てきました。
風間柚乃さんのバウホール初主演作品です。

感じたのはひたすら「恐怖」でした。
これを書いた人に人の心があるのかと疑いました。
スウィング? 否、洗脳でしょ?
「恐怖による支配」を「善導」と勘違いしている人による。

独善と自己満足のために出逢った人々を次々と不幸に陥れていく主人公が怖かったです。
不穏な時代に突然店に飛び込んで来た娘のただならぬ様子にお構いもなく、訊かれもしない自分の正当性をべらべらと話し出し、相手の事情を察するや怒鳴りつけて叱りつけて自分のビジョンに従わせるところから嫌な予感はしていましたが、それは最後まで払拭されず、それどころかますます増長していく主人公が恐怖でした。

愛とか人は誰もが違ってよいとか、どんなに立派なことを言っていても相手の心に寄り添わなければそれはただの独善では。
他人を自分の理想に巻き込み命をも懸けさせながら、この人はそれをどう思っているのだろう。
相手の同意を一度だってとっていたかな。若い娘には判断力も意思もないと思っているのかな。
仲間たちの憧れのジャズマンの自分だから、皆が諸手を挙げて賛同するのが当然と思っているのかな。

善良な仲間たちの前で、命に関わる重大な機微情報をするっと口にするヒロインも怖かったし、それを勝手に解釈して自分の主張のために取り込み自分の正義に利用する主人公も怖かったです。
仲間の命の意味や重さまでも彼が解釈して誰にも口を挟ませないことも。
恋人の死の報せを受けたばかりで錯乱する娘に微笑みを強要するのも怖かったし、その状況で彼の言葉(歌)に感銘を受けて娘が心を改めることも怖かったです。

彼の微笑みには不思議な魅力があるそうな。
だから皆彼のために瞳をキラキラ輝かせて、命まで懸けてくれるらしい。
強制労働の最中でもひとたび彼がジャズを歌い出せば、皆憑りつかれたように笑顔になって踊り出していました。
音楽は人の心を支配する手段なの?
彼の奏でるジャズは人の心を彼の思いのままに動かす技のよう。
ストーリーにお構いなくジャズナンバーになると客席からぜんぜんスウィングしていない平坦な集団手拍子が起きるのも怖かったです。
自由であるはずのジャズなのに全体主義のお手本みたいで。

私は何を見せられているのだろう? 人の心を思いのままに支配したい「教祖様になりたい男の夢」?
その主張は誰からも否定されずすべて受け入れられて、誰も彼もが自分のために命を懸けてくれる「不思議な魅力をもった俺」の夢?

本編が終わってフィナーレの「Sing,Sing,Sing」でようやく私はナイトメアから解放された気分になりました。
演じきった人たちに心から拍手を送りました。

主演の風間柚乃さんにジャズを歌わせたことは買います。どう歌えば聴く人が心地よくなるのかわかってらっしゃるなぁと思いました。
ストーリーを考えずにもっと聴きたいと思う歌声でした。
芝居をぐいぐいと引っ張っていく力も凄いなぁと思いました。
とくにあの雪山のソロを1人でもたせてしまう力は素晴らしいなと。

主演以外の出演者にも目に留まった若手の方が何人もいたのですが(風間さんより下級生ってことですよね)、プログラムを見ても誰が誰だかわからなくて。
とくにジャズナンバーを踊っている場面では役名ともちがって、月組さんについて履修不足の私には難易度高しでした・・汗。
博多座公演、バウ公演と見て、月組の芝居力に感服です。これからが楽しみです。
(来年からは組に偏らずに見ていきたいなと思い中・・です・・)

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2021/10/12

俺はいつでもいいぞ。

10月11日の博多座宝塚歌劇月組公演「川霧の橋」「Dream Chaser -新たな夢へ-」の初日と10月12日のマチネを見てきました。
この公演は月組新トップコンビ月城かなとさんと海乃美月さんのプレお披露目公演です。
そして2年8ヵ月ぶりの宝塚歌劇博多座公演です。

まずは、月城さん海乃さん、おめでとうございます。
そして、、
遅ぇぜ、いつまで待たせるんでぃ!――― ではなくて笑
ようこそ博多へ!!!
久方ぶりに宝塚歌劇が博多座で上演されるこの日を待ちに待っていました。

「川霧の橋」はほんとうによく出来た脚本で、初日終演後は唸るしかなかったです。
あの紆余曲折が、2人には必要だったんだなぁと納得しかなくて。

さいしょの求愛で結ばれていたら、おみっちゃんは愛されることしか知らない傲慢な娘のままだったかもしれないし、幸さんはおみっちゃんの気持ちを重んじて「俺ァいつでもいいぜ」と待てる男にはなっていなかったかもしれない。
あの言葉がするっと口からでる幸さんの人間の器の大きさに私は痺れました。その言葉が口にできるまで、いったいどれほど傷ついてきたのだろう彼は。
「おまえが欲しい」という自分本位の愛から、「俺ァいつでもいいぜ」という相手を尊重できる愛に至るまでに。
おみっちゃんも、自分が求められたことにのぼせて、その心の本音を見誤ってしまう初心な娘から、ひとの心の痛み苦しみ —— 幸さんの苦しみ、自分の心、そして清さんの苦しみまでも―― がわかる女性となって、幸さんと結ばれてほんとうによかったなぁと思えました


2人が結ばれたことを心から喜びたい気持ちになれたこともいい作品だったなぁと思うのですが、私はこの町に生きる人々が出逢った人1人ひとりを見捨てないことがたまらなく好きで泣きたいような気持ちになりました。誰しも自分のことで大変な人々なのに。
またあの人たちに逢いたいなぁ。
―― と思いながら、今日は眠りにつきます。

(またゆっくりと感想を書けたらいいな)

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