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2021/10/21

俺は人でいい。

10月16日に宝塚大劇場にて星組公演「柳生忍法帖」と「モア―・ダンディズム!」を見てきました。

「柳生忍法帖」はとってもエンタメでした。
原作を読んだことがないので、どんどん展開するストーリーにどうなるのかな??と思いながら見ていました。

主人公は言わずと知れた剣の天才柳生十兵衛(礼真琴さん)。
非道な藩主に弄ばれ、そのために肉親を失い居場所をなくした女たちの無念を晴らすため、指南役を引き受ける。

ヒーロー(十兵衛)が弱きをたすけるストーリーではあるんですけど、可哀想な人をただ守るんじゃなくて、無力な彼女たちが力をつけ強く生きられるように鍛え、学びを与えるという視点が素敵だなと思いました。あくまでも主体は彼女たちという体で。
女たちを叱咤激励しながらそっけなくも温かいまなざしを向ける十兵衛がいいなぁ。きっと十兵衛のことをそんなふうに育てた人がいるのだろうなぁと思いました。
おそらく生まれて初めてひとりの人間として扱われ、学びの場を与えられて生き生きとしている女たちの姿もいいなぁと思いました。

女性にとって地獄の世の中は、男性にとっても地獄だなと思いました。
力のある親の子どもに生まれなければ惨めに虐げられて生きるしかない地獄。
力を誇示する者に逆らえば、人間らしく生きることもできず、死ぬことでさえ人としての尊厳を貶められる地獄。

芦名一族も、過去の恨みを晴らして自分たちが復活するためにどんな非道なことでもする時点で、自分たちを滅ぼした者たちと同じなんだよなぁと思いました。
彼らの目指す先には救いがないなぁと。

そんな中で人々と触れ合いながら十兵衛が到達する境地がうれしかったです。
けっきょくのところお坊ちゃまなのだけど、それでも、たとえ現実は簡単にその希いどおりにはいかないものだとしても、ONE FOR ALLではなくALL FOR ONEを標榜して行動するヒーローを見たかったのだなぁ私は。
大野先生の書く本は、途中はまぁいろいろあれでもラストは(この世の中は、人間は)棄てたものじゃないなと思えるところが好きです。

礼真琴さん演じる十兵衛は、独りで求道しながら生きている人なんだけど、彼にはちゃんとその成長を見守りつづけている人がいるんですよね。
それが礼さん自身の立場とも重なって好きでした。
恋愛心理はおそらくどうでもよくて、特上の異性から好きと言われたらそれで一つの達成(上がり)なのが、大野先生の前作「エル・ハポン」でも感じたけれど少年漫画的だなと思いました。
「双六」なんですよね。それはそれでいっかと思えるエンタメ作品に仕上がっている感でした。

舞空瞳さん演じるゆらは、父である芦名銅伯(愛月ひかるさん)の意思のままに生きる娘。
自分というものを意識しないことが生きるすべである時代に身を置く娘なのだけど、十兵衛に出会ってはじめて自分の意思で生きてみたいと思ったのだろうなぁ。いささか唐突には感じたけれど。
なにかはわからないけれど十兵衛に魅力を感じたのだろうなぁ。十兵衛が堀一族の女たちへ向けるまなざしにかなぁと私は思います。
あの時彼女が強気に自分を通せたのは、藩主の子を宿した自分がいままで以上に父の計画にとって重要な手駒となっていることを自覚していたからだなぁ。
いずれにしても捨て身の恋で、ただただ十兵衛のそばで限りのある幸福な時間を過ごしてみたかったのだろうな。
豪奢な座敷ではなく質素な炉端で十兵衛と向かい合うゆらは幸せそうでした。
そうしている十兵衛はわかってる男だなぁと思いました。

己の悲願のため妖しい術を使って悪い藩主に味方する芦名銅伯役の愛ちゃん(愛月ひかるさん)は、107歳といいながら白髪の総髪を下した美丈夫ぶりが人間では非ざる者の雰囲気を醸していて、愛ちゃんならではの存在感だなぁと思いました。
回想シーンで若くなったり、双子のもう1人の役になったり忙しそうでした笑。

銅伯の下で芦名の七本槍と呼ばれていた役には、瀬央ゆりあさん、極美慎さん、漣レイラさん、綺城ひか理さん、ひろ香祐さん、天華えまさん、碧海さりおさん。
個性的な衣装で誰が誰かが区別ができて、見る人にやさしい設計。それぞれの意匠には曰くがあるのだろうなと思いますが、原作を知らないのでわかりませんでした。気になりますがさすがに1時間半では描けないですね。
だけどカッコイイ名乗りのシーンは欲しかったなぁ。

とことん悪い藩主の輝咲玲央さん、食えない沢庵和尚の天寿光希さん、不本意ながら同道させられている多聞坊の天飛華音さんが良い味の芝居で作品を面白くしていました。
二場面くらいしか登場はなかったと思いますが、私は柳生宗矩様(朝水りょうさん)がえらく心に刺さりまして、勝手に宗矩様推しを名乗らせていただいております。

千姫の白妙なつさん、天秀尼の有沙瞳さん、堀一族の女たちの音波みのりさん、紫月音寧さん、夢妃杏瑠さん、紫りらさん、音咲いつきさん、小桜ほのかさん、宿場の本陣の娘の水乃ゆりさんなど、娘役さんたちが生き生きと演じていたのもいいなぁと思って見ていました。
ロミジュリもいいけれど、こういう作品も宝塚ファン的にはうれしいものだなと思います。


ショー「モア―・ダンディズム!」は、前日に友人と初演の「ダンディズム!」を見て盛り上がったのもあり、とても楽しく見ることができました。

やはりキャリオカの場面は最高。
礼真琴さんの歌とダンスは心のままに楽しめていいなぁと思いました。

愛ちゃんはすでに退団者特有の慈しみに満ちたふわふわとした白いオーラを発していて、私はなんとも言えない思いで見ていました。
ギラギラしたオーラを発しながら銀橋を歌い渡る3番手の瀬央さんとの対比に、こうしてこのさきも宝塚は続いていくのだなぁと思う私でした。

友人に観劇報告をしたら「大階段で黒燕尾の群舞はあった?」と訊かれて、あっそういえばなかったかも・・と気づきました。
キャリオカで黒燕尾はあったんですけど、いわゆるフィナーレの黒燕尾はなかったなと。
わぁダンディズムだぁぁ。ことなこすごーいすごーい。などと見ていたらあっという間に終わってしまった~~って感覚でいたのですが、愛ちゃんの最後の黒燕尾を見たかったなぁと、しんみりしてしまいました。(遅いし)
愛ちゃんの男役の美学のこだわりが詰まった黒燕尾を、サヨナラショーでは見ることができるのかなぁ。
いまはそれが気がかりです。

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