« 待っていてくれるんだな。 | トップページ | 想い出はすべて宝石。 »

2021/11/08

どれもみんな愛しい。

10月31日と11月1日の宝塚大劇場星組公演「柳生忍法帖」と「モア―・ダンディズム!」の前楽と千秋楽を見てきました。

「柳生忍法帖」は前回見た時に、ゆら(舞空瞳さん)の恋心が唐突に感じられたので、今回は十兵衛(礼真琴さん)が鶴ヶ城の門前に登場してからずっと彼女の様子が気になって見ていたのですが、彼女は沢庵和尚に反論する十兵衛の口上を真剣な顔で聞いていました。
まるで憎しみの表情にも似た恐いほど真剣な面持ちが、私にはなんだかせつなく愛おしく感じられました。

芦名一族の再興という目的のためには自己を犠牲にして当然という中で生きてきたゆらにとって、
十兵衛の言葉はあまりに衝撃的で容易には受け入れられなかったんじゃないかと思います。
堀一族の女たちの命を差し出して徳川を守らなくてはという局面に、彼女たちを見殺しにしてなんのための武士道かと言い放つ十兵衛から視線を逸らすことができなくなってしまったように見えました。なんとか平静を保とうとはしている様子だけれど。
彼女のこれまでの人生を全否定するような言葉を放った十兵衛に耐えられぬほどの苦しみを与え、その言葉は間違いだったと思い知らせることで自我を守ろうとしたのだと思うけれども、どんな苦しみの中でも揺るがぬ十兵衛の優しさを目の当たりにしてしまい、彼女はわかってしまったんだなと思いました。
自分が本当に望んでいたことを。十兵衛に揺さぶられ惹かれていたことを。芦名再興という名目のために自分が犯してきた罪も。
そんなゆらの最期がかなしくて愛おしくてたまりませんでした。
(あの場面を思い出すと頭の中に「アシナヨ」が流れてきて涙腺が・・彼だけが弔ってやれる人・・涙・・)

堀一族の女たちの運命は過酷すぎるものですが十兵衛みたいな信頼できる師を持てたことは羨ましくもありました。
武家の娘や妻として生きていて、女ゆえの代償(性的なことに限らず)
を一切求められない絆で結ばれた関係を持てるなんて、彼女たちにとってはなかったことではないかなと思います。家族思いの堀主水だって殿様が改心したら娘を差し出しても良いって言っている時代ですから。
安心して自分のままで向き合っていられる“先生”。生きる上でそんな尊敬できる人を持てることは本当に幸せなことだなと思います。
「先生、先生」と童心に返ったみたいに自分を見てほしいというように十兵衛にまとわりつく彼女たちを見ていると、やっぱり泣きたいような愛おしいような気持ちになりました。
そんな彼女たちとの触れ合いから十兵衛の中にも彼女たちがそんなふうにしていられるこの時を守りたいと思う気持ちが芽生えているのではないかなと
思いました。見返りなどいらない彼女たちが幸せでいてくれればよいという思いが。

見返りは求めず注がれる愛情、十兵衛のこともそんなふうに育て見守る人がいることも見ていて嬉しくなりました。
沢庵和尚(天寿光希さん)、千姫様(白妙なつさん)、そして宗矩様(朝水りょうさん)♡ 好きだなぁと思いました。

愛ちゃんこと愛月ひかるさん演じる芦名銅伯のラスボス感は凄かったです。あまり表情を変えないのにその身の内には沸々と湧きあがる情念のようなものや、なにかとてつもないものが冷えて凝ってあるような。
まだ黒髪の麗しい頃には、ともに戦い散っていった芦名の者たちの辛苦や無念を思って感情を昂らせ泣きもしていたのに。齢100歳を超えたいまでは妄執だけで存在しているように見えました。

打って変わって双子のあの方は、同じお顏でありながら毒気のない苦し気な慈しみのまなざしで千姫を見つめ、堀一族の千絵(小桜ほのかさん)を見つめておられました。
法衣の頭巾がまるで狂言の美男鬘のようにも見えてそのアセクシャルな魅力に私は心奪われました。
かつての彼も泰平の世を築くためには1人の女の絶望は仕方がないことと口を塞ぎ黙らせた側の人。しかしこたびは、天下泰平のためになにがなんでも成し遂げようとしてきた天台相承を己の執着と見極めたなのだなぁと。こんなに偉大な大僧正であっても齢百歳を超えても、人との出会いによって悟ることがあるのだなぁと思いました。

仏法も武士道も同じところに行きつき、こうであってほしいという理想が描かれていることになんともいえない悦びがありました。心のうちにすこしずつ澱のようにたまっていたかなしみが癒されるような感覚を得ました。
こういう瞬間のために私はフィクションを求めているのかもと思います。

ラストの十兵衛が歌う歌には、彼という人が如実に表されているなぁと思います。なにかを探し求めて彷徨うことができる根底には、人を人として信じ慈しむことができる優しさがあるからだなぁと思いました。
その十兵衛と礼さんが重なって礼さんの優しさを感じた気がしました。そして礼さんや出演されていた皆さんのこの先の幸せを願いたい気持ちになりました。



「モア―・ダンディズム」そして愛月ひかるサヨナラショーについても書きたいことがあったので、記事タイトルを「アシナヨ」の歌詞からつけたにもかかわらず、「柳生忍法帖」の感想が長くなってしまってたどり着けませんでした・・。
10月からずっと観劇とプライベートで目まぐるしくてなかなかPCに向かうことができません。
星組のショーのことはもちろん、月組博多座公演千秋楽についてや花組「バロックロック」そして宙組「プロミセス・プロミセス」に全国ツアーとこれから観劇する舞台についても感想を書き残しておこうと思うのですが、記憶が朧になるまえに。
(続きは後日にきっと書くつもりです・・)

| |

« 待っていてくれるんだな。 | トップページ | 想い出はすべて宝石。 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 待っていてくれるんだな。 | トップページ | 想い出はすべて宝石。 »