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2022年1月の1件の記事

2022/01/17

角をとってもらってこの子もやっとふつうになれたと思っているでしょう――「ガラスの動物園」

ことしの観劇初めは1月11日、博多座にて「ガラスの動物園」でした。

母親と姉弟。非常階段のあるアパートでの3人暮らし。
アップデートできない親が子どもたちを追い詰めている風景。
なるはずだった自分を娘に重ねて、息子にこうであってほしかった夫を重ねる母親。
自分が願うしあわせしか、娘にも息子にも願うことをゆるさない呪いをかけているよう。
現実を認めない親の願望が息苦しくて病みそう。
そんな作品でした。

麻実れいさん演じる母親アマンダは、本来陽気で生命力があってチャーミングな女性なのだろうということが十分にうかがえました。
たくさんの求婚者がいたことも嘘じゃない。「風と共に去りぬ」のスカーレットのように、きっとコケティッシュでホスピタリティ溢れるサザンベルだったのでしょう。
でもものごとはうまくいかない。魅力的な男性と結婚して幸せな妻となって暮らすはずだったのに。
輝かしい過去とすり抜けた幸せを、自分が娘時代を過ごした昔の南部のやりかたで娘のために手に入れようとしている滑稽さ。
計画をテキパキとこなす行動力も意志の強さも備えているのに。
そのパワーがぜんぶ子どもたちに向けられているのがしんどいなぁと思いました。
すべては子どもたちを深く愛しているゆえなのだろうけど、親子関係が密すぎて自分と子どもとの境界が曖昧で、だからあんな身勝手なことが言えちゃうんだろうなぁと思いました。
私にはとても耐えられない、気がおかしくなりそうな親子関係でした。

倉科カナさん演じる姉のローラは、人の感情にとても敏感な女性。
母と弟が言い争いになるとデザートを運んできたり自分の献身で空気を変えようとするような。
8歳で父親が家を出ていくまではずっと両親の諍いを聞いて育った娘なんだろうなと思いました。
父親が家を出ていっても母の愚痴は止まることはなかったでしょうし、子どもたちへの干渉はそれまで以上に増えたのではないかな。
狭いアパートでは引きこもる自室もなさそうで、ガラスの動物たちの会話に耳を傾けて彼女はつらい時間をやり過ごしたのではないかな。
彼女のお気に入りは13歳になるユニコーン。孤独なのにさびしいとも言わず、ふつうの馬たちとも仲良く暮らして言い争うこともないのだそう。
まるでローラ自身のことのようでもあるし、彼女の理想の世界なんだろうなぁと思いました。彼女が語るガラスの動物の話がとても好きでした。
ジムがそのユニコーンの角を誤って折ってしまっても責めもせずに、手術をうけたと思うことにすると言うシーンがとても印象的でした。
その前に、ほかの馬たちとおなじになったわとも言っていて。
健全でポジティブなジムのような人間には、人とちがうことは素晴らしく価値があることなのだろうけれど、ローラにとっては人とおなじである安堵に価値があるのだろうなと思います。

竪山隼太さん演じるジムはとてもポジティブでいい人だなぁと思いました。
自分の過去の栄光も挫折もきちんと分析できていて、それを話す時にも相手に変に気を遣わせない話術があって。
自分の夢や努力を臆せず語るときも、そのちょっと自惚れ屋なところも魅力的だと思いましたし、ローラを勇気づける会話には感動しました。
ローラにとってはそりゃあ眩しくて素敵な人に見えるだろうなぁと思いました。
人の話を聴く時の態度、会話のすすめ方、高校時代に人気者だったのが肯けます。
女性に対してはジェントルにふるまうという社会性も身に着けている人ですよね。たとえ話が退屈でもそんな素振りを見せない。興味のない話題の時はさりげなく話題を変えるとか会話術ももっている。
成功しようと思っている人はちがうなぁ。
ローラと好い雰囲気になっている時に、君が妹だったら自信の持ち方を教えてあげるのにと言っていて、あれ?妹?と思ったけれど、どんどん盛り上がっていって、ふうんと思っていたら・・え~そんな~でした。
現実的に計画を立てて着々と人生を歩んでいるポジティブな彼ですから、そりゃあ奥手なはずはないですよね。
それにしてもそれにしても・・・。作者に一杯食わされた感満載。
ものごと願うようにうまくはいかない、ですよね。

岡田将生さん演じるトムは、ストリーテラーから過去の自分になるときの切り替え、一瞬の真顔が印象的でした。
母と姉を養うためにやりたくない仕事をがまんして続けているのに、その母親に身勝手と非難されてつらいなぁと思いました。
16年前に父親が出て行って、トムはいま21歳。大学には行かずに仕事をしているみたいだけど、彼が働き出してせいぜい3年ほどだと思うのだけど、それまでこの一家はどうやって生計を立てていたのかな。絶対に彼が養わないといけないのかな。
家を出て行きたいけれど逡巡する理由は、やはり庇護が必要に思える姉の存在があるからなのかな。
あんな酷いことを言われても、やっぱり女手一つで自分たち姉弟を育ててきた母に対する拭いきれない愛着を感じているからかな。
姉のローラがガラスの動物園に逃げ込むように、彼も夕食後は息苦しいアパートから逃避して深夜まで映画観で過ごし、3時間の睡眠をとって出勤し職場では詩作に耽り、同僚のジムからはシェイクスピアと呼ばれていたりする。
いつか船員となって家を出ることを夢見ながら。
母の渾身の計画が破綻して、八つ当たり的に責められ酷いことを言われて口論になって。彼の父もこんなふうに言われた末に出て行ったのかなと思いました。

この追憶劇を見るかぎりでは、トムが家を飛び出すのは仕方のないことだと思えるのに、家を飛び出した彼が何年経っても姉の幻影から逃れられずに、こうして追憶を語らずにいられないのはどうしてだろう。
彼が語らないこと、彼が都合良く脚色したなにかがあるのかしら。
家族というものが不気味なものに思えて、なんともいえない後味の作品でした。

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