俺たちだけの罪。
3月30日にシアター・ドラマシティにて宝塚歌劇花組公演「冬霞の巴里」をマチソワしてきました。
上階とは真逆の世界が繰り広げられていました。
公演に先駆けて公式hpにアップされた主演の永久輝せあさんのビジュアルに心臓を撃ち抜かれて観劇を楽しみにしていました。
まずは会場に入ってすぐに公演プログラムを購入。ページを開いた瞬間に視界が歪んだような? へんな脳内物質でた? という感覚に。
巻頭そして巻末の永久輝さんに魅入られて魂を抜かれそうな気がして、閉じては開き開いては閉じて眺めました。
幕が上がるとまずエリーニュスたちのビジュアルに目が釘付け。
耽美なクラウンみたいなメイク、シルバーアッシュ系の髪色、そして白地に血飛沫を浴びたようなプリントの衣装。いかにも人外のもののような身のこなし。
こういう世界観か!と体温があがる感覚がありました。
そういえば、本作の作演出の指田珠子先生がデビュー作として手掛けた星組の「龍の宮物語」も、これはCSで見たのですが、水怪たちのビジュアルと人ではない身のこなしに目が離せなかったことを思い出しました。
ことばでは表現しにくい快感と悍ましさのあわいにある感覚を引き摺りだされるような、なんともいえないところを表現する方みたいだなぁ。
「龍の宮物語」は『ネムキ』みたいだなぁと思ったのですが、「冬霞の巴里」は往年の『花とゆめ』の巻末あたりで読んだ作品っぽいかなとも思いました。(巻頭カラーとかではない、マニアックだけど一定の支持者もいるような)
少女漫画的なビジュアルを具現化したような世界観。これぞ宝塚歌劇でやるべき世界だと思います。
見終わった後には森川久美先生の短編漫画の読後感にも似た余韻が。
そしてあたらめて演出家の頭の中にあるイメージを具現化する宝塚のスタッフさんたちって凄いなぁと思いました。
その世界観に違和感なく息づくタカラジェンヌも。
役名からお顏を確認しようとプログラムを開くも、主演と10名のキャスト以外はホワイトタイや淡色のドレスでキラキラと微笑んでいる他作品と共通で使用するスチール写真が掲載されているので、花組初級者の私は混乱するばかりでした。(作品によってこうも変わるのかと驚きでした)
エリーニュスの中で歌が素晴らしかったのは咲乃深音さんかなぁ。
舞台メイクでいうと、主人公のオクターヴをはじめとするブルジョワ階級の人々は綺麗な宝塚メイクで、下町の下宿に棲む人々は目のまわりなどのシャドウの濃い独特のメイクだったのも不思議な世界観でした。
漫画でいうなら作画が違うかんじ。2人の描き手が1つの作品を描いているみたいな。
下宿の人びとの会話は演劇的で生き生きしているように感じられ、ブルジョワの人びとの会話は嘘っぽいような、そんな感じもうけました。
それはオクターヴに見えている世界観と関係があるのかなとも思いますが、彼の実家の人びとがどこか焦点がぶれているようでもどかしさもおぼえました。
この作品はギリシャ悲劇をモチーフにしているということなので、オクターヴ(永久輝せあ)=オレステス、アンブル(星空美咲)=エレクトラ、イネス(琴美うらら)=イピゲネイア、オーギュスト(和海しょう)=アガメムノン、クロエ(紫門ゆりや)=クリュタイムネストラ、ギョーム(飛龍つかさ)=アイギストスに相当するのだと思います。
元ネタではそれぞれが壮絶な生い立ちや罪を抱えており復讐の連鎖に至る理由もわかるのですが、この作品では親世代の罪やオクターヴとアンブルの受けた仕打ちなどがそれほど凄絶なものとして語られていなくて、ぼんやりしてしまったかな。
あのようにオクターヴを復讐に駆り立てるのが、姉のアンブルだと面白いのになぁと思います。
母親と叔父の会話を聴いてもにわかには信じられなかった幼いオクターヴに、彼らの罪を確信させたのはアンブルだったのでは。
それはどうしてか、彼女が母親を憎む理由が描かれていたらなぁと。
彼女のオクターヴへの執着の意味がキラリと光るともっと面白くなるのになぁと。
オクターヴのラストのセリフも生きてくるかと。
オクターヴ役の永久輝せあさん、まずはそのビジュアルで心臓を射抜かれました。
19世紀のデカダンがこれほど似合うとは。
世界観に合わせた芝居ができる人なんだな。どんどん物語世界に引き込まれました。
オクターヴというキャラは本来の永久輝さんが醸し出す雰囲気よりも内面的に子どもっぽい面があるので、そこを調和させるのが難しいところのように思いましたが、そこも巧く演じていて。
私は姉のアンブルに素直にタイを結んでもらう場面がとても好きでした。強がっているけど甘えん坊。それでもってあのビジュアル。かなりくすぐられました。
目が利くし、雰囲気のある良い芝居をするし、身のこなしも美しくてこれからが本当にたのしみな人だなと思いました。
彼女でオスカー・ワイルドの耽美な世界を見てみたいと思いました。
アンブル役の星空美咲さん、この学年でこの作品でこの永久輝さんの姉の役とは。かなりのハードルだったと思います。
彼女の初ヒロイン作品「PRINCE OF ROSES」のドキドキの初日を見ているので、今回はまずその堂々とした居住まいに目を瞠りました。頼もしくなったなぁ。
たとえばこの役をもっと上級生の娘役さん(私がイメージしているのは伶美うららさんですが)が演じたら、作品の雰囲気ががらりと変わるのではないかと思いました。ヒロインで作品の雰囲気が変わりそうな重要な役どころ。
星空さんが演じることでより少女漫画風になったなと思いました。
セリフの言い方一つでもっと意味を持たせられるんじゃないかなと思う場面があったのと、表情がワンパターンになりがちなのでもっといろんな顔が見られるといいなぁと思いました。(難しい言葉を言うとき険しい顏になりがちかな)
とはいえ彼女にしか演じられない雰囲気のアンブルで良かったなと思います。
ヴァランタン役の聖乃あすかさん、初主演作「PRINCE OF ROSES」のキラキラと光の中を歩んでいくヘンリーが彼女の持ち味にぴったりだったのだけど、それとはまるで逆の役どころ。
これが新境地で素晴らしかったです。含みのあるセリフも巧いなと思いました。永久輝さんとの芝居の相性も良いみたい。
クライマックスシーンの晩餐での迫真の演技が凄くよかったです。新事実を突きつけられたオクターヴの狼狽をテーブルの陰で嘲笑っていたのが印象的でした。
「黄土の奔流」の葉宗明みたいな役を彼女で見てみたくなりました。
クロエ役の紫門ゆりやさん、まずプログラムの写真に釘付けになりました。
名香智子先生が描く美女の雰囲気。とても少女漫画的。
男役が演じる女役だからなのか劇中でもいわくありげな貴婦人の雰囲気で、雰囲気こそが要のこの作品に重要な存在感を示していると思いました。
ギョーム役の飛龍つかささんも難しい役どころを大健闘。
最初からどういう人物なのかがわかりやす過ぎてもダメな役でその塩梅が難しそう。
それはクロエ、そして峰果とわさん演じるブノワも同様かな。
ギョームとブノワは2人でいる時は見分けがつくのですがちょっと似た感じだったので、ブノワが1人で登場する時に初見では少々混乱しました。モノクルを掛けるとか特徴的なアイテムで見分けが容易だとよかったなと思います。
エルミーヌ役の愛蘭みこさん、ただの世間知らずで明るいお嬢様ではない片鱗を見せているのが好きでした。
知らぬはミッシェル(希波らいとさん)ばかりなり??
純粋で真っ直ぐだからこそ、真っ直ぐに傷つくミッシェル。彼の持つ聖のエネルギーで未来を変えていけることを願わずにいられませんでした。
ジャコブ役の一樹千尋さんは、さすがの芝居。こんなふうにセリフに意味を含ませられるんだなぁ。
下宿の女将ルナール夫人役の美風舞良さんも良い味出ていて宙組時代より好きかも。(宙組時代はヒステリックな役が多かったのが持ち味に合わなかったのかな)
お2人ともいかにも「演劇」ってかんじ。舞台メイクもとても印象的で素敵でした。
作品としては、雰囲気やそれっぽさを愉しむかんじでそれ以上ではなかったけれど、その雰囲気が私にはたまりませんでした。
いずれ何かどえらい作品を見せてもらえそうで、指田先生には期待したいと思います。
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