カオナシ。
5月14日に博多座にて舞台「千と千尋の神隠し」を見てきました。イープラスの貸切公演でした。
まず客席に20~30代と思しき人が圧倒的に多いことに驚きました。
貸切公演だったことも関係あるのかもしれませんが、やはり演目ゆえかな。お子さんの姿もいつもより見かけました。
ふだん私が観劇する演目は40~50代がコア層なかんじなので、若い人がたくさん足を運ぶ演目は演劇の未来を明るくするなぁと思いました。
開演前に、博多座製作の「前のめりは後方席の視界を想像以上に遮ります」動画が映し出されたのも良き趣向だなと思いました。
毎公演アナウンスで注意されていることではありますが、それがどういうことで、どれくらい迷惑かは、ご存じない方も多いと思うので、開演前にこの動画を見ていると気をつけてもらえそうです。
観劇慣れしている方も初めての方も、皆が気持ちよく舞台を見られるようにこうした配慮はありがたいなと思いました。
この日時のキャストは、千尋=上白石萌音さん、ハク=三浦宏規さん、カオナシ=菅原小春さん、リン/千尋の母=咲妃みゆさん、釜爺=橋本さとしさん、湯婆婆/銭婆=朴路美さん、でした。
メインキャストの方もアンサンブルの方も最高のパフォーマーばかりで、音楽も演奏もほんとうに贅沢なものを見たなぁと思いました。
私は1階前方の席だったのですが、舞台装置の組まれ方、そこを行き来する演者さんやススワタリや呪詛の虫などのパペットの演出などは、2階席からのほうがよく見えるのかもと思いました。この作品は2階席の満足度が高いのではないかなと。
同一席種内での不公平感が少ないというのも大切な気がします。
原作のアニメはかなり昔に見たことがありますが、アニメよりも筋道がわかりやすい脚本・演出になっているようで、そうだったのかーと思いました。
アニメを見ていた時はあっちにこっちに気持ちが寄り道してしまって本筋が掴めていなかったのかなと思います。そういう寄り道が愉しみだった人には物足りなさもあるのかなとは思いました。
アニメのキャラクターをパペットで表現しているので、役者さんを見るのを楽しみにしている人はえっ?って思うのかなとも。
私はアニメでも大好きだった坊ネズミがハエドリに運ばれたり、ハエドリを乗せて歩いたりしているのを見られて楽しかったです。パペット使い巧いなぁ。本職ではなくアンサンブルの方が操っているんですよね。
ハクが龍の姿になった時、そして千尋とともに空を飛びながら自分の名前を思い出す場面を舞台ではどう表現するのだろうと思っていたのですが、人力とは!
歌舞伎の黒衣や狂言においての後見のように、アンサンブルの方々の力で空を飛んだり姿を変えたりしていて、こういう表現をするのかと膝を打ちました。
それがちっとも不自然に感じられないステージングが素晴らしいなと思いました。
千尋役の上白石萌音さんは、舞台に出ずっぱりで階段や梯子を上ったり下りたり舞台を駆け回ったりともの凄い体力と身体能力に驚きました。
ハクにおにぎりを渡される場面の張りつめていた糸が途切れた時の大泣きも凄い。
体の重心の掛け方使い方も子どものそれで、まさにアニメの千尋が抜け出てきたみたいで世界観に引き込まれました。
これぞまさに“恐ろしい子”。と思いました。
ハク役の三浦宏規さんはまず声が良いのと、龍の姿に変わり身する時に跳躍しての回転は目を瞠りました。2回転半以上回ったのじゃないかな。凄い。
彼があの白龍とイコールなのもすんなりと受け入れられました。
湯婆婆と銭婆役の朴路美さんも一声で全員が震えあがるような迫力とコミカルさが湯婆婆そのもの。同じ顔なのに銭婆になるとすっとした品が出て、坊ネズミやカオナシたちに対する慈愛に溢れていて素敵だなぁと思いました。
咲妃みゆさん、声がいいなぁ。千尋のお母さんのあの突き放した感じは、扱いにくい娘をもつ母のリアリティがありました。夫は子どもみたいな人だし、彼女が大人でいないと家庭が回らなさそう。
リンはアニメでもきっぱりと潔くて素敵な人だったけど、咲妃さんのリンも素敵な人でした。
いつかどこかで千尋とまた逢えたらいいなぁ。
カオナシ役の菅原小春さん、どうしたらこんな体の使い方ができるの? 不思議で思わず凝っと見てしまいました。
お面をかぶっているのに、そのお面に心模様が映って喜怒哀楽が見える気がするのも不思議。
銭婆にここに残って手助けをしてほしいと言われた時は、なんだかうれしそうに見えました。
カオナシとは何の暗喩なのか。現代に生きる人間の自我そのものなのかなぁ。などなどいろいろと考えてしまうキャラクターでした。
舞台化と聞いた時は、あのアニメだからこその表現を舞台でどう見せるのだろうと思っていたのですが、古典的ともいえる舞台の手法で描き切っていたことが清々しくもありました。
古来よりの演劇の奥深さやこれからの可能性も見ることができた気がします。
本邦の商業演劇に何某か新しい風が吹いたのかも。そんなことを考えながら帰路をたどりました。
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