« 2022年6月 | トップページ | 2022年8月 »

2022年7月の3件の記事

2022/07/22

見果てぬ夢へ。

7月17日にキャナルシティ劇場にて、ミュージカル「スワンキング」を見てきました。

あれは春3月。博多座で見た「笑う男」の余韻が残っているときに、Twitterのタイムラインに流れてきた舞台のビジュアルがふと目に留まったのでした。
最初はタイトルの「スワンキング」が「Swan King」だということにも気づかなくて、なんだろうこれは?と。たぶん夢咲ねねさんのビジュアルに私のなにかのセンサーが働いたのかな?と思います。

ねねちゃんエリザベート役じゃん。ルートヴィヒ2世とワーグナー?これは私の好きな世界観かも。
でもたいていの新作ミュージカルは福岡ではやらないもんねと見切ろうとしたのですが、試しにリンクを開いて公式サイトを見ると福岡公演があるではないですか。
もしかして見に行けるかも??

主演のルートヴィヒ2世役の橋本良亮さんについても知らなくて。役者さんに詳しい友人に訊くと「ジャニーズの人ですよ」とのこと。
これチケットどうやって取ったらいいのかな? 

そんなふうに偶々偶然に知って、手探り状態からはじまった観劇でした。

物語は興味深く面白かったです。
活字だけで読んでいた人間模様をドラマとして見ることができ、それぞれの人物のその時々の気持ちに思いを馳せることができました。
どちらかというとその俗物的な部分にフォーカスされた作品かなと思いました。
先々週偶々宝塚でフランツ・リストを描いた「巡礼の年」を見ることができたのですが、あちらはやはり宝塚らしい気高さの要素が強かったのかなとあらめて思いました。見ているときはけっこうリストのスノビズムがリアルだなと思ったのですが。

ワーグナー(別所哲也さん)については子どもの頃に音楽好きの亡父が語って聞かせてくれていた言葉がいろいろとよみがえってきました。
ワーグナーは音楽は素晴らしいが人物は褒められたものではない、などなど。
その言葉とそのときの父の表情にとても含みを感じて、長じてあれは彼のドイツ主義と反ユダヤ的思想について言っていたのかなと漠然と思っていましたが、もちろんそれもあるけれどもっと俗的な意味もあったのだろうなぁとこのミュージカルを見て思いました。
10代の頃の私はワーグナーとコージマ(梅田彩佳さん)の関係をロマンティックなものと考えていたのですが、そのイメージも覆りました。
人間だもの。こういうこともあるよねと思う2人でした。

そしてこういう俗っぽさは、ルートヴィヒ2世には耐えられなかっただろうなぁとも思いました。
美しい夢と崇高な理想を愛した彼には。わかるよわかるよその気持ち!と思いながら見ていました。
彼の生き方もまた褒められたものではないでしょうけど。
ルートヴィヒ2世にとっての正義は美しく調和した世界なのだと思いました。戦争なんてとても耐えられるものではない。
自身は美しい城を出て軍隊を指揮することはせず、それを弟のオットー(今江大地さん)に任せる。

兄と同じバイエルン王家の血を引くオットーもまた繊細な神経の持ち主で、無残な戦場の光景を目の当たりにして精神を病んでいく。
無責任な兄の犠牲者だなぁ。

もう1人ワーグナーの犠牲者として描かれていたのがビューロー(渡辺大輔さん)でした。
ワーグナーの音楽の高い芸術性に心酔するがゆえに妻を奪われ誇りをズタズタされてもワーグナーと決別することができない。その葛藤に長く苦しんでいる人物として描かれていました。
彼の視点から描かれたワーグナーたちを見てみたいなと思いました。

この作品にはルートヴィヒ2世やワーグナーをとりまく幾人かの女性が登場しましたが、描かれ方に奥行きがなくてつまらないなと思いました。
ゾフィー(堤梨菜さん)もテレーゼ(藤田奈那さん)もミンナ・プラーナー(彩橋みゆさん)もルドヴィカ(河合篤子さん)も、結婚したい若い女性、ひたすら献身する女性、浮気性の夫に悩まされる女性、そして娘を結婚させたい母親、というだけで。

フランツ・リストとダグー伯爵夫人マリーの血を引くコージマも、夫を発奮させる妻という役目に終始する女性。
むしろワーグナーの芸術性を支えた人なのではないかと思うけど、甘えたの夫を甘やかすだけの女性として描かれているように見えました。
コージマにしてもゾフィーやテレーゼ・フォン・バイエルンにしても音楽を愛し高い知性と教養を備えた人だと思うのだけどなぁ。そこには触れられないのだなぁ。

エリザベート役の夢咲ねねさんは期待通りの美しい立ち姿と存在感。ルートヴィヒ2世が憧れるに相応しい夢のような美しさで納得だったけれど、求められているのはそれだけなのかなと。

女性には憧れられる外側と男性を支えることだけを求められているような描かれ方でつまらないなというのと、音楽が真面目過ぎるというか艶っぽさが感じられなくて印象が薄かったのが残念でした。
再演があるとしたら、そのあたりを魅力的にしてほしいなぁと思いました。

| | コメント (0)

2022/07/15

奇人たちの晩餐会。

7月10日に博多座にて「奇人たちの晩餐会」を見ました。

ひたすら痛々しい舞台でした。
ピエール役の戸次重幸さんのぎっくり腰の演技が迫真で、とても痛そうで辛い。
笑い者にされるために呼ばれたとも知らず、ピエールを親切な人だと思い込んだまま度を超えた好意を寄せるフランソワ(片岡愛之助さん)を見ているのが心が痛い。
ピエールのイライラ、落ち込み、焦り、困惑、傷心、自暴自棄などの感情がリアルで、HSP傾向にある人には同じ空間にいるだけでしんどい舞台だなと思いました。(私だ)
フランソワがピエールの意図に気づいたときとかもう。

仲間の前でそうとは知らない人を笑い者にして、そうやってピエールは自分の何を守ろうとしているんだろうと考えたり。
そうまでして優越感を感じないといけない心の闇に引きずられそうになるし。
そうせずにいられないピエールがいちばん始末に負えない厄介な愚か者なんだろうと思うし。
とにかく見ていてしんどい。

ピエールの残酷な意図を知ってしまったのに、にもかかわらず傷心の彼を救おうとするフランソワに救われる気持ちになるけど、でもそれは見ている私が安堵したいがための身勝手とも思えて。
こんな夫のもとに戻ってクリスティーヌ(水夏希さん)は幸せになれるのかなと思うし。

やっぱりピエールは1人になって、フランソワに日常生活をぐちゃぐちゃにされながら、なんとなく2人で奇妙なつきあいをしていく未来がいいかなぁと思います。
意外と対等な関係になれそうな気もします。

| | コメント (0)

2022/07/13

アルルカンの哀しみ。

7月5日に宝塚大劇場にて花組公演「巡礼の年〜リスト・フェレンツ、魂の彷徨〜」「Fashionable Empire」を見てきました。

予定では5日と6日はドラマシティで宙組公演「カルト・ワイン」を見るつもりでした。5日の夜はムラでヅカ友さんたちと合流してDVD鑑賞会も予定していました。
しかし数日前から台風4号の動きがあやしく新幹線に遅延が発生するかもしれない、どうしよう前泊したほうがいいかなとやきもきしていました。

4日午後の予報を見ると、どうやら台風4号は速度が遅く5日の移動に影響はなさそうなので予定通り5日の新幹線に乗ることに決め、その旨をヅカ友さんたちに連絡して安堵して・・翌朝は早めの出発だからとさくさく夕食とお風呂を終えてタブレットを開いてみると宝塚歌劇公式アカウントからLINEが・・・。

「公演関係者から新型コロナウィルスの陽性が確認されたため、7月5日(火)~7日(木)の公演を中止させていただきます。」

まさに天国から地獄の心境。呆然として言葉も出ませんでした。

折しもの台風接近により新幹線は手数料なしでキャンセルできる状況でした。どうしよう・・・。
数か月前から計画を立て楽しみにしていた観劇とDVD鑑賞会。鑑賞会だけでも参加する??
混乱する脳みそをほったらかしにして手は勝手に宝塚歌劇公式HPを開いていました。花組の5日の15時半公演は?がーん貸切公演じゃん。

いや待って。さらに検索の手をすすめると「ぴあ貸切」とな。これは渡りに舟かも。ことし宙組大劇場公演「NEVER SAY GOODBYE」が公演中止になったときにぴあ貸切のリセールを買って観劇した経験が。ぴあのサイトを開くと、あった~リセール。そのままぽちっと。
ヅカ友さんたちに「花組15時半を見ることにしたので遅れるけど参加します」と連絡。この数分の自分の行動力に驚き。ふだんは百万回逡巡するタイプなのに。

ということで急遽観劇した花組大劇場公演。
なんの下調べもしていなくて、「巡礼の年」はリストとショパンとサンドが出るのよね程度の予備知識で見たのですが、これが「すごく好きなやつ」でした。
こういう作品を待っていたんだと思えるほど。

リストとダグー伯爵夫人マリーとの関係は、昔父が持っていたクラシック全集のレコードについていた解説で知っている程度だったのですが、星風まどかさん演じるマリーは想像より純情で可愛らしい女性でした。

白皙の美男で突然雷に打たれたように発奮してそれまでの生き方を大きく変えるリストはイメージ通りで、その魂の変遷を全身で表現する柚香光さんに引き込まれました。
そして、肖像画のリストがなぜあのヘアスタイルだったか。彼がピアノを叩くと弧を描くように跳ね上がる麗しい髪束を見て合点しました。乱れる髪の毛さえも音楽的で神がかった美しさでした。
これは当時の女性たちも夢中になったにちがいない。もちろん私もなる、と。

その生涯を1時間半にどんな手をつかって収めるのだろうと思いましたが、駆け足ながらどんどん展開してここに収めたかーと思いました。
夢か現かの場面が効いていたなぁと思います。
リストが少年リストを受け入れる場面は胸にきました。お隣の見ず知らずの方が嗚咽を漏らされたのを聞かなかったら私も危なかったかも。

当時のパリで、ハンガリー出身の野心ある若者がどういう目で見られていたのかも想像できました。
そこには歴然とした格差の壁があったのだろうな。それを必死で乗り越えようとしたのだろう青年リスト。
彼のあのスタイルはそういうことだったのか。
自分を持て囃す他者を嘲笑うことで自尊心を保ち、返す刀で自分自身をも嘲笑っていたのだろうな。
それを見抜いて彼に突きつけたのがマリーだったんだなぁ。
そりゃあ居ても立っても居られないだろうな。

ちょっと意地悪な見方をしてしまうと、知られたくない彼自身の正体を暴いて自尊心を粉々にしたマリーを自分に夢中にさせることで自尊心を取り戻そうとした部分もあるのじゃないかな。
他でもない彼女が自分に夢中になっていることに意味があったのだろうなと思います。
自分のキラキラでも超絶技巧でもなく、精神的な部分で彼女を夢中にさせていることが重要ポイント。

パリを離れ、合わせ鏡のようにお互いだけを見つめることで満たされたかった。
彼女の中の自分を愛していたんだなぁと思います。

世間の批評から逃れて、自分だけを認めてくれる人と同じものを見て悦び同じものを嫌う蜜月に出現した小さな齟齬。
自分が受容しないものを受容するマリーに彼は傷ついたのだろうなと思います。
自分で自分を認めてやれないリストにとってマリーが彼だけを認めている、ということがあのとき彼のすべてだったんだなと思います。

14歳かそこらの彼が経験したことは、世界のすべてから拒絶されるに等しい出来事だったのだと思います。
そのトラウマをずっと引きずっている。
フランス人ではないこと。ハンガリー人であること。エリートではないこと。貧しさ。庇護されないこと。いつも遥か上にあるものを見て生きていること。

こどものような癇癪を起こすリストの葛藤に気づくのが、彼と似た境遇でもあるフレデリック・ショパン(水美舞斗さん)。
リストがもらえなかった神様からの贈り物をもらっている人。
そしてリストの野心と自尊心をよくわかって彼を焚きつけるジョルジュ・サンド(永久輝せあさん)。
良くも悪くも彼の野心とスノビズムを理解し、そのこどものような魂を愛している人。魂の半分。
マリー、ショパン、サンド。三者三様にそれぞれリストと同じ魂を持った人々だと思いました。
その人物配置が巧いなと。

最後まで自制心を保ったストーリー運びで、脱線しなかったのもよかったなと思います。
ダグー伯爵(飛龍つかささん)とラプリュナレド伯爵夫人(音くり寿さん)の役回りも効いていたなと思います。
もっと膨らませたい部分もいろいろあったと思うのですが、1時間半にまとめてあらゆる世代の観客に提供するには絞り込まないとだから。

私は聖乃あすかさんが演じたジラルダンという人が心に刺さって興味が湧いたのですが、そして星空美咲さん演じるデルフィーヌ・ゲーがどんな人なのかもっと知りたかったけど、本筋から逸れてしまうからこれでよかったのだと思いました。
(後で自分で調べたのですが、とても興味深い人物で、いつかこの2人の人物で作品を描いてもらえたらなぁと思いました)

彷徨えるリストに大切なことを気づかせるショパン、そして彼とサンドの会話。
30年後に再会したリストとマリーの対話。
このラストへの流れがとても好きでした。
彼は世界に愛されていたし、彼もこの世界を愛している。それに気づいてここにいるのだと思うと自然と涙が。
なによりもそれを証明するリストの少年たちへのまなざしが心に沁みました。

生田先生が作品に添える副題にはじめて共感できました。(「シェイクスピア」の頃から苦手だったのですが)
このリスト・フェレンツを3か月演じきったあとの柚香さんにどんな変化があるだろう。そんな楽しみを持てた作品に出会えた幸せを感じる観劇でした。

「Fashionable Empire」もビートの効いたちょっと懐かしい選曲がとても好きなショーでした。
この公演で退団する飛龍つかささんと音くり寿さんが同期の方たちに囲まれる場面は思わず感動でうるうる。
聖乃あすかさん中心の場面では、「ぴあ」「ぴあ」言っていた気がするのだけど聞き違いかな。ぴあ貸切だからかな。通常公演を見ていないのでわからないのですが、聖乃さんがくっさくキザっていてときめきました。男役楽しんでいるなぁ笑。

柚香さんと水美さんが競い合うように高速リフトをする場面もびっくりしたなぁ。
音くり寿さんと美風舞良さんが対で歌う場面も聞き惚れながらもう二度と聞けないなんてもったいないことだなぁと思いました。まだまだ聞ける機会があると思っていたのに。

永久輝さんのハスキーな歌声もとても色気があって好きでした。お芝居に引き続きこのショーでも一瞬女役をされていましたよね。男役に早変わった瞬間の開放的な得意顔にフフッとなりました。

フィナーレのデュエットダンスは、難易度のある振り付けを軽々とこなしながらもラブフルな雰囲気はこのコンビ(れいまど)ならでは。
スピーディーな展開で記憶が前後しているのですが、とても楽しめたショーでした。

24時間前にはまさか翌日自分が花組公演を見ているとは思いもしなかったのですが、見ることができてよかったなぁと心から思った公演でした。

| | コメント (0)

« 2022年6月 | トップページ | 2022年8月 »