君と生きた夢を。
11月17日と18日に宝塚大劇場にて星組公演「ディミトリ~曙光に散る、紫の花~」「JAGUAR BEAT-ジャガービート-」を見てきました。
「ディミトリ」は、冒頭の物乞い(美稀千種さん)とリラの精たち(小桜ほのかさん、瑠璃花夏さん、詩ちづるさんほか)の場面から、愛ゆえの別れを語るバテシバ(有沙瞳さん)の場面までがとても秀逸で美しく盛り上がって、これは名作の予感!と期待したのですが、だんだんと尻すぼみに。
幕が下りた時には、スン・・(虚無)となっていました。
なぜこんなに盛り上がらなかったのだろう。題材はとてもいいのに。
翌日の2回目の観劇は、筋はわかっていたので登場人物の気持ちを自分なりに補完しながら見たせいかとても感動したのですが、よくよく考えたらこれってほぼ私の脳内劇場だったのかもしれません。
ネタはよいので、想像の翼はどんどん拡げられます。
美しい姿と属性をつかって勝手に夢を見られる。
盛り上がるであろう場面はやらずに、さほどでもない場面をセリフにしていくのはなぜだろう。
ゆえに見たいことは想像するしかなかったというのが正解かな。
それから初日があけて間もない頃にありがちな、役者個々の技量の差が顕著に出てしまっているのも大きかったように感じます。
導入の場面は力量のある人たちが魅了してくるのに対して、それを受けての場面に出てくる人たちがまだ役を掴めていないようなのも、何を描こうとしているのか行方不明にしていた要因かと思います。
ルスダン(舞空瞳さん)、ジャラルッディーン(瀬央ゆりあさん)、アヴァク(暁千星さん)に頑張ってもらわないとこの作品は面白くならないと思います。
足りない情報は芝居で埋めてもらうしかない。
そして物語が転じるきっかけを担うミヘイル(極美慎さん)にもなんとか役の肉付けを頑張っていただいて大きな見どころにしてほしいです。
せっかくのヒロインと絡む役ですから、これを美味しくしない手はないでしょう。
気になったところを上げると。
賢者(物乞い)が見掛け倒しだったなぁと思います。
もっと効果的に語り部&進行の役割を担えただろうに。
異教の国々との境目に位置するキリスト教国ジョージアの地理的、歴史的状況を紐解いて語らせてもよかったのでは。
モンゴルやホラズム朝の脅威がいかほどのものかわかるように。
冒頭の誰もいない土地は、いつのどこなのだろう。
王都トビリシならば、ジャラルッディーンに占領された後は再びジョージアが奪還して、ルスダンも王宮に戻った描写でラストシーンになっているので、舞台では描かれていないそれよりもっと後の再びモンゴルに攻められて灰燼となったトビリシでしょうか。
だとしたら、それを描くことに意味があるのでしょうか。ラストと繋がらないのに。
踏み出しと着地がちぐはぐな心地悪さが残りました。
それからルスダンが暴君に見えたこと。
とってつけたような名づけのシーンは何を見せたかったのか。横暴な王女とそれを許す母女王?
わざわざ挿入するならどうしてその名にしたのか、名付けたルスダンに好感を抱けるような理由がほしい。放置しないで。
異教の国に人質として送られた少年の心許なさを見せてほしかったし、彼がルスダンに惹かれる理由を見せてほしかったな。
男女を逆にしたら、古来から使い古された話だなぁと思いました。
異教の国から連れて来られて、暴君以外に寄る辺のないヒロインがすれ違いの末に愛に殉じたことで最終的に認められるという。
DV男をDV女に変換しただけに見えないように願いたい。
ジャラルッディーンの登場はもっとカッコよく演出できなかったのかな。
牢獄の登場も間が抜けたように感じたし。
もはやこれまでかという危機一髪で登場し、手負いのディミトリを抱き起すようなシーンが見たかったなと思います。ジャラルッディーンの下に身を置く以外に道はないディミトリの境遇が推し量れるように。
そしてトビリシを破壊するジャラルッディーンの下に身を寄せる自分をディミトリがどう思っているかも大事なところだと思うんだけどなぁ。
主人公は何をするか以上に何を感じるか、それを観客に届けられるかが大事だと思います。
モンゴルももっと猛々しく脅威として演出してほしかったです。
ジャラルッディーンのホラズム朝を滅ぼしジョージアまでも侵攻しようとするモンゴル。
国土を失ったジャラルッディーンがジョージアを狙うこととなった元凶であるモンゴルの脅威を。
アヴァクが手下にする指令も漠然としすぎだなぁと思いました。
ディミトリの暗殺も彼の指令だと印象づくように描けばラストのルスダンとのやりとりが感動の場面になるのにもったいないなと思いました。
再会のシーンも盛り上がりに欠けたなぁ。
別れた時とは何もかもが変わっている2人を見たかったです。なにより少女時代とは別人のようになったルスダンを。
相容れない関係になったディミトリにすがりつく娘の姿は泣ける場面になるはずなのに。幼子を挟んだ2人の姿も。
もったいなさすぎていろいろ言いたくなってしまい、ついには勝手に想像して脳内劇場に浸ってしまうこの感じは、「白夜の誓い」と同じだなぁと思いました。
来月も見る機会があるので、不足していた情報量が芝居の力で埋められていたらいいなと思います。
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