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2023年7月の3件の記事

2023/07/23

これはチャンス。

6月24日にキャナルシティ劇場にてミュージカル「ファクトリー・ガールズ」を見てきました。

出演者の1人1人が素晴らしくて脚本もナンバーも良くて作品ファンになりました。
いつかまた再演される時があれば見てみたいと思います。
その時自分自身がどう思うかも含めて関心があります。

サラたち女性の工場労働者が言っていることもとても頷けましたし、サラたちのラディカルな思想と行動がこれまで自分が地道に活動してやっと得た賛同者とのあいだに軋轢を生むのではないかと懸念し葛藤するハリエットの気持ちもわかります。

企業や政治家のイメージアップのために女性の自己表現を利用し、しかし根本的には女性差別を利用している経営者と政治家は、サラたちが核心を突きだすとその口を塞ぐために卑劣な画策をはじめる。
彼らが漏らす残酷な本音や彼女たちの葛藤の一つ一つが今日もなおあるあるで膝を打ちたくなりました。

彼女たちよりも上の世代の女性(ラーコム夫人)の存在がまた綿々とつづく問題の根深さを浮き彫りにしていたと思います。
サラたちの思いを理解し背中を押してもいたのに、経営者や政治家に真っ向から立ち向かうとなるととたんに止めさせようと必死になる。そんなことをしたらどんな酷い目に遭わされるか、女性として長く生きた分その結果が容易に想像できてしまうから。惨い現実を身をもって知っているからこその葛藤と行動だと胸が詰りました。

家族からの性的虐待を受けていた女性の描き方にしても1つの典型に囚われず、心を開けず神経症的になる人も逆に性的魅力を利用して上昇していこうとする人も登場するのが凄いなぁと思いました。
本当にエピソードや人物の行動に無駄がなく意味があり効果的に描かれていて心のうちで唸るばかりでした。

舞台が1840年代前半ということにも驚きがありました。
シシィ(エリザベート)はまだバイエルンで父マックス公爵と大道芸人の真似事をして戯れていた頃。
フランスはシャルル10世(アルトワ伯)が1830年の7月革命で退位してブルジョワジーが推すルイ・オルレアンが王位に就いていた7月王政時代。
イタリア統一運動をはじめヨーロッパ各地で1848年革命が起きる前夜で、どこも国情が不安定な時代。

新しい概念が生まれて「民衆」「国民」が主体的に生きる自覚をもった時代だと頭で理解しているつもりでしたが、こうして目の前で肉声でその体温ある身体で感情を込めて表現されてはじめて自分に降りてくるものがあり、その感覚はなんとも言えないものでした。

歴史というと国政やそれに関わった有名な人のことを学ぶことはありますが、そこに生きる人々ことはなかなか考えることはなかったなぁと。
サラたちのように自分の人生を生きて芽生えた疑問に向きあい、行きついた信念を胸にいま在る問題を変えるために立ち上がった人々のこと。その1人ひとりに物語があったのだということを。

長い歴史の中で綿々とつづいてきた不平等さは問題が根深いゆえに彼女たちが起こした行動で一気に覆ったわけではないけれど、サラやサラと一緒に行動した彼女たちの一歩があったからこその今日なのだということ。現代の私たちにはあたりまえに取り除かれている苦しみを受け、抗ってくれた先人がいてくれたからこその今なのだということ(そんな勇敢な彼女たちは舞台となったマサチューセッツ州ローウェルだけではなくて世界のいたるところに居たのだということも)に思いを巡らせてそのことを噛みしめ、いま在る先人からの恩恵を易々と手放すわけにはいかないと思いました。

舞台と同年代にはヨーロッパをジャガイモ疫病菌が襲い、それがアイルランドに悲惨な大飢饉をもたらしたそうです。アイルランドからアメリカへの移民が増加したのもこの頃で。
劇中でも女性たちとともにアイルランド系の労働者が半分の賃金で酷使されていました。そういうことも織り込まれていることにあっと目が覚めるようでした。

ちなみに日本は天保年間。大飢饉から一揆や乱が起き、天保の改革による綱紀粛正と奢侈禁止でエンタメ(芝居小屋や寄席など)が厳しく取り締まられていた時代。
そんなことにも思いを致すとますます大切にしたいものはなにかを、それを守るために進んではいけない道はと考えさせられます。


観劇して感想を書きかけてから数週間経ってしまいいまさら続きを書くのもと躊躇いましたが、いつかまたこの作品を観劇した時に過去の自分が何を思ったかわかるように残しておこうと思いました。

<CAST>

サラ・バグリー(柚希礼音)
ハリエット・ファーリー(ソニン)
アビゲイル(実咲凜音)
ルーシー・ラーコム(清水くるみ)
マーシャ(平野綾)

ベンジャミン・カーティス(水田航生)
シェイマス(寺西拓人)
ヘプサベス(松原凜子)
グレイディーズ(谷口ゆうな)
フローリア(能條愛未)
アボット・ローレンス(原田優一)
ウィリアム・スクーラー(戸井勝海)
ラーコム夫人/オールドルーシー(春風ひとみ)

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2023/07/17

日傘さす人つくる人。

7月7日に宝塚大劇場にて花組公演「鴛鴦歌合戦」と「GRAND MIRAGE!」の初日を見てきました。

6月28日に星組公演「1789」を観劇した後、宝塚ホテルの部屋で何気なくCSを付けていたら、次回大劇場公演のPR番組で柚香光さんが着物の組紋のことなどを朗らかにお話しされていてなんだか楽しそうな作品だなぁと興味が湧いたのですが、「1789」にかまけて花組公演のチケットを手に入れていなかったことに気づいてがっかり。
その話を翌日ヅカ友さんにお話ししたら青天の霹靂のように初日に見に行けることになり(急展開)1週間後の再遠征と相成りました。

今回は諦めていたところからの奇跡のような出来事でしたがまず滅多に起きることではないし、こんな迂闊な人間にもチャンスがあるように観劇できなくなった人が譲りたい相手に譲渡できる公式のシステムがあるといいなぁと思います。

「鴛鴦歌合戦」は昔のオペレッタ映画が元ネタということだけは事前に知っていましたが、それ以外の知識も情報もなく、ただただ「柚香さんが公演について朗らかにお話ししている」という印象だけで観劇しました。
その光景が胸に刺さった訳が観劇してなんとなくですがわかった気がします。

ここ最近観劇した「ファクトリー・ガールズ」や「1789」とは真逆の世界観で、誰も世の中を変えようなんて思っていない!
彼らはユートピアみたいな世界に生きているから。
お米がなくてもヒロインは飢えないし可愛いおべべを着ているし、親のない子は優しい誰かに育んでもらえる。
まさに小柳ワールド。

取り巻きを大勢連れている大店のお嬢さんが恋のライバルで、父親は生活費を使い込んで晴れ着も買えないし、フェティシズム強めなお殿様には好かれてしまうし、なにより好きな礼三さんは態度をはっきりしてくれないし!ヒロインお春ちゃんの日常はなかなか困難。思わずがんばれ~~!と思ってしまう。

いやいや、父親が生活費を使い込んでしまってお米が買えないとか、その父親が奸計に嵌って大金を工面できなければ殿様の妾にされてしまうとか、現実的に考えたらかなり深刻な状況、経済的虐待だし性搾取未遂。がんばれ~とかヘラヘラ言ってる場合じゃないと思うんですけどそこはさらっとノンキな演出に。それこそがこの作品なのかな。

社会を変えなくてもヒロインを困らせている人たちが改心すればそれで解決。(登場人物は皆素直なので気づいたら改心も早い)
経済的な問題も思いもよらぬことで解決。(最初から匂わせているのでわかりやすい)

唯一変わらないのが礼三郎。
金持ちは嫌いだと言って決別を匂わせて彼女に決心させる。
礼三郎に対して自分が変わらないことを証明するために彼女は国家予算に匹敵するものをふいにする。
あれまぁ。(心の声)

この展開は往年の喜劇っぽくて懐かしいけれど。
自分が支配できない女性とは添えないってことか。
と今の世に見るとついそんな感想ももっちゃうかな。
そのお金で世の中に貢献して人々を幸せにすることもできるのだけど、社会的な責任を負うよりもささやかな幸せ、という人なんだよね礼三郎は。
たしかにお殿様の器ではないな。

ツッコミ出すといろいろあることはあるのだけど、見ているひとときは登場人物たちへの愛おしさに涙し、演じる人たちに対する愛しみが溢れて心が癒されました。
役として人として葛藤し魂を振り絞るような舞台に深く感動もしますが、このような演者の魅力を前面に出した「上質な学芸会」を楽しめるのも宝塚の懐の深さだなぁと思いながらほのぼのとした気持ちで帰路につきました。

結論「これはこれであり」。

(・・・がしかし、どのへんが「鴛鴦」で「歌合戦」だったのかな)

<CAST>
浅井礼三郎(柚香光) 涼しい顔をして自分の領域を守って生きている人。そこに皆が憧れて方々から縁談話が持ち込まれるのだと思うけど本人は嫌気がさしていそう。山寺で子どもたちに剣術の指南をしている姿がいちばん清々しくて彼らしくて目に麗しかったです。これを見られるのは山寺の尼さまたちだけなんですよね笑。
客席から登場して振り向いた時の懐から出る手が色っぽくて反則だと思いました。

お春(星風まどか) チェッが可愛い。お父さんがあんなだから生活の苦労を背負って強がって生きているところが愛おしい。時折こぼす少女らしい愚痴もまた可愛いのだけど、お父さんにしろ礼三さんにしろ、自分の世界に没頭するタイプだから一生生活の苦労は絶えなそう。この先も自分のほうを見てくれない礼三さんにやきもきしそうだし・・強くなるしか仕様がないなぁ。
料亭のお嬢さんおとみちゃんが傘を売ってというのに「うちは小売りはしてません!」って突っぱねるのが超絶可愛かったです。その後の2人のやりとりも。

峰沢丹波守(永久輝せあ) 「ぼくは若い殿様~♪」なんて歌いながら登場するお殿様ははじめて見ました笑。大好き。楽しそうに演じている永久輝さん大好き。はちゃめちゃな役なのに塩梅がわかっているのさすがだなぁ。途中からうっすらと悲哀を感じさせるところも巧いなと思いました。
殿様本人は軽い気持ちでもそれを聞いた家来はそれを叶えるために悪知恵を働かせ非道なこともやってしまいかねないので言動には気をつけましょうねと思いました。

秀千代(聖乃あすか) とにかく可愛い弟君。皆に愛される末っ子というかんじ。頭をふるふるふるとさせるところはたまらなく可愛かったです。ちょとした仕草でも客席の目が止まるのはさすがだなぁ。舞台にいると思わず目が行ってしまいます。
どうしてこんなにもやさしい兄おとうとが生まれるのでしょうか。(あの方のお子様だからかなぁ)

道具屋六兵衛(航琉ひびき) みんなに同じものを二つとない一品と売りつけて平気な顔でいるのが笑えました。自分が売りつけておいて買い取る時には偽物扱いで二束三文で平然としているのも。商いとはこんなものだから引っ掛かる方が悪いのだという前提なのですね。
この作品で卒業される航琉さんにたくさん場面があるのが愛を感じました。(宝塚のこういう学芸会っぽい愛情も嫌いじゃないです)

志村狂斎(和海しょう) ヒロインのすべての困りごとの原因をつくっているのはこのお父様だと思います。なのに憎めない役に作っているのは凄いなぁと思いました。
最後まで道具屋さんのこと微塵も疑っていないように演じる方が難しそう笑。
和海さんもこの公演で卒業されるのでラストがこの役でよかったなぁと思いました。(主役の柚香さんより舞台にいた記憶が・・)

麗姫(春妃うらら) ある意味お家騒動の黒幕??(可愛い黒幕だけど) 妄想劇場気味で愛するお殿様と倹しく市井で暮らしても良いって言うあたりは案外本気ですよね。
春妃さんも卒業されるこの公演で天然風味全開の可愛い奥方様の役でよかったなぁと思います。

遠山満右衛門(綺城ひか理) 娘の藤尾の恋心を知ってなんとかしてやりたい親ばか全開のお武家様で礼三郎の義理の叔父。
縁談の話の時に藤尾ちゃんを礼三さんにもっと近づけと唆すのが可笑しくて可愛くて好きでした。

藤尾(美羽愛) 親同士が決めた礼三郎の許嫁。礼三さんのことは憧れの君って感じなのかな。親に言われつづけて自分も礼三が好きという暗示にかかっているのかなとも思う素直で愛らしい武家のお嬢様。
恋煩いの病鉢巻で登場する場面は凛として新しい心境に立ったことを感じさせて印象的でした。(そんな娘に慌てふためくお父様も好き)
ラストでお春ちゃんとおとみちゃんとのわたしたちお友達になりましょうね♡は最高でした。

おとみ(星空美咲) いつも取り巻きを引き連れて登場するのですがそれだけで可笑しい。
お春ちゃんとの日傘を売る売らないの場面はもう1回(というかなんどでも)見たいくらい好きでした。
自分が恵まれていることを知らないで育ったとても素直なお嬢様キャラが愛おしかったです。
お春ちゃん藤尾さんとはしゃいでいる姿を見ると目尻が下がりまくりました。

天風院(美風舞良) 山寺の尼様。蓮京院様にお仕えしながらも礼三郎に見惚れていて夢見る夢子さんな面もあり可愛らしかったです。

蘇芳(紫門ゆりや) お家のことをとっても心配している家臣。お殿様があんなだから時には悪者にも回らなくちゃいけないし気苦労が多そう。愚痴もこぼしたくなりますよね。(わかります)

蓮京院(京三紗) 今回のMVPを差し上げたい。セリフに入る間が素晴らしくて聴き入ってしまいます。礼三郎さん良い男に育って見惚れちゃいますよね。(わかります)

「GRAND MRAGE!」は"ネオ・ロマンチック・レビュー”と銘打ったショーで、岡田先生のロマンチック・レビューとしては22作目だそうです。
新場面もどこか既視感があるかなというかんじです。

プロローグの紫陽花色のコスチュームが花組によく似合って素敵でした。
くすみパステル調が“ネオ”かなぁなんて思いました。

「彷徨える湖」の場面の星風まどかちゃんのダンスに釘付けでした。まどかちゃんのお腹がグランミラージュ!
名曲「SO IN LOVE」を永久輝さんが歌って、柚香さんまどかちゃんが踊るフィナーレのデュエットダンスは最高でした。

どんなに激しく踊ってもコスチュームがセクシーでも、上品さだけは絶対に崩れないのが宝塚らしくて素晴らしいなぁと思いました。
花組は舞台化粧が綺麗な組だなぁというのも再認識しました。

お芝居とともにショーも夢夢しくて明朗で「ザ・宝塚」を浴びたひとときでした。

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2023/07/14

いつか時代が変わったら。

6月28日に宝塚大劇場にて星組公演「1789-バスティーユの恋人たち-」を見てきました。

東宝版「1789」はこれまで見た中でいちばん好きなミュージカル作品と言っても言い過ぎではないくらい好きで、宝塚で上演されるなら礼真琴さん主演で見たいと願っていた作品だったので、星組で上演と知った時には飛び上がるほどうれしかったです。
タカラジェンヌの時間には限りがあり在団中に見たいと願う演目に当たるのは奇跡にも近いことだと思っています。たくさんの人が願ったからこそ実現した上演だと思います。

日本初演の2015年月組公演では大役マリー・アントワネットをトップ娘役の愛希れいかさんが演じ、主人公ロナンの恋人オランプ役は別の娘役さん(早乙女わかばさん、海乃美月さん)がダブルキャストで演じていたので、星組版ではどうなるのだろうと上演決定後は配役をあれこれと想像する日々でした。
 
舞空瞳さんがあの王妃様の超絶豪華なドレスを纏ったらそれはそれは映えるだろうなぁ。でもやっぱり東宝版みたいに礼さんが演じる主人公ロナンの相手役として激動の時代を懸命に生きる“ザ・ヒロイン”なオランプを舞空瞳さんで見たいなぁ。でもどっちも捨てがたいなぁ。
ロナンを苛むペイロール伯爵は専科で礼さんの同期の輝月ゆうまさんだったらいいのになぁなどなど。

じっさいに発表された配役は意外でもあり納得でもありいっそう期待が高まるもので、これはチケットが取れるだけ見たいなぁと浮き立っていたのですが―― 蓋を開ければ当然の超人気公演で手に入ったチケットはたったの1枚・・呆然とするしかありませんでした。

その貴重な1枚もどうなることかと青ざめる事態が。6月2日に初日こそ開けたもののその翌日から出演者体調不良のため公演中止、当面はいつ公演が再開されるのかわからない状況となり、脳裡にはこの2年あまりのコロナ禍で経験した数々の出来事が過り震える日々を送りました。
けっきょく1か月間の公演期間のうちの半分が中止となって公演再開となったのは6月18日の15時半公演から。
もうこれ以上は1公演も止まりませんように千秋楽まですべて公演できますようにと祈り続けて観劇日に漕ぎつけました。

そんな顛末の末の待ちに待った観劇日。
客席に座るもさらに高まる緊張。
(なにしろ昨年は博多座で開演10分前に中止を告げられたトラウマもありますし)

幕が開き主人公の故郷であるボースの農民たちが絵画のように舞台に浮かび上がり、奏でられるイントロダクションに体温が一気に上がる感覚。
軍隊が国王の名の下に農民たちを虐げ礼さん扮するロナンが「肌に刻まれたもの」を歌い始めた瞬間さらに体中の血が沸き立ちそれ以降はひたすら「1789」の世界に圧倒されつづけました。見たかったもの聴きたかったものが目の前に存在する幸せに酔い痴れました。

礼さんロナンの素晴らしさも期待以上でしたが、若き革命家たちデムーラン暁千星さん、ロベスピエール極美慎さん、ダントン天華えまさんが想像以上に見応えがあり気持ちが爆上がりしました。
若きイケメン革命家が歌って踊ってこそ「1789」――1幕から「デムーランの演説」「革命の兄弟」「パレロワイヤル」と畳みかけるように好きなナンバーがつづきここからすでに涙目に。

暁さんはその声量と声の深みに驚きました。かなり下級生の頃から抜擢されていた方だけにその成長ぶりを目の当たりにして感慨深いものがありました。
2幕の「武器をとれ」でセンターで朗々と歌い上げる暁さんを見て彼女がデムーランにキャスティングされた理由に合点がいきました。配役発表されるまでは暁さんがロベスピエールだろうと思っていたのでした。

「武器をとれ」は宝塚では今回はじめて歌われるナンバーですが、その演説によりパリ市民が決起しバスティーユ襲撃へとつながる重要な局面で、壇上から市民を歌(演説)によって盛り上げ扇動する暁さんの堂々とした姿に心が震えました。
ちなみにですが、このデムーランこそ「ベルサイユのばら」のベルナールのモデルとなった人物なんですよね。この「武器をとれ」のシーンもベルばらに描かれていました。東宝版を観劇した時にどこかで見たことがある図だなぁと思ったのも然り。(詩ちづるさん演じる婚約者のリュシルはロザリーということになりますね)

もともと天華さんの実力は信頼しているのですが難しいパートも難なく歌い上げるのは流石、危なっかしい仲間たちに目を配るお兄さんみたいなダントンだなぁと思いました。
そしてたぶんおそらく私は「1789」のロベスピエール役者に心底弱いようで・・。悔しいけれど極美さんのロベスピエールに幾度と撃ち抜かれました。それはもう易々と・・。
2幕最初のロベスピエールの「誰のために踊らされているのか?」は超好きなナンバーなのですが、その日の極美さんは声を潰されているのかフレーズ毎の高音の第一声が全て出ていないようでした。(千秋楽のライブ配信ではすべて音程を下げて歌われていたのでやはり喉を潰されてしまったのかな)東京公演では元の声に戻っているといいなと思います。

有沙瞳さんのマリー・アントワネットはとても大人しめに感じました。
これまで宝塚や東宝で同役を演じた人たちが伝説的なトップ娘役(花總まりさん、愛希れいかさん)であったり華やかなトップスター経験者(凰稀かなめさん、龍真咲さん)だったこともありどうしてもその記憶と比べてしまうのかもしれませんが、有沙さんも「龍の宮物語」や「王家に捧ぐ歌」などで艶やかなプリンセスを演じてきた方なので威風堂々と華やかな王妃像を作って見せてくれるだろうという期待がありました。

初演ではトップ娘役が演じた役だったものが2番手の娘役さんが演じることになって、場面や持ち歌が減り比重が変わっているのだとは思いますが、それでもやっぱりかの「マリー・アントワネット」ですから圧倒的な輝きと存在感を期待します。有沙さんはそれができる役者さんだと思っています。たとえばかつて伶美うららさんはトップ娘役ではなかったけれど無冠でも記憶に残る大輪の花のように存在していましたので有沙さんにも期待せずにいられません。
この公演が最後となる有沙さんの最高の輝きをこの目で見たいです。

ひとりの女性として家族を愛して家族のために生きたいと願う2幕の「神様の裁き」のアリアは素晴らしくてとても心に響きました。そういうマリー・アントワネット像を目指されているのかなと思います。さらに1幕からのギャップを表現して魅了してほしいなぁと贅沢なことを願ってしまいます。
オランプに決心を促す場面もとても好きでした。

瀬央ゆりあさんのアルトワ伯は媚薬を用いて淫蕩に耽るようなタイプではなく冷静に虎視眈々と王座を狙う切れ者に見えました。彼の眼には兄ルイ16世は凡庸で無能な人間に見えているのだろうなと。
王妃の醜聞を利用して兄を失脚させるのが目的でそのためにオランプを見張らせているのであって恋情を抱いているようには見えないアルトワでした。
教会でオランプに媚薬を使おうとするのもオランプに執着があるわけではなく自分にとって邪魔な相手として危害を加えるのが目的かなと。
いずれロンドンから戻ったらいつのまにか王座に就いていそうだなぁと思いました。
これまでのアルトワ像とはタイプが違うけれど居住まいや目線が知的で含みがあって面白かったです。

輝月ゆうまさん演じるペイロール伯爵は鞭を振るったり蹴りを入れたりのタイミングが琴さんとぴったりで本当にロナンを甚振っているようで今回の「1789」の見どころの一つでした。(虐げられる琴さんの反応がとんでもなくリアルで凄すぎて瞠目でした)
大義に忠実で情け容赦ない軍人貴族だなぁと思いました。

ソレーヌ役の小桜ほのかさんはお上手なのは知っていましたけど、こんなに地声で凄味のある歌い方ができるとは。地声から澄んだ声への切り替えも素晴らしくて観劇後も「夜のプリンセス」が頭から離れませんでした。

フェルゼン役の天飛華音さん、ルイ16世とマリー・アントワネットがようやく心通わせる場面でのセリフの入り方が素晴らしかったです。
「しかし御一家が危機に瀕する時あらばこのフェルゼン命に代えてもお守りいたします」
本当に芝居センスのある方だなぁと今後も楽しみです。

オランプ役の舞空瞳さんのヒロイン力はやっぱり素晴らしいなぁと思いました。彼女が登場すると目が勝手に追ってしまいます。
けっこう理不尽なことや辻褄が??な行動もするのですが受け容れて見てしまうのはそのヒロイン力によるものだなぁと。
与えられた役割、職務に一生懸命なオランプの姿が舞空さん自身とも重なってきゅんとしました。

1幕ラストの「声なき言葉」の盛り上がりは宝塚版ならではの感動でしたし、2幕もまた「次の時代を生き抜くんだ」と言い残し息絶えたロナンを囲んで打ちひしがれていた皆が前を向いて高らかに述べる人権宣言は名場面だと思います。そこからのラストナンバー「悲しみの報い」に感動は最高潮――となるはずが、今しがた皆の嘆きの中で息絶えたばかりのロナンがピカピカの白尽くめの衣裳でせり上がりで登場した時だけはえええっと戸惑いました。

あそこはもう少し人の世の遣る瀬無さや、未来への希望にデムーランやソレーヌたちとともに浸っていたかったなぁと思います。
志半ばで彼は逝ってしまったけれど、そんな名もなき人々の願いと行動の積み重ねがいまの世の中の礎を作っているんだと。命を燃やした彼らの願いを踏み躙ろうとする力は今の世も隙あらば頭をもたげようとするけれど、それに負けてはならないのだという強い意思を噛みしめる時間をあと少しだけ持ちたかったなぁ。

キラキラのロナンの登場が早すぎて心が宙ぶらりんのまま享楽的なフィナーレを見たせいか今回のフィナーレは気持ちがいまいち盛り上がらずに終わってしまった気がします。
本編は本当に最後のタイミング以外最高だっただけにちょっと残念かなと思いました。

というものの最高の舞台を見られた満足感たるや凄かったです。
あと1枚だけ東京のチケットが取れたので無事に観劇できることを心の底から祈っています。

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